大手町、丸の内、有楽町地区では街作りを担う大丸有協議会が「緑や生き物でにぎわうまち」を生み出すという目標を掲げて緑化を進めている。どのような方向にその取り組みは進むべきだろうか。造園家としてさまざまな街作りにかかわり、緑と人間の関係に鋭い洞察と提言を続ける涌井雅之氏に聞いた。
涌井雅之(わくい・まさゆき)
1945年鎌倉市生まれ。東京農業大学中退。2000年から桐蔭横浜大学特任教授。大学在学中から造園家として活動し、多摩田園都市などの街づくり、ハウステンボス、全日空万座ビーチホテルなどの都市開発や、農村・水源の活性化などを手がける。2005年開催の「愛・地球博」では会場演出総合プロデューサーを務めた。「景観十年、風景百年、風土千年」と唱え、自然との共生や、日本の風土に根差した開発への提言を続ける。
4. 都市間競争で生きる伝統の知恵 ―注目される「共生」の思想
―緑と都市の関係を強める動きは世界規模で広がっている。民間の自発的な参加で、街作りが行われてきた大丸有地区も、民間と行政が手を結んで「緑のネットワーク」*2 という街作りのコンセプトを打ち出している。
シンガポールの国家公園公団の総裁と3年前に話して興味深いことを聞きました。この国はこれまで「ガーデンシティ」(庭園都市)とのスローガンを掲げて街作りを行ってきましたが、「シティー・イン・ザ・ガーデン」(庭の中の街)とその方向を変えたそうです。緑を劇場的演出として「利用する」という発想から、緑と国創りの「共生」という方向に切り替えたのです。都市間競争が世界規模で行われる中で、敏感な同国政府が緑の意味に一段と注目したのでしょう。
日本国内、そして東京の中でも街の競争は起こっています。経営者が「どこにオフィスを設けるか」と選ぶ場合、当然街を見て、選択をするのではないでしょうか。
大丸有地区にはユニークな点があります。エリアの地権者やビルオーナー、民間企業が行政と連携しながら街作りを行っている点です。建物を建てたり、一街区だけを開発したりする企業はありますが、街の整備は行政に任せるところが多いのです。この地区は働く人の意思を街に反映して、まちを創り上げ、その価値を上げようとしています。都市の緑はそこで過ごす人と密接にかかわる存在なのですから、そうした人々の意見を集め、関係を深めることで、新しい利用方法が生み出されていくはずです。
―民活の利用、自然との共生は日本人が伝統的に行ってきたことであると、涌井氏は振り返った。
西洋は城壁によって都市と自然を区分しました。城壁の内側には文明の装置を入れ、自然を城壁の外に置きました。「ガーデン」という英単語の語源は、楽園(エデン)を囲う(ガル)というヘブライ語です。つまり自然は人が管理するものでした。ところが日本の都市に城壁はありません。これを私は「入れ子の構図」と呼んでいます。「入れ子」とは外箱の中に、何層も同じ形の箱が入るものです。これと同じように都市と自然が何層にも混然となっているのです。
例えば、江戸は最盛期、町人地でヘクタール当たりの居住人口が約850人でした。現代の東京は100人程度ですから、大変な過密都市です。これが可能になったのは、都市に緑があったからです。大名庭園や寺社の緑、さらに農地や「野辺」と呼ばれる空き地があって、市街の緑地は60%以上でした。この緑が人々を精神的に救ったのでしょう。都市住民の排泄物やゴミが、市内や周辺の農地の肥料となってリサイクルされる仕組みがあり、循環型社会ができていました。
欧米の都市は近代までペストやコレラなどの10万人以上が死ぬ疫病の流行を何度も経験しています。ところが江戸で10万人以上の死者が出た災害は「振袖火事」(明暦の大火・1657年)以外にはありません。緑が担う疾病予防機能と排泄物の循環利用が、有効に働いたのでしょう。「公」が緑を担保せずとも、「民」が緑を自発的に提供していたのです。
先人の英知の中に、これからの都市緑化のさまざまなヒントが隠れています。私は21世紀の街作りでは、「生態環境都市」を目指すべきと私は考えています。都市は宿命的に自然と対立してしまう存在です。しかし積極的に都市緑化を行えば、都市と自然の共生を図り、やがては生態系サービスが恒常的に存在する都市になっていくのです。
*2 「緑のネットワーク」構想
東京都、千代田区、JR東日本、大丸有協議会は2000年に「まちづくりガイドライン」を公表し、08年までに2回改訂した。その中で「緑のネットワーク」という構想を打ち出した。大手町、丸の内、有楽町地区の各通り沿いの街路樹、公開空地を整備して、連続的、一体的にこの地区の緑を増やすことを、エリアの地権者が努めることを決めた。そうした緑地を、皇居や日比谷公園と連携させ、街全体に緑の広がりを持たせる構想だ。
また大丸有協議会は07年に『未来へつなぐ まちづくり 大丸有環境ビジョン』を発表した。そこでは1000年たっても続く街を目指し「自然とのつながりを大切にし、緑や生きものでにぎわうまち」「世界へ、いい波紋を広げるまち」との目標を掲げた。こうした都市緑化の拡大によって、ヒートアイランドの緩和、人々の心地よさなど、緑によるさまざまなメリットが大丸有地区に提供されている。





















