安島博幸(やすじま・ひろゆき)
1950年、東京都生まれ。東京工業大学工学部卒業。㈱ラック計画研究所、東京工業大学社会工学科助手、金沢工業大学建築学科教授などを経て、1995年、立教大学社会学部観光学科教授、1998年より立教大学観光学部教授に就任、現在に至る。工学博士。専門は、観光地、リゾートの基礎的な研究と地域計画の方法。研究分野は観光地・リゾート地域の形成発展過程、グリーンツーリズム、エコツーリズムなどの新しい観光による観光地計画、田園風景などを含む観光地景観など。日本観光研究学会、日本都市計画学会、日本建築学会等会員。
野城智也(やしろ・ともなり)
東京大学生産技術研究所教授、所長/「大丸有 環境ビジョン研究会」座長 1957年東京生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築科専攻博士課程修了(工学博士)。建設省建築研究所研究員、同住宅局住宅建設課係長、同建築研究所主任研究員、武蔵工業大学建築科助教授、東京大学大学院工学系研究科社会基盤工学助教授、同生産技術研究所助教授等を経て、現在、東京大学生産技術研究所教授、同所長。
政府の新成長戦略において「観光」が重要なテーマに位置づけられているように、環境、健康と並んで、観光は未来の都市において欠かせない要件の一つである。大丸有地区では、これまでも東京駅復元や三菱一号館美術館に代表されるような歴史的建造物の保存・再生・活用や、東京国際フォーラムを舞台としたクラシック音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ(熱狂の日)」、グラスファイバー製の牛にペイントを施したパブリックアート「カウパレード」(2003年、06年、08年に開催)、まちを華やかに彩るイルミネーション「東京ミレナリオ」(1999年?2005年)など、観光客を呼び込むためのさまざまな仕掛けやイベントを展開してきた。 出光美術館や三菱一号館美術館など、アートの拠点も増えた。今後はさらに、来街者だけでなく、まちに住み・働くさまざまなステークホルダーが、継続的に観光を通してまちにコミットし、楽しみ、そして誇りをもてるまちづくりを目指すべきだろう。
これからの都市観光に求められるのは何か―新しい都市観光の可能性を、ハード、ソフトの両面から探る。
1. 「日本一」「世界一」が重要な理由
―他の地域にはない"特異点"こそ、まちの観光資源に
野城: まず、都市と観光のかかわりについて、総論的なお話をお聞かせください。
都市の観光資源としては、建築や街並み、街路、ランドスケープ、集客施設、交通などに加え、そのまちに積み重ねられてきた歴史、人を呼び込むためのコンセプト、イベント、ガイド機能など、ハード/ソフト両面において、さまざまなものがありますね。
安島: そうですね。その前提として、近年、観光の捉え方というのが、大きく変わりつつあることを認識する必要があります。最近よく、「観光まちづくり」という言葉が使われるようになってきましたが、いまや観光地づくりとまちづくりはイコールと言えます。しかも、たとえば東京駅がそうであるように、観光のためにつくられたものが観光資源になる、というわけではありません。大丸有の場合も、何が観光資源の核かと言えば、この地が世界有数のビジネス街であるということに尽きるでしょう。日本の玄関口であり、皇居があり、日本の本社機能が集積している、そういう大丸有特有のまちの成り立ちが人々を惹きつけているのです。それこそがまちの価値であり、観光資源になるということ。つまり、都市観光を考えるうえで大切なのは、どういう見方でその都市を捉えるのか、どういう意味をそのまちに与えるのか、ということではないでしょうか。
野城: 大丸有にはビジネス街としての歴史はありますが、丸ビルや新丸ビルが建て替えられる以前は、休日になると、まるでエアポケットのように静かで、都心とは思えないほど閑散としていました。しかしここ十数年のまちづくりで大きく変貌を遂げました。
安島: レストランやショップなどの複合機能の充実により、働く人にとって魅力的なまちになりましたね。その変化が、働く人だけでなく、来街者にとっても魅力となっている。まさに観光まちづくりの成果だと思います。
ちなみに私は蔵造りの街並みで有名な川越市に長く住んでいるのですが、かつては、川越がこれほどの観光地になるとは夢にも思いませんでした。観光地となったきっかけは、1970年代に蔵造りの街並みの観光的価値が発見されたからです。現在では年間に何百万もの人が訪れるようになり、レストランやショップも増えました。それらが観光客を惹きつけるだけでなく、まちの住人の暮らしを豊かにしています。いまや川越は、埼玉県の住みたいまちランキングで1位を獲得するほどなんですよ。まさに観光まちづくりの成果と言えるでしょう。もっとも住民である私から言わせると、まだ道半ばではありますが。
野城: ただアメニティを高めればいい、というだけではなさそうですね。川越の蔵造りの街並みのように、そこにしかない個性があってこそ、ということでしょうか。
安島: そうです。観光というのは、そこにしかないものを、わざわざ時間とお金を使って見に行く、体験しに行くものなので、それだけの価値がなければ、人を惹きつけることはできません。わざわざ人が見にくる価値があるからこそ、住んでいる人の誇りや愛着を醸成することに繋がる。愛着があれば、住人がまちづくりに参加するようにもなる。よそからもってきた観光資源だけでは、瞬間的には耳目を集めても長続きはしません。長い時間をかけて積み上げてきたものを地域の人たちが磨いていくということが大切なんだと思います。
野城: 普段の日常では体験できないことができる、というのが観光の魅力の一つなんですね。
安島:そうです。普段とは違う体験をすると、旅の自慢話や土産話がしたくなる。土産話ができるかどうかというのは、そのまちの観光的な価値を決定づける重要なポイントと言えます。だからこそ、観光資源は「一番」でなくてはならない。世界一の高さを誇るスカイツリーとか、日本の玄関口といった具合に、何らかの側面で一番優れていなければ土産話にはならないからです。長い時間をかけてまちの価値を磨き上げるだけでなく、わざわざ時間をかけて人々が遠方から訪れるだけの価値のある優れたものを提示できるかどうか――。そこがブレてしまうと、観光まちづくりはうまくいかないと思います。




















