小林重敬(こばやし・しげのり)
東京都市大学教授(工学博士)、NPO法人大丸有エリアマネジメント協会理事長。横浜国立大学大学院教授、日本女子大学講師、学習院大学講師、規制改革委員会参与、参議院国土交通委員会客員研究員などを歴任。エリアマネジメントを中心に大都市と地方の中心市街地の再生、活性化活動などに取り組み、ほぼ四半紀にわたり大丸有のまちづくりに携わっている。著書に、『エリアマネジメント』『条例による総合的まちづくり』『都市計画はどう変わるか』(以上、学芸出版社)など。東京都出身。
http://toshiseikatsu-gakubu.jp/pro/kobayashi.html
鎌田秀一(かまた・しゅういち)
国土交通省 都市・地域整備局都市計画課企画専門官。宮崎市都市整備部長、国土交通省都市・地域整備局街路課課長補佐、都市再生推進室課長補佐、新潟市都市整備局長などを経て現職に。「低炭素都市づくりガイドライン」の作成に携わり、国内外で低炭素都市づくりの普及に努めている。東京都出身。
http://www.mlit.go.jp/crd/city_plan/teitanso.html
小松俊昭(こまつ・としあき)
金沢工業大学研究支援機構 産学連携室コーディネーター、合同会社「家守公室」代表。日本開発銀行ならびに日本政策投資銀行でロス勤務、地方開発部、交通・生活部、北陸支店勤務などを歴任した後、金沢工業大学へ出向。2006年に日本政策投資銀行を退職して現職に。地域の歴史や文化に根付いた、地域資源を生かす「地域資源活用型産学連携」プロジェクトの実現を目指して、さまざまな活動を展開している。大丸有「都市の食」ビジョン検討会座長。埼玉県出身。
http://www.llc-yamori.jp/index.html
(この鼎談は、2011年3月8日(火)に実施したものです)
大丸有エリアでは近年、エコッツェリアを母体として、丸の内朝大学や打ち水プロジェクト等、さまざまな環境活動ごとに魅力的なコミュニティが誕生し、活動が進化している。また、このエリアをみんなが気持ちよく働くことができ、訪れた人に愛着を持ってもらえる地域にすることを目指すNPO法人大丸有エリアマネジメント協会(リガーレ)の活動も盛んだ。一方、国土交通省は昨年8月に「低炭素都市づくりガイドライン」を公表し、CO2の排出量が少ない低炭素都市の実現に向けて地方自治体が取り組むべき施策を具体的に示した。その柱となっているのが都市のコンパクト化とエネルギーの効率的な利用、緑化の推進だ。この考え方と手法は、大丸有が目指す「1000年先まで持続可能なまちづくり」につながるものであり、その実現にはインフラの整備はもちろんのこと、「新しい公共」の担い手として期待されるエリアマネジメント団体やNPO、地域プロデューサーなどの力を生かしてコミュニティを発展させていくことが必要だ。新たな都市コミュニティのかたちについて、低炭素型まちづくりの視点から語ってもらった。
1. ガイドラインで都市マスなど自治体計画を低炭素型に
都市をもっと低炭素なものへと転換していくには、国や地方自治体の政策をまちづくりの現場に落とし込む「仕掛け」が必要となる。国土交通省の「低炭素都市づくりガイドライン」は、都市の低炭素化を自治体レベルで実現するための仕掛けとして期待されている。
「低炭素都市づくりガイドライン」(以下「ガイドライン」)を策定した主なねらいはどこにあるのでしょうか。
国土交通省
「低炭素都市づくりガイドライン」
○目的
・低炭素都市づくりに関する基本的な考え方や対策効果の把握に必要な方法論、数値情報などを示して、地方自治体の取り組みを支援する。対象温室効果ガスはCO2。
○ポイント
・CO2排出量の削減に役立つ都市づくりについて、(1)交通・都市構造、(2)エネルギー、(3)みどりの各分野でハード・ソフト両面の幅広い施策を、分野ごとに整理して提示。
・PDCAサイクルによる低炭素都市づくり推進に活用できる。
<集約型都市のイメージ図>

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鎌田: 多くの人が生活し働く都市では、さまざまな活動が集約的かつ複合的に展開されているため、大量のエネルギーが消費されます。これに伴い地球温暖化の主な要因であるCO2が大量に排出され、その量は家庭部門とオフィスなどの業務部門、運輸部門を合わせると日本全体における排出量の約半分を占めています。CO2排出量を削減するためにはハイブリッドカーやエコ住宅などの単体対策も効果的ですが、公共交通の利用や都市構造の転換、省エネルギー化や再生可能エネルギーの導入、緑化の推進など、低炭素都市づくりのための取り組みをハード・ソフトの両面で総合的に進めていくことが重要です。
これらの取り組みを都市ごとに進めるため、都道府県と指定都市、中核市、特例市には地球温暖化対策推進法に基づき「新実行計画」を策定することが義務づけられましたが、地方自治体が都市の低炭素化に取り組む際に、CO2の排出量や吸収量の現況を都市ごとに把握したり、施策の効果を定量的かつ客観的に評価したりする明確な指標はありませんでした。このため、低炭素都市づくりに関する基本的な考え方と具体的な対策の進め方、対策効果の把握に必要な方法論や数値情報などの考え方を示すことで、自治体による取り組みを支援するための技術的助言として、3編から成るガイドラインをまとめたのです。
低炭素都市づくりガイドライン
自治体としてはどのような場面でガイドラインを活用すればよいのでしょうか。
鎌田: 都市の将来像の検討から個別施策の実施に至るすべての段階で、低炭素都市づくりを図っていただくことが、このガイドラインの狙いです。都市計画マスタープラン(都市マス)の改定にあたって低炭素都市づくりを総合的に検討する時や、都市・地域総合交通戦略等の計画策定や都市交通施設の整備、再開発事業などの促進にあたり低炭素化への配慮を行う場合に活用していただきたい。また、新実行計画を策定する時に具体的な施策を検討する際や、対策の効果分析を行う際にも役立ちます。たとえば、愛知県の安城市では本ガイドラインの素案を活用して、先導的都市環境形成計画を昨年策定しました。都市マスを「低炭素」の観点から補完する試みです。
安城市「先導的都市環境形成計画」
小林さんは都市計画の専門家としてガイドラインをどのように評価されていますか。
小林: 今回のガイドラインは「低炭素化」という新しいテーマについて、都市マスをはじめとした自治体の施策に影響を及ぼしうる内容もさることながら、さまざまな分野の技術力を地域でどのように活用すれば低炭素型の都市づくりができるかについて、数値でわかりやすく表現している点が画期的だと思います。国はこれまでも自治体の施策を支援するためにさまざまな技術的な指針などを公表してきましたが、数値で表せるような具体的なものはなかったのではないでしょうか。日本では環境など新たな社会的ニーズを行政が施策に反映するのに時間がかかる傾向がありますが、こういう具体的な数値目標をもったガイドラインは説得力があって、施策づくりのツールとして有効ですね。
小松さんはいろいろな自治体で地域づくりに取り組んでいます。ガイドラインを生かせそうなケースがあるのでは。
安城市「先導的都市環境形成計画」
○目的
・市街地整備などの具体的な都市づくりが起こる際の指針や誘導ツールとして、また、都市計画マスタープランを「低炭素」の観点から補完する計画として活用する。
○ポイント
・面的な都市づくりの機会を捉えて、地球温暖化対策を促すための方針を示す。
・CO2排出量と削減効果を地区別に推計する。
・都市部門の温暖化に関する計画として、新実行計画などの全体計画との連携や整合を図る。
小松: 私は、香川県の地域政策アドバイザーをしています。香川県は面積でいうと日本で一番小さい県ですが、瀬戸内海を含めると非常に広いエリアで、豊かな自然環境に恵まれた地域です。そこで、「瀬戸内」という範囲での新しい暮らし方に着目して、高松と直島、小豆島などの島々との連携による地域への滞在型観光や移住などの政策を展開していく上で、どのような生業がありうるかなどをテーマに、県や地元のNPOを交えて話し合いを続けています。すでに島の価値に魅力を感じて移住を決めた若い人たちもいて喜ばしい半面、かれらが描くライフスタイルをいかに実現し、先住の方々との間を取り持っていくかが大きな課題です。それに対し、このガイドラインは自治体にとっての道しるべとなり、市民力を全体として高いレベルへ引き上げるツールになると思います。
香川県 瀬戸内IJUトラベルネット
一方、熊本県は自動車大手のホンダと協力して、さまざまな再生可能エネルギーを活用してスマートグリッドを構築する「スマート・コミュニティ」という環境都市づくりを目指しています。また、健康をキーワードに付加価値を生み出す「健康サービス」の振興にも力を入れていて、熊本市内の旧植木町では健康増進施設を中核として商店街を巻き込んだ「健康マイレージ事業」という地域通貨の仕組みが構築されています。この推進主体は「株式会社くまもと健康支援研究所」が担っており、代表取締役の松尾洋さんは熊本大学大学院医学薬学研究部で学んだ若者で、経済産業省がこのプロジェクトを支援しています。県は現在、これら2つの動きを連携させようとしていますので、ガイドラインをうまくあてはめることができるのではないかと思います。
株式会社くまもと健康支援研究所
このガイドラインは国際的にも注目されているそうですね。
鎌田: 2011年の2月にアメリカのワシントンDCで行われた、世界銀行の都市担当官が集まる持続可能な都市づくりに関する会議に出席して、ガイドラインの講演をしてきました。開発途上国で低炭素都市づくりを進めていく上で、ガイドラインの考え方・推計手法はシンプルでわかりやすいので広めてほしいという要請に応えたものです。さらに、日本と韓国との間で毎年開催されている都市計画の会議でも、ガイドラインに関する質問が出ました。
一方、民間では、技術系企業の集まりであるアーバンインフラテクノロジー推進会議や、(財)エンジニアリング振興協会が、本ガイドラインの対策メニューに応える技術的な資料などを公表しています。
アーバンインフラテクノロジー推進会議(UIT) 低炭素都市づくり情報コーナー
(財)エンジニアリング振興協会 低炭素ソリューションメニュー






















