シリーズコラム

【さんさん対談】金融は社会の質を高めるために

鎌倉投信 鎌田恭幸氏 × エコッツェリア協会 田口真司氏

人に「いい人」がいるように、法人である会社にだって「いい会社」がある。そんな発想で、社会をよりよくするために活動する「いい会社」を選び投資を行う事業を立ち上げ、日本全体に大きなインパクトを与えてきた鎌倉投信。

その代表取締役社長を務める鎌田恭幸氏は、バブル最盛期を日本の信託銀行で迎え、その後外資系資産運用会社の第一線で活躍。2008年に独立し、鎌倉投信を創業した。「新卒で信託銀行に入社した直後から金融業界に違和感があった」という苦渋の時代から、鎌倉投信設立までのヒストリーは金融のあるべき姿を模索するストーリーでもある。社会構造の変革が求められる今、金融の果たすべき役割とは、あるべき姿とは何か。

鎌倉の衣張山のふところにひっそりと建つ古民家を本社屋とする鎌倉投信。山からは遠く冬の訪れを告げるヒヨドリの声が響いてくる。エコッツェリア協会・プロデューサー田口真司氏が社会のキーマンと交わす「さんさん対談」で、今回は、鎌田氏と一緒に社会と金融について考える。

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企業と個人の間の違和感

企業と個人の間の違和感

田口:近年、SRI(社会的責任投資。Socially Responsible Investment)の考え方も広まって、いい意味で珍しくなくなってきているようですよね。

鎌田:そうですね、創業当時に比べればSRIやESG(Environment,Social,Governance)という言葉も一般化して、その観点での投資も濃淡はあれど、ふえてきています。もちろんそのすべてが"本物"かどうかは分かりませんが。ちなみに、鎌倉投信が設定・運用する公募の投資信託「結い 2101(ゆいにいいちぜろいち)は、一般にいうSRIとは異なります。多くのSRIでは、アンケート等を用いて網羅的、形式的に企業を評価する傾向にありますが、鎌倉投信は真に社会価値を創造しているか、という実質性を観ます。

田口:厳しいなぁ(笑)。以前から鎌田さんには、エコッツェリア協会や3×3Lab Futureに来ていただいていますが、今回は改めて、鎌田さんご自身の個人的なことも含めて、鎌倉投信創業までの経緯などをお聞きしたいと思います。まず鎌田さんが、なぜ金融、投資の世界へ入ったのか、そこから教えてください。

鎌田:まずざっくりとした経歴をいうと、大学を卒業して三井信託銀行(現三井住友信託銀行)に入って11年、資産運用の仕事に従事しました。その後外資系へ移り運用会社の経験を積み、それから鎌倉投信を設立という流れです。金融を選んだことには特別な想いはなかったんです。たまたま大学の先輩が三井信託にいて、都銀等と比べると仕事が楽な割に給料がいい(笑)と思って選んだと。昭和63年入社なんですが当時はバブルに向けて駆け上がっているときで、信託銀行は都銀よりも人気あったんです。融資だけじゃなくて年金や不動産、証券業務もあるし。社会的イメージもよかったので、入れればいいなと思って。

田口:そこで、お聞きしたいのが、入ってから感じたギャップ。入ってこれは違う、とか思ったことはなかったですか。

鎌田:ありましたね。 入ってすぐ違和感を感じた。知識、経験を学ぶという点ではとても貴重な経験でしたが、お客様の役に立っているという手触り感、実感はなかなか持てなかった。社会に貢献するというよりも自分たちの利益をいかに上げるかという考え方が金融業界全体として強いと感じたんですよ。経営理念とか社是「開拓と奉仕の精神」「お客さまにつくしましょう」という話は入社式で聞いたきり、その後一度も経営者から聞いたことがない。そもそも何のために働くか、会社はどうあるべきか、というビジョンが欠けているんですよ。そこにとても違和感を感じてましたね。

田口:企業に入って違和感を持つ人は、実は多いと思うんです。でも、その違和感を残す人はとても少ない。ほとんどの人が企業に染まっていくと思うんですが、鎌田さんはそれを持ち続けた。それはなぜですか。

鎌田:ジレンマであり、苦しみではあったんです。だから途中で何度か転職を真剣に考えて、NGOや社会貢献に近い企業に転職しようとレジュメを出したりもしていたんですよ。しかし、結婚して子供ができて......ということがあり、今思うとそういう時期じゃなかったんでしょう。結果的には外資系も含め金融機関に20年勤め、資産運用という金融の中でも特定の分野の知識と経験を得ることができたともいえるわけです。直接的には前職での合併の仕事を最後に"もういいだろう"と思って辞めましたが。

"お金"の感覚は、まちの小さなお店で培われた

田口:そういう社会に対する想いようなものを、鎌田さんがどこで得たのか、身につけたんでしょうかね。

鎌田:はっきりとは分からないですが、やはり幼少体験は大きいと思いますね。私の生まれは島根県大田市という、海と山しかない田園風景が広がる町でした。その町で父は主に米を作り、母は小さな商店を開いていました。当時、どんな小さな町でも一軒はあって、地元の人がなにがしか買いに来る、よろずやのようなお店です。今にして思えばその母の様子から商売の原点を学んだように思います。

例えば、「お金」というものはすごくありがたいものだという感覚や、お金に嘘をついてはいけない、きちんと決まった日に問屋さんへ払わなくてはいけないというようなこと。また、当時は近所の方々には「通い帳」という帳面で販売してたんですよ。1カ月分まとめて代金を支払いいただくやり方です。これはお客様を信用しているからできる取引です。やはりお金の裏にはそういう信頼関係があるんだと感じました。

また、商売をするうえで信用を得るためには、自分自身が貢献するということ。例えば母はお客様に品物を届けに行く際にちょっとしたおまけを持っていくのが常でした。そのお宅に子どもがいればその人数分、何かお菓子を持っていくというように、それぞれのご家庭の事情に合わせたおまけです。当時はそんなもったいないことしなくてもと思ったものですが、そういうことが大事なんだと教えられました。お店を365日開けていたというのもそうです。誰も来ない日でも開けている。なぜ開けるんだと聞いたら「こんな田舎町で誰かが買い物に来て、店が閉まっていたら困るだろう」というんです。それだけの理由で開けておくのか、と思うんですが、その姿勢こそが商売の原点だった。そう思います。

貧しいながらそういう家庭で育ったので、金融機関に就職して、大きなお金を乱暴に動かしたり、バブル期の過剰融資や貸し剥がしといった銀行の無責任な対応に、これはイカンだろうと思っていました。姿勢にしても、運用(融資や投資)のあり方にしても。

まっすぐ真摯に向き合うこと

田口:ここでちょっと学生の話に戻りたいんですが、多くの学生が就職してギャップに苦しみながらも、企業戦士になることを求められるわけですよね。でも苦しんで馴染めない人ももちろんいるわけで、そういう人に自分を見失わず、先へ進むためのアドバイスはありますか。

鎌田:私自身迷いながらの20年でした。それで、鎌倉投信を作ってから、これまで苦しんできたことの意味が分かった気がしています。大体、求めるものや理想というものは、すぐ目の前に現れることはほとんどなくて、目の前のことに全力を尽くしている中で自然と道が拓けて見えてくるものなんじゃないか。全力を尽くしていると、「こういうことをやりたかったんだ」というものに出会うチャンスが絶対にある。だから私が思うのは、今をどう生きるかがとても大事だということ。

夢を持つことは大切だと思うけど、実は夢を持てない人のほうが現実では圧倒的に多いと思うんです。何かやりたいけど、何をしていいかよく分からない。私も実際そうでした。そういうごくごく普通の人は、目の前のことに真摯に向き合うことで多分、突破口が見えてくるんじゃないかと思います。

田口:なるほど、そうして機が熟して鎌倉投信を創業した、と。その時はどんな想い、気持ちだったんでしょうか。

鎌田:外資系を辞める時に鎌倉投信みたいなことをやろうと思っていたわけではないんですよね。世の中に役立っている手触り感がある仕事がしたいという気持ちが漠然とあって、社会貢献に直接関われる草の根的な仕事につけたらと思っていたのですが、当時43歳で、大きく方針転換する度胸もノウハウもなかった。そこで思いついたのが、すでにがんばっている人がいるなら、金融の枠組みの中でそういう人を応援する仕組みは作れないかということでした。それで創業メンバーとなる面々に声を掛けて、何か一緒にできないかとスタートした、そんなきっかけだったんです。

田口:当時は情勢的にもかなりの逆風だったのではないですか。

鎌田:そうですね。創業したのは2008年11月、リーマンショックの直後で世界の金融経済は大混乱のさなか。そんな中で多額の資本がいる金融ベンチャーを立ち上げると。しかも投資先は日本株で、"いい会社"を選んで投資をする。株価をみて売ったり買ったりして利益を上げるのではなく、"いい会社"を保有し続けることで応援するとまあ、ある種の「キレイごと」をいっているわけですから、当時の常識からすれば儲かるわけないじゃないかという批判ですよね。そもそも今でこそ多少日本株は持ち直しましたが、それまでの20年世界中でもっともパフォーマンスが悪かったのが日本株なんですから。どうやってお金を集めるんだ、どうやって儲けるんだと、金融業界の人からすれば純粋な疑問ですよ。しかも場所も東京じゃなくて鎌倉でしょう(笑)。金融業界の友人たちからは反対というよりは、絶対に無理だという声ばかりをもらいました。

田口:でも鎌田さんはできるという確信があった?

鎌田:ありましたね。かなり楽観的なだけかもしれませんが(笑)。本来そういう投資こそが求められるはずだと、あまり根拠はなくそう思っていました。他の3人の創業メンバーもとても心強かったですし。誰一人欠けても今の鎌倉投信はない、本当に奇跡のようなメンバーです。鎌倉投信のような仕事は、運用だけではなく、日々の業務を正確に運営したり、コンプライアンス等の内部統制も大切ですので、 それぞれに要となる人財がバランスよく揃っていないと何もできないんですよ。高い専門性を持ち、お互いに尊重し合える人間関係が必要で、そんなメンバーが奇跡的に集まったといえます。

鎌倉投信の始まり

鎌倉投信のウェブサイトより

田口:最初のお客さんはどうやって集めたんですか。

鎌田:それはもう完全に口コミで。当時の鎌倉投信は運用実績もお金もありませんでしたから、ホームページ等で説明会の開催を告知して、関心を持っていただいた方に会場に足を運んでもらい、とにかく経営理念や「結い 2101」の投資哲学や運用方針を繰り返し伝えることしかありません。普通の金融商品なら、これはパフォーマンスがいい投資信託だから購入してくださいといいますが、当時実績のない鎌倉投資や「結2101」は "考え方"を理解して購入していただくしかなかったんです。年に70~100回くらい説明会をやる、その繰り返し。この場所はふすまを開け放てば20人くらい入りますから、月に何回かはここでもやっています。

田口:始めるときに、ダメだった時のたたみどころというか、やめ時みたいなことは考えていたんですか。

鎌田:考えていましたね。それは単純に資本。資本金をここまで積んで事業が軌道に乗らなかったらギブアップしようとは決めていました。

田口:まずいと思った時期はあったんですか。

鎌田:それはないですね。厳しいなーと思ったときはありましたけど。実際に「結い 2101」を設定して営業を始めた2010年にはギリシャショック。それからしばらくして東日本大震災。鎌倉投信の収益構造は、ファンドの純資産総額の概ね1%なんですけど、当時の純資産総額が4億円くらいだったので、1年間の収入が400万円くらいしかなかったんです。お客様がふえてある程度の資産規模になるまでは、いわゆるデスバレーで、やればやるほど赤字が膨らんでいくわけですよ。私たちの事業は、ファンドの純資産総額が積上がれば収益性が高まりますので、そこに到達するまでの時間が勝負なんです。そういう厳しい中でしたので、そこまでの時間が読めないのが辛かった。

田口:なるほど、いつか収益改善するポイントがあるにはしても、それが読めない。

鎌田:そうそう。だからいつもは前向きに頑張ってるんだけど、やっぱりちょっとしんどいなーと思う時期はあって(笑)。

鎌倉投信が変えたこと、変わってきたこと

田口:改めてお聞きしたいんですが、やはり創業当時と今とはやりがいというか手応えは違いますか。

鎌田:それは違いますね。取組んできたことが形になって"見えて"きましたから。受益者(投資家)と鎌倉投信、投資先企業と鎌倉投信の関係性もそうだし、更に、受益者と投資先企業との一体感もすごく感じていて。お金儲けとしての投資じゃなくて、お金の裏側にある信頼関係とかそういうものが見えてきて、それがうれしいですね。

田口:受益者がふえているとは思いますが、どうですか、受益者の皆さんの変化というか成長実感というのはあるんでしょうか。

鎌田:ありますね。受益者がふえると個別に直接対話する機会は減ってしまうんですが、運用報告の一環として年1回開催する「受益者総会(R)」や、「いい会社訪問(R)」などで、社会変革を起こしているいろいろなリーダーの話を聞いて、受益者の皆さんのほうが影響を受けている感じます。受益者にとっては、そうした機会が、生き方や考え方、働き方、お金の使い方などを考える場になり、そこから自問があって、成長にもつながるんだと思います。

田口:大きくなると純粋にマネーゲームの一環として投資してくる人もいるのでは?

鎌田:それはそうですね、そして排除もできない。ただ、そういう方々も受益者総会で、"いい会社"を運営する経営者やリーダーの方の話を聞いて、少なからず影響を受けてますよね。それで変わらない人もいますけど、変わる人もいる。鎌倉投信を通して始めて社会に貢献する投資の形を知って意識するようになったという人もいます。そういう人がふえると"いい会社"もふえ、社会全体も少しずつ変わっていくんじゃないかと思います。

田口:今鎌倉投信では"見える"関係性を大事にしてると思うんですが、それだと逆にスケールアップしにくいんじゃないかと思うんですが、どうなんでしょう。ある程度の枠で打ち切ったり上限を設定してるんですか。

鎌田:ファンドにしても会社としても規模の拡大は目指してないですね。明確な上限は定めてないですが。金融商品というのは、必ずその運用戦略に適した適正なサイズというものがあります。一応上場企業中心ではありますが、「結い 2101」が選ぶのは小さな企業が中心になりますから、そうなると何千億もの資金は運用できない。そういう意味では、投資したいなと思ういい会社が一巡したら、そこで自然と上限が決まるのかなと思います。

田口:その先はまた別の事業になる?

鎌田:多分そうなるでしょうね。ひとつのファンドが完成形に近づいたら、次の段階として別のファンドを立ち上げることになるかもしれません。

大企業に求められること

田口:受益者総会を見ていると、集まっている受益者のみなさんからすごいパワーを感じるんですよね。そこでちょっと伺いたいのが、大丸有エリア(大手町、丸の内、有楽町)も人はたくさん集まる場所ですが、あの場所でどんなことができると思いますか。また、そんな場所に求めること、要望などはありますか。

鎌田:あの場所だからできることはきっとあるんだと思います。3×3Lab Futureには、大企業と中小企業をつなぐ、都市と地方をつなぐ。そんなつなぐ力があそこにはある。大企業にいる人には、そういう視点で物事を考えてほしいと思いますね。

大企業の幹部向研修をたまにやると、なぜ鎌倉投信の投資先には大企業はないのかと聞かれるんです。その理由はいろいろあるんですが......例えばある企業が売上を3千億から5千億にするという目標があったとして、「何のためにそうするのか」という本質的な問いに対して明確に答えられる大企業の経営者は意外と少ない。「(売り上げを伸ばすために)海外に事業を展開する」といった戦略について語る人はいますが、何のために売上げを伸ばすのか、なぜ海外なのか、という問いの回答にはなっていない。あなた自身は仕事を通じて何を成し遂げたいのか、やりがいは何、と問うと沈黙することも多い。何かを持っていたとしても大きな組織に戻ると流され、忘れてしまうんでしょう。そういう人のために、エコッツェリア協会、3×3Lab Futureができることはいっぱいありますし、期待しています。

田口:運営者として身が引き締まる思いです。では、これからの金融の未来観と、鎌倉投信はどうなっていくのか、お聞かせください。

鎌田:金融には決済機能や融資、投資などの経済のインフラとしての役割はありますが、根本的には富の再分配がその役割です。政府もそうですよね。税金で集めたお金を適正に再分配して社会・経済を持続的に発展させる。金融もそうです。お金を預かり、融資や投資をして未来に向けて再分配する。それが今までは儲かるところに一極集中させて社会秩序を壊してきた。リーマンショックだって、金融に関わる人間が引き起こした経済の大津波です。もうそんなことはやってはならないと思います。具体的には、儲かるものに投資するのではなく、社会に本当に必要なものは何か、自分たちの考えを明確に持ってお金を再分配するということ。これからの金融は、経済的価値・物質的価値を高める企業活動ではなく、社会の質を高める活動を後押しするようにならなければいけないと思います。 それは企業も一緒ですよね。たとえば、「上期で過去最高の利益を出しました!その利益を株主に還元します!」という言葉を聞きますが、本当は利益をあげるために頑張ったのは社員であり、取引先じゃないですか。これからは利益を適正に分配し、調和のとれた経済・社会の発展を目指さなければならないと思います。

田口:なるほど、いきすぎた金融のマインドから脱却し、小さな商店で「お金」を扱っていたような、人が古くから持っている感覚を取り戻すことに近いかもしれませんね。本日はありがとうございました。


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