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【大丸有】攻めないつもりが攻めているCSR? コニカミノルタの「出前授業」

大丸有企業のCSR、CSV (6)

出前授業の様子(写真提供:コニカミノルタ)

教育分野の異彩CSR

CSRの世界で「教育」はすっかりスタンダードのひとつ。企業の活動を活かした体験教室や出前授業。社外のCSR活動と教育をリンクさせるケース。ESDを挙げるまでもなく、CSR、CSV、社会貢献活動に「教育」は欠かせません。

今回は、そんなすっかり馴染んだ教育分野でのCSRで、ひときわ異彩を放つコニカミノルタの取り組みをご紹介。やっていることは中学・高校への出前授業ですが、新入社員全員が取り組むという類のないCSR事業。しかも半年をかけて準備し、学校へのヒアリングもしたうえで実施するという徹底した設計、高い成果を上げる社会貢献活動でありながら、社の発展も視野に入れているバランス感覚など、その実態は非常にユニークなもの。2012年にスタートし、同年の教育CSR大賞「出前実験授業」部門で受賞、2013年には同大賞、を受賞するなど、数々の受賞歴もあるこの取り組み。いったいどんな成果を上げているのか、同社CSR推進グループの松﨑倫明氏と、2015年度に入社し、出前授業を実施した米田あい氏、村井まどか氏に成果や手応えなどを聞きました。

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新入社員が自分たちで決めて実行するプロジェクト形式

新入社員が自分たちで決めて実行するプロジェクト形式

出前授業の様子(写真提供:コニカミノルタ)

同社の出前授業は中高生が対象。メイン事業の複合機を題材にしたコピー機の仕組みを、静電気を利用して学ぶ理科の授業と、新入社員が自身のキャリア選択を基に生徒にメッセージを送るキャリア教育の2つのパートからなります。

松﨑氏授業を行う新入社員のチームの代表者も事前に学校を訪れ、授業を受けるクラスのレベルや生徒の様子、先生の要望をヒアリングし、「個々の要望に応じたオーダーメイドの授業を用意する」と松﨑氏は説明しています。

コピーの原理を学ぶ理科の授業では実験を2回行うが「必ず1回は失敗させること」がお題になっているのだとか。「1回失敗することで気付きを得ることができる。通常のカリキュラムでは、わざと失敗させる時間を割くことは難しいため、先生方からは好評」(松﨑氏)。この「コピーの原理を学ぶ」「2回実験で1回は失敗」そして「キャリア教育」の3つのみが、新入社員へ提示されるオーダーとなります。逆に言えば、詳細は決まっていないため、授業の進め方、時間配分等も自分たちで一から決めなければなりません。さらに言えば、「"理科離れ"という課題解決、先生・生徒に喜んでもらうという大きな目標はあるが、授業の成果、目的をどこに置くかも、自分たちで決めてもらう」という徹底ぶりです。

「言ってみれば、新人が自分たちだけでプロジェクトに取り組むということ。PDCAの回し方、工数管理、スケジュール管理もすべて自分たちで行う」と松﨑氏。もちろん業務として認められているため就業時間内に行うことも、残業で行うことも可能ですが、通常業務もおろそかにしてはならず、上司への報告・連絡・相談を含め、所属部署に迷惑をかけないように行うことが求められています。

"教える"ことの苦労と気付き

米田氏2015年度の新入社員で、10~11月にかけて出前授業を行った米田氏、村井氏に、実際に授業に取り組んだうえでの苦労や成果などを聞きました。

米田氏のチームは、日野・八王子の技術職が8名、丸の内の事務職が2名。「さまざまなバックグラウンドを持つ人が、全員で1つのものを作りあげて、社会貢献をしたい」という思いが一致していたため、チーム名は「パッション」に。東京市部の中学2年生のクラスが対象で、目標は「理科の楽しさを知ってもらうこと」と決めたそう。

村井氏のチーム名は「チロルチョコ」。同社の事業規模を「金額で伝えても想像しにくいだろうから、"チロルチョコ何個分"で表そう」というアイデアが最初にあったため、この名前になった。出前先は区内の高校。「シンプルに、授業後のアンケートで感想が100%"楽しかった"と答えてもらえること」を目標にしました。

村井氏苦労したことを問うと、両者に共通していたのは「職場も職種も違うメンバーがいつ、どうやって打ち合わせするか」という点。リアルで会うだけでなく、ウェブ会議なども取り入れ、それぞれのチームで工夫して調整したそうです。また、村井氏のチームは「楽しんでもらうこと」というテーマのために、今時の高校生がどんなことに興味を持つのかなどツボを押さえるのが、「年は近いとは言え苦労した」と話しています。

その一方、多くの気付きもあります。米田氏は「理系・文系の得意不得意が見えた」ことが大きな気付きでした。分担していた資料作成が間に合わず、理系のチームメイトに振り替えたら「アイデア出しは開発に近い理系のほうが得意で、それを資料にまとめ、伝える方法は文系のほうが得意」だと気付いたそう。村井氏は「社会人になって"ありがとう"と言われることがうれしい」という率直な感想とともに「学生たちに会社について語ることが誇らしい」とも語っていました。

「外部」を「内在化」する

出前授業での成果は、生徒、先生方へのアンケートによって行われ、2015年、中高合わせて8校・約750名の生徒の99%が「楽しかった」と答えており、非常に高い満足度が得られています。そして、こうした成果は、「社員の業務評価には直接的にはつながらない」と松﨑氏。「何よりも社会課題解決への貢献が第一。そのうえで長い目で見た人材育成につながれば」。米田氏、村井氏に聞くと出前授業の経験がその後の業務に役立っていることも多いのだとか。中でも「事務系と技術系の社員たちが仲良くなれたこと、チームワークが生まれたことが大きい」。

大きな企業になるほど、同期のつながりは希薄になりがちで、たまにある「●年目研修」で会うくらいしかないのが普通です。しかし、半年過ごしたチームの仲間とは、その後もずっと繋がり続けます。その後チーム内のメンバー同士が社内結婚したケースもあるそうで、社内のチームワーク、結束が強まることは「企業としてのパワーにもなり、新しい事業を生み出す力になる」と松﨑氏は期待しています。また「数年続けていることで、先輩社員と新入社員の間で尋ねたりアドバイスするような縦の交流も生まれ」ているそうで、社内のコミュニケーション増加にもつながっています。その他、社内の多様な人材が交流する土壌を作ることにもつながっており、企業のダイバーシティを醸成にも寄与しているようにも思われます。

しかし、「最初からそれ(社内へ与える効果、影響)を第一に考えていたら、たぶんうまくいかなかっただろう」と松﨑氏は分析しています。「あくまでも理科離れという社会課題を第一に考えて取り組むからこそ、結果がついてきたのではないか」。松﨑氏は出前授業を思いついた流れを「アウトサイド・イン」だと説明していますが、外的な目標を構造的に内部化することこそが攻めのCSRの本質であるとするならば、出前授業は結果的ではあれ、極めて攻めのCSR的だと言えるのかもしれません。

授業の幅を広げたい

2012年に始まったばかりで、まだまだ「ブラッシュアップしなければならないことも多い段階」としつつも、もし可能なら「新入社員だけではなく、有志を募った新しい出前授業もやってみたい」と松﨑氏は思い描いています。「コピーとは別の技術をテーマにした授業や、外国籍の社員も多いので、英語での出前授業が出来たら面白い」。

2016年度の出前授業は、現在受付中(5月31日締め切り)。


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