イベント丸の内プラチナ大学・レポート

【レポート】ヨソモノは、終わらない。

丸の内プラチナ大学 ヨソモノ街おこしコース DAY8(10月26日開催)

終わりとは次の始まりである......とは言うものの、最後なのにこれからさらにヒートアップするのではないかという熱気――10月26日に開催された丸の内プラチナ大学ヨソモノコースのDAY 8は、最終回にも関わらず、まさにこれから!と思わせる、そんな熱気に包まれて終わりを迎えました。

これまで鹿児島県徳之島・伊仙町の「離島モデル」、岩手県八幡平市の「高原リゾートモデル」、神奈川県三浦市の「近郊モデル」と3つのモデルケースをインプットし、それぞれの自治体に向けて、ヨソモノが関わる地方創生プランを案出してきましたが、最終回となる今回は、さらにそのアイデアを加速させ、「私たち」がいかに地方創生に関わるのかを討議。アイデアだけではなく、アクションを具体的に想起させる内容となりました。

前半はインプットトーク。キリン(株)の執行役員から早期退職で長崎国際大学へ転職した栗原邦夫氏。氏からは実践を通して得られたヨソモノによる地方創生へのアプローチの秘訣を語ってもらいます。また、スペシャルゲストとして、前地方創生大臣の石破茂衆議院議員が登場。ヨソモノへの期待を語りました。

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「第二の人生」の実践例

「第二の人生」の実践例

2013年、キリンCSV推進部長時代にエコッツェリア協会でインタビューを受けている栗原氏

栗原氏は、新卒入社から34年勤めたキリン(株)を2015年に早期退職し、長崎国際大学に転職、第二の人生を歩み始めました。東日本大震災の折には対策本部事務局長からCSV本部CSV推進部長を務め、復興支援に注力。「3.11もきっかけのひとつ」だったそうですが、「退職後の自分の姿を思い描いたときに、死が訪れるまでの余命をどう過ごしたいのかと考えたこと」が転職を考える大きな転機になったそうです。

栗原氏氏は東京生まれの東京育ち。慶應義塾大学野球部で活躍し、「就職試験前日の立教戦でホームランを打ったおかげで第一志望のキリンに就職できた」そう。生来田舎への憧れが強く、就職後は地方勤務を熱望し、大阪、茨城、福岡、長崎と各地を転々としてきました。

転機となったのは初めて東京本社勤務となった47歳。母の入院付き添い時の空き時間を使って、「日経新聞の『私の履歴書』のような履歴書をノートに書いたこと」と栗原氏。 「セカンドキャリアというよりは、セカンドライフとして、退職後の人生を考えるようになり、"野球で助けられた人生だから、スポーツを通じて子どもたちのお役にたてるよう恩返しをしたい"と思うようになった」

そして定めたターゲットが学校。長崎支社勤務時代のネットワークを活用し、転職先を模索。48歳時に「九州移住計画」をスタートさせ、福岡市内に自宅を購入。その後「教育費の負担解消となる末っ子の就職内定と同時に」転職活動をし、採用決定→退職→転職となりました。

長崎を選んだ理由は、長崎支社長、九州統括本部長時代を含め在九州が11年になること、「田畑山川の自然ばかりでなく文化があり、人が優しく温かい」などと説明がありました。

ヨソモノの秘訣

現在は、大学の野球部創部に立ち会ったこともあり、地域連携室勤務とともに野球部コーチも務めています。「スポーツを通じて恩返ししたい」を実現している真っ最中。そして、自らの経験を通して得られたセカンドライフ実践のヒントを次のように提示します。
・履歴書を書いて人生を振り返ること ......たまに読み直し、志を確認するのも大切
・有言実行
......周囲のみんなに話すことで実現につながる
・経済的不安は解消していくこと
......子ども全員が就職し負担が減ってからが実行のチャンス
・デュアルライフ(二地域居住)の事前体験
......本当に実行し始めるのは難しい。トライアル的に事前に体験しておくとコツが分かる

そして、地方での移住を考えている同世代の人へのメッセージとして、「地域を大好きになること」「経済的不安を無くす早期生活設計が必要」「肩書や名誉にこだわらない」「地域の一員であることを自覚すること」といったポイントを解説しました。これまでの講義でも登場した、ヨソモノ実践者の言葉を想起させる鋭い指摘です。そして最後に「自分の人生は自分で創る、そんな気持ちで臨んでほしい」と締めくくりました。

トークの後は会場からの質問。改めて「ヨソモノの心得は?」との問いには「自慢話は嫌われる。地元の人を好きになることが大事。ヨソモノは『(自分のことを)早く分かって欲しい』と思っちゃうけど、それを熱く語ってはダメ。興味を持ってもらえるように時間をかけて振る舞うこと」とアドバイス。キリン時代に九州でさまざまなネットワークを築いていたことから、移住後には「おかえり」と言われたというエピソードが、「すばらしいこと」と松田氏から紹介されました。

松田氏は、栗原氏のトークを受けて、「ここから得られる示唆」として①「早めで綿密な準備」、②「地域はプロジェクトマネジャー不足」、③「地域拠点として学校の可能性」、④「年賀状に書きたくなるセカンドライフ」という4点を受講生に提示しました。

地方が日本を救う

続いて登場した石破元地方創生大臣は、現在の地方の課題を日本全体の視点から捉え返し、地方創生の意義を改めて浮き彫りにするとともに、ヨソモノが果たすべき役割と期待を語りました。それは実に高密度かつ情熱に溢れた演説でした。

まず、石破氏は日本の人口の未来予測に触れ、人口減にともない「いずれこの国はなくなってしまう」という、国として実に切迫した状況であることを訴えます。そして「田中内閣の『日本列島改造論』、大平内閣の『田園都市構想』、竹下内閣の『ふるさと創生事業』を例に挙げるまでもなく、歴代で地方活性化に言及しない内閣はなかったが、現在の地方創生が違うのは、これを失敗したら本当に国が潰れる可能性があるということ」と石破氏。「これまでは、できたらいいね、くらいだった。誰も失敗しても国が潰れるなんて思わなかった。しかし、今度は失敗したら後がない」。背景には、特殊出生率の高い地方から極度に低い東京への人口流入が止まらないという状況もあります。

これを解消するために国では地方での雇用創出を促進していますが、「これまでと同じ手法は採れない」と石破氏は話しています。これまでと同じ手法とは「公共事業と企業誘致」。ダムや橋や道路を作る事業はすでに行き渡り、国庫は欠乏。大量生産大量消費志向の生産を国内で展開することはもうできない。ではどうするのか。

それは「農業、林業、漁業」。「防衛の石破とイメージがあるが、私はもともと農林水産が専門。よく考えてみましょう。日本ほど、農業、漁業、林業に向いている国が世界のどこにありますか」と石破氏は言います。国土面積の7割が森林で、国土と排他的経済水域を合わせるとその面積は世界6位。四季があり、火山灰土を中心に狭いながらも豊かな土壌を持つ国土。にも関わらず「農業、漁業、林業が衰退しているのはなぜなんでしょうね?」と石破氏は会場へ呼びかけます。

次の世代に、国を残すために

「私が言いたいのは、地方の持っている潜在力をもっと引き出しましょうよ、そういうことなんです」と石破氏。「考えてみると本気でなんとかしようとしている地方はあっただろうか。地方は衰退してもしょうがない。そう思っている人もいっぱいいる。でもそれじゃダメなんだよと、上から目線ではなく、一緒にやろうと呼びかけてくれる人が必要なのじゃないか」。この辺にヨソモノ活躍の場所がありそうです。

そして「日本の国会議員ではおそらく初めて」ワシントンのCCRCを視察した経験も踏まえ、「海外でできていて、日本でできないなんてことがあるはずがない。どんな職種でも、日本のサラリーマンが、仕事で得たスキルを地方で活かす仕組みは作れないのか、そんな発想はないのか」と投げかけつつ、例として挙げたのが、各都道府県、市町村に「エコノミストがいない」ということ。「北海道の経済、と一言で言っても、中には179市町村があり、産業構造や経済状況も千差万別のはずなのに、きちんとエコノミストの視点で議論し、どの産業を伸ばそう、ということをやっている自治体はひとつもない」そう。

そして最後に、今後の地方自治体のありかたについては、これまでは高度経済成長の時代にのっていたものの、「これまでの50年は、過去の遺産で食ってきたのではないか、次の時代に課題を先送りにしてしまったのではないか」と問いかけます。「私はこの自由で平和で、豊かな国をきちんと次の世代に残したい。今は政府が、自治体がなんでもやってくれる時代ではなくなった。本当に市民一人ひとりが、自分に何ができるかを考えて取り組まなければならないのだと思う。ぜひみなさんには、ビジネスをやっている人から見てこの国が、自治体がどうなのかをしっかりと見て、考えてほしい」。

法制化された地方創生

この後、会場の受講生からの質問に丁寧に答え、質疑タイムを終えたあと、石破氏は受講生たちと記念撮影し会場を後にしましたが、松田氏は、担当大臣として地方創生を支える「まち・ひと・しごと創生法」を制定したことが「石破さんのすごいところ」と指摘。「法制化されれば大臣が変わっても政権が変わっても一過性の政策ではなく、継続される政策となる。石破さんがあんなに細かな数字を挙げて、熱く語るのも、それだけ地方創生に思い入れがあり本気だということの証」。と語りました。

ワクワクこそが地方創生の要

そして後半のワークショップへ。テーブルごとにテーマが伊仙町、八幡平市、三浦市に別れており、1ラウンド目は「今日の気付き」、2ラウンド目は「どうすればその自治体が良くなるのか」、3ラウンド目は「もっと良くするには、加速するためには」というテーマでショートディスカッションを行いました。今回のディスカッションの、裏のテーマは「IからWeへ」。これまでのビジネスプランは個人の思いを形にしたものでしたが、今回のワークでは、ゆるやかに同じ方向性を向いた"チーム"で自治体への思い、取り組みを語り合います。同じ指向性を持ったビジネスマンが語り合うと、ある意味で非常に話が速い。次々とアイデアがアクセラレートされ、具体的なプランから施策までが飛び出していました。

最後のシェアでは、自治体別の細かな施策は多々ありましたが、共通して提案されていたのが「プロジェクトマネジャー(PM)」への言及です。伊仙町では教育PMチームの設立、八幡平市ならPM機能を持ったサテライトオフィスヴィレッジセンターといったもの。

また、発表者のほとんどが「いつ」「どのようにして」現地へ行き、活動をスタートさせるかといった具体的な思惑を持っていたことも特徴的であったように思います。どの自治体においても「提案だけしてそれで終わり」なのではなく、むしろ「俺が・私が行ってなんとかする」という強い主体意識を感じさせる内容です。発表が進むに連れ、受講生みなの目が輝き、頬が上気していきましたが、それは決して比喩的な表現ではありません。

松田氏は発表を受けて、本当の最後の総括として、「このヨソモノ街おこしとは何だったのか?というまとめ」を語り締めくくります。

「まずはワクワク感。地方創生はワクワクしてこそ成功する。また、プロジェクトマネジャーが今ほど求められている時代はない。そこにこそヨソモノの活躍の余地があるだろう。そして、大切なのは、"化学反応"ということ。地方からの呼びかけに都会が応えるのも化学反応だし、受講者同士のアイデアとアイデアの掛け合わせ、この人とあの人の人柄の組み合わせという掛け算も良い化学反応を起こすことになる」

そして、そうした今後の動きを促進するためには広域連携が必要であることを説きました。そして、本コースDAY2で訴求した「『ビジョン』『プロセス』『プロジェクト』の重要性としてワクワクするビジョンを共有し、官民連携のプロセスづくりを進め、具体的な場所でのプロジェクトを三位一体で回していくことが大事」と改めて語り締めくくりました。

始まる、プラチナ

そして恒例の、そして最後の懇親会へ。この日も各地からの産物が寄せられました。 乾杯から懇親会の様子を見ていると、「これからどうする?」という未来志向の会話が大半を占めており、とても"最終回"とは思えない雰囲気で驚かされました。受講生の数人に感想を聞くと、「仕事とは別のボランティア活動の一環として」「仕事の一部として」「移住に備えて」と、その立ち入り方はさまざまですが、誰もが「この地域でこれをしたい、こう関わりたい」という力強いコメントばかり。かなり具体的に活動プランを持っている人もいれば、自治体との折衝をスタートしたいという人もいます。第1期の講座は終わりを迎え、受講生たちは今まさに次のステージへ向かって飛び立つところなのです。

また、丸の内プラチナ大学に対する期待にもさまざまなものがありました。例えば「もっとたくさんの自治体を集めてほしい」というもの。松田氏は「次の講座のテーマに取り上げてほしいと頼んできている自治体がたくさんある」と話しています。また、「このまま1期生が別れ別れになるのはもったいない、継続的なネットワーキングと活動をしていきたい。『続けること』、『広げること』、『深めること』が大切」と語りました。ヨソモノコースから巣立った受講生たちの活動基盤も今後注目されます。

行政イノベーションの可能性

森氏この日、三菱総研の常務研究理事・森義博氏が参加しており、懇親会でマイクを向けられると「誰一人受け身でなく、自発的に活動しようとしている様子を見ました」とコメントし、「ここからの動きが、小さなうねりであっても、積み重なることで大きな動きへと広がっていくという手応えを感じた。ぜひこれからも意欲的に取り組んでいただきたい」と期待を語ります。また、取材に応えて、参加を希望する自治体が増えていることに触れ「プラチナ大学が、自治体の変わるきっかけになるのでは」と話し、「行政側に民間のイノベーションプロセスを共有し実行に移す仕組みが少ない。これができればブレイクするのではないか」と、「行政イノベーション」の可能性にも言及しました。

関氏また、この日、テーマになった自治体のうち八幡平市から関貴之氏が参加しています。コースが始まったころには「東京のビジネスマンとのコネクションが見つかれば」という程度の目標であったところ、改めて聞くと「可能ならば提案されたビジネスプランを実行に移したい」と期待が高まっている様子。12月に市長プレゼンするのもその施策のひとつだそうです。「市役所職員や市民のみなさんに、東京には地方に関心とアイデアを持った人達がいるんだと、丸の内プラチナ大学について知ってもらい。そして、今回いただいたアイデアを受け取って終わりにせず、継続してみなさんとお付き合いし、実現に努めるのは我々の義務だと思う」と話しています。
「せっかくここで繋がったご縁、1回だけの関係でなく、他の市町村とも広域連携など新たな関係を築きたい」とさらなる活動拡大に意欲を見せています。

「プラチナカンパニー」設立へ

講師の松田氏はヨソモノコース第1期の活動を終えて、その手応えを「予想以上」と話しています。また、「教えるばかりでなく、たくさんのことを教えられた」と福沢諭吉の言葉「半学半教」を引き「まさに学び合い、教え合い、刺激し合うさまざまな人たちの化学反応が起きたのが今回のヨソモノコースだったのではないか」と語りました。

「丸の内プラチナ」の企画がはじまり2年が経っていますが、今ここに来て、ようやく本当に実効力のある"何か"が立ち上がろうとしています。この動きはヨソモノコースばかりではなく、他のすべてのコースでも同様です。こうした動きがうねりとなって、大きな力になっていく、そんな期待に彩られた最終回となったのでした。


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