大手町、丸の内、有楽町地区では街作りを担う大丸有協議会が「緑や生き物でにぎわうまち」を生み出すという目標を掲げて緑化を進めている。どのような方向にその取り組みは進むべきだろうか。造園家としてさまざまな街作りにかかわり、緑と人間の関係に鋭い洞察と提言を続ける涌井雅之氏に聞いた。
涌井雅之(わくい・まさゆき)
1945年鎌倉市生まれ。東京農業大学中退。2000年から桐蔭横浜大学特任教授。大学在学中から造園家として活動し、多摩田園都市などの街づくり、ハウステンボス、全日空万座ビーチホテルなどの都市開発や、農村・水源の活性化などを手がける。2005年開催の「愛・地球博」では会場演出総合プロデューサーを務めた。「景観十年、風景百年、風土千年」と唱え、自然との共生や、日本の風土に根差した開発への提言を続ける。
2. 都市の緑は「つなぎ手」になる ―役割ごとに緑を使い分ける
―都市緑化が以前にも増して注目されている。街の美化など、その効用に期待をするためだ。造園家 涌井氏が考える、都市緑化の意味とは。
建築家やデザイナーが街作りを主導すると、緑を「お化粧道具」のように美化装置として使う傾向があります。それは効用の一面にすぎません。都市の緑は、大きくまとめれば、「調整」「供給」「文化・精神」という3つのサービスを人間に提供します。
「調整」とは、植物が水や空気を浄化し、蓄えるなどの役割です。「供給」とは、水と酸素を提供することです。植物の持つ保水能力と光合成によるものです。さらに、「文化・精神」の面では、人間は緑に触れてそれを愛でることで、精神的な癒しを得ます。人類はかつて樹上生活をしていましたから、緑が安らぎを与えるのも当然です。高度・高密化した近代都市は、一方で刺激的であると同時に、片方で多大なストレスを生み、情動を不安定にしがちです。文明的な人間以前の生物的人間の側面がおかしくなります。
街作りでは、「文化・精神面」のサービスが活用できます。「緑はつなぎ手」と私は主張しています。自然と人間がつながる、人がつながる、世代と世代がつながるというように、緑の存在はコミュニケーションを多様化する実に有効な手段となるのです。
―大丸有地区では、屋上緑化や庭園整備*1 など、緑を街中に増やすさまざまな取り組みを行っている。運営・管理のために、涌井氏はアイデアを提供した。
人間が緑と実際に触れ合う程度によって、向き合い方を変えてはどうでしょうか。活用の意味だけではなく、「あるだけ」の緑があってもいいと思います。生態系サービスを提供する、いわば「都市の里山」があるといいですね。その典型が皇居の巨大な緑の塊ですよ。
三菱一号館と手前の英国式庭園
屋上など人があまり入らないところは、管理は粗放でいいでしょう。生物はしたたかですから、しばらくすると自律的に競争関係から共存の関係を作り出します。鎮守の森を空から見るとどれも丸い球体になっています。あれもそれぞれの植物が光の配分と、林内への風の吹込みを防ぐ為に、相互に自己調整をし、形が整えられた姿です。
人と直接触れ合う緑は「ハード」と「ソフト」の利用に分けて考えるべきです。ハードな利用とは、都市問題の解決に積極的に緑を活用するものです。ヒートアイランドや騒音の緩和に貢献できるでしょう。ソフトな利用とは広場や歩道など、人々が触れ合う空間に、季節感や楽しさに溢れた緑を演出するものです。コミュニケーションを媒介し、緑に触れる人々が自ら作り出す多くの「物語」が埋め込まれていくでしょう。ここでは快適さ、美しさという修景を重視して、精一杯手を加えた緑とします。幸い、街路樹や街路の快適なデザインなど、大丸有地区のソフトな取り組みは充実しています。これをさらに広げてほしいと思います。
*1 大丸有地区での屋上緑化、庭園開設の取り組み
大丸有地区では大丸有協議会と、この地域に多くのビルを所有する三菱地所を中心に、屋上緑化の取り組みを進めている。同協議会は建築、施設会社に呼び掛けて、「屋上緑化アイデア提案競技」を開催。その大賞を獲得したアイデアを基に、08年度に新東京ビル(丸の内)、新有楽町ビルの2つのビルで緑化を行った。さらに同協議会は、07年度からは環境省による「クールシティ中枢街区パイロット事業」に参加している。
また三菱地所は2010年に三菱一号館美術館を開設する。そこに隣接した丸の内パークビルの敷地に、都市緑化の場として英国式庭園を作った。多種多様な草花、木を配置して池を作った。さらにドライミスト設備などを設けることで、夏場の快適性にも配慮した。またパークビルでは、壁面緑化も行っている。美術館と庭園の一体化した空間を作り、訪れる人の心をなごませている。




















