都市の緑が、防災に、循環型社会に、交流に効く
~官が分け与える公園から、住民参加型のハイブリッドな多機能緑地へ
横張真 東京大学大学院教授
野城智也 東京大学生産技術研究所教授
by ジャーナリスト 田井中麻都佳
横張真(よこはり・まこと)
1986年、東京大学大学院農学系研究科農業生物修士課程修了。同年、農林水産省農業環境技術研究所。1992年博士(農学)(東京大学)。筑波大学大学院システム情報工学研究科教授等を経て、2006年より現職。都市近郊の農地や里山、公園などの緑地空間の計画整備のあり方について、アジアの都市に特有の空間構成のあり方に着目しながら考察。また、都市の縮小・撤退や経済の停滞に伴い、都市近郊の形態と機能が大きく様変わりしつつあるなか、今後、農地や里山、公園等の緑地空間の保全整備をどうしたらいいのか、さまざまな事例を通じて考察している。
野城智也(やしろ・ともなり)
東京大学生産技術研究所教授、所長/「大丸有 環境ビジョン研究会」座長 1957年東京生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築科専攻博士課程修了(工学博士)。建設省建築研究所研究員、同住宅局住宅建設課係長、同建築研究所主任研究員、武蔵工業大学建築科助教授、東京大学大学院工学系研究科社会基盤工学助教授、同生産技術研究所助教授等を経て、現在、東京大学生産技術研究所教授、同所長。
5. 大丸有の公園緑地の果たす役割
―サステイナビリティとレジリエンス
野城: ところで、大丸有のような都心部の緑地はどうあるべきだとお考えですか?
横張: 大きく分けて二つの役割があると思います。
一つは、まちのサステイナビリティへの貢献です。つまり、ヒートアイランド現象対策として風の道やクールスポットの確保など、現在、まさに問題となっている省エネに貢献するための緑です。あわせて、実際に温度を下げるほどでなくても、都市の中にきめ細かく織り込まれた緑が果たす、心理的な効果についても忘れてはなりません。
野城: 下町の朝顔や風鈴にもそういう役割があったわけですね。
横張: まさに風鈴の音が涼を呼ぶといった江戸の知恵を、今日の都市にも生かしていくべきです。
野城: 確かに、さまざまな建築計画などを見るにつけ、定められた緑被率は守っていても、緑の質が低いと言わざるを得ないものも存在していますね。
横張: 一方、いわゆる東京の下町として有名な谷根千(谷中・根津・千駄木周辺)は住宅が密集し緑被率はものすごく低い。ところが実際にまちを歩くと、軒先に鉢が置いてあったり、垣根があったり、実に緑豊かに感じられる。ああいう発想が大事なんだと思います。
野城: 緑の質というのは、緑比率だけで測れないと。具体的には、どんな意識が必要だと思われますか?
横張: 「節約しない」というのが一つの考え方ではないでしょうか。節約しない、というのは我慢を強いるのではなく、もともと電気や空調をつけなくても楽しめるものにしておくという意味。節約というのは長続きはしませんし、楽しくないからです。むしろ、電気や空調を使うことのほうが快適ではない、というまちをどうつくるのかという視点です。ハードウエアだけの問題ではなくて、イベントを含めたソフトウエアが果たす役割も大きいと思います。
ちなみに、緑地というのは竣工時から時間を経て、どんどん変化していくものです。ですから、そこに時間軸をとり入れて、進行形で時間を読み込んでいけるようなデザインを施す必要がある。日本庭園など、まさにそうやってつくり込まれてきたものです。だからこそ、読み解く楽しみがある。まちや緑を読み解く楽しみというのは、知識と経験を積んだ年配者ならではの特権です。大人が集まる大丸有には、ピッタリではないでしょうか(笑)。
もう一つ、都心の緑の役割として重要なのが、レジリエンス=復元力。もともと緑というのは、状況に合せて変化していったとしても、復元力や回復力を備えたものですよね。そうした復元力というのは、今回の震災復興においても、非常に重要な視点だと思います。
今までの都市計画は、どちらかといえば二元論で進められてきた。オフィス街か住宅街か工場地帯かといった具合に、用途地域を決めるなど白黒つけてやってきたわけです。でもこれからのまちづくりでは、中間の部分、グラデーションの部分をもっと増やしていくべきなんじゃないかと思います。そのグレーの部分こそが、社会や自然の変化に対する揺り戻しをうまく吸収し、復元力へとつなげていくができるのではないかと考えています。さきほどの「農」やクラインガルテンというのも、まさにそういう役割を果たすものでしょう。
野城: これから都市の人口が縮退していくなかで、郊外の住宅地などは、徐々に空き地になっていくわけですね。そのときも、無理に宅地のまま維持しなくても、空地をその土地に有用なポケットパークに転用するとか。
横張: そういう柔軟な発想が必要でしょう。私がいる東大・柏キャンパスがある柏市では、昨年から「カシニワ情報バンク」制度というのを始めました。カシニワとは、「柏の庭」と「貸し庭」の二つの意味を込めたネーミングで、市が土地を貸したい所有者と、利用したい団体の仲人をするというもの。意外にも貸したいという人が多いのですが、市が間に入ることで、信頼して貸すことができるからでしょう。こうした、フレキシブルな土地利用のあり方が、今後ますます求められていくのではないかと思います。
一方で、就労のスタイルももっと多様でいい。朝、カシニワでキュウリを収穫してから、午後から都心に出勤するなど、大丸有のような都心で働く人に、新しいライフスタイルを先導してつくっていってほしいと思います。カシニワのモデルを、大丸有でつくり、体験した人々が住んでいるそれぞれの地域で本格的に始める、といったショーケース的な取り組みも十分考えられます 野城:丸の内朝大学でも、農業クラスはとても人気で、すぐに埋まってしまうそうです。それだけ潜在的なニーズがあるということでしょうね。都市における「農」の役割に、今後さらに注目していきたいと思います。
――本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
編集部から
東日本大震災で壊滅的な被害を受けた岩手県陸前高田の名勝「高田松原」で、350年前に防潮林として植えられた松のうち、1本だけが奇跡的に残ったという。この松をモチーフに、復興のためのシンボルマークがつくられた。多様な役割を担う都市の緑が、ときに人々を勇気づける役割も担うのだと気づかされました。





















