都市と農業を考える
私は日本ビル正面の「日本ビル農園」で、作物の作り方を指導したり、楽しく食べてもらう企画などを手がけています。オフィスビル環境下での"都市型農園"には2つの意味があります。ひとつは、都市生活者に食と農の結びつきを考えてもらうきっかけ。最大の消費地である都市の人たちに「農」を考えてもらわなければ、地方の農業は疲弊する一方です。もうひとつは地方との結びつきです。昨年は日本ビル農園のメンバーで、長野県諏訪市の伝統野菜「上野大根」の生産支援を行うことができました。今後、こうしたコミュニティーを生かした、都市だけで完結しない広範な"都市農園"の可能性も探っていきたいと思います。
- Q1
- 現在の日本の農業が抱える問題とはどのようなものでしょうか。
- A1
- まず、行政が問題の切り分けができていないこと。「地域産業」なのか「食料の保障」なのかが不分明です。行政特有の"万遍なく公平に"というスタンスもあって、農水省が手を打てば打つほど混迷を深めています。もうひとつは「経営者」がいない点。アメリカやカナダでは、農業経営者が確立していますよね。農業はいまや衰退産業であり、だからこそ逆に今が起業のチャンスのある分野でもあるのです。今就農人口は227万人ですが、2034年にはゼロになる試算もあります。毎年10万人分、価値が勝手に上がっていく産業なんて他にない。ITなんかより、今は農業が最大の起業チャンスです。
- Q2
- 大丸有のすごいと思うところは?
- A2
- 面白い人が集まる場所だということ。コミュニティーがあるからかもしれませんが、それにしても、意欲の強い人、目的にマッチしたプロフェッショナルなど、感度の高い人がよく集まっています。僕から見てもぶっ飛んだ人がいてすごいなあと思います。
- Q3
- 大丸有を1日好きにしてよければ何をしたい?
- A3
- 日本中の伝統的な農村の祭りを1日で開催してみたいですね。地元から切り離したら伝統の意味ないんじゃないの、というような意味のないくだらないことをしてみたいです(笑)。
- Q4
- おすすめの本を一冊教えてください。
- A4
- 本は小説を中心にすごく読むのですが、あまり心に残らないタイプなんですよねぇ。でも1冊だけ挙げるとしたら、真山仁さんの『黙示』。農業を扱った小説は多くありますが、この作品が一番バランスが良い。どこかに肩入れすることなく、淡々と問題を浮き彫りにしている完成度の高さがあると感じました。
- Q5
- あなたが一番大切にしているものは何ですか。
- A5
- 面白いと思ったことは何でもやってみるということ。仕事でも趣味でも、生きていること全般で。人間は未知のもの、分からないものに対して不安や恐れを感じるものです。しかし、それをクリアするには「やってみる」しかない。
脇坂真吏(わきさか・まさと)
株式会社Agri Innovation Design代表取締役。
東京農大在学中から日本野菜ソムリエ協会の業務にかかわり、野菜ソムリエの店「Ef:」立ち上げに参画。「部活では農村調査、学業では農業経済を学んだので、経営、農村、経済とがっつり農業を捉えることができた」。その経験から農業の基盤の建て直しが大切という思いに至り、卒業とともに2006年、農業界と学生をつなぐ株式会社NOPPO(2012年マイファームに売却)を設立。2009年には株式会社みやじ豚の宮治勇輔氏と「NPO法人農家のこせがれネットワーク」設立。農業振興、地域活性化事業への参画が増えたため、プロデュース、コンサルティングを行う株式会社脇道を2011年に設立。活動の場を広げ、事業の多方面展開のため、2014年に「Agri Innovation Design」に社名を変更。
Agri Innovation Design
農家のこせがれネットワーク