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【コラム】2020年、東京は「パラリンピック」で変わる!

インタビュー:新雅史さん(社会学者、学習院大学大学院 政治学研究科 非常勤講師)

2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催まであと6年。世界中に東京をアピールできる祭典を通じて、より魅力的な都市であることを伝えるには、どのような準備をしたらいいのだろう。また、観光客など、より多くの人を東京に惹き付けるためには、どのようなまちづくりを進めていくべきなのだろうか。社会学者であり、ベストセラーとなった新書『商店街はなぜ滅びるのか』の著者としても知られる新雅史さんに、話を聞いた。

オリンピックよりも、パラリンピックに注目すべし

-まず、2020年の東京オリンピックに向けて、東京の玄関口である大手町、丸の内、有楽町エリア(以下、大丸有)は、どのような準備を進めていったらいいのか、お話をお伺いできればと思います。

2020年というとほとんどの人がオリンピックを念頭に置いていますよね。しかし、大丸有にとってより重要なのは、同時に開催されるパラリンピックではないでしょうか。というのも、大丸有というのは、日本でもっともバリアが少なく、障がい者に対するインフラが整っているエリアだからです。そのことをアピールできる最大の祭典こそが、パラリンピックであると思っています。

先ほども、取材前にこのエリアを歩いて改めて感じましたが、歩道が広く、健常者にとってもこのまちはとても歩きやすいです。それは、大丸有が、障がいをお持ちの方、子連れの親御さんや高齢者の方など、ハンディキャップのある方が散策しやすく買い物がしやすいまちとも言えるはずです。

僕は商店街に関する本を書いているので、商店街とショッピングモールの違いについてよく聞かれるのですが、その大きな違いは、子育て中の親御さんたちにとっての使い勝手の良さ、です。ショッピングモールはバリアフリーで通路が広く、ベビーカーを押して歩くお母さんたちが2台すれ違っても、ぶつかることはありません。そうやって快適に買い物ができることが、子育て世代にショッピングモールが支持されている大きな理由の一つなのです。

ショッピングモールは郊外型の施設です。では、東京都区部でベビーカーが2台通りすぎてもぶつからない、それでいて他の人もゆったりと歩けるようなまちというと、あまり見当たりません。パラリンピックで東京に来る選手の方たちも、大丸有エリアであれば買い物もしやすいはず。つまり、大丸有の強みは、バリアフリーである、ということなんですね。この強みをどのように対外的にアピールするかが重要になると思います。

このことは、当然、観光という面でも強みですが、大丸有から社会に対してメッセージを送るという戦略もありうるかと考えています。例えば、障害者雇用率制度で定められている法定雇用率は、国、地方公共団体で2.3%、民間企業で2.0%ですが、国や地方公共団体はほほ達成しているものの、民間企業では1.69%(2012年)と大きく下回る状況です。この数字は欧米に比べるとかなり低い水準で、国際的な評価も低い。そうしたなか、大丸有エリアの企業が率先して障がい者雇用を進め、日本で一番、いや世界で一番、障がい者の方々が働きやすいまちを実現できたとしたら、社会に貢献できるうえに、全世界に大きくアピールできるわけです。

わたしは大胆な提案をしましたが、しかし、日本の都市でこうした取り組みができるのは、おそらくこのエリアしかないはずです。新宿や渋谷、秋葉原など、バリアだらけのまちには絶対に真似できませんからね。もっとも、こうしたエリアは若い人たちがバリアを使って遊べるからこそ、面白いまちではありますが......。

つまり、単に観光面からまちづくりを考えるのではなく、ビジネスやCSRも含めて一体的に進めることが、重要だと思います。オリンピックにだけ注目するのではなく、パラリンピックにこそ注目すべき、というのはまさにそういうことなんですね。

そのまち特有の「オーセンシティシィ」(真正性)を見出す

-障がい者の雇用率を引き上げることの他に、具体的にどのような取り組みが考えられるでしょうか?

arata1.JPGやはり、イメージを刷新していくことが重要であると思います。現状の大丸有は、空間が広々としていてとても気持いいエリアですが、一方で、階層の高い人、収入の高い人、特別な人たちだけのエリアといったイメージがついていて、とっつきにくい印象をもたれているようです。もったいないですよね。これだけのゆったりした空間があるのだから、もっと敷居を下げて、障がい者、子育て中の人、高齢者など、さまざまな人が楽しめるまちだということをアピールできれば、印象も大きく変わるでしょう。 もう一つ、大丸有の役割として期待しているのが、結節点として情報発信基地の役割です。

-東京大学の吉見俊哉教授は、「この地域は、東京全体のポータルになり得る」とおっしゃっています。つまり、さまざまな地域の玄関口として、情報発信の場になるべきだ、という。

非常に重要な視点だと思います。実際に、東京交通会館に代表されるように、このエリアには地方都市のアンテナショップが多いのが特色の一つ。まさに、東京が地方のポータルとして機能しているわけですね。さらに、世界に向けたポータル機能やディスプレイ機能をもたせることもできるのではないでしょうか。例えば、この地域がアジア全体の案内やディスプレイとして機能するとか。こうした取り組みも、他のまちには真似できないことでしょう。

つまり、「バリアフリー」、「ポータル」、「ディスプレイ」というのが大丸有の重要なキーワードになるということですね。

-他のエリアが真似できないまちづくりをやる、ということが重要なわけですね。確かに、同じブランドの路面店がずらりと並んでいるだけでは、東京もロンドンもニューヨークも大差ないですからね。

その通りです。昨年、ニューヨーク市立大学のシャロン・ズーキン教授(都市研究)が、『都市はなぜ魂を失ったのか』という本を出版しましたが、その中で、都市における重要な要素として、「パブリックスペース」と「オーセンティシティ(authenticity)」というキーワードを挙げています。オーセンティシティというのは、真正性のことで、つまり、その場所だけがもつオリジナリティと言い換えてもいい。再開発によってまちのオリジナリティ、独自性を失ってしまっては、差異化はできません。

そこで多くの場合は、オリジナリティを文化に求めるわけですが、文化の取り入れ方は容易ではありません。単にショーケースとして見せただけでは、ありきたりなものになってしまう。しかも、文化というのは守るだけでなく、正当性をもって新しく生み出すことが重要です。正当性というのは、つまり、「これってこのまちに必要だよね」という共感が得られるということ。それは、エリアの環境や特色をしっかりと活かしたうえで「文化」を打ち出すことが必要だということです。取ってつけたように、表層だけを真似してもダメだということだと思います。

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多様な学びの場とDIYがまちに愛着を生む

多様な学びの場とDIYがまちに愛着を生む

arata2.JPGもう一つ、文化とともに重要なキーワードが「学び」です。すでに大丸有でも、朝大学をはじめさまざまな学びの場が用意されていると思いますが、それが一部の人たちだけのハードルの高いものになっていないかどうか。本来、学びというのは、自分がクリアできそうなくらいの課題を克服したときに、相応の報酬があってはじめて身につくものなんですね。つまり、どんな人でも学べるように、ラダー(階段状)にさまざまなレベルの学びを用意しておくことが重要だということ。大企業に務める正社員の人たちだけに向けた学びの場しかないようでは、「島宇宙」になってしまいます。

さらに欲を言えば、学びの先までサポートできるような取り組みもほしい。商店街などでも、せっかく新規ビジネスが生まれたとしても、1〜2年で終わってしまうことが多いのです。5年、10年と継続するためには、やはり新しい取り組みを継続的にサポートできるような体制づくりが不可欠でしょう。ぜひ、大丸有にもそうした取り組みをしていただきたいと思います。

さらに、このまちにより多くの人に愛着をもってもらうためにおすすめしたいのが、「DIY(Do It Yourself)」です。自らの手を動かすと、場に愛着が湧きますからね。ここに働く人だけでなく、イベントやフェスティバルを通じて、より多くの人たちがDIYを体験できれば、大丸有の敷居の高さは大いに払拭できるでしょう。

ところで、日本理化学工業(株)というチョークをつくっている企業をご存知ですか? この会社は社員の7割が知的障がいをもつ人たちで、日本でもっとも多くの知的障がい者が働く企業として知られています。例えば、この会社がつくっている水で流せるチョーク「キットパス」を使って、路面や壁に絵を描くというイベントをしてみてはどうでしょう? 水で流せるので、イベントが終わったら、皆で清掃すればより連帯感も高まるはず。このチョークは口に入れても安全な原料を使っているので、お子さんたちも安心して参加することができます。

冒頭でお話したパラリンピックの話ともつながりますし、企業のCSR活動の一環としても、またより多くの人をこのまちに惹き付けるという意味でも、面白い試みになると思います。

-DIYというと、もっと手の込んだ難しいものを想像していましたが、チョークで絵を描くだけなら簡単で、楽しそうですね。本日は、さまざまな気づきにつながるお話をしていただき、ありがとうございました。

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新雅史(あらた・まさふみ)
社会学者、学習院大学大学院 政治学研究科 非常勤講師

1973年福岡県生まれ。明治大学法学部卒業。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学(社会学)。専攻は産業社会学・スポーツ社会学。現在、学習院大学大学院ほかで非常勤講師を務める。東京大学大槌町・仮設まちづくり支援チームのメンバーとして活動。著書に、『商店街はなぜ滅びるのか―社会・政治・経済史から探る再生の道』(光文社新書)、『「東洋の魔女」論』(イースト・プレス)、共著に『大震災後の社会学』(遠藤薫編著、講談社現代新書)、『現在知vol.1郊外その危機と再生』三浦展・藤村龍至編、(NHKブックス)、などがある。

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