シリーズコラム

【コラム】エリアマネジメントの進化へ「環境まちづくりフォーラム2012」

名古屋・大阪・東京、都市の共通課題と7つの提言

2012年度に開催した「環境まちづくりサロン」の発展形である「環境まちづくりフォーラム2012」。名古屋(10月3日)、大阪(10月30日)、東京(12月4日)と三大都市をまわり3回にわたって行われたディスカッションを通して、各まちづくり団体が抱えている課題が見えてきた。なかでも財源の確保や、日本各地の「まち(エリアマネジメント組織)」同士の連携は大きなテーマと言える。
今回のインタビューでは、3回のフォーラムを振り返り、見えてきた課題とそれを乗り越えるための知恵の結集である「7つの提言」について、まちづくり研究の第一人者であり、大丸有地区のエリアマネジメント協会理事長である小林重敬さんからお話をお聞きした。
また、東京大会でのコーディネーターを務めた東京工業大学教授の中井検裕さんと、3回のフォーラムを開催した名古屋、大阪、東京のそれぞれ事務局からフォーラムのレビューを寄せていただいた。

環境まちづくりフォーラム2012を振り返って

― まずは、今回のまちづくり環境フォーラムが開催された意義についてお聞かせください。

小林:名古屋、大阪、東京と3回にわたってシンポジウムを開催しましたが、これは、2011年6月から2012年2月にかけて、全6回にわたってエコッツェリアで行われてきた「環境まちづくりサロン」の総決算といえます。われわれまちづくり団体が抱えている課題をとりまとめ、自分たちだけで解決できない問題について、国や自治体にもご参画いただいて、公民連携で進めていきたいという主旨で開かれたものです。
なぜ、このような動きが出てきたかというと、近年のエリアマネジメント活動の性質が大きく変わってきたことが背景にあります。従来のエリアマネジメント活動というのは、自分たちのエリアの課題とどう向き合い、まちの資源をいかにしてまちの活性化へと結びつけるかといった、あくまでも「内向き」の活動にとどまっていました。こうした内向きの活動は今後も重要ではありますが、一方で、それだけでは対応できない課題が出てきているのです。

とくに、東日本大震災以降、防災・減災、あるいは地球環境問題への取り組みをエリアとしてどのように行うのか、という大きな課題が顕在化しています。防災や環境というテーマは、一企業や一団体だけで取り組むには限界があり、エリアのなかでしっかりとした組織やネットワークをもつことが不可欠でしょう。また、各エリマネ団体が防災・環境に関わるためには、より広い公共性をもって臨む必要がある。つまりここへ来て、「外向き」のエリアマネジメント活動が必要になってきたというわけです。
その実現のためには、公との連携が不可欠になります。エリマネ団体が公的な部分を受け持つことになるのであれば、公共団体等と一体となって制度や財政支援、規制緩和などに関する議論を深める必要があります。今回のシンポジウムを受けて「7つの提言」をまとめましたが、外向きのエリマネ活動を実現する第一歩として機能したのではないかと思います。

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エリアマネジメント活動の財源をいかに確保するか ―
日本型BIDの方向性を探る

エリアマネジメント活動の財源をいかに確保するか ―
日本型BIDの方向性を探る

― 今回の一連の議論のなかで、最重要テーマとは何だったのでしょうか?

小林:もっとも重要だと考えられるのが、活動のための財源の確保です。とくに大阪大会では、財源をテーマに議論を深めました。これまでも、さまざまなエリマネ団体が多種多様な活動を通じて、資金を調達してきたわけですが、従来のやり方では、エリマネ団体が新たな公共を担うだけの財源を確保するのは難しいと言わざるを得ません。

翻って、海外のエリマネ団体を見てみると、日本とは比べものにならないほどの巨額の支援を受けている。その違いは、やはり、海外のエリマネ団体が公共性の高い事業を担っていることにあるようです。つまり、内向きのエリマネ活動と外向きのエリマネ活動を、一体的に引き受けているという特徴があるのです。
典型的な例としては、アメリカやイギリスなどを中心にBID(Business Improvement District)と呼ばれる制度があります。これは、ある指定されたエリアにおいて、まちづくりに伴う受益者の負担金を固定資産税に上乗せして徴収し、まちづくりの財源に活かすという仕組みです。我が国では税収は自治体の管轄ですが、制度は国に関わる課題なので、両者との連携が不可欠になります。こういった仕組みをつくり上げることができれば、日本のエリマネ団体においても、ある一定の財源を確保できると考えられます。

じつは今、大阪市では日本型のBID制度をつくれないか、検討が始まっています。ただし、その実現には二つの課題がある。一つは、先ほども説明しましたように、海外のBIDでは受益者負担金を固定資産税に上乗せして課税します。つまり、そのエリアの人にとっての負担増をどう捉えるか、という問題があるのです。

この問題を、関西の企業関係者の方々にお話ししたところ、意外にも、皆さんからぜひやってください、という前向きなご意見をいただきました。負担増になったとしても、その財源をもとに、地域が活性化し、新しい価値が生まれるのであれば、大賛成だと言ってくださった。というわけで、まだ紆余曲折はあると思いますが、大阪が日本型BIDの先鞭をつけることになるかもしれません。とはいえやはり、受益者負担という考え方が、日本各地で受け入れられるのかどうかは未知数です。

一方で、日本には固定資産税に、すでに上乗せ課税をしている税金がある。公園や道路を整備するための税金、すなわち都市計画税です。とすると、そのエリアで徴収される都市計画税を、そのエリアで公的な活動をしているまちづくり団体に分配するという仕組みがあってもおかしくないでしょう。ただし現状は、都市計画税は一般財源に入れている自治体もあるため、使途が明確ではありません。たとえば、東京都の場合は、都市計画税は都の財源になるため、東京都全体のまちづくりに使われてしまいます。
地域再生というのは喫緊の課題ですから、今後は、それぞれのエリアで上がった税収を、それぞれのエリアでも使える仕組みをつくる必要がある。いずれにせよ、日本型BIDは都市計画税の見直しによって可能なのではないか、と私は考えています。

もう一つの課題が、組織の問題です。税金を託されるには、それ相応の、公の認証を受けたエリマネ団体であることが必要です。ちなみにアメリカのBID組織は条例に基づいた組織であり、また、その組織内に監査役として行政の人が加わることになっています。さらに、それぞれの組織の活動でどのような効果が上がったのか、きちんと検証する仕組みもある。まちの人にアンケートを取ったり、犯罪の減少率を調べたりして、定量的な評価をしているのです。こうした評価の仕組みづくりも、非常に重要です。
一方、日本のエリマネの主体はというと、大丸有はNPO法人ですが、他は一般社団法人であったり、株式会社であったりと、バラバラです。つまり現在の日本には、エリマネ活動に合致する組織制度がないということなのでしょう。

― 従来のエリマネ活動の多くは、補助金に頼ってきた部分も多いと思うのですが、それでは立ち行かなくなっているということですね?

小林:補助金というのは期限付きですからね。補助金の終了とともに、困難な状況に陥ってしまったまちがたくさんあります。あるいは、社会実験で1年間はやったけれど、それきりで後が続かないという事例も多い。やはり、10〜20年くらいの継続的かつ安定した財源確保というのが、まちづくりには不可欠なのです。

ちなみに財源確保の成功例としては、広告活動があります。これはアメリカでも行われていて、それなりの効果はあがっています。ただし、広告事業というのはマーケットに依存するため、経済状況によって収入が変化してしまう。やはり、固定資産税のように変動しにくい財源の確保が必要でしょう。

― 先ほどの大阪のお話などは、財源確保のための制度づくりに踏み出しつつあるということですね?

小林:とくに大阪の動きは注目に値します。じつは大阪では、今年2月、公共空間をまちづくり組織で活用できるよう、条例の改正もしています。今後は歩道や道路、広場、公園、公開空地などの公共空間を、財源確保やまちづくりの活性化につなげていく動きが活発になっていくでしょう。地方分権と財源の議論というのは一体のものですから、今後の動きに着目したいと思います。
一方で、こうしたさまざまな取り組みをしようとする際に、対応する行政が縦割りで窓口が複数ある、というのでは困ります。ぜひ、ワンストップで対応できる体制を整えていただけるように、働きかけていきたいと思います。

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BCPを世界へ情報発信をすることの意義 ―
非常時の防災、常時の環境に一体的に取り組む

BCPを世界へ情報発信をすることの意義 ―
非常時の防災、常時の環境に一体的に取り組む

― 防災・エネルギーも、大きな課題として議論されましたね。

小林:先の東日本大震災以降、日本は世界に対して、日本という国、東京などの大都市は災害に対して脆弱な国である、という負の情報を発信してしまったのではないでしょうか。そして、グローバル企業が日本への進出を検討する際、日本は地震国で、いつ災害に遭うかわからないというためらいの気持ちを植え付けてしまったのではないかと危惧しています。

このイメージを払拭するためにも、たとえ災害が起きても、日本で継続してビジネスを行うことが可能であるという、BCP(Business Continuity Plan)を示し、それを海外に向けて情報発信をすることが求められています。たとえば、それぞれのビルが堅牢であるのはもちろんのこと、たとえ交通網や情報網が遮断されたとしても、救援が届き始めるまでの3日間程度は、そのエリアで働く人や来街者を十分にサポートできる仕組みが構築されている、といった対応策を示す必要がある。その役割を、とくに今回のフォーラムに集まっていただいたような、大都市の中心部のエリマネ団体が担うべきだと思います。こうした情報発信こそが、新たな外向きのエリマネ活動の一つだということです。

これを現実のものとするためには、エリアごとに防災のための一定のスペースを確保する必要があるでしょう。ただ、非常時のためだけにスペースを確保するのは難しい。そこで、このスペースを、常時は環境に寄与できるような空間として整備するという方法が模索されています。非常時の防災・減災、常時のエネルギー・環境対応をセットにすることにより、日本独自のまちづくりの在り方を世界に対して情報発信できるのではないでしょうか。

ただ、スペースを確保するとなると、やはり財源の問題が浮上します。そこで検討されているのがTIF(Tax Incremental Financing)という仕組みです。

また大阪の事例になりますが、現在、大阪駅周辺では大規模な再開発事業が行われています。その一環として、大阪市と大阪府が一体となり、駅の北側に大規模な緑地を確保しようという動きがあるようです。緑が少ない大阪において、駅前に印象的な緑の景観をつくりたいということのようですが、こうした緑地は災害時にも非常に重要な役割を担うことになります。ちなみにこの場所は従来、「駅裏」などと呼ばれていましたが、緑地をつくることにより、周辺の開発が進むのではないかと、期待されています。

しかし、都心の一等地に緑地をつくる、というのは通常で考えれば難しいですよね。こうした取り組みはやはり行政でやるべきですが、近年の財政状況では非常に厳しい。そのための解決策として、TIFが検討されているのです。TIFは、公共投資をすることによって上昇するであろう固定資産税に対して、それに見合う分の債券を行政が発行し、民間投資家から資金を集めて開発を行う、というもの。つまり、あらかじめ行政が民間からお金を集めて、開発を行うというわけです。この手法は、とくにアメリカの中心市街地活性化で採用されています。固定資産税の上昇分というのは、比較的算出しやすいので、現在の日本の金利状況であれば、十分に機能するのではないでしょうか。
このように税金を使うのではなく、税金を投資するという仕組みがあれば、従来とは違った局面を開くことができると思います。

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情報の活用やエリア単位の計画について ―
行政への働きかけにより制度改革を推進する

情報の活用やエリア単位の計画について ―
行政への働きかけにより制度改革を推進する

― そのほか、行政に対しての働きかけについては、どのような議論があったのでしょうか。

小林:環境・エネルギーや防災といった新しい課題については、現在、行政を含めてさまざまな取り組みがなされているなかで、どこでどれくらいの資源を消費しているのか、あるいはどのような対応策をとっているのか、皆が情報を共有する仕組みづくりというのが必要だと思います。とくに、国や自治体が保有しているデータに、エリマネ団体がアクセスし、まちづくりに活用できるよう、提言に盛り込みました。

せっかく貴重なデータがあっても、それらが点在していて、まちづくりに活用できないのでは意味がありません。公民相互で情報を共有、蓄積、活用できる仕組みを、ぜひ、構築していただきたいと思っています。もちろん、行政に対してお願いするばかりでなく、今回のフォーラムのように、民間側で皆が情報を持ち寄って情報交換をする場をつくっていくことも重要だと思います。

もう一つ、エリア単位の計画を位置づける新たな計画制度についても、検討をお願いしたいと考えています。つまり、エリマネ活動をやっているそれぞれのエリアを、都市計画マスタープランの地区別計画の単位として扱っていただけないかという提案です。たとえば、アメリカではマスタープランは加除式になっていて、マスタープランに加えて、それぞれのエリマネ活動地域の計画を公のプランとして加えることができるようになっています。そうすることで、あらかじめエリマネ活動と空間形成をリンクさせることができる。つまり、空間ができあがってから、使途について許可をもらう、といった手間を省くことができるようになるのです。

― 最後に、今後の活動の展望についてお聞かせください。

小林:今年度もサロンとフォーラムを開催する予定ですが、今回の提言に沿って、重要なテーマから議論を具体的に詰めていきたいと考えています。
とくに喫緊の課題として、今年度は財源の確保について多様な議論をしていきたい。財源確保のための活動には、さまざまな公的な障壁があるので、まずはそれらを取り除き、BIDやTIFのような新しい方法論についても検討していきたいと思います。今回のフォーラムにご参加いただいたエリマネの方々には、ぜひ、引き続きご協力をいただければと思います。また、政令指定都市の中心で活動されているエリマネ団体を中心に、ネットワークを強化していきたいと思いますので、よろしくお願いします。

小林重敬(こばやし・しげのり)

1942年東京生まれ。東京大学大学院工学研究科都市工学専攻博士課程修了。工学博士。横浜国立大学大学院教授、日本女子大学講師、学習院大学講師、行政改革推進本部規制改革委員会参与、参議院国土交通委員会客員研究員などを歴任。エリアマネジメントを中心に、都市政策やまちづくりなど、大都市および地方の中心市街地の再生、活性化などの活動に参画。大丸有エリアマネジメント協会の理事長を務めるなど、20年以上にわたり、大丸有のまちづくりに携わっている。著書に、『エリアマネジメント』『条例による総合的まちづくり』『都市計画はどう変わるか』(学芸出版社)などがある。

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共通の課題はあっても横並びになる必要はない ―
エリアの「とんがり」をなくさないために 中井検裕

共通の課題はあっても横並びになる必要はない ―
エリアの「とんがり」をなくさないために 中井検裕

― 中井先生には東京大会のコーディネーターを務めていただきましたが、フォーラム全体を通じて、どのような印象をもたれましたでしょうか?
東京大会のセッション1は、日本橋、大丸有、銀座という東京の中心エリアのエリマネ団体が勢揃いした。

東京大会のセッション1は、日本橋、大丸有、銀座という東京の中心エリアのエリマネ団体が勢揃いした。 中井:フォーラム自体は大盛況で、会場に入り切れないほどの申し込みがあり、皆さんの関心の高さに驚かされました。また、実際の発表を聞いた印象としては、それぞれの地域で、エリアに即したさまざまな活動をされていて、それらの情報が共有できたという点で、非常に意義深かったと思います。一方で、当然のことではありますが、それぞれのまちづくりに取り組んできた経緯や歴史には違いがあり、経験の蓄積の違いというものも浮き彫りになったように思います。

とくに私がかかわったセッションでは、日本橋、大丸有、銀座という、日本の中心部のエリマネ団体が一堂に会するという、ある意味歴史的な邂逅になったと思います。一堂に会してみてわかったことは、いずれのエリアにおいても、エリア内での合意形成という点で共通の課題を抱えているということ。やはりまちづくりを率先して牽引する人や組織が非常にがんばらなければならない、という問題点が見えてきました。

ただし、キープレイヤーは大丸有の場合は三菱地所という地主であり、銀座は老舗の旦那さんたちであり、大阪であれば鉄道会社であり、といった具合に、それぞれまったく違います。また、活性化の在り方も、大丸有が全方位型なのに対して、銀座は街並みのデザインに特化した一点突破型で、方法論が大きく違う。共通の課題はあっても、それぞれの地域での取り組みはじつに多様で、一様には語れない部分もあります。総論は賛成でも、各論になると個別に障壁や課題があって、皆さん苦労しているという印象をもちました。ただ逆に言うと、そういう違いこそが、それぞれのまちの魅力につながっているのだと思います。また、合意形成については、昔から取り組んできたところと、そうでないところで、大きな経験値の差があることも実感しました。

一方で、次の段階である地域と行政の関係構築については、皆の共通の課題であることがわかりました。そうした意味で、今回のフォーラムを経て作成された提言は、行政に対する要請であり、大変意義深いものになったと思います。

この提言の一つのポイントは、エリマネ団体への権限委譲にあります。内容としては、規制緩和や財源、組織体に関わるものなどさまざまです。提言のなかには、すぐに取りかかれそうなものもありますが、なかにはハードルが高いものもあるように感じます。とくに、提言6の新たな法人制度の創設については、現状ではエリマネ団体の数が少なすぎるのではないでしょうか。今回のフォーラムに関わっているエリマネ団体というのは、大都市の経済活動の中核を担うようなエリアの組織であり、小さなまちの商店街の活動とは性質を異にしている。今回のフォーラムは、そうした大都市のエリマネ団体を一つのプロトタイプとして焦点を絞りながら議論を進めていくという方向にあるので、そうなるとやはり、日本に数十しかない組織のために新たな国の制度をつくるというのは難しいかもしれません。逆に小さな団体まで含めた潜在的母集団を睨んだ法制度の構築であるなら、まだまだ議論を深める必要があるでしょう。

もう一つ感じたこととしては、今回、こうやって大都市のエリマネ団体が一堂に会して情報共有できたことは、大変意義があることだと思う一方で、何もすべてを横並びにする必要はないのではないかということです。たとえば、アメリカのBIDの方法論をそのまま模倣するのではなく、むしろエリア独自の方法を模索して示した方がいい。BID的な仕組みを採用するにしても、受益者が負担したお金が、何にどのように使われるのかを明確にしながら取り組むべきでしょう。税金を徴収してとなると、使途との対応関係がぼやけてくるので、結局、これまでの都市計画税と変わらなくなってしまうのではないかと危惧します。まずは、丸の内のように負担と受益の関係が明確な地域で、テーマを絞って始めるのがいいのではないでしょうか。

いずれにしても、今回のフォーラムは世界にも類を見ないじつに先進的な試みであり、こうした日本独自のまちづくりの方法論を世界に対して発信していくことに意味があるのではないでしょうか。欧米の後追いをするのではなく、むしろ日本のほうが進んでいるんだというくらいの気概をもって臨むべきだと思う。そうした日本独自の、あるいはエリア独自の「とんがった部分」はなくさないでほしい、というのが私の願いです。どこも同じような金太郎飴のような都市になってしまっては、つまらないですからね。
今後のフォーラムは、海外からエリマネ団体を招聘したり、あるいは日本から海外に出向いていったりして、日本独自のまちづくりの情報発信の場として発展させてほしいと思います。次なる展開に期待しています。

中井検裕(なかい・のりひろ)

1958年大阪生まれ。1980年東京工業大学工学部社会工学科卒業、1986年東京工業大学大学院理工学研究科社会工学専攻博士課程単位取得満期退学。工学博士。東京大学助手、明海大学不動産学部助教授、東京工業大学助教授を経て、2002年より東京工業大学大学院社会理工学研究科教授。国土交通省社会資本整備審議会都市計画部会長、内閣府都市再生本部都市再生の推進に係る有識者ボードメンバー等。著書に、『都市のシステムと経営』(共著 岩波書店)、『景観まちづくり』(編著 丸善)、『都市計画:根底から見なおし、新たな挑戦へ』(共著 学芸出版社)などがある。

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「環境まちづくりフォーラム2012 in 名古屋」

「環境まちづくりフォーラム2012 in 名古屋」

事務局 :名古屋駅地区街づくり協議会

1. フォーラムで得られたものと見えてきた課題

名古屋大会は、ミッドランドスクエアに約200人を集めて開催された。 「環境まちづくりフォーラム2012 in 名古屋」では、本年度、名古屋駅地区街づくり協議会が実施している取り組み課題の答えになる事例をたくさん聞くことができた。
震災対策では、「逃げ出す街から逃げ込める街へ」というコンセプトで日頃から徹底的に訓練をされているという森ビルの事例を聞くことができ、大変有意義だった。安心・安全というテーマは、名古屋で働いている方、またエリア外の方々を惹きつけるためにも、取り組まなければならない必須事項であり、今後の活動に活かしていきたい。

また、収益事業や持続的なまちづくり活動として、「浜松まちなかにぎわい協議会」の組織体制や組織運営、広告事業の話が参考になった。浜松のように、協議会発足とほぼ同時期に株式会社を立ち上げ、収益事業を実施する体制を整えている事例を知り、大変参考になった。さらに、「栄ミナミ地域活性化協議会」の音楽祭や歩行者天国など、数々のイベントを実施していて、地域のコミュニティーがしっかりと形成されていること、また、名古屋市や警察としっかり連携するする関係性を構築することも重要だと感じた。

まちづくり活動を継続的なものにしていくためには、組織や人の課題、運営資金の確保、活動するための行政・警察等との良好な関係構築など、もう少し踏み込んで議論する必要がある。また、自分たちのまちが安心・安全であるということを、自信をもって情報発信できるような具体的な取り組みが必要だということも感じた。

2. 7つの提言の意義とポイント

まず、提言1のエリアマネジメント組織に対する支援・優遇策の強化が急務である。各地でエリマネ活動が活発化し、地域に貢献しているにもかかわらず、既存の各種組織や団体との公平性等といった観点から、なかなか優遇されない(特別扱いされない)状況にあり、エリマネ組織に即した制度の必要性を感じる。あわせて、地域に貢献している特定のエリマネ団体には優遇策、各種行政手続きの簡素化など、支援優遇策の強化が必要だと思う。

また、それに関連し、提言3の公共空間の管理・活用に関する制度構築・運用改善も非常に重要である。各地で社会実験等が行われているが、社会実験といえども条例や規則などは既存のルールの範囲内でしか実施できないことが多々あり、このような運用が新たな取り組みに対する大きな障壁になっている。公共空間における新しい取り組みを推進していくためには、運用改善が必須である。

3. 提言を実現させるために

さまざまな取り組み、新しい取り組みを各エリアで実践していくことが重要だろう。そして、これらの取り組みの課題やノウハウなどを全国のエリマネ団体で共有化していくことと、必要に応じて行政機関に提言していくことが重要である。 

4. 環境まちづくりフォーラムの期待と要望

各地で取り組んでいる取り組みについて、たとえば、「エリアマネジメント広告」といったように、1回ごとにテーマを絞って開催し、各地の具体的な取り組みや課題・アイデアなどを共有する場として継続してほしい。

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「環境まちづくりフォーラム2012 in 大阪」

「環境まちづくりフォーラム2012 in 大阪」

事務局 :梅田地区エリアマネジメント実践連絡会・
公益財団法人 都市活力研究所

1. フォーラムで得られたものと見えてきた課題

大阪大会は、ハービスOSAKAに300人超の参加者が集まった。 各エリアマネジメント団体のさまざまな活動内容をご紹介いただき、それぞれ、今後の活動方針を検討する上での参考になったと思う。一方、活動エリアや参加主体の特性、体制などはさまざまだが、各団体とも課題を抱えており、決して順風満帆ではないことがわかった。各団体が抱えている課題をまとめると、以下になる。

・活動財源の確保
・参加意識の醸成(まちの将来ビジョンの共有、参加しやすい仕組みづくり、効果の見える化)
・公共空間の利活用などの規制緩和
・今後の大きなテーマとして、安全・安心・防災

2. 7つの提言の意義とポイント

エリアマネジメント団体が抱えている課題を各団体で共有できたこと、そのなかで、各団体が抱える課題を把握し、国や地方自治体への情報発信ができたことが提言のポイントである。
エリアマネジメント活動は、民間主導でエリアの課題解決やエリアの活性化を図るといったかたちで、全国各都市で一定の成果を収めてきたこともあり、国や地方自治体からも新しい公共の担い手として期待されていると感じる。
一方で、エリアマネジメント活動の効果はすぐには見えにくい。今後も民間主導でエリアマネジメント活動を持続させていくためには、また、防災や環境問題といったより公共領域に踏み込んだ大きなテーマに取り組んでいくためにも、民間組織が自発的に協働するだけでは不十分。そういった意味で、7つの提言で示したような制度的なバックアップが実現されれば、大変心強い。

3. 提言を実現させるために

まずは民民連携により各団体のまちの将来ビジョンを描くことが必要だが、併せて、官民連携により活動財源の確保をはじめとしたエリアマネジメント活動の支援・優遇策の具体化を検討するなど、民間のインセンティブのつくり込みを行うことが必要だろう。
行政から、このエリアであればこのエリアマネジメント団体に任せたいと思ってもらえるように、エリア内の民民連携を拡大・深化させながら、活動内容を徐々にステップアップさせていくことが大事だと思う。

梅田地区エリアマネジメント実践連絡会については、主にエリアイベントの開催を通じて、エリア内のさまざまな主体との関係構築を進めており、イベント以外の活動を進める下地ができつつある。今後は、行政とも連携しながら、エリア防災などより大きな課題に取り組んでいきたい。

4. 環境まちづくりフォーラムの期待と要望

環境まちづくりフォーラムへの参加を通じて、全国のエリアマネジメント団体と交流し、活動内容や課題の情報共有を図ることで、今後の活動方針を検討する上での参考にさせていただきたい。また、全国各都市のエリアマネジメント団体の要望や課題を取りまとめて、国や地方自治体に対して政策提言を行うなど、エリアマネジメント活動の発展に向けて、制度的なバックアップの構築や規制緩和等の働きかけを行ってもらいたい。

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「環境まちづくりフォーラム2012 in 東京」

「環境まちづくりフォーラム2012 in 東京」

事務局 :NPO法人大丸有エリアマネジメント協会

1. フォーラムで得られたものと見えてきた課題

東京大会は、東京国際フォーラムを会場とし400人を超える参加者で開催された。

2011年からサロンというかたちで、各エリマネ組織が抱えている課題について話し合いを続けてきたが、これまでは東京(エコッツェリア)だけの開催だった。今回、フォーラムを名古屋と大阪で開催でき、サロンに参加されていた組織の方には、この活動をより身近に感じていただけたのではないか。また、サロンに未参加の組織の方にも周知でき、情報交換ができたことは、非常に有意義だった。

課題としては、やはり財源の問題が一番大きい。なかには活動に関する直接的な収支を開示してくれた組織もあるが、そこには人件費や事務所経費等は含まれていないなど、多くの団体で財源の問題を抱えていることがわかった。また、せっかく広告事業などの収入があっても、現状では課税対象となってしまう。公共的な活動を行っているエリアマネジメント組織に対しては、税金の軽減や免税など、何らかの措置をとっていただけるよう、働きかける必要があるだろう。

また、現状は行政の窓口が分かれていて、ワンストップで手続きができないことも障壁となっている。ぜひ、「エリマネ課」のような、ワンストップサービスを実現していただきたい。

2. 7つの提言の意義とポイント

提言というかたちで行政に対して、要望を投げかけることができた事自体、非常に意味のある場だったと思う。7つの提言はいずれも重要な事柄であるが、より公益的な活動を行っていく上で活動資金の確保は必須であり、財源確保に関する方法論を呈示したことは大きなポイントだろう。

3. 提言を実現させるために

公的空間の利用についてはいろいろな制度が整備されつつあるが、例えばエリアマネジメント組織への税の減免やBIDといった仕組みの創設、あるいはエリアマネジメント組織に相応しい新しい法人制度の創設などは、長い道のりが予想される。引き続き、サロンやフォーラムのような場で行政とも議論を続けて行くことが必要ではないか。

4. 環境まちづくりフォーラムの期待と要望

今後も引き続き、行政に参加いただけるような場をつくっていくべきである。ただし、今回のような開発に絡む組織の窓口だけでなく、BIDやTIFのような税に関わる課題について議論を深めるためには、総務省や財務省の関係者にも輪を広げて、参画いただく必要があると思う。
前例があると動きやすいということもあると思うので、まずは突破口となるような事例を生み出し、その情報をサロンやフォーラムで速やかに共有するような仕組みづくりも重要だろう。
今後は、さらに具体的なテーマに絞った分科会のようなものを開催したり、今回開催した3都市以外でもフォーラムを開催できると、より活動が広がっていくだろう。

編集部から

2011年から行われてきた「環境まちづくりサロン」の総決算となった「環境まちづくりフォーラム2012」。従来の日本のまちづくりの問題点について、大都市のエリマネ団体が一堂に会し、公に対して提言を行うという試み自体、非常に先進的な取り組みになったと思う。一方で、「情報共有をしたからといって、何も横並びになる必要はない」、という中井先生の話に大変共感した。最近、地方の駅に降り立ってまわりを見渡すと、チェーン店ばかりで、その金太郎飴のような風景にがっかりすることが少なくない。各エリアの「とんがり」に自信をもって、独自の路線を切り拓いていただきたいと切に願う。


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