8月31日、協力イベント「丸の内みらい経営塾」が開催されました。主宰はヒューマン・フロンティア・フォーラム(HFF)。HFFは異業種・他領域のフロンティアで活躍する人材を対象に、合宿形式で徹底討論し、現代日本の"最前線"にある課題を浮き彫りにすることを目的とするもので、そのスピンアウト企画である「みらい経営塾」では、議論で浮かび上がった課題を深掘りし、あるいは一般に向けて投げかけることで課題解決の裾野を広げようとするものです。
今回はテーマを「事業拡大と社員の豊かさについて考える」とし、ゲストに株式会社 一休 カスタマーサービス部 部長の植村弘子氏を迎え、事業のあり方を探りました。
前半は、植村氏から一休の事業紹介に続いて、同社が「事業規模拡大」した点にクローズアップ。モデレーターの田口氏(エコッツェリア協会)とともに、「事業領域の拡大」「社員の増加」によって得たもの、失ったものが何だったのかを語ってもらいました。
それによると、「20名から200名への人員拡大」の中で「ベンチャー精神がなくなり安定志向の社員が増えた」と植村氏。また、「仕事をする人、しない人の差が大きくなった」というネガティブな面がある一方で、「多様な人材が増えて、さまざまな得意分野が揃って"横に広がった"感がある」とも話しています。植村氏はベンチャー時代からの社員なので、現状の課題感としては「社員の間で、ベンチャーとそうでない感覚のギャップをどうするのか」という点があり、「人事部長として、どう考え、舵を取るか、切実な問題」であると話しました。
会場内でのテーブルトークで「事業拡大のメリット・デメリット」を語り合った後、後半のパネルディスカッションへ。
パネルディスカッションには、植村氏とともに、HFFを主宰するクリロン化成株式会社の代表取締役社長・栗原清一氏、同じくHFFで中心的役割を果たす神戸大学教授の石川雅紀氏が登壇した。
栗原氏は、同社が「社員ひとりひとりの工夫から付加価値を創造する」ことを社是に掲げていることを紹介。そして、「社会には、価値を創造する"社会分業"と、企業の中で、仕事を分け合う"企業内分業"がある」とし、現代社会の課題が、企業内分業が進みすぎたがゆえに、企業が持つべき社会的価値である社会分業の側面が忘れ去られていることに起因していると指摘。その解決には「企業が社会に開かれていなければならない」と話し、同社のヒット商品である防臭袋「BOS(ボス)」の販路開拓が、社員である"お母さん"たちの口コミによって成し遂げられた例を紹介しました。そして、「働くとは、"一生懸命"ではなく、"真剣に"働くべきであると思う。一生懸命とは、手段の中で働く方法であり、真剣とは、目的に照らし、その達成のために手段を考えて働くことではないか」と会場に投げかけました。
石川教授は、学生とともに取り組むゴミの減量化を目指すNPO活動「ごみじゃぱん」の活動を展開しています。この日は、その組織の変化について話し、「組織活動」と「社員」のバランスについて考察しています。
同NPO活動は、ゼミ内で行っているために「1年ごと半分、2年で全員が入れ替わる、企業では決してありえない組織」。ダイエーの70店舗が、ゴミ減量のための「減装ショッピング」に協力してくれている成功事例を示し、「周囲からは学生だけの取り組みから、本格的に行うステージに移行すべき」とアドバイスされていることを明かしました。しかし、「理由は分からないが、人員が変わっているにも関わらず、組織と活動内容は、年を追うごとにレベルアップしてきている」というのです。「狙って設計したわけではないので極めて不思議だが、文化系の学生ゼミにはすごい力があることが分かる。なぜこうなったのか、要因を抽出してモデル化できれば」と期待を語りました。
植村氏も交えたクロストークでは、同社の人事や組織体制についても言及し、働き方と企業のあり方について、さまざまな議論が交わされました。しかし、モデレーターの田口氏が言うように、「この議論に"正解"はない」のです。植村氏は、最後に「人事部長として、何かしなければ、なんとかしなければという焦りが強かったが、今日の議論を聞いて、もっと笑顔を大事に、周囲とコミュニケーションを取りながら進めたい」と感想を述べて終了となりました。
みらい経営塾は、解答や解決が提示される場ではありません。むしろ、疑問や課題="考えるタネ"を受け取って持ち帰るための場なのです。参加者は、植村氏のトークをはじめ、栗原氏、石川氏の言葉から刺激を受けていたようでした。