シリーズコラム

【さんさん対談】空間と都市の未来を考える

鈴木恵千代氏(乃村工藝社 空間デザイナー)×田口真司氏(3×3Lab Futureプロデューサー)

9,10,11

3×3Lab Futureは、木質系を多用したデザインで自然環境を身近に感じさせるところがクローズアップされることが多いですが、その本質は空間の持つコミュニティ形成力、コミュニケーションを誘発する力にあります。内部の可変性やゾーニングはもちろん、カラーリングも含めたデザインすべてがそこに向けて研ぎ澄まされており、3×3Lab Futureがいつも人で賑わっているのは、デザインの力に寄るところが大きいとされています。

そこで今回は、この空間をデザインした乃村工藝社の空間デザイナー、鈴木恵千代(すずき・しげちよ)氏をお招きし、空間の力、これからの都市のあり方についてお話を伺いました。3×3Lab Futureプロデューサーの田口とは長年の盟友であり、「シゲさん」と呼ぶ仲。2003年の「大手町カフェ」に始まり、新丸ビルのエコッツェリア協会、3×3Lab Futureを手がけてきた鈴木氏と、富士ビル・日本ビル2代に渡る3×3Laboをプロデュースしてきた田口の2人が語る、空間と都市の未来とは。

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「苗床」で生きることも大切

「苗床」で生きることも大切

田口 シゲさんには、3×3Lab Futureの空間全体をデザインしていただいているわけなんですが、実は僕はシゲさんがそもそも何者なのかがよく分かっていない(笑)。インテリアのデザイナーなのか、空間のプロデューサーなのか。まちづくりにも関わっているし、一体何者なんでしょう?

鈴木 何者かといえば、空間デザイナーです。一応建築学科を卒業していますが。

田口 建築でも内装。なぜ内装を手がけるようになったのでしょうか。

鈴木 端的にいえば成り行きですね。バイトから入ってそのまま(笑)。大学生のころから内装・インテリアで有名なT社でアルバイトしていて、内装や空間のデザインといったものを学んで、この業界のことを知っていったというところです。それで面接も受けずにそのまま。就職活動も嫌いでしたから。見るからに向いてなさそうでしょ。なんかね、僕なんてそんなに何も考えていない感じでしてね。

田口 いや、でも実際難しいですよ。学生時代は勉強してるわけですし、社会のことだって分かっているわけじゃない。社会のことを考えるのだって自ずと限界があるわけで。

鈴木 僕も卒業するときには、明確なビジョンなんて持ってなかったし、そんなの持ちようもないじゃないですか。絶対無理ですよ。だから誰かが「ここでやったら?」と言ってくれたら、それは少なくとも自分で考えるよりも正しいだろうと思ってた。 それで、T社のディレクターが独立するときに誘ってくれたときも「そうですね」ってついていって(笑)。その後、現在の乃村工藝社に来たのは、そのディレクターから、「お前もそろそろ大きい会社を経験しておいたほうがいい」と勧められたからなんです。 概ねそんな感じで生きてきたから、と思います。もし大学を卒業するときに、自分はここしかない!と決め込んでしまうことは、合わなかったときには大変なことになるんじゃないかと思ってました。だから、自分自身の目と頭で考えられる力を身につけるまでは、苗床にいる感じでいいんじゃないかなと。

田口 これは新しいタイプのインタビューだなあ。大体「私はこれこれこういうルーツがあって」という話になるんですけど、流れてきて今があるという。実は僕自身もそうなんですよ。学生時代何も考えてなくて、社会人になってから、いろいろ考えるようになって今、ここにたどり着いているというところなんです。 それで、その後ずっと乃村工藝社に所属しているということですね。

鈴木 そうですね。31歳くらいまではフリーランスの立場で会社の中で仕事をしていましたが、ある時正社員に誘われて躊躇していたところ、「辞めたかったらいつでも辞められるのだから、なってみたら?」と言われて社員になりました。社員はイヤだったんですけどね。辞められるならまあいいかと。でもそこから途端に仕事量が増えてなかなか家に帰れなくなってしまってですね、まさにしごかれた時代でした。でも、そこでしごかれたおかげでそれなりにスキルを身につけることもできました。

田口 仕事の量って大事ですよね。こなす量がないと育たない。

鈴木 大事ですよ。今働き方改革とか言っていて、若い子たちの仕事の量が減っちゃって、クリエイターの場合、問題あると思います。働き方改革って言えるのかな。

年取ればやりたくても徹夜できなくなる、やれるときにはやったほうがいいと思う。ちょっと前に、深夜2時過ぎに国交省の前通ったらこうこうと照明が点いてるんですよ。働き方改革と言ってらっしゃるお役人が一番働いていますし、一律な働き方改革はおかしいって言ってる人、いっぱいいますよね。

田口 同感ですね。量をこなさないと理屈だけこねるようになって、仕事の大切なところが分からなくなってしまいますもんね。

それで、ちょっと今の話に移したいんですが、3×3Lab Futureの前に、新丸ビルにあったエコッツェリアのデザインも手がけられたんですよね。

3×3Lab Futureのデザイン

大手町カフェ(鈴木氏提供)

鈴木 エコッツェリアのほか、その前の「大手町カフェ」から手がけてきました。いずれも発注側のビジョンはしっかりしていて、「いい空間を作る」とシンプルに決めていたので、その点仕事はしやすかったです。デザイン検討中、関係者からさまざまな意見が溢れましたが、それが結構レベルの高いものばかりだったから、出来上がるものもレベルが高くなっていきました。その意見を、一旦すべて自分の中に入れて、自分の考え方としてまとめるというプロセスでした。

田口 でもぜんぜん違う意見とか、大きい流れに即してない意見というのもあったんじゃないですか?

鈴木 いや、そういうのもきちんと掘り下げていくとただの好みの問題だったりして、ちゃんとクリアできるものばかりでしたよ。

田口 すごいな。大手町カフェ、新丸ビルのエコッツェリア、そして3×3Lab Futureと来て、ここでは「3つのギア」というコンセプトが明確になっていますが、そこはどうやってアプローチしたんでしょう。

鈴木 当時、合場さん(合場直人。前エコッツェリア協会理事)が「持続可能な考え方を生み出すための『ギャザリング』の場」という言葉をおっしゃっていて、それがなんとなく腑に落ちたんですよね。仕事でもない、遊びでもない。クリエイティブを刺激する、創造的な集まり。そのための場なんだと。ギャザリングという言葉にはそういうニュアンスがありました。

田口 富士ビルの3×3Laboができた当初に、メンバー全員ででかけたアメリカで見たのは、まさにそのギャザリングでしたよね。アメリカでは毎日会社に行くとは限らないので、企業が会社の場に求めているのはギャザリングだった。そのコンセプトがあるから、カフェがあるし、いかに人を集めるかという仕掛けがオフィスにあった。 そう考えると、シゲさんのデザインって、見た目だけじゃないですよね。運用のこと、どうやって使うのかまで考えている。よくあるデザインって、パッと見はかっこいいけど使いにくいということが多いじゃないですか。シゲさんのデザインは、かっこいいけど主張しすぎないし、運用側の意見をすごく取り入れてくれている。

鈴木 振り返ると、バブルの頃って「空間プロデューサー」みたいな人間がもてはやされて、いろいろな場が作られたじゃないですか。雑誌でもよく紹介されていたので、見に行ってみると、なんだこれはと。写真で見るとなんとなくすごそうだけど、変なところが尖っていて危ないし使いにくい、なんてのがいっぱいでしたよ。そういうのに限って3年と経たないうちに陳腐化してなくなってしまう。そういうのはもうデザインって言えないですよね。デザインっていうのは、最後まで生き続けなきゃいけない。 例えば、このテーブルは、3×3Lab Futureがなくなったとして、多分永遠にテーブルとして生き続けるでしょう。廃棄されるということがあったとしても、別のなにかに生まれかわることができるでしょう。

「このテーブル」とは、インタビュー場所にあった、栗の木のテーブル。

田口 実は、この3×3Lab Futureが出来て、初めて見た時には、これはハードにコンテンツが負けちゃうなって思ったんです。ハードに合うコンテンツを乗せるのは難しいんじゃないかと。ようやく馴染んだと思えるのは最近になってからです。

鈴木 いや、すごいと思いますよ。いつ来ても人がいっぱいいる。最近の3×3Lab Futureには僕もびっくりしています。

田口 ありがとうございます。僕にとっては、ハードに負けないコンテンツにするのが、ひとつの目標だったんです。
個人的には、コミュニケーションゾーンは、すぐ使いこなせるようになったなと思っていて、難しいのがサロンゾーンでした。自分の中では、かっちりしすぎているイメージなんです。どちらかといえば、コミュニケーションゾーンは、富士ビル・日本ビルの3×3Laboの流れを汲むもので、サロンゾーンは新丸ビルのエコッツェリアの流れのもの。僕は3×3Laboからの流れなので、サロンゾーンが使いこなせなかった。

鈴木 サロンゾーンは国際会議やるとか、そういうニーズがあって、間仕切りとかウォールを入れるという話もあったんですが、予算の都合でできなくなってしまって。区切るのができないんですよ。最近、ちょっといいスライディングウォールを見つけたので、改装するときには入れますよ。そしたらまた少し使いやすくなると思います。

空間デザインの科学

田口 ちょっと話を戻すと、当時ご一緒したアメリカ出張でなにかインスピレーションを受けたことはありますか。あの段階では設計もほぼほぼ固まっていたとは思いますけど。

鈴木 アメリカでは最先端オフィスのことが、きちんと整理されていて、言語化されているのが良かったですね。家具、設計、クリエイティブなどいろんなジャンルの人たちの考えやアイデアが整理しまとめられている。例えば、ギャザリングの場には32通りあって、それをカテゴリで分けると、ゾーンをこう区切ればいい、とか。そういったことが明快に言語化されていて、僕らがなんとなくやってきたことの裏付けをもらった感じですね。

田口 アメリカでは、オフィスの空間を「I(私)」「We(我々)」、「Shared(共有)」「Owned(私有)」という四象限で整理していたのが印象的でした。その四象限から生まれる組み合わせで何通りものオフィス空間を作っていたと思います。一方、日本では執務スペースと会議室の2種類くらいしかない。その意味で、欧米は実に整理がうまい。日本人が「だよね」で終わっちゃうところを、きちんと形にして分りやすくしている。こういう分かりやすさは大事ですね。

鈴木 それはそう、大事ですね。しかし、当時はアメリカが最先端だったけど、今はここ(3×3Lab Future)が世界の最先端なんじゃないかな。

田口 そういえば、先日MITメディアラボの石井さん(MITメディアラボ副所長。石井裕氏)が3×3Lab Futureにいらして、場所も雰囲気もコミュニティもいい、と喜んでくれたんです。これはイケるなと思いました。

鈴木 そうだと思います。そこは科学者や研究者から見ても評価できるものになってると思う。大手町カフェのときも「脳に直接訴えかける作りになってる」と評価されたことがありました。
でもね、あまり無理したデザインをしちゃうとダメなんです。例えば今いるこの空間の壁部分は、普段はカーテンに隠れているけど、実はオレンジと濃紺のツートーンカラーになっていて。主張していないし、普段あまり意識もされていないでしょう。

田口 確かに。普段あまり意識して見ていないです。それだけ馴染んでるということですね。

鈴木 そうなんです。実は種明かしをすると、これは水平線、夕日が沈んでいく海をイメージしたものなんです。でも、そんなことは言わない。言ったって、言われたほうも「なんだそれ」ってなるじゃないですか。

田口 そうそう、シゲさん全然そういうこと言わないですよね。

鈴木 言ったところで馬鹿みたいじゃないですか。ただね、これは誰もが、どこかでこういう光景を見たことがあるものだと思うんです。老いも若きも関係なく、誰もが海に行けば見るような景色。その感じは否定できないじゃないですか。だから、壁のここに1本、線を入れて、ブルーとオレンジで分けると、なんか落ち着く光景になっていく。

田口 記憶がキーワードなんですね。

鈴木 そうですね。僕はクリエイティブは懐かしさの表現だと思っているんです。

「家」としての「都市」

田口 黄昏っていいですね。虚しさ寂しさもありながら、美しさもある。 それで、最後に「まち」と「いえ」についてお聞きしたいんです。以前、丸の内、大丸有をどうするのか、という話をさせていただいたときに、「家みたいなまちにする」ということを仰っていたと思います。その真意というか、裏にある意味をお聞きしたいんです。

鈴木 僕が都市、まちについて考えるようになったのは、大手町カフェが「都市づくり」をテーマにしていたことがきっかけです。井上成さん(エコッツェリア協会理事)がパリに行って「あの町は面白かったのに大丸有はつまらない、もうちょっと違う、人に馴染むまちにしたいんだ」と。

都市を考えるなら、「いい都市とはなにか?」というお題が出てくるでしょう。それを一言で言うとしたら「安心安全の都市」「クリエイティビティのある都市」......いろいろなものが出てくると思います。でも大丸有を考えたときに、そうした言葉ひとつではどうも一概に言い切れないんですよね。それはもちろん、都市によって違っていていい。しかし、大丸有にぴたりとハマるものはなんだろうと。

それで最後に腑に落ちたのが「家のような都市」という言葉だったんです。これは日本の、東京の、そして丸の内だから言えることだと思います。大阪ではありえないだろうし、ニューヨークのような都市を家みたいとは言えないと思う。

これはひとつ原体験があって、若い頃、深夜に飲んだくれてタクシーをつかまえられなくなった時に、しかたなくその辺の生け垣に倒れ込むようにして寝てしまったんですよ。気がついたら、朝も仕事が始まる時間で、交差点を行き交う人の中で目を覚ましているわけです。「あれー? 無事に一晩眠れるもんだなー?」って。他の国だったらこうはいかないでしょう。

これが日本の都市の本質的な部分だと。そう考えると、いろいろなことが整理がつけられるんです。家には玄関があって、それはこの界隈なら東京駅。キッチンはどこなの?って言ったら、新丸ビルの「丸の内ハウス」がある。そういうふうに、リビング、ベッドルームって考えていくと、都市の有り様がイメージできるでしょう。

じゃあ3×3Lab Futureは、この大丸有という都市=家の中で何にすればいいのかなって思ったら、リビングしかない。キッチンもあるから、リビング・ダイニングか。こんなこと子どもでも考えつくことだから、わざわざ言うのも恥ずかしい(苦笑)。

田口 いや、その素直な発想があったからこそ、今の3×3Lab Futureがあるんですよ。その意味でいうと、僕はキッチンが重要だなと思っていて、リビング・ダイニングとしての3×3Lab Futureの真価を発揮するために、キッチンがコアであり、これを活かしていかなといけないなと思いますね。

それで伺いたいのが、今後3×3Lab Futureがどのように変化していけばいいのか、あるいは変化しなくてもいいかもしれませんが、今後に向けて何かサジェッションをいただけますか。

「格差是正」と「公共交通機関」が地方再生の鍵になる

鈴木 まず、間違いなく変化は必要だと思います。しかし、アドバイスとなると、うまい言い方ができませんが、昨年末ある自治体の方から、「3×3Lab Futureで忘年会をやるなら、うちも参加したい、食べ物を出したい」という相談があったんですよ。みんな来たい、連れていきたい。そう思わせる場になっていますよね。そういう場所になってきているし、そうなっていくべきですよね。

田口 それはリビング・ダイニングとしての根底ですよね。それは極めたいですね。僕も地方出身で、東京というと身構えてしまうけど、ここに来るとホッとできる。自然体でいられる。そういう場にはしたいです。

鈴木 僕にとっては、大丸有の仕事は大手町カフェから始まっているわけですが、最初は環境問題だった。環境問題をテーマにしたカフェにしたいと言われて、当時は僕も不勉強だったので「環境問題って何があるんですか?」って聞いたら、「強いて言えばヒートアイランド現象ですかね」って。そんな時代だったんですよ。アル・ゴアの『不都合な真実』が出たのが翌年で、それから温暖化ガスやさまざまな環境問題が取りざたされるようになって、この10年で環境が当たり前になって、声高に言うまでもないことになった。そして次が地方創生ですよね。この5年は働き方改革も含めて、人のコミュニケーションと地方創生という時代です。空間デザインもそういう大きな塊で動いているものなんです。今、商業施設も文化施設も地方創生のイメージでデザインされるようになっています。これは、デザインに限らず、産業界、経済界全体の動きかもしれませんが。

それで、この先どうなるんだろうと考える。今はAIを中心にしたIT革命が進んでいる。そんなことも考えながら、社会の動きを考えると、「社会格差・経済格差」「公共交通機関」の2つがちょっと気になっています。

今日本は2020年を前に盛り上がっていて、世界に貢献できる日本をアピールできると言っていますが、もともと、東京オリンピック招致は、石原慎太郎さんが「日本人、ぼーっとしてんじゃないよ」というメッセージ、喝を入れるために始めたものなんです。もっと頭を柔らかく、回転を早くして、ちゃんと使うべきところにお金を使っていこう、そういうメッセージなんですね。

今、お金を使わなきゃいけない人のところにお金がいけば、もっと使うようになって社会が回っていくようになるはずなんです。お金をたくさん持っている人だって、家を買ったりベンツを買えば、それ以上は使うにしても限度があるじゃないですか。だから中間層よりも下の人、使うべきところに使えていない人のところにお金がいけばボンと使われるはず。そうすれば、人の考え方のレベルも魅力もどんどん上がるし、人の教育レベルも上がるし、相当日本という国全体がよくなっていくはずなんです。

日本は、国際的に見ても、社会格差を是正したいという思いを持っている人が多いと感じているんです。それを伸ばしていくことにお金を使うことができればと思っていて、でも、そのために何をどうデザインすればいいのかは分からないんですけどね。

田口 藻谷浩介さん(日本総合研究所)も同じことを言ってましたね。金融緩和したけどお金を使わない人の懐にジャブジャブ入っているのが問題だって。では、もうひとつの公共交通機関というのは?

鈴木 これもまだ整理できていなくて、ちょっと話が長くなるんですけど。

まず前提として、「地方創生」というのはありえないと僕は思っています。じゃあ何があるのかっていうと、「地方都市再生」だと思います。そして、今地方都市では「コンパクトシティ」がもてはやされていますが、僕はでかい都市でいいと思っています。

この「でかい都市」というのは、例えば北海道遠軽町みたいな町。網走の先にあって、日本でも有数の面積の大きさがある、とにかく広い町なんですが、毎年人口が1000人単位で減っていって、どうやって自治体を維持するかが大問題になっています。それで周囲になった病院を1カ所にまとめたり、機能を集約しようとしています。

ここで、重要になるのが商業施設かなと僕は思います。東北の震災の後、どこから復興が始まったかと言うと市場からだった。最初にバラックのような市場をたてて、野菜とか魚を売り始める。すると、仕事がなくてどうやって生きていこうか困っているおばあちゃんたちが、自分のとこの大根をそこに卸すことができて、小さな一歩だけど経済が回って地方再生のきっかけになっていく。

商業施設の話は他にもあって、ラゾーナ川崎のおかげで、川崎の地域内経済が回るようになったという例もあります。だから、資本主義ができたから百貨店ができたのではなく、百貨店が資本主義を生んだと考えることもできるんじゃないか。そういうことを考えたときに、遠軽町に戻ると、じゃあ遠軽町にラゾーナ川崎みたいなものを作ればいいのかっていうと、それはちょっと違うなって思うわけです。あれは公共交通機関があって成立している商業施設であって、遠軽町のように、自家用車が普段の足になっている人たちにとっては、また違う形の商業施設が必要だろうと思うし、車の自動運転なのかバスなのか、何らかの交通手段の効率化、維持費の削減といったことを考える必要がある。

つまり遠軽町は、広い素晴らしい自然の中に要素が点在している「都市」だと考えていいのじゃないか。機能を全部集めて何もない田舎と市街区を分けて、こっちだけでがんばりましょうというのは違う。遠軽町みたいに広い町でも、こうすれば都市として機能することができる、その町にある都市の有り様がある。勝手にそう思っていて、そのヒントのひとつが、公共交通機関かなということです。

田口 なるほど。格差と公共交通機関をそのように捉えるのは聞いたことがなかったですね。面白い。

鈴木 時代時代で、空間が果たすべき役割も変わってくるんですよね。それをどう捉え消化して、表現するか。

田口 格差是正で、丸の内が果たす役割は大きいような気がします。

鈴木 うん、必要なところにお金が流れたら、GDPなんて本当に0.5%くらいすぐ上がるんじゃないですか(笑)。それがなかなかできない国が多いですが、日本ならできるんじゃないかな。だって、CSV(Creating Shared Value)とか三方良しってそういうものじゃないですか。そして、3×3Lab FutureはCSVの拠点になるというテーマもあったはず。だからここから、日本がよくなる問題解決が生まれると期待しています。

田口 うーん、空間デザインからこんな話が聞けるとは思いませんでした。これからどうやって使いこなしていくか、改めて身の引き締まる思いです。今日はありがとうございました!

鈴木恵千代(すずき・しげちよ)
株式会社乃村工藝社 空間デザイナー・クリエイティブディレクター

多摩美術大学建築学科卒。展示会、商業施設、ミュージアムなど幅広い空間のデザインとアートディレクション、プロデュースを手掛ける。ディスプレイデザイン賞最優秀賞、通商産業大臣賞、グッドデザイン賞金賞など授賞歴も多数。千葉大学 デザイン工学部 非常勤講師、日本空間デザイン協会会長を勤める。

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