東京産の食材がブームだ。有名シェフが料理に採りいれ、伝統の「江戸東京野菜」の栽培も復活している。そのきっかけの一つが大丸有にあった。丸の内でレストランを経営するシェフの三國清三さんが、東京の地産地消を訴えたことが人々を動かした。「農家を支えたい」という彼の思いが、大丸有のまちが持つ情報と人の交差点という特徴と結びついて、行政や農家、そして料理界を巻き込んだ。ユニークなことが常に始まるこのまちで、都市と農業と食の新しい関係が生まれようとしている。
1. 注目の食材「江戸東京野菜」
フランス料理シェフ三國清三さん
◆「mikuni MARUNOUCHI」発の新しい流れ
しいたけは「東村山産」。水菜は「練馬産」―。見慣れない産地が記されている。これは「mikuni MARUNOUCHI」のある日のメニューの一部だ。ときには食材を作った生産農家が写真入りで紹介されることもある。
「採りたてだから鮮度が違うね」。こう話すのは、経営者でもあるフランス料理界の第一人者の三國清三シェフだ。訪れた人は花に囲まれたこの店で、美濃焼の皿に盛られた東京産の食材を使った料理を楽しめる。野菜は強く快い匂いを発散させており、おいしく、鮮やかな色彩も印象的だ。「食材の力を感じてほしい」と三國さんはいう。
昨年9月にオープンしたこの店のコンセプトは、新鮮な食材を使った「ナチュラル フレンチ」だ。そこでメニューに「東京産の食材」を取り入れた。三國さんの知名度、そして発信力に、メディアや料理界が反応した。東京産野菜を使って「地産地消」をPRするレストランが増え、今ではまとまった量を調達するのが困難になるほどだ。
シェフと東京の農家の「お見合い会」
「とうきょう特産食材使用店」のマーク
大丸有地区は、日本でもっとも人気のある優れたシェフが店を構える場所だ。その有名シェフらは服部幸應さん(学校法人服部学園理事長)を会長に「丸の内シェフズクラブ」を組織している。三國さんと服部さんの呼びかけで、東京の意欲的な農家が、シェフたちに食材を提供し、みんなで食べながら交流を深める「お見合い会」も2010年の夏に開かれた。
関心の高まりに行政も応え、料理界との連携を始めた。2010年、東京都は初めて東京産の食材を使った料理コンテストを開いた。プロの料理人から一般人までを対象にしたもので、11月時点で応募は93件があり、12月4日に最終コンテストを行った。審査委員長は服部幸應さんだ。また、これに先立つ7月に東京都は、東京産の農林水産物を積極的に使う飲食店の登録制度を始め、9月には99店の「とうきょう特産食材」を使う店を登録した。
丸の内シェフズクラブ
お見合い会
とうきょう特産食材
◆食材コンテスト、登録店制度..."追い風"受け東京都が動く
東京都農林水産部の平野直彦食料安全課長
東京都はこれまでの農業支援の取り組みで、料理界との提携はなかった。「せっかく"追い風"が吹いてきたと思います。多くの皆さんに協力をお願いしながら、これをとらえて東京の地産地消を進めたいです」と、東京都農林水産部の平野直彦食料安全課長は狙いを語る。東京都はこの「風」を利用して、意欲的な農業振興策を打ち出した。食べることを通じて味覚を育て農業を学ぶ、都産の農林水産物の給食への導入に対する支援拡大や、安心安全な農作物の栽培技術指導も今まで以上に取り組んでいる。「新鮮さやおいしさ、安全性に優れる東京産食材のブランド力が高まってほしい。そして農業を応援する人のつながりを広げたい」(平野課長)という願いからだ。
都が期待するのは、このブームを契機にして東京の農業の価値を都民に考えてもらうことだ。「エコへの関心が高まっていますが、農地とのかかわりが、それを考えるきっかけになるのではないでしょうか」。農地は緑の景観の提供や癒しなど、まちにさまざまな良い影響を与える。その空間は防災の避難所に、災害時には食料の保存所の役割も果たす。農業の「見えない価値」は、都市生活で忘れられがちなものばかりだ。「東京の農業には多くの問題があり、このブームでも問題をすべて解決することは難しいでしょう。しかし東京の農業が都民の皆さんにより身近になって利益も生めば、良い方向に動くはずです」。
農業を支える人のつながりを育てるため、平野課長が期待するのがまちと農家の連携だ。東京西部の多摩地区では、地元の住宅街や商店街と農家の連携はこれまで行われてきた。今回のブームは巨大な消費地である都心から始まっている。「興味深い動きです。生産者を大消費地である都心、そして大丸有地区が支えるというのは都市農業にとって心強い支えです。この動きに行政も加わりながら、東京の農業の発展に貢献したいですね」。平野課長はブームの広がりに期待する。





















