饗庭伸(あいば・しん)
1971年、兵庫県生まれ。早稲田大学理工学研究科博士後期課程を経て、2003年に早稲田大学より博士(工学)授与。1994年、川崎市役所総合計画課題専門調査員、98~2000年、早稲田大学理工学部建築学科助手(佐藤滋研究室)、00~05年、東京都立大学工学研究科建築学専攻助手(高見沢邦郎研究室)、05~07年、首都大学東京都市環境学部 建築都市コース研究員(助教)、07年から現職。専門は、都市計画、まちづくり、NPO、ワークショップ、中心市街地活性化、防災・復興まちづくりなど。都市の計画とデザイン、そのための市民参加手法、市民自治の制度、NPO等について研究を行っている。
4. ネットワークを創出し、紡ぎ出す手法とは?
― いかにして、ネットワークとリアルな場を創出するか
― 神田再生、「ゴカマチイエ」、「やぼろじ」と、饗庭先生がかかわられたプロジェクトをご紹介いただいたわけですが、そこでとくに印象に残ったのはどんなことですか?
神田で感じたのは、景気がよくなるとまたすぐに地主さんたちの気持ちがスクラップ&ビルドに戻ってしまうということでした。プロジェクトがスタートした2003年は、「2003年問題」と言われたように、東京に大規模なオフィスビルが多数竣工したことで、中小賃貸ビルの空室率の増加が懸念された年でした。従って、オーナーもリノベーションに積極的だったのですが、景気の回復とともに、ストックを生かそうという気運が下がってしまったように感じます。つまり、都心は景気の影響を大きく受けやすいので、パーマネントに活動するのは難しい。
一方で、国立の例は安定的なモデルといえます。谷保の地主さんのように、郊外には積極的な不動産開発をしなくてもいいという人がけっこういる。そして人口が減って空き地が増える中でも、その土地に住みたい人も多いし、使ってみたい人も多い。土地のポテンシャルはまだまだあります。そこでは、「やぼろじ」的アクションは非常に有効な試みではないでしょうか。やぼろじでガーデンパーティなどを催すと人がたくさん集まりますから、こうした空間は地域からも望まれているわけです。
かといって、五霞ほどの遠隔地になると、住みたい人は少なく、人通りも少ない。そのため見えないネットワークをうまく活用していかないと、その空間が幸せに使われなくなる恐れもある。ですから、食や子供たちとのアートといった、あまり顕在化していなかったネットワークを掘り起こしているのです。
― 見えないネットワークというのは、人脈だけでなく、歴史的な土地の記憶など、さまざまなものがあると思うのですが、都市と地域をより積極的に結ぶには、ほかにどんなものが有効でしょうか?
例えば、Yさんは神田の二つのビルのオーナーさんでもあります。その二つのビルと五霞の拠点をあわせた3つの不動産を、一体のものとして組み合わせて運営できないか検討しています。つまり、入居するテナントさんに対して、賃貸契約にプラスして、五霞を楽しむ権利をつけるということで、神田のビルを借りることと五霞を楽しむ権利を、一つのプロパティとして一体化してしまうのです。「別荘付きオフィス」は結構魅力的で、都心の不動産の付加価値になるのではないかと思います。
― 都市が地方の入り口になる、ということですね。
ええ。かつて、農村の人たちが稼ぐために都市に出るという、都市と農村の構図があったわけですよね。それを今度は、100年くらいの長い時間をかけて、都市から農村へという逆の流れをつくり出し、両者が共存していく方法を見出せたらと思っています。
例えば「東京R不動産」は新しい視点で風変わりな物件を取り上げてネットワーク化していますけれど、それにならって「ゼロ円不動産」のネットワークをつくることも面白いと思います。農村に限らずとくに地方には、値段がつかない、売るに売れない、貸すに貸せないという、お金にならない「ゼロ円不動産」がいくつも存在しているはず。しかしそういうものを欲するネットワークもあるし、五霞での取り組みは、実際にそうした物件を扱うヒントになるかもしれません。いくらゼロ円で住めたとしても、不便で寂しかったら、継続して人を呼び寄せることはできませんので、そこにいることが寂しくないように、都市とのネットワークを空間に仕込んでおくということなんです。
― Yさんの場合は、豊かなネットワークをおもちだったわけですが、ネットワークが乏しい人はどうすればいいのでしょうか?
どんな人でもネットワークはゼロではないでしょうし、ここ最近、例えば地方から出てきた農家の息子娘たちのネットワークである「小せがれネットワーク」のような新しいつながりが生まれつつあります。あるいは、出身地や本籍地とか、自分のルーツからネットワークをつなげていくこともできると思います。もちろん、ネットワークを結びつけるキーマンが必要なことも確かで、人と人とがうまくマッチするかどうかを見極めることは重要ですね。
そういった意味では、ワークショップは一つの有効な手段でしょう。神田で五霞のワークショップを開いた時は、意外にも、人の話を聴いたり、議論したり、そんな場にかかわりたい人が多いことを実感しました。やはり、なんとなく人が集まれるような、ゆるやかな場がある、ということが重要なのかもしれません。
そういう場は、大丸有にあってもいいですね。もっとも、オフィスビルが林立する大丸有では、セキュリティなどクリアすべき問題が多々あるでしょう。しかし、オフィスビルだって24時間100%でフル稼働するなんてあり得ないので、稼働していない空間をシェアすることでいくらでも場所を捻出することはできる。飲食店にしても、例えば朝5時くらいからお茶を出すとか、深夜2時くらいに定食やとびきり美味しいシチューを出す場所にして、そこを人間関係の結節点にすれば何かが変わるのではないでしょうか。
都市の成長が終わり、不動産が余り始め、「ストック活用の時代」に入ったといわれて久しいですが、その具体的な方法論や実践はまだまだ未開拓の領域です。その問題については、民間の取り組みがすでに多くあり、建物を再生して新たな息吹を吹き込むような素晴らしい取り組みも多くあります。しかし、民間企業に任せてしまうと、不動産としてもう一度市場で流通できるような状態にするということが目的となり、多額の投資とリターンを求めざるをえなくなります。そうなると、市場が解決できる不動産は限られてきてしまいます。私は大学に籍を置いていますので、市場では解けないような問題を解いていこうと考えています。
本来不動産は多様な価値を持っていると思いますが、市場が不動産に求める価値はそれほど多くないので、市場に出る時には色々な価値を切り捨て、「価格」という一元的な価値を持たせることになります。そのほうが流通しやすいからですね。しかし、市場で流通させることを目指さなければ、不動産の持つ多様な価値を保持したまま、その不動産の可能性をのばすことが出来ます。
私が二つのプロジェクトで実践していることは、「価格」をなるべく顕在化させず、不動産の持つ多様な価値を多様なまま顕在化させ、その新しい使い手と使い方を掘り起こすということになります。私たちの試みが、問題意識をもつ人たちの一助になれば嬉しいですね。
― 本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
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編集部から
今回の取材を通して、改めてネットワークと場について考えさせられた。ソーシャルネットワークでいくら友人を増やしても、リアルに活動し、顔を合せる場がなければ寂しい。職場やサークル活動以外に、ネットワークやリアルな場をつくり出すのは難しいと感じていたが、饗庭氏の取り組みのように、見えないネットワークを掘り起こし、路地や屋上、空き屋、庭など、都市の半公共的な空間を、ちょっとした知恵と工夫で読み変えることにより、リアルな活動の場として再生できるということを知り、驚きとともに共感しました。





















