レポート

「災害を乗り越える都市・大丸有」に向けて 後編

― 過去の歴史をひもとき、これからのまちづくりにいかす
岡本哲志 法政大学サステイナビリティ研究教育機構 リサーチ・アドミニストレータ with 野城智也
by 田井中麻都佳

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岡本哲志

岡本哲志(おかもと・さとし)

1952年東京都生まれ。法政大学工学部建築学科卒業。博士(工学)。法政大学サステイナビリティ研究教育機構リサーチ・アドミニストレータ、同大学院デザイン工学研究科兼任講師 同エコ地域デザイン研究所兼担研究員。岡本哲志都市建築研究所代表。日本の港町研究会代表。著書に、『「丸の内」の歴史-丸の内スタイルの誕生とその変遷』(ランダムハウス講談社)、『港町のかたち その形成と変容』(法政大学出版局)、『銀座を歩く 江戸とモダンの歴史体験』『江戸東京の路地 身体感覚で探る場の魅力』『港町の近代 門司・小樽・横浜・函館を読む』(学芸出版社)、『銀座四百年 都市空間の歴史』(講談社選書メチエ)など多数。


野城智也(やしろ・ともなり)

東京大学生産技術研究所教授、所長/「大丸有 環境ビジョン研究会」座長。

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「災害を乗り越える都市・大丸有」に向けて 前編 ―3.11がもたらした教訓から都市の防災・減災を考える

岡本哲志氏に伺う防災・減災を考えたまちづくり。後編は、関東大震災からの復興の歴史を振り返りながら、これからの都市(大丸有)に求められる心構えと、災害に強いまちづくりを進めていくための知恵をお話しいただいた。

4. 想像力と先手こそ、都市を救う ― 三菱一号館の松杭と丸ビルの筋交いから学ぶ

ここまで3.11後の東北の現状からお話をお伺いしてきましたが、このお話をベースにしながら、大丸有に話を移したいと思います。首都圏では、直下型地震も懸念されていますが、歴史を遡って、関東大震災が都市にもたらしたものとは何だったのか、そこからいかに復興を遂げてきたのか、そして今後、いかにして災害に強いまちづくりをしていけばいいのか、お話をお聞かせください。

岡本: 関東大震災がもたらした最たるものは、「郊外化」でしょう。関東大震災前まで、郊外に延びる鉄道は、いわゆる産業鉄道です。都心のゴミや汚物を郊外の農村に運び、郊外からは砂利や食材を都心に運んでくるためのものだったのです。それが震災後に、既存の路線を生かして、"汚穢"の代わりに人間が郊外に運ばれるようになり、職住分離が進行していきます。確かに高度経済成長期までは郊外化はそれなりに意味があったのだと思いますが、結局はその後、ものすごい勢いでスプロール化が進み、今となっては職住分離の弊害が現出している気がします。今回の3.11で多数の帰宅困難者を出したことでもわかりますよね。

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そもそも、そのまちを愛していない人たちが、コストバランスだけでそのまちで商売をやっている、というのはよくないと思います。従来の銀座のように、本来ならそこで経営し、営業している旦那たちにこそ住んでほしい。つまり、そのまちを愛して、よりよくしていきたいと思っている人が住んでこそまちはよくなるし、災害時などいざというときの地域力は、住んでこそ、ではないでしょうか。

この視点からすると、大丸有でもそろそろ、職住接近を積極的に進めていく必要があるでしょうね。このまちは本来、職住一体となるはずでしたが、日露戦争後の戦勝景気を受けて、ビジネス一辺倒のまちになってしまった歴史があります。大丸有の姿勢でなんとか成立しているものの、世界中どこを見渡しても、夜中に住人が空っぽになってしまう環境で治安のいい都市なんてあり得ません。ようやくいま、三菱一号館の再生などを機に、大丸有もまちづくりの原点回帰をしつつあるように感じられますが、それは災害に備える意味でも重要な視点だといえます。

しかも、今すぐにでもとりかかるべきことだと思います。なぜこんなことを言うのかというと、大丸有は関東大震災を受けて災害に強いまちをつくったわけではないから。つまり、事前に手を打っていたからこそ、今日まで日本の中心たり得てきた歴史があります。

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明治27年頃の、旧三菱一号館(一号館美術館提供)

当初の三菱一号館が完成したのは1894(明治27)年ですが、その3年前には濃尾地震が発生していましたし、東北でも地震が頻発していたこともあって、それを対岸の火事とはせずに、一号館の設計に取り入れたんですね。その最たるものが、液状化対策でした。そもそも丸の内は入江を埋め立ててつくられた土地なので地盤が悪く、それを見越して、建物の周りの地盤に松杭をびっしりと打って、地盤が動かないように固定していたのです。これは一号館の再生のために地盤を掘削してみて、初めてわかったことです。

一方、丸ビルの場合は、関東大震災の前年の1922(大正11)年に、東京を襲ったマグニチュード6.8の地震によって、完成間近の建物が大きなダメージを負ってしまったという経験がありました。そこで急きょ、163ヵ所に筋交いを入れて補耐震補強をしたのです。そのため、翌年の関東大震災では建物本体に大きな被害を受けることがありませんでした。そこで、安全性を目の当たりにして、政治機能も経済機能も、すべてがこのまちに集中することになるのです。

つまり、何か起こってからやろうと思っては遅いんですね。大丸有の先進性は、土地の特性を踏まえつつ、ちゃんと先回りして手を打ち、その場所のもつ重要性、歴史性を継承してきた点にあります。しかも、エリア全体をローテーションで更新しつつ、時代に即して変化させてきました。これはもう、大丸有だからこそできたことだと思います。

野城: やはり、まちづくりにおいて必要なのは、イマジネーションなんでしょうね。戦後復興で日本は考える暇もなく開発を進めてきましたが、大丸有を見てみると、あれこれ考えた形跡が見られる。それを今一度掘り起こし、次世代に向けて検証しておく必要がある、ということですね。

岡本: 自分たちの住んでいるまちの歴史を知るということは、とても重要な視点だと思いますよ。なかでも、目に見えないことをどれだけがんばってきたか、ということを知ることが大切です。そのことによって、不測の事態の可能性を用意し、乗り切ることが可能になるのだと思います。

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