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えっ、これが全部アホウドリの胃の中に? 漂着ゴミから陸と海のつながりを考える「自然保護区ミッドウェーの生きものと海洋ゴミ」丸の内さえずり館で開催中

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大量のゴミが滞留する、自然保護区ミッドウェー環礁の現実

上の写真、いったい何だか分かりますか?
実はこのプラスチック類は、自然保護区ミッドウェー環礁で、アホウドリ類がエサと間違えて誤咽し、「海から鳥に」運ばれたもの。ヒナや親鳥が吐き戻したものや死んでしまったヒナの胃の中に溜まっていたものです。

ミッドウェー環礁と言えば、アメリカの海洋国家遺産に指定されている世界最大の海洋保護区北西ハワイ諸島に位置し、希少生物の生息地としても知られています。しかし、日本を含む東アジア沿岸諸国から流出する大量のプラスチックゴミが滞留する海域に位置するため、野生生物への深刻な影響が続いているのです。

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そんなミッドウェー環礁の最新情報を写真と資料で紹介する企画展「自然保護区ミッドウェーの生きものと海洋ゴミ」(5/8〜6/28)が、現在、丸の内さえずり館で開催されています。ミッドウェー環礁の現実、そして、私たちが今、できることとは?

今日は、5月30日に開催された、この展示の関連セミナー「ミッドウェー環礁の生きものたちを脅かす海洋ゴミ!!」の様子をレポートでお届けしながら、みなさんと一緒にこの問題について、考えてみたいと思います。

入島はかなり困難!ミッドウェー環礁はこんな場所

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この日は、展示関連セミナーの第一回目。ミッドウェー環礁で環境保全や調査活動を続けるNPO法人「OWS」の代表理事・横山耕作氏を講師に迎え、主に海洋ゴミが生きものたちに与える影響について学びます。セミナー開始前から、会社帰りの人々が多く駆けつけ、会場は満席に。みなさんの関心の高さを窺い知ることができます。

セミナーの冒頭、横山氏はまず、ミッドウェー環礁の概要と歴史、そして、その中でのOWSの関わりについての説明を行いました。

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ミッドウェー環礁は、自然と野生生物を保護することを目的に、人の立入を制限した「自然保護区」。周囲30km、直径8kmの、おにぎりのような形の環礁です。中には3つの島があり、丘陵などの無い平坦な地形をしています。

かつては太平洋戦争の激戦地として知られたミッドウェー環礁ですが、軍が撤退した後、1997年からエコツーリズムと海洋環境教育の場として活用するため、観光客の受け入れを開始しました。しかし、2002年には島内施設の運営会社の撤退により一般人の入島が不可能に。2007年にはチャーター機での環境ボランティアの入島は可能になりましたが、限られた人しか行けない場所であることは、現在も変わりありません。

OWSも、以前は現地オフィスを設置してさまざまな活動を行っていましたが、撤退を余儀なくされ、ようやく入島できたのは、2008年11月。OWS研究員が長期ボランティアとして入島し、ゴミ調査や各種のボランティア活動を行った時でした。そして、2011年6月には、13名が調査とボランティア活動を目的として入島することができ、その際撮影した写真や調査資料等を活用して、今回の企画展を開催することができました。

歴史を知ることにより、展示されている写真やゴミのサンプルが、いかに貴重なものであるか、改めて実感することができました。

なんと年間20トン!大量の漂着ゴミが生き物の脅威に

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続いて話は、ミッドウェー環礁に生息する生きものについて。ミッドウェーと言えば、アホウドリをはじめとする海鳥が有名ですが、その種類は17種。その他にも、島に立ち寄る渡り鳥約50種、人に持ち込まれて野生化した鳥2種など、様々な鳥を観察することができます。さらに、陸上植物260種、陸上動物495種、魚類250種、ウミガメ2種などが生息しており、ミッドウェーはまさに、生きものたちの楽園とも言える場所です。

しかしその生きものたちの生息環境や生命は、様々な原因により危機にさらされています。中でも深刻な問題は海洋ゴミの問題。年間約20トンにもなる大量のゴミが、生きものたちに深刻な影響を与えているのです。

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プラスチックゴミ、漁具など様々なゴミがありますが、その動物への影響は大きく分けて2つあります。1つは、「絡まる」「刺さる」など、直接的な影響。中でもやっかいなのは漁網や漁具で、生きものたちの行動を阻害したり、アザラシやウミガメに絡まって溺死を招いたりといった問題を引き起こしています。

そしてもう1つは「誤食」。アホウドリ類がエサを摂る場所は、海洋ゴミが滞留する海域と一致しているため、プラスチックゴミをエサと間違えて誤咽してしまうのです。アホウドリ類のヒナは、親鳥から口移しでエサをもらうため、そのゴミはヒナの体内に入ります。胃の中にプラスチックゴミが溜まったヒナは、疑似満腹感によって求餌しなくなり、結果として栄養不良や脱水症を引き起こし、死亡することが多いのです。健康なヒナは、巣立ち前に自分で吐きだすことができるのですが、中にはゴミが原因で死んでしまうヒナも多いのです。実際、死亡したヒナの胃の中を調査した結果、約62%が人工物(6体の平均)で、そのほとんどが、プラスチックの破片だったいう事実も判明しています。

また、プラスチックゴミは、海水中の化学物質を吸着する性質があることから、その影響と考えられる奇形が出現するなど、プラスチックゴミのアホウドリに与える影響は計り知れません。ゴミの問題は、人の問題。人間の力で、何か対策することはできないのでしょうか。

漂着した使い捨てライターの約半分は日本製!

OWSではゴミ問題の解明のため、昨年の入島時、漂着ゴミの分類調査、ヒナの胃内容物調査などを実施しました。さらに、鹿児島大学・藤枝繁准教授の使い捨てライター調査にも協力しましたが、その結果、驚くべき事実が次々に判明しました。

まず、ミッドウェー環礁のビーチに漂着したゴミの調査により、その約73%が「硬質プラスチック破片」であることがわかりました。日本の海岸では平均約15%ほどなので、その割合の多さがわかります。この細かい大量のプラスチックゴミが、環境や生きものたちにどのような影響を与えているのでしょうか。

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さらに驚いたのが、使い捨てライターに関する調査。回収されたライターの製造国を調べると、判別できたものの内、最も多かったのが日本製で、なんと約半分を占めていたそうです。2位以降は台湾、中国、韓国と続き、そのほとんどが東アジアから漂着してきていることが明らかになりました。

遠く離れたミッドウェーの生きものたちを苦しめているのは、私たち日本人の生活ゴミ。ショックな現実を突きつけられ、参加者のみなさんも皆、真剣なまなざしで聞き入っていました。

私たちにできることは?

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セミナーの最後には、講師の横山氏を交えた意見交換が行われました。会場から活発な質問が寄せられる中、ある女性からは、
「このようなゴミがあるということは初めて知りました。私たちには、ゴミを捨てないことはもちろんですが、何か他にできることはないのでしょうか。例えば、この地域に鳥を近づけないようにすることはできませんか?」

という質問が。これに対し横山氏は、

「私たちも何ができるか模索しながらやっていますが、少なくとも、このような事実を情報として発信していくことが大事だと思っています。また、できるだけ生分解性のプラスチックを使うことなども、一案としてあります。ぜひとも、みなさんのご意見もお聞かせいただければと思います」

と回答。参加者のみなさんの心に様々な思いを残し、セミナーは終了となりました。

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印象的だったのは、終了後も、熱心に展示物を見る参加者のみなさんの姿。「私たちには何ができるのだろう?」そんなことを考えながら、見学されていたのかもしれません。

ゴミ問題は、一朝一夕で解決することはできません。企画展「自然保護区ミッドウェーの生きものと海洋ゴミ」の会場では、見学されたみなさんが自由に意見を書いて共有するコーナーも設置されています。展示物を見た後は、ぜひあなたの意見も書き込んでみてください。まずは一人ひとりがこの現実を知り、考えることから、解決への第一歩へとつなげていきたいですね。

企画展「自然保護区ミッドウェーの生きものと海洋ゴミ」

midway013.jpg ▼開催期間
2012年5月8日(火)~ 6月28日(木)
▼場所
自然環境情報ひろば 丸の内さえずり館
▼開館時間
11:00〜18:00(月〜金)
▼お問い合わせ
Tel/Fax  03-3283-3536
▼URL
http://www.m-nature.info/gallery#post-1710

※第2回セミナーは「第65回海のトークセッション ~日本のごみはどこへ行く?海を巡る私たちのごみ~」をテーマに、6/20(水)に開催されます。お申し込み・詳細は「丸の内さえずり館」のホームページをご確認ください。