イベント特別イベント・レポート

【レポート】丸の内ヘルスケアラボ 最終報告会

ヘルスケア分野の“オープンイノベーション”具体化

3月2日の第1回計測会の様子

健康は誰のものか

6月22日、3×3Laboで「丸の内ヘルスケアラボ」の最終報告会が開催されました。 丸の内ヘルスケアラボは今年3月から4月にかけて行われた「オフィス」と「ヘルスケア」をテーマにした実証実験。ヘルスケア商材を持つ企業が3×3Laboをオフィスに見立て、さまざまな角度から各社商材とヘルスケアビジネスの可能性を探ることを目的に実施されたもので、約10社が参画しています。

今回の実証実験では、以下の3プロジェクトが実施されました。
■「パーソナルウォーキングプログラム」
■「丸の内健康倶楽部」
■「心拍/脈波計測によるオフィスワーカーの疲労度の見える化」(疲労計測)
(実施概要はこちら
報告会では、プロジェクトの基幹企業・団体が実証実験の結果を発表し、成果・課題とともに次のアクションプランを報告。ヘルスケア、健康は現代日本の喫緊の課題のひとつです。この分野でいち早くオープンイノベーションを実現する事例のひとつになることを感じさせました。

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ウォーキングプログラムは「Plan Do Fitness」へ

ウォーキングプログラムは「Plan Do Fitness」へ

パーソナルウォーキングプログラムは、NPO法人メタボランティアが実施したもので、定期的なウォーキングで疾病・体調管理を行うもの。ウォーキングによる体調管理だけではなく、意識の変革、行動変容を目指すところに特徴があります。

メタボランティア 竹田氏丸の内ヘルスケアラボ全体のファシリテーションも担当したメタボランティア代表、竹田氏は「ヘルスリテラシー育成が目的」であるとし、「知識を得て、自ら計画、実行し、楽しく継続」することを目指したと話しています。

プロジェクト参加者は40代~50代までの9名で、全6回のプログラムに参加。うち2回は座学で、健康・疾病に関する講義とともに、筑波大学と日本ウォーキング協会のもとに個々人の疾患、体調に合わせたプログラム作成、カルテの自己作成を行いました。4回はテーマを設定したウォーキングプログラムで、楽しみながら歩くことができます。計測では、ドコモヘルスケア、オムロンヘルスケアの活動量計、血圧計のほか、三菱電機のストレングスエルゴで脚力測定も行い参考にしているそうです。

活動終了後の計測では、全体として非常に良好な結果が得られています。平均で、体重は1.5kg減、脚力は11歳の若返り、血圧は5%低下。特に体重減少は、筋量の増加から基礎代謝の上昇に伴う減少で「理想的な低下曲線」でした。

しかし一番の成果は、数値以上に「感覚的に効果を実感できた」という点です。被験者個人が「その気」にならなければ行動変容もヘルスリテラシーの向上も起こりようがありません。「人から与えられたものをただやっているだけでは行動変容は起こりにくい。"なんか引き締まった""結構歩ける"という感覚を得ることで、運動の実行期、維持期へとステップアップできたと思う」と竹田氏。

今後は「Plan Do Fitness」とプログラム名称を変更し、企業の健康研修としての導入促進を目指すそうです。今年度は青森市、八戸市の健康寿命延伸産業創出推進事業での展開も予定されています。竹田氏は「企業、団体の幹部向けに健康リーダーの育成プログラムとして展開し、企業全体の健康指導ができる体制を整えたい」と今後の展望を語りました。

計測の習慣化に「地域性」

3月2日の第1回計測会でのストレングスエルゴの計測の様子

丸の内健康倶楽部は計測と医療的アドバイスを行う包括的な健康プログラムです。センシングの中心は、三菱電機・三菱電機エンジニアリングの運動療法機器「ストレングスエルゴ」とシャープの「健康コックピット」で行われました。データを基にした健康アドバイスは本プログラムで提携した関西医科大学の医師から受けています。関西医科大からのアドバイスは、三菱電機のテレビ電話システムを使用したそう。

約15名の被験者がストレングスエルゴ、健康コックピットの計測に加え、活動量計を装着し、日常のデータを取得。それらのデータに基づきアドバイスを受ける仕組み。そのほか約60名の一般被験者がストレングスエルゴ、健康コックピットによる計測を行い、健康状態の「見える化」を行いました。いずれも期間中3回の計測会を行うほか、自由に計測し記録を残すこともできるようにしています。

三菱電機エンジニアリング 水庫氏報告会では、三菱電機エンジニアリングの水庫氏が、ストレングスエルゴの定期利用の成果と利用率の問題について報告しました。それによると「99.9%の確率で脚力が向上」しており、長期継続によりさらなる脚力改善が期待できるという。一方、第1回計測会で参加した78名が、2カ月後の最終計測会で28名に減っていることについて、「健常者で39%の継続率は極めて高い」と実証実験での成果を高く評価しました。

まとめとして、水庫氏はこの高い継続率について「高めている要因を今後さらに追及する意義がある」と話し、今回の実証実験が3×3Laboというコミュニティの場を活用していることから「地域性、相互の健康確認が生活習慣病対策に強い相関性があると考えられる」とし、「イベントと共催し参加率の変化を見てみたい」と今後の展望を語りました。また、課題として長期化、習慣化に向けた工夫が必要であるほか、実施費用の捻出の問題も指摘しています。

実運用に向けた課題が浮き彫りに

計測会での「健康コックピット」。モデルは熊谷氏自らが務めた

同じく丸の内健康倶楽部で計測を行った「健康コックピット」についてはシャープの熊谷氏が報告を行いました。

健康コックピットは、「座るだけで」体重、血圧、血管年齢、ストレス度合などが計測できるもので、2014年から展示会などを中心に公開されてきたが「世間一般での利用は今回が初めてで、基本的には"体当たり"で取り組んだ」そう。今回は数値データの解析は行わず、利用状況や利用率の変化などを報告しました。

最大の「成果」は、「外にも開かれた場で、定期的に活用されたこと」と熊谷氏。実運用のレベルでは展示会や社内利用と異なり、予想外の事態もあります。そんな中、「大変かわいがっていただけた」のは、製品化に向けての好材料になったそうです。計測時間は、お昼休みなどの就業時間以外を予想していましたが、「まんべんなく分布し、この施設(3×3Labo)の利用状況と関係」があるように見えるなど、実際の利用についてのヒントも得られたようです。

しかし、「期間中最大で14回図っていただいた方もいたが、0回、1回のみという方が60%以上」というように利用率が低いことに懸念が示されました。「イベント時には利用者が増えることから、効果を上げるためには"ただ座って計る"だけではなく、連携も非常に大事ではないか」と締めくくりました。

オフィス環境改善のデータ蓄積になるか

実証実験のための基礎データを取っている様子

「心拍/脈波計測によるオフィスワーカーの疲労度の見える化」(以下「疲労計測」)は、NTT データが行ったもので、心拍/脈波計測などの身体データを計測し、疲労度を算出するとともに、ロガーで記録したPCでの作業状況との相関性を探ろうという取り組み。10人の被験者を募り、1日最低2時間、3×3Laboで仕事してもらい、データ計測を行いました。

報告を行ったのは角氏。「社外での実験はこれが初めて」で、実運用のレベルで「(計測データを飛ばす)Wi-Fiの混線」「被験者のMac率が高くwindows専用のロガーがインストールできない」など、"in vitro"(試験管内の実験)では想定できなかった些細な障害があったことも「大きな気づき」となったとそうです。

結果として、全体的な疲労度は「3×3Laboという作業環境が良いためか、残念ながら全員が"元気になる"という結果」となってしまったそう。これについて「(行動の)選択の自由があること、効率重視でない環境が良かったのではないか」と推測。また、PC作業と疲労度の相関性については、PC側のデータが不十分なため、十分な結果は得られなかったが、「疲労を感じるアプリ(作業)に対する個人差が非常に大きい」ということも分かり「興味深い」と話しています。

全体として予想されていたデータの取得はできませんでしたが、被験者アンケート含め、次の実験に向けた示唆を多く得られたようです。「3×3Laboのような環境では、プライベート、睡眠も含めた自律神経のトータルパワーの計測が有効かもしれない」とし、製品、サービスの商品化についても手がかりを得られたようでした。

産官学連携の可能性

報告会の締めくくりとして、ヘルスケア研究に取り組む愛知工業大学情報学部の梶克彦准教授が特別講演を行いました。

同研究室では、三菱電機出身の水野忠則教授、豊田中央研究所出身の中條直也教授が中心となり「おもてなしヘルスケア」プロジェクトを推進しています。柱となるのは「非侵襲性センシング」(身体への関与・影響のないセンシング)と匿名でのビッグデータ利用。「ヘルスケアは利用者のリテラシーが課題のひとつ。意識することなく、日常生活の中で違和感なく計測できる"さりげない"見守りをすることが狙い」と梶准教授。

愛知工業大学 梶准教授具体的には、企業が使う入館カード(IDカード)に活動量計、加速度計を組み込み、入館時のカードタッチでデータ取得を行うという仕組み。すでに「既存の入館システムにオプショナルに設置できるモジュールは開発済み(特許出願中)」だが、カードに搭載するセンサーを稼働させるための「給電システムが課題」とのこと。「バッテリは1~2カ月はもつ」が、"さりげない見守り"のためには、充電などの動作をさせないことが望ましい。「カードをかざす際に、自動で充電できるワイヤレス給電のシステムが理想」であり、「基礎研究と分析の課題はまだまだ多い」。このあたりの基礎研究、技術開発の部分で、丸の内ヘルスケアラボへの参画企業とのリレーションの可能性がありそうです。

このセンシング技術は、発展形として、PCモニターにセンサーを搭載することで、VDT作業(Visual Display Terminals作業。PCなどでの作業を指す)の超過防止、作業者の姿勢改善なども行えるとしています。また、カード同士の認識と距離計測からコミュニケーション量の計測も可能であるとし、メンタルヘルス面での利用もできると期待を語りました。

どうなるヘルスケアラボ

2カ月余りの実証実験でしたが、ビジネス化の可能性が強く見える結果であったといえるでしょう。3×3Laboの田口氏によると、オープンイノベーションには開発レベルと販売レベルの2つのタイプがあるそうですが、丸の内ヘルスケアラボは、後者のタイプのオープンイノベーションとして非常に有効な取り組みであったのではないでしょうか。具体的なビジネスプランも挙げられており、今後の動向にさらに注目していきます。


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