中村桂子(なかむら・けいこ)
1936年生まれ。東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻博士課程修了。理学博士。国立予防衛生研究所を経て、三菱化学生命科学研究所入所。早稲田大学人間科学部教授、JT生命誌研究館副館長、東京大学先端科学技術研究センター客員教授、大阪大学連携大学院教授などを経て、現職。最近の著書に、『生命誌の世界』(日本放送出版協会)、『「生きもの」感覚で生きる』(講談社)、『ゲノムが語る生命-新しい知の創出』(集英社新書)、『「子ども力」を信じて、伸ばす』(三笠書房)など、著書多数。
生命科学に時間と関係という概念を取り込むことで、生命の本質に迫り、人間とは何か、生命にとって環境とは何かを解き明かそうとする「生命誌」。その提唱者としてJT生命誌研究館の創設に携わり、現在、館長を務める中村桂子氏は、生命誌研究館での活動を通して、地球環境の大切さを訴え続けてきた。喫緊の課題である地球環境問題に対して、また、都市における生物多様性について、私たちはどのような視点をもつべきか、そしてどうふるまうべきか。半世紀にわたり生物の研究に携わってきた中村氏の答えとは――。
1.炭素はけっして悪者ではない
――環境活動への問題提起
生物研究をはじめて、今年でちょうど50年を迎えました。その間、生き物の進化の営みを「時間が紡ぐ物語」として包括的に捉える「生命誌」という概念を提唱し、38億年にわたって生命を育んできた地球について考えると同時に、地球環境問題の解決に道を拓きたいとも思ってきました。現在でこそ、地球や生物に多くの方が関心をもつようになりましたが、研究を始めた当初は、私のような考えはまったくのマイノリティだったのです。
歳をとって、3歳児の反抗期に戻ってきているので、長い間生物研究をしてきた立場から、今日は、少し過激なことを言わせてください。現在、多くの人が地球環境問題に関心をもつようになったのはよいことと感じていますが、一方で、CO2の排出量を25%削減するとか、生物多様性に取り組むと言っても、今のままで科学技術を進めるだけではダメだと思うのです。それは、多くの人の目が、地球環境問題の本質を見ていないと感じるからです。
言葉一つをとっても、それがわかります。最近よく使われる言葉に「低炭素社会」がありますが、この言葉を聞くと、私は不思議な気持ちになります。なぜなら、私たちは炭素の塊なのですから。
すべての生き物は炭素の塊であり、炭素を否定することは生物を否定することにほかなりません。実は、炭素化合物の中で、どうにも扱いようがない、はぐれ者がいる、それがCO2です。CO2を利用できるのは植物だけであり、私たちはその活用を植物にお願いするしかありません。光合成のメカニズムが解明されつつある現在でも、人工的に光合成作用を起こすことはできず、だからこそ植物を大切にし、木を植える必要があるのです。
ところが皆さん、安易に「低炭素社会」とおっしゃる。人工物に囲まれたエネルギー多消費社会の中では、CO2にしか目が向いていない、重要な炭素化合物、つまり生き物は見えていないことがわかります。ちょっとした言葉の問題のようですが、そうした根本から考え直していかないと、環境問題を解決するのは難しいと考えています。




















