シリーズコラム

【コラム】まちづくりは経営的発想をベースにしよう

論理的かつ現実的なアプローチでまちを再生する

地域再生など、まちづくりには経営、つまりマネジメントの視点が必要と唱える木下斉さん。地域における自立経営モデルを構築し、全国のまち会社が連携して事業開発を行うエリア・イノベーション・アライアンス(AIA)の代表として、全国を奔走する。高校生の頃から地域活性化をライフワークとし、論理的かつ現実的なアプローチで取り組んできた木下さんのお話を前後半に分けて掲載する。前編は、これまでのユニークなご経歴と、国内外の調査から得た知見、AIAの役割について。

「金がないなら、知恵を出せ!」に鍛えられた ―
高校生から早稲田商店街のまちづくりにかかわる

― 木下さんは現在、2009年に設立されたAIA(エリア・イノベーション・アライアンス)の代表として活躍されていますが、この組織はどのような役割を担っているのですか?

木下: AIAは、我々がさまざまに取り組んでいるプロジェクトの主体となり得る法人です。ここで言うエリアとは、都市中心にある市街地のことです。主に中堅以上の地方都市の中心部にまち会社を設立したり、すでに存在しているまち会社とアライアンスを結び、共同で事業開発を行っています。これは、中堅以上の都市中心部は単独事業で自立していけるだけの経済環境にあるという認識からです。ただ、中山間地域や離島、温泉街などでも、AIAの皆で開発してきたソリューションが役立つ場合があります。今まさに事業開発を水面下で行っており、中堅以上の都市の次は、もう少し小規模な都市へアライアンスを拡充しながら自立した活性化事業を推進するための、まち会社を設立していくというのがAIAの方針です。現在、我々とアライアンスパートナーを結ぶエリアは、札幌、盛岡、名古屋、北九州、長崎、熊本など、全国10ヵ所以上に及びます。

なぜ主に、地方の都心をメインに活動しているのか。それは都市の大小に関わらず、地方都市の社会構造が東京に大きく依存しているなか、中堅クラスの都心ですら公共資金などに依存し、自立して市街地の活性化事業に取り組めない現状に問題意識を感じているからです。人の流れが確保されている地方都市の中心部であっても、東京が吹っ飛んだら終ってしまう。このようなすべて他に「依存」する社会構造を変えていきたいという想いから、地方都市でまち会社の経営に携わる同志とともに、まち会社が中心となり、共同でビル管理を共通化したり、シェアオフィスに転用したり、市(いち)を開いて新たな商人を集めたり、リノベーション店舗をつくったり、路上の広告収入をまちづくりに生かしたり、といったしっかりと民間でできる新規事業による地方都市中心部の改善に取り組んでいます。これらの取り組みについては、国内外のまちづくり情報や社会情報などをまとめ、エリア・イノベーション・レビューという形で毎週配信しています。

― 高校生の頃から、まちづくりに関わってこられたそうですね?

木下: そうですね。私が通っていた高校、早稲田大学高等学院は早稲田大学の付属高校でした。大学受験がないことから、高校・大学の7年間を有意義に過ごそうと、高校1年生の時には学校の外にでて、実社会で活動をしたいと思っていました。ただその頃は今のようなインターンシップ制度はなく、高校生の自分を受け入れてくれるような団体はほとんどありませんでした。
そんなとき、私の大学の先輩にあたる乙武洋匡さんが出された『五体不満足』という本を読んだのです。その本の中で、乙武さんが大学時代に「早稲田いのちのまちづくり実行委員会」という早稲田商店会での活動に参加されたことが書かれていました。ここであれば私も参加できるかもしれない!と思って、本を読んだその日のうちにメールでご連絡したところすぐにお返事をいただき、乙武さんのご紹介で早稲田商店街のまちづくり活動に参画するようになりました。
まちづくり活動の実行委員会は早稲田の商店街の方だけでなく、大学の先生、学生、シンクタンク、事業会社の会社員、国や自治体の職員など、さまざまな方が関わっていて、高校生の私にとってとてつもなく刺激に満ちた環境でした。

- 早稲田にお住まいだったのですか?

「空き缶回収機」と「ペットボトル回収機」 木下: いえいえ、実は高校に早稲田の名前はついているものの、所在地は練馬区上石神井、家も板橋区だったので特段、ゆかりのある土地だったわけではありません。しかも、早稲田商店街というのは当時、参加店が60店舗ほどの非常に小さな規模で、年間に使える予算も50~60万円程度とごくわずかしかなかった。あまりに財政的に厳しく、任意団体でもあったので役所の補助金や公的支援を受けるという発想もまったくありませんでした。でも、それがかえってよかったのだと思います。「金がないなら、知恵を出せ」と言われて、知恵を絞ることの大切さを学びました。そうやって、放課後に連日のように通い、活動に没頭するようになりました。

ちょうどこのころ、早稲田商店街でやっていた環境まちづくり活動の一つが、空き店舗に空き缶回収機を設置する「エコステーション」の運営です。回収機に空き缶を入れると、ゲームが回り、当たりが出ると商店街の参加店で使える商品券や値引き券などのラッキーチケットが当たるという仕掛けです。この運営を会費収入や協賛金などで回し、補助金ゼロで実施しました。

この自立した環境まちづくりの取り組みが、当時全国的な注目を集めるようになったのです。補助金に頼らず、空き店舗を暫定利用ということで格安で借りて活用し、機器は導入実績がつくれるからという理由でメーカーから無償で借り受け、商店街の加盟店舗からは新規客獲得増加という成果が生まれたことから販促費として3,000円ずつを集める方法が当時は斬新でした。今でも商店街活性化は補助金依存で単発のイベントをやって終わりという所が多いですから、各店舗の日常的な販促効果を環境的な切り口を取り入れながら民間だけで実現したということが大きく評価されたのです。当時はまだ、自治体の資源回収も始まっていませんでしたからね。連日、マスコミの取材や各地からの視察・見学の申し入れがあり、ピーク時は年間で200~300団体が訪れたほどです。

何か課題に直面したとき、多くの場合、お金で解決しがちですが、私たちは予算がないから知恵を絞って、関わる人にメリットを説くことで協力してもらい、新しい価値を生み出すことができたんですよね。実際に、空き缶回収機のメーカーはその後、早稲田のマンションに生ゴミ処理機を導入するなど、エコステーションでの活動を実績に、新たな販路を開拓できたし、先ほど言ったように商店街の集客にもつなげることができました。

私はこの頃、登録していたクーポンデータの宣伝チラシを作成したり、定期的なメンテナンスのお手伝い、視察見学の対応などをしたりしていました。15時に学校が終わると電車に乗って早稲田までいって、終電まで商店会長の事務所に入り浸っていましたね。商店街の人たちからは「友達いないのか?」と言われましたが、現場で地域活性化に携わることの楽しさとともに、全国各地から訪れる方々と出会うことができ、人脈の幅も大きく広がったのがこの時でした。

続きを読む
国内外のまちづくりの成否の決め手とは? ―
経営の工夫とプロパティの価値を高める取り組み

国内外のまちづくりの成否の決め手とは? ―
経営の工夫とプロパティの価値を高める取り組み

― 運営に関わる人の中では最年少だったわけですよね?

丁稚奉公中の木下さん 木下: はい。その頃、早稲田には毎日、全国各地から多くの人が視察に来ていました。時にはニューヨークタイムスやロシア国営放送といった海外からも取材が訪れたりして、16歳の私にとって大変、刺激的でした。さらに毎日皆でご飯を食べに行ったり、いろんな話を聞いたりして、世の中ってこんなにも沢山社長をしている人がいて、それぞれ色々な考えを持っているのか、と毎日気づきがありました。また誰も、高校生だからといって私に「黙っていろ」とか言わず、会議などにもフェアに参加させてくれ、常に意見も求められました。だからわからないことはすぐに勉強しなくてはと思い、家に帰ってからは本を読んで学ぶ毎日でした。この頃は本当に充実していて楽しかった。楽しいからこそ、活動を続けることができたのだと思います。

さらに、夏休みや冬休みを利用して、「全国商店街丁稚奉公の旅」ということもしていました。視察などを通じて仲良くなった全国各地の商店街の方々の紹介を通じて、札幌や和歌山、宮崎、熊本などのお店に住み込んでお手伝いをしました。そうやって、地方の商店街の実態を垣間見るなかで、さまざまなことを学びました。それは、残っている店は残っているだけの理由があるということです。一見するとまったくお客さんがいない商店も、実は移動販売で売り上げを上げていたりして、ちゃんと利益を上げているんですね。

たとえば、あるメガネ屋さんの場合。閑散とした商店街に個人店を構えながら、親子三代で店を営んでいました。いまやメガネ屋といえば、格安のチェーン店が市場を席巻していますし、どうやって経営を成り立たせているのか不思議でなりませんでした。ところが、お話を聞くと意外にも儲かっているという。じつはこのメガネ屋さんは、小さなバンを改造して視力検査などができるようにして、地元の中小企業や工場へ昼休みに出向いて行って、営業活動をしていたのです。忙しくてなかなか店舗に行けない工員さんに対して、出向いて行ってメガネの調整やレンズ交換などに即座に対応していました。お客さんが来ないならこちらから行けばいい、という逆転の発想をしていたんですね。こうした個人店ならではの知恵や工夫というのは、ただ外から店を眺めただけではわかりません。こういう人たちはひっそりと堅実な経営をされているので「うちは儲かってます」なんて嫌味なだけなので絶対に言いません。中小零細商業でしっかり残っているところにはそれなりの理由があるのです。

一方で、知恵を絞ることもなく、景気が悪い、行政が悪いなどと文句ばかりを言っている経営者に限って、店は掃除が行き届かなくて汚く、いつ仕入れたか分からない商品は放置されたまま。それなのに無駄に補助金を使って、その場限りのイベントをやったりしている。やはり中長期的に見ると、本業に根差した活動・事業でなければ、持続的に経営を支えていくことは難しいのだということを学びました。

また、高校3年の時には全国商店街の共同出資会社の経営を任されました。商店街を活性化するために何が必要か、御用聞きのように「何がいいですか?」と問いかけましたが、答えはまったく返ってきません。赤字経営が続く中で、商店街の人たちも活性化に対して明確な答えを持っていないということが分かってきました。答えを持たない人たちに聞いて回るのではなく、自分の頭で事業モデルを考えぬき、自ら動いて展開していかなくてはならない、ということに気づいたのです。

そこで大学に入ってからは、国内だけでなく、海外にも調査も兼ねて丁稚奉公に行くようになりました。当時はお金がなかったので、東京財団さんに調査研究提案をしたところ、幸いにして研究費を出してもらい、欧米のまち会社を訪ねて回ることができました。とくにアメリカとイギリスを中心に訪れたのですが、その理由は、両国がレーガン政権下でのレーガノミクスやサッチャー政権下でのサッチャリズム以降、公共支援が抜本的に削減された中で、民間のマネジメントをベースにしてまちの再生が発達し、成果を上げ始めていたためです。今後、財政が厳しくなっていく日本の手本になるだろうと考えました。

とくに欧米のエリアマネジメントというのは、多くの場合ブロック単位で行われていて、行政のサポートがあったとしても、基本的にその事業主体は「土地のオーナー(ランドオーナー)」が中心となり、固定資産税に上乗せして皆で資金を出し合ってまちづくりをするなど、受益者負担に対する考え方が一環しています。まちが活性化して得をするのはランドオーナー。だからランドオーナーが投資をするのが当たり前という話です。その資金でまちづくりのプロを雇い、採算ベースに乗るような再生事業を行っています。これは数万人の小規模な都市から、百万人を超える大都市でも同じメカニズムです。ただ資金は有限なので、その他の広告事業やビル管理(ごみ処理やセキュリティ)、マーケティングによって収益を上げたり、寄付を集めつつ、これらによって展開した事業成果も定量的に報告され、しっかりとした企業的な取り組みになっていたのです。

私はこうした発想に、大変驚かされました。日本の場合、まちづくりというと、都市政策、商業政策、地方への再分配、社会保障などをすべてひっくるめて行政主導で取り組んでいますし、それを誰も疑問には思っていません。「まちづくりは行政がやる仕事」と思っているからです。しかし欧米では、地権者中心でさらに「受益者負担」の考え方ですから、出すからには成果を上げたいのでしっかりマネジメントをする、しっかりマネジメントするからにはそれなりの人材に頼まなくてはならないということで人材にもお金を出す、逆に成果を出さないと解雇する、という発想でまちづくりを行っている。つまり、しっかりと資金を負担した人間が利益を享受するというしくみです。皆、まちがだめになる(=資産価値が劣化してしまう)から、まちの再生に必死なのです。日本の場合には自分のお金を出してまで、まちを地域活性化しなくてもいい、という地権者も結構いますが、投資もせずに、自分たちのまちの活性化(=地権者にとってはバリューアップ)を期待するというのは、虫がいいということなのでしょう。

日本は90年代、景気対策として公共事業費を大幅に増やし、その後も中心市街地活性化法、改正都市計画法、大店立地法などを施行して、中心市街地の活性化に取り組んできました。しかし結局、地方の衰退をくい止めることはできなかった。そうした施策では乗り越えられないほどのマーケットのパワーに押され、皆がいいモノ、いい場所での消費活動を望んだためです。当然、従来のやり方に胡坐をかいているようなところや、治安の悪いところ、教育レベルが低いところなど、エリアのプロパティの価値が低いところには人は集まらなくなっていった。

そう考えると、じつはエリアの価値と個人資産の価値というのは連動していて、欧米のようにエリア全体でプロパティの価値を高めようというやり方は、きわめて合理的だということがわかるでしょう。
公共だけでは力不足なんです。公共交通をいくら頑張って整備しても、拠点に公共施設をつくっても、それに囲われた都市中心部の民間用地を、そのランドオーナーたちが本気になって動かさなければ、まちは再生しないわけです。再開発したあとの運営は無視して、もらった開発費補助金をランドオーナーで分配すればいい、などという考え方では、不当に高い金額をテナントに要求する必要があったりして成立しなくなり破たんします。結局、ランドオーナーは、おいしいところ取りすることはできません。まちづくりから逃げることは許されないと思うんですね。そういう意味で、民間が本気になる必要があるということです。

続きを読む
公共の力に頼っていてはダメな理由 ―
競争があるから、本気になれる

公共の力に頼っていてはダメな理由 ―
競争があるから、本気になれる

― 日本のまちづくりがうまくいかないのは、ランドオーナーが衰退にかかるメカニズムを理解せず、本気になっていないからなのでしょうか。

木下: その通りです。都市の中心部というのは、民間のランドオーナーが保有しています。つまり、中心市街活性化とかの問題は民間のランドオーナーを無視しては解決しないのです。せっかく商売をやろうと思っても、土地のオーナーが傲慢な金額で賃貸をしようとしたり、メンテナンスもせずに物件を放置したり、仲介会社に丸投げしていたりする。それでは、本気で攻めてきている、郊外に出店するような大資本よりも競争優位を築けるはずがありません。実は、シャッター通りのオーナーたちはシャッターを閉めて放置していても生活に支障がない人が多いので、貸すための努力をあまりしません。

北九州の「メルカート三番館」

たとえば、中心部の問題の一つは、新規に商売を始める人に店を貸す時の条件が、郊外よりも悪い。つまり出店しても儲からない構造をつくっているところにもあるのです。人も集まらないし、ビルもボロい割に家賃が高くて、オーナーが高慢だったりします。一方で郊外は交渉次第でフリーレントをつけたり、販促サポートをつけたりと色々と試みています。つまり市場での戦いなんです。だから、AIAはアライアンスパートナーとともに中心部におけるビルの貸し方を変えたり、オーナーが自らできない場合はまち会社に委託してもらって借り手を集めて、彼らの家賃設定に合わせた金額で逆算した施工費でリノベーションするなど、新たな活用方法を開拓して再生しています。北九州では一年で100名以上の雇用を生み出しています。従来から公共による活性化事業もやっていましたが、空き店舗補助やイベントでは解決しなかった課題を民間が中心となって補助金なしで達成したわけです。つまりは、国内でも海外でも本気でやるには、「面倒くさい」という話をしていてはだめなんです。

なんども繰り返しますが、すべてを「公共に頼る」という発想を改めなければならない。地方では何をやるにも「補助金はないか?」という話になる。自分たちでやるという発想が乏しく、もらえるものはもらおうという話ばかりしている。都市が衰退したのはすべて行政の責任だという話です。もしそうだとしても、行政に解決はできません。なぜならば、申し上げたように、地域活性化は市場における問題だからです。
中心市街地活性化関連予算が1兆円あるといわれた時もありましたが、公共支出も含めて500兆円を超えた、日本のGDPがもつ市場全体のパワーに対しては微々たることしかできない。つまり、いくら国費として都市にかけられる予算が拡大したとしても、マーケットのパワーそのものをひっくり返すほどの力はないということです。そのことが、日本ではあまり理解されていないように思います。

規制しろという意見もありますが、私は現実的にそのような政治力が都市中心部にあるとは思っていません。チェーンストア、農業や組合のように政治資金的にサポートしてくれる組織のある議員は一人もいないわけですし、「まちの再生に規制は必要」と皆はいいますが、規制緩和は続いています。当面望みのない「べき」論を高らかに唱えるより、リアリズムで取り組みたいと思っています。

たとえば、ニューヨークの場合、マンハッタンだけで15以上ものまちづくり会社があって、同一地区内で競争をしているのです。タイムズスクエアもウォールストリートも、五番街も、それぞれのエリアが競争して、切磋琢磨するなかで、まちの価値を高めようとしている。マーケットメカニズムを梃子にして、まちをよくしているわけです。
一方、日本は各都市に一つずつのまち会社みたいな基本原則をつくり、まちの人たちの合意形成に時間をかけつつ、結果としてまちの衰退をけん引してきた長老たちを役員にした「動かないまち会社」を全国各地につくるという、真逆のアプローチをして行き詰っています。それが焼け石に水だったのは、結果が示す通りです。もっと若者たちが挑戦し、事業開発を展開しながら、次の時代にまちを変化させていく必要があります。

AIAのアライアンスパートナーは若手が多いですし、地域の中にも「自分たちは理解できても行動できないから、頑張ってくれ」と支援してくれる方々もいます。これまでに、第三セクター方式のまち会社がある都市に、全く別軸の完全民間出資のまち会社を設立し、成果を残しているケースも生まれています。つぶしあうのではなく、互いに成長を目指してそれぞれが事業に取り組む。地域にとって良いものが最終的に残っていくという話です。はじめる前から、予定調和とするためのつぶしあいの議論に時間をかける必要はないんです。頑張るプレーヤーは多ければ多いほど、その地域の力になるのです。皆が民間中心で事業展開をしっかり始め、その後適宜行政にも参加してもらう「民間主導行政参加」がよいのです。

― まちづくりにおける新しい発想を生み出し、実践する場としてAIAは機能しているわけですね?

木下: AIAというのは、各地域でバラバラにこのような事業開発に取り組んでいるだけでは、分野的に発展がない。だから連携して事業開発方法を体系化したり、互いに情報交換するための仕組みをつくるために設立されています。A市で開発したまち事業をB市に持ち込む場合、かつては視察見学や講演会で対応していました。しかしそれではほとんど失敗するのです。早稲田で散々そのようなケースを見ました。そこで、A市の事業を分解し、3ヵ月で他都市で実現するために、まず第一日目に何をしなければならないのか、一週間で何を決定すべきか、といったことをプロジェクトとして体系づける、ということをAIAは徹底的にやっています。そのためにプレゼン資料、事業シミュレーターなどもつくっています。

私が思うに、まちづくりにおいて一番大切なことは、「本気」になれるかどうかなんですね。あとはすぐに動くこととともに、ちゃんと考えること。ただ頑張るだけでは不十分なんです。結果が出なければ意味がないわけですから、「私はこれだけ頑張っているんだ」と言っても課題がまったく解決されないようではだめですよね。これまでのまちづくりは「力を合わせて頑張った」みたいなことだけを評価し、反省をせずに同じことを繰り返してしまっている。成功事例も「リーダーシップ」のみが評価されて終わってしまい、メカニズムを分析しない。これは取り組みの成果が上がるとわかるんですが、リーダーだけでどうにかなる世界ではないんです。そして安易な成功事例集はミスリードをします。だからAIAは徹底的にメカニズムを解析し、それを複数地域に導入したり、互いにプロジェクト管理をしていくことを行っています。

「助けてくれ」というだけのまち会社ではなく、自ら立ち上がり、戦う気があるまち会社のみが集うのがAIAです。また、まちの事業手法を発達・発展させていこうというのがAIAに集う、全国のメンバーの目的なのです。地域を守るには、熱い想いとともに、実力も必要です。徹底的にリアリズムで攻めるのが我々AIAパートナー全員の一貫した姿勢です。

続きを読む
皆でやるのではなく、自分がやるのだという思い ―
経営的発想を育み、事業開発を具体化するブートキャンプ

皆でやるのではなく、自分がやるのだという思い ―
経営的発想を育み、事業開発を具体化するブートキャンプ

- AIAでは、具体的にどのような取り組みをされているのですか?

木下: AIAの事業モデルは、各地域でまち会社を設立しようとしている方々と共同で、まち会社をつくり事業開発を行うことです。設立時点だけの支援だけでなく、設立後の利益分配を受けて継続的な事業開発を絶えず繰り返し、地域に再投資を行っていく手法をとっています。
そのため、このようなまち会社のまちづくり事業に必要な取り組みをプログラム化して、アライアンスメンバーに提供しています。プレゼン用のシート、スケジュールシート、プロジェクトシートなどといった現場に必要な資料をパッケージ化して、プログラムに沿ってアライアンスメンバーや各地のまちづくりのメンバーと共同で連携を図りながら事業を進めています。またケーススタディを蓄積することで、各地域で発生する課題解決の手法も地域を超えてノウハウとして提供しています。当然、皆で取り組むなかで、ノウハウをブラッシュアップしたり、スケジュールを早めたり、個別に新たな取り組みを用意したり、知恵を絞っていきます。

事業モデルを進化させて、その次のステージに行ける、業界的な発展を目指しています。それには、視察見学だけでノウハウは吸収できないので、メンバーとの緊密な連携は欠かせません。日常的にはグループウェアやスカイプで定期的に情報共有をしています。さらに定期的にアライアンスパートナーが集まる合宿をやったり、実際に顔を突き合わせてミーティングをしたり、というリアルシーンも組み合わせています。今後は各地域別に支部を設けて、より綿密なノウハウ連携と事業開発スピードのアップを皆で目指していきます。

もう一つ重要な役割が、関わっている人たちのモチベーションの維持です。それぞれの地域でマネジメントに携わっている人たちは、何かやるたびに地元で矢面に立たされることが多いのです。我々の中には、政令都市でも小さなまちでも都市の規模に関わらず、裏切らない核となるチームは3から5名という一つの定説があります。地元を変え、再生しようとする挑戦者は孤独です。地元の中だけで取り組んでいると、どうしても逃げ場がなくなってしまう。あまりにも事あるごとに非難されたり、阻害されていれば、そりゃ辛いですよね。そもそも、日本全体の状況が悪くなっている状況下で、そのエリアの価値を底上げしようとしているわけですから、当然、風当りが強くなることもあるでしょう。成果もそんなに簡単に大きく出るわけではないですし、そもそも完璧な成果なんてないんですから。しかし挑戦は続けなければならない。そういうときに、AIAというアライアンスがその挑戦するモチベーションを維持できるような機能も果たしていけると思います。

AIAブートキャンプ AIAでは、これからまち会社をつくるとか、新たな事業を考えているといった方たちには、まず、「AIAブートキャンプ」という2泊3日の合宿に参加していただきます。この合宿期間中に、事業計画を作成し、3ヵ月間で達成できる目標を一緒に立てます。もちろん、ベンチャーと同じで、なかなか計画通りにはいきませんし、すべてが実現できるとは限りません。打率は3割といったところでしょうか。ただ、安易に事業をスタートさせないためにも、ブートキャンプの試みは有効だと思います。
そもそも日本の場合、まち会社に対する認識が間違っているんですね。まち会社というと、「まちの人たちすべてが、力を合わせて一枚岩になって、みんなで頑張る」と認識されていることが多いのですが、それは非現実的です。沢山の人たちが協力してくれることはあっても、総論賛成各論反対で、全員が納得出来る事業にはなりません。さらにまち会社は、ベンチャー企業同様に初期には試行錯誤をするので、事業計画通りに進むことはほぼ皆無です。だからこそ、立ち上げた時に「事業計画を遂行するために資金調達する」ということから始めると、にっちもさっちもいかなくなることがあるんです。

例えば、みんなでやる方式のまち会社として、沢山の地元企業などからの共同出資や少額の一口出資などで設立されることがあります。お付き合いや気軽に出資した人の中には、たとえ儲からなくても元本は保証されるだろうなどという、預け金的な発想をしている人や、最後は役所にどうにかしてもらえるとだろうと思っている人もいる。そういう人たちの集まりだと、事業が失敗すればなくなる可能性もある資本金を、大胆に投資できなくなってしまうんです。みんなで集めた資金だからみんなの合意が必要、なんてことで始めたら今度は事業自体が動かなくなってしまいます。これは事業を遂行する上で、小規模に試行錯誤のする際にやってはいけない経営的な資本政策の初歩的なミスなのですが、最初の話を綺麗にするためにやってしまいがちです。結局、そうやってなんとなくまち会社をつくってしまうと、後でとてつもない苦労を強いられることになります。事業計画を変更したくても、多くの出資者がいると、意見を取りまとめることが難しく、事業がストップしてしまうことも頻繁に発生する。事業計画を勝手に変更した「騙された。訴えてやる」という人も時に出てきます。まちづくり事業を始めた人は、まちをよくしようという純粋な思いで始めるわけですが、方法を間違えていくと、結果的にそのまちに住みづらくなってしまうなんてことすらあります。そうした状況に陥らないためにも、事前にきちんと情報を集め、熟慮を重ねることが必要です。優等生の模範解答的な方法は、純粋だし、聞こえはいいですが、実効性に結びつかないことが多いのです。

まちづくり事業も、あくまでも"事業"です。その事業をやるのは人間ですから、その成否は仕掛ける人自身のモチベーションにかかっているんですね。「みんなが言ってるから」なんて理由で事業を決めても得るべき成果には到達できない。ところが初めてキャンプに参加した人のなかには、主体的でない人も多いです。でも、その動機は純粋で、地域が衰退していているからどうにかしたい、なんです。やりたいという気持ちがあっても、なぜ自分がまちに関わりたいと思ったのか、まちで何をやろうとしているのか、まちをどうしたいのか、語ることができないのです。それではまるで、オリンピックに出たいと思っていても、種目すら決まっていないようなもので、練習方法も決まりません。もちろん最初から全てを明確にすることは不可能ですが、参加した純粋な動機を無駄にしないためにも、複数の先行している仲間たちの方法論を聞くと、イメージが膨らんでくる。そこから具体的な事業を選択して、その事業をプログラムに沿って形にしていくんです。でも、それは道具や練習方法の話ですから、やはり最初に、仕掛ける人自身のモチベーションと目的意識を明確にしておくことが肝要なのです。「私は」という一人称が大切だと思ってます。

それからもう一つ重要なのが、きちんと現状を把握するということ。空店舗を活用してまちを再生したいよねと言いながら、その物件のオーナーが誰で連絡先はどこが、いくらの条件だったら貸してくれるのか、といった具体的な情報をもたずに議論していることがままあります。その場合は、ブートキャンプの場でオーナーさんに電話をかけてもらい、交渉してもらうこともあります。すべての物事はリアリズムの固まりなので、「結構空き店舗があって大変なんです。ここを地元の若者たちで活用して欲しい」という想いだけでは形になりません。具体的にやってきた各地でのケースをもとにつくっていくプログラムを基礎にリアルな情報を収集しています。

このように、現実的にまちづくりを動かして行こうとすると、最終的にはリアルな問題に突き当たるのです。まちづくりというのは夢物語ではなく、リアルなことの積み重ねだということを、ブートキャンプでは十分に理解してもらい、さらにその後の継続的な事業開発をしっかりと進めてもらう。そんなことを全国各地で同時多発的にやって、地域の活性化に加速度をつけるのが我々の狙いです。

続きを読む
まち会社に不可欠な三要素とは? ―
コアメンバーは「裏切らない人」でなければならない

まち会社に不可欠な三要素とは? ―
コアメンバーは「裏切らない人」でなければならない

― まちづくりを事業として考えると、徹底して現実的な問題に落とし込んでいく必要があるということですね。

木下: そうしないと、地元で成果も生まれないし、我々も苦労することになるんですね。共同事業ということで、AIAも最初に資金を投入しますからね。我々は地権者でも地元の人間でもないけど、地元の人以上にまちの事業についてはこだわりも、プライドもあります。いくらお金をもらっても、まちにとって有効ではない事業のサポートはしないのです。 しかしやると決まったからには、自分たちも資金や労力を投じることで、本気で事業開発をやるわけです。「こうやったらいいですよ」とアドバイスをして終わりではなく、事業開発にかかったイニシャルコストだけを貰うわけでもなく、まち会社と運命共同体として中長期的に利益をシェアしていく。まちづくり分野で、このように共同事業を複数地域で回していく手法は、海外では見られますが、日本ではこれまであまりなかったと思います。

まちづくりにおける海外と日本の最大の違いというのは、まちづくりに関わるプレーヤーの質の差と言っていい。それはもう圧倒的に違います。なぜ、それほど違うかといえば、端的に言えば、まちづくりに関わる人の社会的地位と得られる報酬の違いにあると思います。これは私が2003年に始めてアメリカのまち会社を訪ねて行った時に驚いたことの一つですが、まち会社の治安維持部門長を、軍と警察を経て、その後に民間の警備会社を起業して成功させた人がやっていたのです。

アメリカの場合は、このような優秀な人材が、人生の数年を地方の非営利組織で働き、そこでの事業を成功させていることも多い。この場合、報酬はさほど多くないのですが、非営利組織でちゃんと事業を成立させたということが、その人にとってのキャリアアップにつながるため、期間限定で非営利組織での事業に携わるプレーヤーも少なくありません。営利企業でも、非営利組織でも経営手腕がある、実績をあげられる人はリスペクトされるのです。エリアマネジメント組織においても、ある地域で高い実績を上げれば、ヘッドハントされて別の地域にいって活躍する人もいます。

欧米ではまち会社の運営というのは、企業経営と同じで、けっしてお茶濁しではない、ということなのです。単なる行政事業の受け皿でもないんです。むしろ、民間が活躍する領域の一つであり、行政との連携含めて複雑なマネジメント能力が試される領域なのです。日本の場合、戦後から高度経済成長にかけて、何もしなくてもまちがよくなってきたという成功体験をいまだに引きずっています。とくに年配の方の中には、最終的には何でも国がやってくれるだろうとか、景気がよくなればよくなるだろうという他力本願な気持ちが根強い。ですが、今はどんどん全体が悪くなっているのであって、場所によっては底が抜けたように衰退している。そんな時代に、人任せにしておいて、自分のまちだけ都合よく救われるはずがないわけです。

― まち会社づくりにおいて、やはり重要なのは人ということですか?

木下: 人の問題は大きいと感じています。ただし、いくら人が重要だからといって、まち会社を設立する際に、昔ながらの雇用形態に縛られて、すべて常勤採用とする必要はありません。複数の方々にお願いするワークシェアリングや在宅勤務、一部活躍している人を巻き込んで業務委託で仕事をしていただいたり、ネットやクラウドを活用してボランタリーに関われるスタイルを確立するなど、さまざまな働き方や関わり方を可能にする必要があります。いきなり、事業基盤もしっかりしていない状況で、従来のように常勤の人に高い人件費を払う必要はありません。また、何か所属だけしてお給料払ってください、的な人も困ります。やはり実績あって報酬はついてくる。ただ経営する側としては、最低限の体制はつくらないといけないので、このあたりはベンチャー的な姿勢で仕事をする人でないと辛いですね。これらの人についての課題は、決して悲観的に見ているのではなく、今後改善していくべきだし、解決できると思っています。

ちなみに、我々が事業を進めるうえで重要視しているのが、「機能的組織の実現」と「事業収入の確立」、そして「低コストでの経営」という三要素です。都市の大小にかかわらず、まち会社というのは小さく始めるのがポイントで、繰り返しになりますが、コアのメンバーは3人くらい、多くて5人までが限度だと思います。これ以上多くなると、議論が発散しがちだし、議論するだけの人が参加してきてしまい、機能的組織ではなくなってしまうからです。「決める人を決める」のがまち会社の最初の仕事ともいえるくらいで、巻き込んでいく人は数十人、百人を超える場合もありますが、コアチームは濃密に、何よりそこで意思決定できるようにしなければならないのです。世論調査のように意見を聞いて回ってから決めるのではなく、経営の決定は能力がある人に託すというのが前提です。無論意見を聞かないということではなく、組織的には経営と切り離すということです。そうしないとリスクをとって事業推進するべき人が物事を決められなくなり、まち会社は一気に回らなくなってしまいます。

そしてコアメンバーは、何か成功しそうだったら頑張ったり、失敗しそうになったら逃亡する、ということがない人。つまりわかりやすくいえば、「裏切らない人」である必要があります。じつは、これが一番難しいのですが、そういうチームを形成できるかどうかが、まちづくりの成否にかかっているといってもいいです。何事においても「うまくいきそうだったら乗っかる」人はマジョリティですが、まちづくり事業というのは最初からそんな単純なものでもないですし、一時期成功しても、長期的には失敗してしまうこともあります。

そして、外の"眼"も大切です。地元生まれ地元育ちみたいな純血主義に偏ると、地域は衰退していきます。なぜならば、地域の課題は非常に相対的だからです。隣近所のまちと比較して相対的に優位に立てば発展し、劣位になれば衰退します。だからこそ外の目を効果的に活用することが大切です。
AIAのアライアンスパートナーのまち会社のコアメンバーになっているのは、Iターン、Uターンの方がほとんどです。もちろん地元生まれ地元育ちの方もいますが、大学は一旦東京に出てきていたり、就職をして海外で働いていた人もいます。全く地縁がないところでマネジャーをやって実績をあげている人もいます。いったん地元を離れて、もしくは地元以外の人材も活用しながら、まちの優位性を築いていくことが、重要だと思います。

続きを読む
無駄なコストを削減し、逆転の発想で収益を生みだす ―
札幌、長崎、小倉での取り組み

無駄なコストを削減し、逆転の発想で収益を生みだす ―
札幌、長崎、小倉での取り組み

― AIAでの活動を始められて3年ということですが、これまでの成果を教えてください。

NPOの路上清掃活動(上)と熊本の会議風景(下) 木下: わかりやすいところでいえば、たとえば、中心部にある中小ビルの管理、つまりファシリティマネジメントを、まち会社がそのエリアの複数の物件について横断的に実施し、契約条件の改善に結びつけた例があります。野放しになっていた中心部の中小ビルにかかるファシリティコストを圧縮し、その差分をまちづくり事業に再投資しています。ラジオ番組協賛の新規出店紹介、地元清掃NPOへの路上清掃委託や清掃機材購入など、今後は物件再生のリノベーションにも投資していきます。コストを削減し、それをまちの発展に活かすという、これまでになかった画期的な取り組みの一つです。実はコストをちゃんと扱わないと、いくら売上を上げても結果が出ません。経営では当たり前のことですが、なかなかこれまで取り組むことができませんでした。

それから、札幌市の札幌大通まちづくり株式会社や、新宿駅前通り商店街では地下道の側面に広告面を設置し、その収益をもとに街路整備などのまちづくりを行ってきました。昨年からは名古屋駅地区まちづくり協議会でも社会実験を行なっています。これは、2003年に私が海外調査の知見をベースにして、中小企業庁商業課に対し、「ストリートを活用した広告事業によるまちづくり財源の創出」という提言をして、そこから発展して実現した取り組みでした。
札幌大通りのイベント(上)と「ドリノキ」(下) その後、各地域でさらに多くの人の協力で体系化されていき、札幌ではほかにも、空いている不動産物件を活用し、シェアオフィスとコワーキングスペース、レクチャースペースである「ドリノキ」が開設され、運営しています。

それから長崎市では、「包括決済事業」の法人化というものに取り組みました。こちらは、クレジットカード・デビットカード・電子マネーなどの決済を一元化して、ほぼすべてのカードに対応する端末を商店街の各店舗に設置し、カード決済手数料を引き下げるほか、売上集計の事務作業や各店舗への支払い業務、支払通知書の送付などを商店街がとりまとめて行うことで、「手数料+集計」の手間が削減されるという仕組みです。これを商店街事業として取り組んでいたものを別法人化し、商店街以外でも広く活用できる仕組みに組み替えました。その他駐車場情報配信なども積極的に行なっています。

さらに、2012月4月オープンした北九州の「メルカート三番街」「ポポラート三番街」も面白い試みです。ポポラート三番街は、小倉北区魚町の魚町銀天街にある中古の空きビルをリノベーションして、服飾やアクセサリー、雑貨などのデザイナーやクリエーター約60人がショップや工房を営む、複合商業ビルとして再生したもの。この事業の肝は、自宅をベースにネット販売で作品を売っていたような個人の魅力的なクリエーターを集めています。つまり、従来商売をやっていなかった人たちが、ミニマム起業できるモデルになっています。さらに、事業的には入居者の方々が支払える家賃から逆算して、リノベーション投資金額を設定した経営スタイルを採用。従来のように、投資して建物をつくってからテナントを決めるというやり方とは真逆のアプローチになります。

ポポラート三番街 従来ある駆体を活用し、さらに内装投資も逆算で徹底すれば、オーナーさんのリスクも最小化し、テナントさんにも喜んでもらえるわけです。これにより、これまでオーナーだけが一身に負っていたリスクを減らすことができるようになりました。リスクが大きければ、当然期待収益も大きくなるので、家賃も高騰してしまったりするわけですが、それが低減できる。さらにテナント側も、従来よりも安い家賃で中心市街地に店を必要な面積だけ活用して出すことができる。知恵を絞れば、中心市街地の中古のビルでも、いやむしろ、投資回収が終わった古いビルを活用し、従来テナントになりえなかった層を開拓していくことによって、新規開発されたチェーンストア中心の郊外型の大手ショッピングモールとは異なるポジショニングを確立できる、ということだと思います。

だいたい、従来の都市の中心部の不動産仲介のやり方では、郊外モールのことを批判できない程に、同じようなチェーン店やドラッグストアばかりが入ることになっています。しかも、チェーン店の場合、自分たちの基準より通行量が下がった途端に、一気に撤退してしまうこともある。結局、マネーパワーの論理を、手元資金が少ない地域の取り組みに持ち込んで、資金不足分を補助金で埋めて対抗しようとしても、絶対量が不足していて成立しないんです。

― 中古物件をうまく活用したり、ファシリティのコストを抑えたり、地道な取り組みばかりですね。

木下: 地味なのが好きなんです(笑)。 目に見えない地味な仕組みを変えることで目に見えてくることに投資できることが大切なんです。問題というのは、表面に現れたことではなく、その背後の仕組みにある課題なんです。我々は派手なイベントなどはいっさいやりませんし、事業展開なしでまち会社をつくるのだけ手伝ってほしい、といったご依頼も基本的にお断りするという方針でやっています。やはり一回限りで終わるようなものではなく、5年も10年も継続してできる取り組みに時間を割かないといけないんですよね。地味ですが、都市中心部を構成している店舗の経営を圧迫している手数料率を改善したり、新たな商売人を喚起して新陳代謝を促進して魅力を生み出していくためのリノベーションをやったりということに意味があるんです。このような事業を実現するのに必要なサポート、事業ですから開始すると実務が発生しますので、その地味な運営サポートなどを行うわけです。外貨とか人材の流入を大きくし、地元での取引を促進して、そして流出する資金や人材という資源は極力削減するんです。目に見えないけど大切な三位一体の仕組みです。地味で小さな日常的な実務を疎かにすると、まちを変えることはできないと思うんですね。神は細部に宿る、です。

コンサルティングも「こういう事業やったほうがいいです」というのは簡単ですが、それを実際に実現して黒字決算まで持っていって、その余剰資金でさらなる地域に必要な事業に投資していくというのは、実務の問題になります。ものづくりでは、実装(インプリメンテーション)といわれますが、まちづくり事業もまさにこれです。こういう製品をつくれというのは簡単ですが、それを実際に実現するのは簡単ではありません。だからAIAは地味な実務まで一々入り込んでやるんです。

たとえば、エリア一体で取り組むファシリティマネジメント事業。ファシリティコストというのは、通常、売上に対して15~16%程度といわれていますから、小売販売額で1千億円くらいあるエリアなら150~160億円にものぼります。もしこれらのコスト全体の見なおしをしていなかったとすれば、10%削減できただけで15億円にもなる。とくに中小企業の場合、そうしたコストを見直していないところが多いので、生産性が低い場合が多いです。

各店舗にとっては単純な「損」が、エリアの経営という視点では生産性の低さとなる。生産性が低いエリアには新規出店などの投資は集まらないのです。ごみ処理、エレベータ保守、セキュリティ契約などは「管理費」というコストに集約されてテナントさんに支払ってもらうわけですから、適正以上の高いコストを請求されていては、こんなご時世には儲からないわけです。郊外店が強いのは、大型施設での集客力だけでなく、こういうファシリティコストについても、細かな管理している点もあげられます。コストは利益に直結するので、テナント経営者はナーバスです。

確かに契約の切り替えなどは手間ですが、こんな状況下で、めんどうくさいとか不勉強で取り組まないでいて、お金をドブに捨てるようなことをしているのでは、話になりません。熊本では各店舗数千円から数万円のごみ処理費用を170店舗でまとめて、400万円以上のコストの見直しできました。札幌、盛岡、熱海などでもエレベータ保守で年間100万円以上の見直しができています。

現代のように、商店街を取り巻く競争がどんどん激化しているなかで、昔のままのやり方を変えないでいたら、潰れてしまうのは当然ですよね。敵は隣近所ではなく、隣町であり、他の商業集積地であり、これからは海外やネットへと、枠がどんどん広がっています。ご近所さんでいがみ合ってる場合ではありません。

実は同じ中小・零細企業でも、海外と競争しているものづくり、工業系はまったく意識が違います。今、10円で納入している部品を、5年後に5円で納入するにはどうしたらいいのか、必死で凌ぎを削っている。そのために中小零細企業は単独では限界があるので、合同した組合や会社を立ち上げて、生産性改善に絶え間なく取り組んでいます。そうした姿勢を見習って、内需中心でゆるかった商店街も、都市中心部も経営的な発想を携えて、改善点を洗い出し、仕組みを変えていく行動力が必要なのです。

続きを読む
大丸有に求めるのは国際的な発信力 ―
アジアの代表として都市政策を牽引していくべし

大丸有に求めるのは国際的な発信力 ―
アジアの代表として都市政策を牽引していくべし

― ここまで地方都市の話を中心にお話しを伺ってきましたが、その対としてある東京・大丸有については、どのような要望をお持ちですか?

木下: これからの大丸有にはぜひ、日本のエリアマネジメントの技術や方法論を世界に向けて発信する役目を担ってほしいと思っています。日本の都市のマネジメント事業というのは、将来的には、十分に国際的なコンサルティングサービスになり得ると思うからです。

都市の発展の過程では、エリアが次第に外に拡がっていき、やがて別の違う核ができて、従来の中心地の地位が相対的に低下するということが必ず起こります。それは先進国が例外なく経験していることであって、これからはアジアを中心に、世界各国でそういった現象が起こる、万国共通のパターンです。日本におけるさまざまなまちで取り組んでいる事業ケースについては、それらの知見を体系化し、他国での課題解決に活かしてもらうべく、海外に輸出していくべきだと思っています。

つまり、現在、日本は戦後成長で蓄積した、都市形成のための技術の輸出に力を注ごうとしていますが、さらに一歩進めて、開発後の都市をどう管理・運用していくのか、どうやってバリューを維持していくのかという技術や、日本独自のマネジメントモデルを提供すべきだと思うのです。入り口だけでなく、将来的に抱える課題解決のメカニズムまでを含めて。それこそが、非常にニーズの高い都市政策分野なのではないでしょうか。
ところが、そういった面の発信力は、日本は極めて弱い。都市政策・まちづくりに関して発表される論文はほとんどが日本語で、いまだに「謎の国ジパング」の域を出ていなんですね。以前、全世界のエリアマネジメント事業を研究をされているMITの先生などと意見交換したことがありました。先生から「日本では中心市街地活性化法ができたというのは知っているけれども、具体的にどういうことが起きているのか」と聞かれました。そこの研究室には日本の国交省などからも派遣された学生さんが在籍していて、日本の状況を整理したりしているのにもかかわらず、先生の問いに答えることができていなかった。このように海外から問い合わせを受けても、日本の窓口となるような機関や研究者もほとんどいないのが現状です。また、海外へ視察に行ったとしても、自分たちの活動については何も話そうともしない。海外の人たちから、日本ではある意味、自分たちが知らないようなモデルをもっていて、まち会社など存在しないと思われていても不思議ではありません。

一方、欧米では、定期的にグローバル・カンファレンスを開催して、エリアマネジメント組織同士で人事交流もしているし、情報交換も行っている。これはぜひ見習うべきです。そうしたグローバル・カンファレンスを、アジア圏を代表して大丸有が誘致するなど、アジア各国と連携した国際的な役割を、大丸有にはぜひ、担ってもらいたいですね。

また、幕末から明治期にかけて日本が欧米から技術導入をしてきたように、場合によっては、お雇い外国人じゃないですけど、エリマネのプロを海外から雇い入れるという発想だってあってもいいと思います。そういった意味では、例えば韓国はとても積極的で、国際的な発信力が強く、このままでは先を越されてしまうのではないかと心配になります。昨年もロックフェラー財団などと韓国のホープインスティテュートが提携してアジア圏のまち事業調査を含めたソーシャル・ビジネスリサーチを展開したり、カンファレンスを開催したりしていて、招聘していただいて参加してきました。都市問題は万国共通。そういう意味では、国とかの枠組みを超えてどんどん発信、受信していくことが必要なわけですが、日本はまだまだ弱いと思います。

手前味噌ですが先日、イギリスの地域再生ジャーナル「Journal of Urban Regeneration & Renewal」に法政大学の保井美樹先生と共著で書かせて頂いた「Challenges in District Management in Japanese City Centers: Establishing Independent Business Models using Local Resources」という論文も掲載されることになりました。日本のまちづくり事業のケースを整理したものですが、今後も我々レベルでできることはどんどんさまざまな方のご協力をいただいて頑張りたいと思っています。

今後都市問題はよりいっそう全世界的なホットイシューになると危機意識をもち、日本も積極的に外に目を向けていかなければならないときに来ています。東京はもっと大きな事業を仕掛けることが可能でしょうから、大丸有はその先頭にぜひ立ってもらいたいですね。国内というよりは世界をみたエリアマネジメント事業のグローバル・カンファレンス、並びに枠組みについてぜひとも手を上げていただき、世界に開かれた日本のまちづくりを牽引して頂きたいと思います。もちろん我々もバリバリご協力いたします。

― 本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

編集部から

インタビューから数日後、木下さんが法政大学保井美樹先生と共著でまとめた論文が、イギリスの「Journal of Urban Regeneration & Renewal」に査読論文として掲載されることになったとメールをいただいた。日本のまちづくりの取り組みが、海外ではほとんど紹介されておらず、いまだ「謎の国ジパング」だという木下さんの衝撃を受けたが、丸の内環境新聞も早急に英語版を検討しなければと思った次第である。

木下斉(きのした・ひとし)

2000年、高校時代に全国商店街の共同出資会社である株式会社商店街ネットワークの設立に参画、初代社長に就任し、4年の社長就任期間で地域活性化に繋がる各種事業開発、関連省庁・企業と連携した各種研究事業を立ち上げる。
その後、一橋大学大学院在学中に経済産業研究所や東京財団の研究員を務めるとともに、国内外のまちづくり事業分析とビジネスモデル開発を推進。2008年より熊本市を皮切りに地方都市中心部における地区経営プログラムの全国展開を開始。平成22年には事業を通じた自立的な地域活性化を目指す全国各地のまちづくり会社、商店街とともに一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを発足。現在全国10都市以上での事業開発とノウハウの体系化による導入期間短縮など事業成果の拡大を推進している。


関連リンク

関連記事

おすすめ情報

注目のワード

人気記事MORE

  1. 1大丸有でつながる・ネイチャープログラム大丸有シゼンノコパン 春
  2. 2丸の内プラチナ大学・逆参勤交代コース特別シンポジウム 「能登半島の今と未来」
  3. 33×3Lab Future個人会員~2024年度(継続会員)募集のお知らせ~
  4. 4【山階鳥類研究所講演会】絶滅危惧種アホウドリの未来を守る!生物多様性保全の現場から緊急レポート!
  5. 5【大丸有シゼンノコパン】春のミツバチを「観る」~どこのどの花、キミは好きなの?~【まちの四季/朝活】
  6. 6丸の内ハニープロジェクト
  7. 7【大丸有シゼンノコパン】飛び集う虫や鳥を「視る」~飛んでくるにはワケがある~【まちの生きもの/親子向け】
  8. 8【レポート】「日本一長い地下通路」を巡る、大手町エリア地下散歩
  9. 9【レポート】地域住民と「よそ者」が共に取り組む持続可能な里海づくりとは
  10. 10【丸の内プラチナ大学】2023年度開講のご案内~第8期生募集中!~

シリーズ

過去のアーカイブ(2013年5月以前)