レポート

人間が主役となる世界レベルのビジネスセンターへ

村上周三 独立行政法人 建築研究所理事長
by 狩野健二

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村上周三

村上周三(むらかみ・しゅうぞう)

1942年生まれ。65年東京大学工学部建築学科卒業。工学博士。東京大学生産技術研究所教授、慶応義塾大学理工学部教授などを経て、2008年4月より現職。この間、建築環境・省エネルギー機構理事長、国交省中央建築士審査会会長、日本建築学会会長、空気調和・衛生工学会会長などを歴任。研究分野は計算流体力学、建築・都市環境工学、地球環境工学、サステナブル建築など。

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人間と都市・建築のサステナビリティ追求を通して、魅力ある都市をつくるため必要なコンセプトとは、どのようなものか―。
政府の新成長戦略で掲げられた「環境未来都市」構想では、未来に向けた技術、社会経済システム、サービス、ビジネスモデル、まちづくりに関し、世界トップクラスの成功事例の創出と国内外への普及展開を目指して検討が重ねられ注目を集めている。そこで、同構想有識者検討会の委員長を務める建築研究所の村上理事長に、環境・社会・経済という3つの価値を創造しながら、大丸有が目指すべき都市づくりの方向性について、ご意見をうかがった。
* この記事は、「大丸有CSRレポート2011」の巻頭特集「2050年へのまなざし」の完全版です。

1. 多様なサービスの提供が都市の魅力を生む

大丸有地区は、20年ほど前から協議会をつくって官民合意型のまちづくりを進めてきたと聞いています。私も訪れる機会が多いのですが、江戸大名屋敷の区画割りをそのまま活かしながら、エリアを一体的に整備してきた成果がよく見てとれます。日本全国を見渡してみてもビジネスセンターとしてこれだけ整っているのは大丸有だけではないかと思います。個々の建築主の主権が強い日本では、景観を統一した美しいまちづくりがなかなかできません。ですからパリなどと比べ常々日本の都市の景観は貧弱だと言われてきました。しかし、こと大丸有に関してはエリアとしての統一性が十分に達成されています。しかもそれを民間の力で実現している。これは素晴らしいことです。

グローバルシティとして、ロンドン、パリ、ニューヨーク等と並び称されてきた東京ですが、大丸有はまさに東京のビジネス部門の代表です。大丸有のまちのあり方が日本の都市のあり方の一つのモデルである、そういう意識で今後とも一層優れたまちづくりを進めてほしいと思います。

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一方、大丸有が他都市と決定的に違うのは住宅がないことです。最近では夜中でも大勢の人が滞在するようになりましたが、だからと言って実際に住宅があるわけではありません。しかし今後とも、大丸有に一般住宅をつくっていくことにはならないでしょう。大丸有はビジネスセンターの成功モデルなのですから、ビジネス以外に必要な都市機能は銀座や日本橋、神田、飯田橋、四ツ谷など周辺地区と連携、分担し合って、各々の地域の個性を磨くとともに全体としての機能充実を図っていけばいいと思います。

昨年、大丸有に新たに三菱一号館美術館が出現し、出光美術館やブリヂストン美術館などを含め東京駅周辺の文化施設の集積が進みました。ただパリなどと比べるとまだまだ厚みに欠けます。これは大丸有というより東京全体の問題かと思います。パリの市街が山手線の内側くらいの大きさの中にいろいろな用途がぎっしり詰まっているのに対し、東京は平均密度が低く、コンパクトではありません。東京の人は一度帰宅してから、その後まちに出てくることはあまりありません。総じて夜遅くまで働く日本人のワークスタイルの問題もありますが、物理的に通勤時間が長いことがネックとなっています。パリはまちがコンパクトなぶん、アフターファイブを遅くまで楽しめる。故にビジネスと娯楽がうまくかみ合っています。
三菱一号館美術館
出光美術館
ブリヂストン美術館

今回の東日本大震災を契機に、日本ではむしろ都市機能の分散化議論が出ています。防災・セキュリティの観点からすると、確かに分散化は検討課題の一つです。ただ「都市の魅力」と防災は別の話です。なぜなら都市の魅力は、ハード的にもソフト的にも"集積"が大きな効果をもたらすからです。発達した交通網や快適な通信環境といったハード面の充実とともに、金融や法務等専門分野におけるサービスの多彩さ、ビジネス以外では医療や教育面の問題も含め外国人が満足できるサービス水準の質と量が魅力の源泉です。ビジネスから日常生活にわたる上質なサービスが提供されれば世界中の優秀な人材、資本が集まりだす。ヒト・モノ・カネが集まるようになれば、そこに新しい価値が生まれる。新しい価値が生まれると、また新しい人が集まってくる。この好循環のダイナミズムが、東京などのグローバルシティと呼ばれる都市の魅力の源泉なのです。

社会経済の発展に伴って主力産業が移り変わるのは歴史の必然です。これからはナレッジ・エコノミーの時代になります。それを支えるのはナレッジ・ワーカーです。海外の有力企業は社員に快適な就業環境、生活環境を提供することに投資を惜しみません。素晴らしい環境の中で仕事に励んでもらうことでビジネスが上向けば十分に投資回収ができると考えるからです。大丸有にはナレッジ・エコノミーの中心地として、海外から優秀な人材を集めることができる空間、サービスの提供を心がけて、それを実践してほしいです。

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