福田洋(ふくだ・ひろし)
順天堂大学 医学部 総合診療科 准教授(医学博士)
1968年生まれ。1993年山形大学医学部卒業後、順天堂大学大学院医学研究科(公衆衛生学)博士課程修了。専門は予防医学。都内企業の産業医、健診医、内科医の三角形の業務を通じて、働きざかり世代に有効で感謝される予防医療の確立を目指している。多職種産業保健スタッフの研究会「さんぽ会」の事務局長。働きざかり世代のさまざまな健康課題について継続して議論・共有し、職域ヘルスプロモーションの取組みなどについて国際学会等に発信している。
藤野純一(ふじの・じゅんいち)
国立環境研究所地球環境研究センター 温暖化対策評価研究室 主任研究員(工学博士)
1972年生まれ、大阪育ち。2000年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(電気工学)。同年4月より国立環境研究所入所。日本やアジアを対象とした低炭素社会シナリオ研究に従事。国の委員会にも参加しながら、日本の温室効果ガス排出量削減の中長期ロードマップ作成、環境未来都市構想に携わる。主著書に「低炭素社会に向けた12の方策」。地球環境と家庭環境の両立が永久の悩み。
オフィスで働く人々が、心地よく活動できる「まち」とはどんな空間だろうか。
環境問題への取り組みと、仕事の仕方とが調和し、つながりあい、心地よく連携していく「まち」の形は、いかなるものか。「大丸有」地域を舞台に新しいワークスペースの可能性について考える。
1. 人の健康と環境問題はセットで考える
「大丸有」では壁面緑化、屋上緑化、街路樹の整備など、緑化を一つの軸にしてまちづくりを進めてきました。しかし、エリアの「環境」が改善しても、そこに集う人たちが健康でいきいきと仕事や活動できなければ、意味がありません。そこで今回は、人も環境も「持続可能」になるにはどうしたら良いか。どのようなワークスペース、ワークスタイルを「大丸有」に生み出していけば良いのかについて、お二人の対話の中から可能性を探っていきます。
藤野: 今、私が取り組んでいる仕事は、日本やアジアの国・地域を対象にした、持続可能な低炭素社会のシナリオをつくること、またそれを実現する手法の研究です。それもあって海外出張も少なくないのですが、そこで感じるのは、国は違っても大都市というのはある意味似通っていて画一的だということ。ホテルならどこも四角い部屋で空調が効いていて、すべてが人工的に管理されている。
福田: 酔っぱらってそのまま寝てしまったら、風邪をひいてしまいますよね。
藤野: そうなんです。この前、タイのホテルでそれをやってしまい(笑)、帰国してもなかなか治らない。メリハリなく仕事を続けている自分自身のワークスタイルも問題だし、精神や身体がゆるんでいくタイミングが見つからない現代の都市生活のスタイルも問題だなと。もう少し都市空間の中に「ゆるむ」場所があるといいなと思うんです。
福田: たしかに、都市で働く人たちは、ゆるむ場所も時間もなかなか得られないですよね。
藤野: 日本は戦後の経済成長の中で、効率やスピードを追い求めるばかりに、人と人とのつながりを欠いた、バラバラな社会をつくってしまった。東京はその最たる場所と言えるかもしれません。
福田: 今、諸外国との比較からは、日本の健康課題は「3S」が重要と考えています。「3S」とは、スイサイド=自殺(メンタルヘルス不全)、スモーキング=高い喫煙率、そしてシニアシチズン=高齢化の3つです。これに加えてメタボ・生活習慣病も重要な課題です。OECD諸国では日本は最も痩せている国ですが、日本人は欧米人に比べ少しの肥満でも糖尿病等になりやすい。
実はこれらの課題はすべて「環境」と関係がある。いずれも、一つの病として治療を施せば解決するというものではありません。健康問題の根底にある働く環境・暮らす環境から問い直されなければ解決できない。その意味で、医学と環境の問題は別個に扱うことができないテーマなんですよね。ですから、異分野の専門家同士が意見交換をすることが、ますます大切になってきていると思います。

エコッツェリアのCO2の部屋の椅子(日本人一人が1日に排出するCO2と同じ重さ)
藤野: そう、縦割りの専門分化したやり方は限界にきています。その分野の専門家だけが狭い範囲で考えていてはなかなか解決策が見い出せない。その点は、環境問題も同じです。
たとえば、「CO2の削減」。現在、日本は一人当たり年間10tのCO2を排出しています。アメリカは20t、フランス7?8t、中国4?5t、インド1tです。日本は国全体の排出量を2025年に25%、50年に80%削減するという目標を掲げた。ということは、2050年には日本では10tから2tにしなければならないわけです。私が参加している中央環境審議会地球環境部会中長期ロードマップ小委員会で、その目標に向かってロードマップづくりを進めていますが、そこではCO2削減のために「原子力発電を増やす」ことを前提にして議論が進むわけです。
福田: なるほど。CO2の削減には火力発電から原発へシフトすればいいと。
藤野: そうです。CO2の排出量を削減するだけでいいのなら原子力発電をどんどん増やせばいいし、「炭素隔離貯留」というCO2を地中や海に埋める方法をとればいい。でも、そんな単純な技術中心の発想でいいのでしょうか。もろちん現実問題として原子力発電は必要ですし、炭素隔離貯留はCO2というゴミを処理する技術として優れてはいますが。
福田: そもそも、低炭素社会の実現とは「何のために」やっているのか、考える必要がありますよね。
チャレンジ25キャンペーン | 低炭素社会ってどんな社会?
藤野: 私は「命」のためだと思います。2010年11月に小学校の修学旅行以来広島市に行ったこともあり、「世界の平和」のためだと再認識しました。いくら広島で平和を唱えても10tの生活を続けていたら資源の奪い合いはなくなりません。そしたら、広島大学の疫学の先生から「健康」も入れてよ、と言われました。理想だけではめしは食えない。自律した個人の健康な生活が世界の平和(=社会の健康)の礎になる。つまり、人々の健康とまちや自然環境の健康とが組み合わさってはじめて「命」を大事にした社会を実現できるのではないか。持続可能な社会のために私たちはどうアプローチしていくべきなのか。大切なのは、ベーシックなところからあるべき社会についてみんなで議論し、デザインをし、それを実現していくことですよね。そのためには、異分野の専門家たちの知恵を結集することが必要です。
福田: 都市デザインと環境技術とを組み合わせていけば、より良いまちづくりやライフスタイル、ワークスタイルを生み出すことができますよね。
今、低炭素社会の実現と「命」に関するお話を聞いていて、私が医学を志したきっかけを思い出しました。私の場合、1972年に発表されたローマクラブの「成長の限界」に出会ったことが、医学部を目指した動機だったんです。「成長の限界」は、地球と資源には限りがあり、このまま人口増加や環境汚染が続けば地球は限界に達すると指摘し、世界中に衝撃を与えましたよね。
医師として「個人の命を救う」ことはもちろん大事ですが、さらに広く社会にある多数の「命」に対して医学でどう貢献していけるのかに関心を持ちました。そういうわけで今、自分と異なる分野、環境の専門家・藤野さんと対談できることを、率直に嬉しく思います。ようやく、もともとの関心、目標と自分の仕事がつながってきたかなと感じます。





















