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【レポート】エコッツェリア総会

都市が果たすべき役割とは何なのか

6月25日、エコッツェリア協会の年次総会が開催され、活動実績報告と今年度と来年度に向けた活動指針が発表されました。基調講演は東京農業大学学長の高野克己氏が務め、都市と農業の関係性が語られ、これから都市に果たすべき役割、可能性などさまざまな示唆が与えられました。

農は人の暮らしの礎

高野学長は、建学の祖である榎本武揚からはじまる東京農大の成り立ち、概要を解説するとともに、「生命・食料・環境・健康・エネルギー・地域創生」をキーワードに、今後さらにグローバル展開を広げ、日本農業のプレゼンスを上げていくため、「実学主義」を理念とした農大の取り組みを紹介。そして、初代学長・横井時敬の言葉である「人物を畑に還す」「農学栄えて農業滅ぶ」を引いて、都市と農業、農村の関係についての考察を行いました。

まず、農業の本質的な位置づけとして「農学はすべての学問の母」であると説明。「人間の歴史は農業生産の向上でもある。収穫期を知るために天文学や気象学、圃場整備のために土木工学、建築学、環境を知るために生物学や化学が発達した。農業・農学の重要性を理解してほしい」と高野学長。そして「1万年前の農業革命により、農業生産が向上し、人は移住し共同体を構築し、都市化が可能になった」と都市化の大前提として農業生産の確立があったことを指摘。そしてその関係は今も続いており、「食糧の対象となる生物、それを育てる環境、人がいなければ都市は成立しない。都市とは本質的に地域に支えられている、ということに思いを致さなければならない」と強く訴えました。

一方で、「都市は人間が住みやすい環境だけを切り取ったもので、他の生物が生きられない環境になっている」と警鐘を鳴らしました。そして「人間は光、水、空気に育まれたものを食べ生きており、その環境がなければ生きていくことができないことを、今の都市では感じることができないのが大きな問題」と話します。この問題は、「学生の7割が三大都市の出身者」であるという現代の農大にも言えることで「農業経験のない学生にどう伝えるのか、どう次世代に伝えていくのか」が、課題にもなっているそうです。

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「畑へ還す」

「畑へ還す」

東京農大バイオインダストリーのサイトより

つづいて高野学長は「人間を畑へ還す」という農大の取り組み事例を紹介しました。網走、宮古、厚木にキャンパスがあるほか、15の自治体と連携し、地元の産業、農業に貢献する人材育成を行っており、よく知られたものではエミュー(オーストラリア固有種の大型鳥)を利用した「東京農大バイオインダストリー」の実績があるそうです。大学発ベンチャーとして民間と共同で設立され、プリンやどら焼き、化粧品などを開発販売し話題を呼びました。「産業の育成、活性化とともに、起業ノウハウの蓄積にもつながった」と高野学長。

また、「大学の取り組みが、企業と地域と連動して行われる」例もあります。例えば会津若松市では、大手食品流通会社が、地元生産者と地域振興や6次産業化に取り組むために農大とタッグを組んで生産、鮮度維持の技術、商品開発などを担っています。

最後に高野学長は、「丸の内は日本のビジネスの頭脳集団。思想も高く、ビジネス機会をふんだんに持っている企業、人物が大勢いると思う。仕事をするには最適の環境である都市を、人が生きる環境としても機能させていくために力を貸してほしい」と締めくくり、都市、殊に大丸有エリアとの連携に期待を寄せました。

続いて行われた、エコッツェリア協会伊藤滋理事長との対談では、人材資源の宝庫としての農大について熱心な議論が交わされました。「農大は創設来、地主階級の子息を多く教育対象としており、国により戦略的に進められた理論優先の各地の農林学校とは異なる」と伊藤理事長。地元に戻った農大卒業生が後に地方政治で主導的役割を果たしている例は多く、地方創生における人的資源の育成に、農大の果たす役割は大きいのではないかといった意見も出されました。

2016年のロケットスタートに向けて

続く活動状況報告では、村上専務理事から2014年の実績と、2015年度の活動予定についてレポートがありました。今年11月に竣工する大手町1-1計画の大手町タワー・JXビルにエコッツェリア協会、3×3Laboが形を変えて移転することにも触れ、「そのロケットスタートに向けて今年1年が準備期間になる」と話し、昨年同様のセミナーや研究会などと並行して会員企業へのヒアリングも行っていくことを説明、「会員のみなさんにもっとエコッツェリアを活用していただけるように、一緒に何か実現できるかを考えていきたい」と呼びかけました。

今年1年は大きな節目の年となりそうです。来年に向けてのステップアップであるとともに、これまでの成果をアウトプットする必要もあるでしょう。「食」「農」「プラチナ」「健康」「働き方」などのキーワードを軸に、どんな活動を展開していくことになるのか。今後も本サイトのレポートで追っていきます。


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