シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

抜群に良い視力でみる宇宙

抜群に良い視力で宇宙を見ると、いったいどんなものが見えてくるのでしょうか?

視力が違えば、見えるものが違う

皆さんは視力、良いですか?私はとっても悪いです。ちっちゃい頃から悪く、物心ついたころから眼鏡が欠かせない生活でした。でも、眼鏡程度では(私には十分ですが)たいして見えないんですよね…。世界が一変したのは高校の時。初めてコンタクトに変えた時、教室の窓の外に見える木々の葉っぱの1枚1枚が見えるようになって、とても新鮮な驚きがあったのを覚えています(といっても、たぶん1.0程度ですが)。授業中に、机の下に隠した本も読める。感動でした。

視力が良くなることで新しく見えてくる世界がある。これは天文学の世界でも一緒です。望遠鏡がどれくらいの細かさまで見分けられるのか、その能力のことを分解能と言います。分解能は角度で表されます。例えば、日本の誇るすばる望遠鏡の分解能は、赤外線領域で0.2秒角。1秒角とは1/60分角のことで、1分角とは1/60度角のこと。つまり、1度の1/3600の大きさよりもさらに小さい角度しか離れていないものでも見分けることができるのです。視力に換算すれば、300!さっぱり想像つきませんが、なんとなくすごいのはわかっていただけるでしょうか。

望遠鏡の分解能は、口径の大きさ(と見る電磁波の波長)で決まります。鏡を使う望遠鏡ならば鏡の大きさで、パラボラアンテナで電波を集める望遠鏡ならばアンテナの大きさで決まります。大きければ大きいほど、分解能は良くなっていきます。しかし、鏡やアンテナのサイズをそのまま巨大化するには、技術的にも経済的にも無理があります。そこで登場した技術が、干渉計です。複数の望遠鏡を組み合わせて使うことで、あたかも1枚の巨大な望遠鏡のように使う技術で、これにより飛躍的に分解能を上げることが可能です。

VERAで見る宇宙

日本でもさまざまな干渉計が運用されていますが、その中でももっとも巨大な口径を実現しているもののひとつが、銀河系の3次元地図作りを進めるVERAプロジェクトが運用する干渉計です。水沢、入来、小笠原、石垣島にある電波望遠鏡を組み合わせて使うことで、2300キロメートルの望遠鏡と同じ分解能を達成しています。具体的に言えば、0.6ミリ秒角。視力10万に相当します。うーん、いずれにせよ想像できないすごさです。

これだけ視力が良いと、いったいなにが見えるのか。例えば、右の図は生まれつつある星を観測した例です。オリオン座KL領域の電波源I(アイ)と呼ばれる天体で、太陽よりもずっと重い星が誕生しつつある現場だと考えられています。青い点は手前側に近づいてくるガスの存在を、赤い点は遠ざかるガスの存在を表しているのですが、この観測結果は、この星の周囲に回転するガス円盤があることを示唆しています。このような細かい構造まで見ることができるのが、VERAをはじめとする干渉計の強みなのです。

VERAプロジェクトをはじめ、さまざまな干渉計が世界では稼働しています。いったいどんな世界を見せてくれるのか、今後の研究に期待しましょう。

※本コラムは、「本郷宇宙塾」11月の講演を参考に執筆しました。

高梨 直紘
高梨 直紘(たかなし なおひろ)

1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。

天文学普及プロジェクト「天プラ」代表
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム

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