シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

ヘンな宇宙はタイヘンだ!

夜空に輝く星は、宇宙全体で見れば当たり前の存在です。当たり前を理解するのも大事ですが、エキセントリックな存在を理解するのも大事です。

変な人ほど面白い

駅での人との待ち合わせは、なかなか面白いものです。目の前を行き交う人、人、人。スーツをぱりっと着こなしたナイスミドル、重そうな鞄を持って足早に歩くOLさん、カートをがらがら引きずった旅行客、学校帰りの学生さん。実にさまざまな人たちを見かけることができるのです。

私なんかは、そういった人たちを眺めていろいろ考えるだけで結構楽しいのですが、私の友人は違います。彼はふつうの人に興味はゼロ。変な人にだけ興味があるのです。そう思って探してみると、確かにいるいる。なんの仕事をしているのかさっぱり想像がつかないような人たちが。

自分にとって理解不能な人というのは、見方を変えれば、自分にない世界観を教えてくれる人とも言えます。これは夜空についてもまったく同じ。夜空に見える、ふつうの星たちの調査も大事ですが、非常識な特徴を持つ天体の調査は、私たちに宇宙のことをいろいろと教えてくれるのです。そういった非常識な天体について、少しご紹介しましょう。

私たちの非常識は、宇宙の常識

宇宙にある非常識な天体は、星の死と関係しているものが少なくありません。

例えば、白色矮星もそのひとつ。太陽程度の重さの星が、その一生の最後になる天体です。太陽程度の重さの星は、年を取ると惑星状星雲と呼ばれる美しい天体となって宇宙空間に星を作っていたガスを放出していくのですが、そのあとに残された星の芯の部分が白色矮星となります。月と変わらない程度の大きさに、太陽くらいの質量がぎゅっと詰まった、非常に高密度な天体です。よく言われるのが、角砂糖1個のサイズで、重さは1トン程度。さっぱり実感のわかない例えです。

でも、もっとすごいのが中性子星と呼ばれる天体。太陽の8倍を超える重さの星が、その一生の最後に起こす超新星爆発では、そのあとに高密度な天体が残ります。おおむね、太陽の8倍よりも重く、20倍よりも軽い星では、中性子星が残ります。大きさは10キロメートル程度ですので、山手線の大きさくらい。このサイズに、太陽くらいの質量が詰まっているのです。密度は推して知るべし。この中性子星は強い磁場を持っていたり、1秒間に何十回も自転していたりと、まったくもって非常識な天体です。

しかし、非常識の究極にいるのは、やはりなんといってもブラックホールでしょう。太陽の30倍を超えるような重い星のなれの果て。なにせ光すら逃げられないものですから、その内部構造はまったくもって不明です。ブラックホール本体は光を放ちませんが、ブラックホールに吸い込まれる物質が輝くことで、その存在を知ることができます。

こういった天体たちは、私たちの日常からすれば非常識な存在ですが、宇宙全体でみれば当たり前のように存在しています。こういった天体たちは、いわば宇宙にある実験場のようなもの。地球では実現できない極限の物理状態が、私たちの視野を広げ、物理学の本質に迫る助けとなるのです。高エネルギー天文学と呼ばれるこの分野から、どんな新しい宇宙観が私たちにもたらされるのか。今後の発展に期待しましょう。

※本コラムは、「本郷宇宙塾」9月の講演を参考に執筆しました。

高梨 直紘
高梨 直紘(たかなし なおひろ)

1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。

天文学普及プロジェクト「天プラ」代表
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム

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