シリーズコラム

【コラム】東京の木・多摩産材の地産地消で森林資源の循環を

インタビュー:中嶋博幸さん(有限会社中嶋材木店 代表取締役)

創造性の発揮や生産性の向上、あるいはオフィスワーカーの健康とモチベーションを増進など、多様な観点からどのようなオフィスをつくっていくのかに、多くの企業が関心を持ち始めている。多くの選択肢のなかで、内装や什器に木材を多用するオフィスも増えてきている。今回は、木材の地産地消に取り組む中嶋材木店の中嶋さんに、多摩産材による地産地消のメリットなどを語ってもらった。

木を切って使っていくことが森林資源を守ること

-東京の木が「多摩産材」ということですが、認証制度もあるのですね

多摩産材認証シール:多摩地域で生育し、適正に管理された森林から生産された木材の証。産地認証とともに、伐採後の再植林計画が担保されている多摩産材は東京の多摩西部、青梅、日の出、八王子、あきる野、檜原村などの山間部から生産された木材です。戦後に植林された杉と檜ですね。
0多摩産材の認証制度は「東京の木・多摩産材認証協議会」が行っている木材の産地証明制度で、東京都の花粉対策事業と同時に、2006年4月からスタートしました。野菜などでは生産農家の顔写真を載せて売っていくのが当たり前になってきていますね。私たちは木材の地産地消を促進していこうとしているのですから、多摩産材の証明がないのはおかしいし、さらなる普及にもつながらないだろうと。また、花粉対策事業として多摩地域の杉や檜を伐採するのなら、東京都としても切った木材を積極的に使っていく必要があるけれども、そのときに認証がなければまずいということで、東京都がてこ入れしてできたものです。

-多摩産材の利用にはどのようなメリットがあるのでしょうか?

東京都の花粉対策事業に触れましたけれども、春先に多くの人を悩ませる花粉症の原因を取り除く、少しでも緩和していくということが一つありますね。それから、私たちが目指している木材の地産地消という点からは、農作物の場合と同様に物流コストが小さく、輸送時のCO2排出量を抑えられるというメリットがあります。また、東京都でもその面積の40%は森林が占めていますが、森林にはCO2を固定する機能がありますし、水資地としての役割もありますので、多摩産材の利用は森林の環境保全に大きく貢献するものです。

-一般的に、木を切らないで守っていくのが環境保全だと思われているようですが

そうですね。でも、現実はそうではなくて、いま切っている量よりも育っている量のほうが4〜5倍多いんですよね。世界的にみれば森林資源が減り続けていて環境破壊につながっているわけですが、日本においては戦後、植林したものが自給率の低下によって伐り出されていない。そのことによって、逆に弊害が生まれています。産業として成り立ちにくいので林業の就業者が減り、山に手が入らず却って山が荒れてしまっています。そもそもCO2をたくさん吸収するのは成長する若い木であって、森林全体でみると吸収と放出がほぼ釣り合っているんです。ですから、環境を良くしていくには森林資源を循環させていくことが欠かせない。適正に育った木を適正に切って、また植えるという循環を促進していくことが環境保全につながるわけです。木を切って使うことは悪いことではない。人の健康にも役立つし、自然だって守られる、良いことだと言いたいですね。

木材に付加価値をつけるため
必要な他のメーカー等との連携

-多摩産材利用の意義をお話しいただきましたが、その普及のためにどのような取り組みをされているのでしょうか?

最近、木材が見直されつつありますが、東京という大消費地に対して多摩産材の利用は微々たるものです。理想とする供給量の2〜3割ではないでしょうか。
普及への取り組みに関しては、新宿パークタワーにはリビングデザインセンターOZONEがありますが、そこの展示会に数ヵ月間、出展してPRするなど、なるべく都心に行ってPRするようには心がけています。毎年、出展しているわけではありませんが、そこで木材利用に関心の高い設計士さんに出会って、そういう設計士さんのグループと新しいネットワークができ、木材を使うにはどうしたらいいのかなどについて話し合ったりしています。

多摩産材を不燃化し内装材とした道場(中嶋材木店HPより)そのほかに、公共施設での採用のために、文科省、林野庁、警視庁などへも売り込みに行0きました。警視庁にはたくさん武道場がありますが、剣道場の床は比較的柔らかい針葉樹を無塗装で使います。杉か赤松ですね。警視庁は東京ですから、多摩産材の杉を使ってくださいと。お役所には職員住宅もありますので、内装や造作材に使ってもらえるように、設計書に多摩産材の杉・檜と書いてもらえるようにお願いしたりですね。

利用のお願いの際、つくづく感じるのは製材業者だけではうまくいかないということ。私たちは単なる製材はできるけども、それだけでは足りない。最終的に建材として使えるようにするにはいろいろな加工や技術が必要で、フローリングならコーティングや接着技術、内装なら不燃化が必要で、そういう技術を持つメーカーと連携しなければなりません。ですから、いまその抽斗を増やすことを一生懸命にやっています。多摩産材でいろいろな製品を出して流通させていく、そういう仕組みを構築しようと動いています。どうすれば設計書に入れてもらえるのかまでやっていかなければ、ただ「使ってください」と言うだけでは、「いいのはわかるけど、じゃあどこに使えるんだ」という話で終わってしまいますから。

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価格競争に陥らない用途を見つける

価格競争に陥らない用途を見つける

-いま多摩産材普及への課題をお話しいただきましたが、そのほかにありますか?

東京の場合には、林業も製材も規模が小さいので、量より価値を求めていかなければならないと考えています。たとえば、一般住宅の部材は規格で9cm 、10.5cm、12cm角と寸法がだいたい決まっています。そういうものはどこでもある。栃木や群馬、福島あたりでは大きな製材メーカーがものすごい勢いでつくっていて、価格面では到底かないません。そこで競争しても疲弊してしまうので、違う用途を見い出していく必要があります。

都立高校の体育館で作られた多摩産材の木製サッシ(中嶋材木店HPより)そこで、一般建築材でなく造作材、内装材に力を入れています。枠材などは節があると欠けたりするため、造作材などには節が少ない木材を使うんですが、それらは手入れをした山でなければ採れません。下地材や構造材に比べれば単価が高いので、丸太の価値が高くてもやっていけます。ですから安い木材を大量に売るよりも、付加価値があって、ある程度の価格のものを売っていく方向です。
昔の屋敷では、節のない造作材や内装材を使う建築が多く、手入れをした山の木は高く売れましたが、いまはほとんど印刷加工された木材に替わっていて、せっかく手入れをしたいい木でも高く評価してあげられない、山にお金が落ちないんですよ。やはり手入れをした木材を評価して、山に適正にお金を落としていくことが必要ですし、私たちにとっても同じです。

-先ほど、公共施設での採用への働きかけについてお話しいただきましたが、商業施設などでも温もりを感じられる木の需要は高まっていますね

多摩産材を使った小学校の教室。怪我の減少やインフルエンザなどによる。休校の減少を示すデータが出ているという(中嶋材木店HPより)そうですね。用途としては造作材や内装材ですが、施設としては公共建築や商業ビルなどへの多摩産材の提案を積極的に行っています。これらの施設ものは、たくさんの人が訪れて木の魅力に触れてもらえるというメリットがありますが、ロット数が多いのも私たちには魅力です。ただ、ここでも付加価値をどうつけていくのか。商業施設は印刷材や集成材が多いのですが、それらを無垢に替えてもらうことができればいいなと思います。

木造建築については、300~400坪くらいの老人介護施設をはじめ公民館や保育園など、中規模な建築物が増えてきています。そこはチャンスなんですが、設計力、営業力が足りず集成材や合板メーカーに多くを持って行かれてしまっています。そこを何とかしたいですね。不燃材にするとコストが高くなりますので、意匠的に見せる部分に採り入れてもらうだとかを考えています。

中規模建築物の構造体に使われる木材は集成材やLVLなど木材を貼り合わせて作成するEW(エンジニアリングウッド)です。低質な木材を利用できるというメリットはありますが、これだと加工するほうにコストがかかって山にお金を落とせないんです。EWにするには丸太を山から8,000円くらいで仕入れなければ製材所はあわないのですけれども、8,000円では山は赤字もくざいをなんですね。結局B級材を使うことになるんですが、B級材ばかりで良質な木を使う用途がない。たとえば、柱でも5寸角のものであれば18,000円くらいで買ってあげられますから、そういう用途も開発していかなければと考えています。いまは、柱や土台など無垢でも使いやすいところまでEWになっていますので、そこをなんとかしたい。適材適所で使うほうが価格も安い。定尺品であれば集成材やEWより無垢のほうが安いんです。ただ、無垢は接合部分の構造計算などの部分で遅れているんですね。EWなどでは構造計算もメーカーがしているのが現状ですから。そういった部分もこれから対応していく必要があると思います。

木のメリットを生活や仕事に生かしてもらいたい

-エンドユーザーである消費者に求めることはありますか?

木の一番のメリットは湿度をコントロールする調湿機能です。それほど多くの木を使わなくても部屋の湿度を40~60%くらいに保ってくれます。私も自分で実験してみたんですね。発泡スチロールで箱をつくって、木材を入れた箱と入れない箱それぞれに乾燥剤を入れた場合の湿度の下がり方と、蒸気を入れて湿度の上がり具合を、数時間にわたってセンサーで計測してみました。木を入れた箱はどちらの場合も、ある程度までいくと40%くらいの湿度をずっと維持しているんです。 それから、断熱効果もあります。とくに杉は世界的にも優れていると言われていて、比重が軽いため熱伝導率が低く、断熱性が高いというメリットがあります。柔らかいので加工もしやすい。木製サッシやカーテンウォールに使えば、エネルギーロスが防げます。 また、金型を作らなくても色んな形状品が作れるなど、木にはたくさんのメリットがありますので、ぜひ多くのみなさんに多摩産材に関心をもってもらって、住宅や生活にはもちろん、オフィスでも使ってもらいたいですね。快適な環境で仕事の効率も上がると思います。

中嶋 博幸(なかじま・ひろゆき)
有限会社中嶋材木店 代表取締役。

1966年生まれ。高校卒業後、家業である中嶋材木店を継承。代表取締役に就任。2013年6月のあきる野市議会議員選挙に当選し、1期目。総務委員会副委員長を務める。趣味は地元、秋川での鮎釣り。中嶋材木店は製材工場として東京都内唯一JASの認定を受けている。

中嶋材木店

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