3. 「行動の意義」を示し、人を動かす
?金融業による低炭素社会の支援へ
「CO2を削減すればお得」と意味付け
「カーボンニュートラル」が提案された時に、社内には反対意見もあったという。環境保全について異論があったわけではなく、コストの面からの疑問だ。最終的には排出権を買ってオフセットをする計画だが「そのためにはコストがかかる」「国内では先例のない取組みで大丈夫なのか」という懸念もあった。これらはどの会社でも出てくる意見かもしれない。提案した経営企画部はコスト削減効果を強調して社内での議論を繰り返し、最終的には経営トップの「やってみよう」という決断でカーボンニュートラル宣言が実行された。
08年7月から始まった取り組みは1年半以上経ち、社内に定着しつつある。「社員へのアンケートでは、92%の人が『宣言』の前と比べて環境意識が高まったと答えています。『有給を取りやすくなった』『エコチェックは負担ではない』と肯定的な意見が多いです」と同社経営企画部の冨田亜紀子さんは説明する。
「環境意識の高まりの中で、環境に役立ちたいと、社員の多くは考えていたようです。私たちの経験から考えてみると、適切に仕組みを作れば、どんな会社でも働く人はエコ活動に動きだすと思います」と嶋田さんは分析する。
日本興亜損保は自社のビジネス、そしてステークホルダーとの協力でエコ活動を社会に広げることを検討している。自動車保険にカーボンオフセットを取り入れた。顧客が保険の約款をウェブ上で確認すれば、紙を使わず省資源になる。それを選んだ契約1件につき50円を同社が負担することでオフセットを行う。また自動車事故の発生後の修理で、廃棄物の少ないリサイクル部品を活用した修理を選択した場合にも同額のオフセットを行う。その件数は08年9月の開始から09年9月までで18万件を超えた。この1月からは火災保険の一部でエコアクションポイントを進呈する仕組みもスタートさせている。
また自動車の発進のアクセルを緩やかにするなど、ガソリンを必要以上に使わない「エコ安全ドライブ」の普及に力を入れている。契約企業などに呼び掛け、6か月間の使用状況を競う「エコ安全ドライブコンテスト」を行っている。
エコ活動を前向きの取り組みに変える
日本では企業の環境保護活動への頑張りが、ビジネス上の成果としてなかなか現れない。「当社の環境活動に注目して、保険が選ばれるという状況ではありません。ですが営業成績のためにエコ活動をやっているわけではないので、切り離して考えています」(本社営業2部の阪中さん)という。
しかし自社のエコ活動が将来的には利益にも、社会貢献にもつながると同社は考えている。「CO2の大幅削減は社会の変革をもたらします。そこにはリスクが生まれるわけで、それを支えることが保険会社の役割です。そこで『見せかけのエコ活動をしている』と当社が批判されてはいけません。CO2の削減と環境負荷の少ないグリーンな働き方は、自社の利益にもつながっていくでしょう」と経営企画部の嶋田さんは期待する。
同社の取り組みは、なぜ成果をあげているのだろうか。CO2の削減だけを社員に命じるのではなく、複数の意味付けを行ったことが一因だろう。命令だけでは、人が動くとは限らない。組織の姿、そして働く人々の意識の変化が、CO2の上乗せ削減に必要になる。
同社は自らのCO2排出量の見える化を行った上で「20%のCO2削減をすれば30億円の経費が減らせる」と社内を説得した。また無駄を省くことは、効率化やワークライフバランス(仕事と生活のバランスを取る働き方)にもつながる。削減活動に複数の意味をもたせたために、社員が削減することに意義を見つけたのだろう。しかも「負担を感じない」と現場の人が思う形でCO2削減活動が定着するように、「エコチェッカー」など人間関係に役立つ仕組みも作った。動機づけと工夫が相互に影響した。
日本興亜損保の取り組みから、やがて来る「グリーンワークスタイル」の実現には、人々の心を動かす取り組みが必要になることが分かる。この働き方は工夫次第では、「負担」に注目する後ろ向きの取り組みとはならないだろう。効率性やコスト減、そしてビジネスの利益と結びつく前向きの姿となりそうだ。
* 前回記事:
実践する企業の現場1・コクヨ 「働きたくなるエコ」を実現―空間デザインで省CO2実現
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取材協力: 日本興亜損害保険株式会社 (新しいウィンドウが開きます)
ISHII's EYE今回の取材を終えて、編集記者からのヒトコト
皆さんは、自分の吐き出すCO2がどれくらいになるか知っていますか。日本人が呼吸で吐き出すCO2は年間130キロ程度だそうです。09年にCO2の排出権価格は1トン当たり15ユーロ前後で推移していたことから考えると、私たちの吐く息は年約280円分の負担を地球に与えます。息がお金で換算されると不思議な感じを抱くかもしれませんが、別の視点からこの物事を考える情報になりませんか。努力を始めても続かないのが人間の性分です。「お金への換算」とCO2削減を結びつけ、働く人の「環境を守りたい」という心に訴えた日本興亜損保の工夫は組織を動かしました。「環境を守る」という善意は物事を動かす前提になります。それが人間の利益に結びつくと、より効果を発揮します。この事実を、この取材で改めて認識しました。
環境ジャーナリスト石井孝明(新しいウィンドウが開きます)





















