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【レポート】『共感資本社会』の実現を目指して ~都会の消費者と地域の生産者をつなぎ、共感を広げていく『eumo』~

第5回アフター平成時代を切り拓くための経営マインドとは 2019年5月24日(金)開催

8,17

日本デザイン振興会とエコッツェリア協会の共同講座「アフター平成時代を切り拓くための経営マインドとは」は、新しく始まる時代に多様なイノベーションを創出すべく、"デザイン思考"を鍵に、各界でビジネスのフロンティアを切り拓くゲストをお招きし、そのビジネスのプロセスを紐解きながら、枠にとらわれない思考のヒントを探る全5回のプログラム。
最終回となる第5回のゲストは、鎌倉投信の創業者である新井和宏氏。「共感資本社会の実現を目指す」というミッションのもと、2018年9月に株式会社eumo(ユーモ)を設立し、新たな資本社会を実現するための取り組みに力を注いでいます。さらなる飛躍を続ける氏に、新しい時代における資本の本質についてお話いただきました。

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時代は今、すべてが多様化する自律分散社会へ

時代は今、すべてが多様化する自律分散社会へ

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冒頭、新井氏は、ハーバード・ビジネス・レビュー編集部が今年5月に発行した「オーセンティック・リーダーシップ」(ダイヤモンド社)を紹介しました。2008年に世界金融危機を境に、新しいリーダーシップとして注目を集めている"オーセンティック・リーダーシップ=自分らしさをもったリーダーシップ"について書かれた本です。

「今、私たちの社会は、最適化社会から自律分散社会へと着実に向かっている。自律分散社会とは、すなわち多様性の社会。資本主義の形も、組織のあり方も、生き方も、そして経営スタイルも、あらゆることが多様化していく。そのような社会において求められるのは、誰かを真似るのではなく、"自分らしさを大切にする経営スタイル"であるということ。この本の中では、そのことについて書かれている」と新井氏は説明しました。

社会システムに従って行動することで成立した時代とは違って、精神的な豊かさや個人の生き方が重視される自律分散社会では、「自分がどうありたいか、どんな風に生きていけば幸せかということを皆さんが個々に考え、自分でデザインしていく必要がある」と氏は話します。そして、個々の価値観に伴ってつくられた多様な社会観や世界観がいきいきと輝くことが、ひいては、社会全体の価値向上につながっていきます。

すべてが多様化する自律分散社会にひとつの答えはなく、基軸となる価値基準や理想とされる経営スタイルも存在しません。あくまでも自分で考え、自分が大切にしたい経営や生き方を実現していくことが何よりも重要です。同時に、多種多様な価値観を受け入れる姿勢を持つことが求められます。

「やがて迎える新しい社会では、組織自体の存在意義も大きく変わっていく。今までは『組織』のための『個』だったのに対し、これからは『個』のための『組織』が生まれてくる。つまり、組織ありきの個ではなく、個が中心となって組織が形成されていくということ。今は過度期ゆえに混乱や葛藤が生じているが、シェアリングエコノミー、ブロックチェーンなどインフラは着実に整いつつある」と新井氏。

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"人と人とのつながり"が価値基準になる『共感資本社会』

「先ほど、これからの社会では、個々が経営や生き方について考え、デザインしていく必要があるとお話したが、私の場合は、新しいお金をデザインすることに注力している。お金の定義が変わろうとしている時代に、お金も多様化していくということの一例として知ってもらう機会になれば幸い」と新井氏は話し、昨年9月に新しく立ち上げた株式会社eumo(ユーモ)について紹介しました。

社名のeumoは、ギリシャ語で「持続的幸福」を意味する"ユーダイモニア"に由来しています。持続的幸福とは、自己実現や生きがいを感じることで得られる幸せであり、「この会社に関わる人々に、持続的幸福に気づく機会を提供していきたい」という願いが込められています。

「我々のテーマは、"共感資本社会"。共感という、目には見えない、貨幣換算できない価値を大切に育み、それを基礎(資本)として活動していける社会の実現を目指している」と新井氏。共感資本社会における価値基準は、「社会関係資本=人と人とのつながり」です。それらが評価され、人間としての成長が促されることによって、経済的価値にもつながるような社会、すなわち、共感資本社会の実現が可能になっていくということを意味しています。

新井氏は今、従来のお金の価値観や資本主義の仕組みを変えるべく、「人と人のつながり=関係性」が価値になる仕組みをプラットフォームとして構築するという壮大なプロジェクトに取り組んでいます。共感資本社会のプラットフォーム機能を担う資金を循環させるための要となるのが、「eumo」というユーモ独自の新しい電子地域通貨です。「eumoを介して、都会の消費者と地域の生産者をつなぎ、共感を広げる」ことを目的としています。

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共感やつながりを可視化するeumoは、みんなが安心して使えるお金に

eumoが従来の仮想通貨や地域通貨と違うのは、共感や関係性に基づく"共感コミュニティ電子通貨"であること。「お金が目的化しないことが一番重要。生きがいを見つける、自己実現をする、そういった幸せを得るための仕組みづくりの手段のひとつがお金。お金が目的化しないように、我々は、人が幸せになるためのお金を再定義するということに取り組んでいく」と新井氏が言うように、eumoは、利便性を追求したり、投機対象となるものではなく、あくまで人と人がつながり、共感を広げるための手段です。

その媒介となるのが、「eumoでしか買えない、地域の生産者がつくった商品やサービス」です。ユーモは今、全国のさまざまな地域の生産者と商品やサービスの開発を進めています。これらの商品やサービスは、日本円では買うことができません。すべてがeumoで値付けされています。その地域に行き、その生産者と出会わなければ、eumoを使うことも、商品やサービスを買うこともできません。「そんな面倒なこと、一体誰がやるの?本当に普及するの?」と思う人もいることでしょう。しかし、新井氏はこう話します。

「この面倒くさい関係性こそが、コミュニティだということを理解していただきたい。その関係性があるからこそ、共感が生まれていく。自己実現や自分らしく幸せになるためには、人との出会いが不可欠。これからの社会では、そこに価値を感じる人たちの集まりが増えていく。素晴らしい人たちと出会う、人と人のつながりを大事にする、地域と都会をつなぐ。我々は、それらをeumoという新しいお金で実現しようとしている」

eumo専用のウェブサイトでは、参加者の通貨使用履歴を"人・モノ・場"との共感・感謝とリンクすることができます。またeumoは、マネーフローの最大化を目的としているため、短期間で失効するという特徴があります。失効した通貨は、共感の強さやリピートの有無、移動距離の長さなどをもとに設定した還元率で参加者に還元されることによって、eumoで買える商品やサービスを取り扱う地域の店に赴き、交流を深めることを促し、ひいては、参加者、生産者、地域住民の間で共感を広げる仕組みになっています。

「貯められないことが大事。手段が目的化しない抑制効果になる。でも、多くの人は貯められないと不安になる。それを解消するために、お金に"出し手の色"をつけて、還元していく。色をつけるとは、何によって得たお金か分かるように視覚化するということ」と新井氏。

今、一部の大企業では、社員がどこから、どれくらいの感謝をもらってきたかといったことが分かる"感謝ポイント"を導入し始めていたり、従業員が笑顔で出社しているかどうかを測定する顔認証技術など、曖昧なものがテクノロジーの力で視覚化、価値化できる時代にきています。本来、手段だったはずのお金が目的化してしまった今、本当に大事なものを大事にするために、eumoでは、どのような共感やつながりによって得たお金なのかということを可視化させていくのです。それによって、eumoに関わるすべての人が自分のお金の使われ先や使い先を把握することができ、安心して利用できるようになります。

今年9月15日より、eumoの実証実験を開始。同日、飛騨高山で開催された第5回貨幣革新・地域通貨国際会議でその内容を発表し、スタートを切りました。実証実験では約2000名が参加。1eumo=1円で発行して消費者の購買行動を把握し、地域の生産者からのヒアリングを通じて、プラットフォームの実現可能性について検証を行っていきます。なお、eumoのシステムには、岐阜県飛騨高山地域の電子地域通貨「さるぼぼコイン」や千葉県木更津市の「アクアコイン」にも使用されているフィノバレーの電子地域通貨プラットフォーム「MoneyEasy」を採用しています。

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人財の"美意識"と"人間力"を高める『eumo Academy』

新井氏は、eumoの目指す共感資本社会の実現に向けて、人財教育事業もスタートしています。今年4月から開校した「eumo Academy」(ユーモアカデミー)は、"共感資本"という目には見えない資本の価値創出ができる人財が育つ場です。

「鎌倉投信時代に培ってきたことだが、"いい会社"をつくるのは、美意識と人間力。何をもって美しい、尊いとするかというレベルの高さで決まる。いい会社にはお金だけでなく、美意識と人間力の高い人財が必要。このアカデミーでは、異なるバックグラウンドや素質、スタイルを持つ一人ひとりにフォーカスしながら、それぞれの美意識と人間力を高めることに取り組んでいる」と話します。

昨年、eumoの取締役を務める研究者の一人が、人間力や美意識、利他的精神といった見えざるものを数値化することに成功したのだそうです。アカデミーのプログラムではその技術を活用しながら、座学だけでなく、地域で事業を実行できる人財を育てることを視野に入れ、持続可能な社会に向けたリーダーを育成していくとのことです。7月12日からは、eumo Academyで好評を得た基礎講座をオンデマンド講座サービスで有料公開しています。

eumoでは、鎌倉投信ではカバーできなかった非上場企業の株式に投資し、地域のいい会社やソーシャルベンチャーを資金面で支えていく投資事業も行っています。

「議決権も何もいらない。我々が目指すのは、共感資本社会だから支配しない。その代わり、投資の条件に入れているのは、美意識と人間力を高めるために、その会社の社員、役員すべてがeumo Academyを受講すること。いい会社が増えないのは、この領域にアプローチしないから」

「eumoについて、2008年に鎌倉投信を創業したときと社会の受け取り方が似ている」と新井氏は話します。「社会性と事業性、経済性と社会性は両立できると言うと、あなた方は人のお金を使って社会実験するのかと、怒鳴られた日が懐かしい。今、ESG投資は当たり前になっている。たった10年で、社会はそうやって変わるということを理解いただきたい。私は、次の10年で本気で社会を変えるつもりでいる。使えば使うほど人が幸せになるお金を定義し、その仕組みとなるプラットフォームを実現させる。でなければ、社会は豊かにならないから。これから人生をかけてやっていく」と熱く語り、プレゼンテーションを結びました。

多様化するお金の中から、自分の価値基準に合ったものを選ぶ時代に

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講座の後半では、参加者たちはグループに分かれてワークショップを行い、感想や質問を全体で共有しました。「eumoは決済ではなく、余韻が残る通貨。そこにミソがある。今までの地域通貨が陥った罠から一歩二歩離れた世界を作れば、日本人の1割くらいは利用するのではないかと思った」という感想に対し、「すごい褒め言葉」と新井氏。

「僕の発想は、アマゾンと真逆。若者たちに言いたいのは、人は人と出会って成長するということ。人との出会いを大切にするためのお金がなくてはいけない。それをどうすれば実現できるのかに興味あるだけで、継続的に成り立つ仕組みをつくれたら、もう死んでもいいと思っている」と答えると、場内が沸きました。

「多様性が尊重されていく時代になると同時に、地域通貨の一定の価値を定めないと流通させることができないと思うが、多様性と地域通貨の価値を定めることの両立は可能なのか?」という質問について、新井氏は次のように答えました。

「円というお金で測れるものが存在する。あるお金に関しては、感謝が最も価値あるものだと定義されている。また、あるお金に関しては、SDGsのターゲットを達成することが目的化されている。このように、次の社会ではお金のあり方が多様化していく。つまり、お金の価値基準の軸がそれぞれ違うと捉えてもらうと分かりやすい。eumoで大切にしたい価値基準は、素晴らしい人たちとの出会い。出会いが人を幸せにしていく。その出会いをつくり、つなげていくお金をつくりたい。その価値基準が気に入らない、納得いかない人は使わなければいい。選べることが大事だから」

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今年1月から5回に渡って開催された「アフター平成時代を切り拓くための経営マインドとは」。多摩大学大学院教授の紺野登氏をはじめ、暮らし研究家の土谷貞雄氏、フードハブ・プロジェクト支配人の真鍋太一氏、シティライツ法律事務所の弁護士・水野祐氏、そしてラストを飾ったeumoの新井氏と、各界のフロンティアを切り拓く多彩なゲストが登壇し、これからの時代に新しくビジネスを始めようとしている人、イノベーションを起こしたいと考える人にとって、大きなヒントと学びが得られた充実の時間となりました。


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