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福島"食"の現場の最新事情。風評被害を乗り越え、食の安全性をどう担保するか ―「福島大学復興学×丸の内朝大学 連携ソーシャルプロジェクト」第2回

丸の内朝大学特別クラスとして、連続4日間の集中講義とフィールドワークで構成された「福島大学復興学×丸の内朝大学 連携ソーシャルプロジェクト」。復興学の概論を学んだ初日に引き続き、2日目のテーマは"食"。講師には、本田勝之助氏(有限会社会津食のルネッサンス代表取締役)と小山良太氏(福島大学経済経営学類)を迎えました。

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「地域プロデューサークラスの初代講師でもある本田さんとは、皆さんのなかにも一緒に会津でフィールドワークを行った人もいるでしょう。その時はまさか福島が1年後にこういう状態になるとは思いもしなかった。産業は今どうなっているのか。食と農のプロデュースの現場にいる本田さんにお話いただきます。小山先生からは、食の安全性をどう担保していくかについて。僕自身、話を聞いてとにかく衝撃的だった。なぜこんな話が世の中に伝わっていないのか。ぜひ今日皆さんに聞いてもらいたい」との本講座全体をプロデュースする古田秘馬氏のコメントより、講義がスタートしました。

×FUKUSHIMA
―クロッシングフクシマ? バッテンフクシマ?

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まず、本田氏が提示したのが"×FUKUSHIMA(クロッシングフクシマ)"。
「読みようによっては、バッテンとも読める。震災後の2011年4月経産省の呼びかけで福島に入ったが、東京では福島は入れる状態ではないという報道がされていた。海外ボランティアもほとんど入らないというなか、そこで普通に人々が生活しているのが不思議だった。彼らは見捨てられるのか、ともに復興を考えてくれるのか不安がっていた。(IT系コンサルティング会社の)アクセンチュアが福島の中長期的な支援を決定(6月には現地に事務所を開設)、NHKが来年の大河ドラマを『八重の桜』に変更するなど、その後を方向付けたのが同じ頃。以来クロッシングと読むのか、バッテンと読むのか、問いかけ続けてきた1年だった」

本田氏はこれまで、単に歴史としか捉えられてこなかった先祖伝来の田畑・海・伝統技術を遺産と捉え、懐かしさを覚える過去のものこそ未来へと残していきたいと"クリエイティング・ヘリテッジ"をキーワードに、最高品質の会津産コシヒカリ『会津継承米 氏郷』 など数々の地域ブランディングのプロジェクトを手がけてきました。
「継承米を一緒に作り上げてきた高級すし店は、私たちこそ福島の米を使って伝えていかなければと、震災後苦労しながらも使い続けていただいたが、今年の2月に打ち切りに。米自体が良くても、風評被害の矢面に立ってくれるパートナーがいても、取り扱いが難しいというのが現状。私たちにとって売り上げがどうこうというより、取り組み自体を資産と考えていたので残念だった」
とご自身のプロジェクトが直面した現実について語りました。

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震災後の"食"をとりまく福島の実情

「仲通り、浜通りは非常に厳しい状態、それには及ばないが会津も苦戦している。実は震災後、福島のJAの取り扱いは90%程度と思ったよりは落ちていないが、これには数字のトリックがある。打撃をもっとも受けたのが観光農園、ブランド品などのギフト用。従来はJAのルートにのらなかったものが売る先がなくなってしまったためJAに流入、その数字が上乗せされている。米に関しては全国的に価格が高騰しており、会津でも上昇。農家は早く売り切らないと怖いと手放しているが、まだ上昇が見込まれるのでJAが手元に持っていることも多く、西日本では出回らなくなってきているとの話もある。魚介に関しては、魚種がかなり限定された状態ではあるが、6月下旬に相馬漁港が再開。相馬漁港といって食べてもらえるか不安が残る。日本酒は、応援で買われた分もあって震災後105%程度と売上が向上し、堅調。ただこの春からは震災後の米を使ったお酒が流通するので、今後が気になる」
と分野ごとに説明。

「福島は従来一次産業の県で、加工品が少ない。生鮮はどうしても汚染イメージが強いので、非食品を含め、加工に力をいれていく。昨年の『東京デザイナーズウィーク』で皇室の帽子も手がける平田暁夫さんが、会津のからむし織を使った作品を発表。それ以来、クリエイターからこういう支援はできないかと要望をたくさんいただくようになった。ファッションジャーナリスト生駒芳子さんが会津塗りをはじめとした日本の伝統工芸などをパリやニューヨークで紹介、オロビアンコが日本酒メーカーのラベルをデザインするなど広がっている」
と前向きな動きが見られる一方、1年を経過したからこその新しい問題も。

「昨年は盛り上がった販売支援も、東京を中心に飽きられてきている。ひとひねり、ふたひねりした、フレッシュな切り口がなければ続かない。今年2月のスーパーマーケットトレードフェアで『MARE』というブランドを立ち上げた。シェフの監修のもと、15のメーカーと27品目の商品を開発し、ファッションに見立てて流通の棚を作る提案をした。例えば、カレーであれば BODY=ご飯、WEAR=カレー、ACCESSORY=チャツネ、UNDER=昆布だしといったように。バイヤーさんは、棚が楽しいからと商品を選び、裏を見て初めて"MADE IN FUKUSHIMA"と気付くが、それで難色を示す方はいなかった。魅力的な商品をいかに作るか、本質が問われている」

風評被害を乗り越え、"食"の安全性をどう担保していくか

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ここで小山氏にバトンタッチ。論点は、安全性をどう担保していくかへ。
「震災前の福島の農水産物の売上高は2500億。原発での損害額が約1000億(損害賠償請求額は625億円)ですから、4割減と落ち込んでいる。福島県内のJAの取扱高はそもそも集荷率が40%しかなかった。昨年は福島応援ということで、きゅうりやトマトなどの園芸品目では売り上げがあがっているものもある。ただし今年は、応援疲れ、やはり危ないのではという危惧と、それから小売も福島県産を仕入れなくても対応できるよう体制を変えてきているので、厳しいと見ている」

どうすれば現状を打破できるのか。
「まず必要なのは現状分析。農地一枚単位で汚染マップを作成する。私が今住んでいる近隣で調査をしても、作付けを禁止すべき5000ベクレルを超える農地から、日本の平均と同程度の農地まで差がある。にもかかわらず、地域として作付け可能となってしまう。農地ごとの汚染マップを作らないなかで、復興計画、販売戦略をやってもしょうがない。一番問題なのは除染計画。どこが汚れているのかもわからないのに一律に除染することでは効果が限定的になる。

次に、検査体制の法令制定。チェルノブイリでも事故後すぐにできた法令や緊急事態体制が、1年3ヶ月たった今もなく、予定もない。水田が汚染されることなどをまったく想定していない原子力災害特別措置法だけで対応している。他地域や自主検査では100ベクレルをND(検出限界値)とし、福島県は1ベクレル単位まで検査することが可能。それを同じNDとして出荷する。実は福島から遠く離れた地域でも中山間地域の特殊な条件の水田で新基準値100ベクレルに近い米は確認されている。様々な研究機関でも調査しているが、公表義務がないので公表していない。そういうことを知ってしまうと消費者はさらに不安になってしまう。(検査体制を統一する)法令ができれば、今の混乱の半分くらいは収束に向かうと思う。
最後は、国、県、市町村の役割分担。同じ検体をそれぞれが何度も測るのではなく、農協は農地を、市町村が農産物をスクリーニング、数値のでたものを国や県で最終的にモニタリングするなど分担することで、だいぶ変わってくるのではないか」

汚染マップがすべての復興計画のもとになる

「とにかく必要なのは農地1枚ずつの汚染度がわかる汚染マップ。原子力災害が起こった国では必ず作成している。ベラルーシは汚染度別に色分けし、高いところから作付け制限、非食物栽培、加工(セシウムを除去する)、セシウム蓄積度の高い作物の制限など、レベルを分けて管理している。そして汚染マップができると10年後などのシミュレーションが可能になる。今は避難している方も、シミュレーションをもとに、今小学生のお子さんが中学生になるころには戻れるねとか、何年後には農業を再開しようとか計画をたてることができる。また、日本ではセシウムだけで汚染を判断しているが、プルトニウム、ストロンチウムの汚染マップも作る必要がある。会津ではセシウムは出てないが、プルトニウムやストロンチウムが把握できていないからと修学旅行がとりやめになるなど、調査の不備が風評を拡大している。昨年福島大学も協力し伊達市霊山小国地区の住民組織が日本初の汚染マップを作成・公開した。検査は簡単で空間線量を測定、位置情報よりマップに落とし込める。この方法で533ヘクタールを1週間、検査機代をのぞけば5万円くらいのコストでできた。福島県の3分の2は、今年の秋までになんらかの形で汚染マップができる。やろうと思えばできる」

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「汚染マップを作成、汚染度により作付けを制限、農産物の段階でも検査。これがどう考えても理にかなっている。自由に作っていいですよ、流通の段階でサンプル検査しますという統計学上精度の落ちる検査では、昨年のように安全宣言と出荷制限を繰り返すを可能性もあり信頼されない。でも消費者が求めているのは放射性物質が含まれていない食品。本当は福島県という産地が嫌なわけではない。とにかく汚染マップを早くつくることが重要です」
と汚染マップの必要性を強調し、講義を締めくくりました。

最後は質疑応答。
―福島では消費者向けの教育、数値の説明などはどういう風にされているのか?
「文部科学省の副読本などはあるが、きちんとした情報を提供する場はない。震災後ベラルーシやウクライナを視察したが、日本より教育は浸透している。が、みんなで物理学の勉強をするのも限界がある。セシウムこれくらいだったら安全だといわれても納得できない人は納得できない。不毛な議論ですよね。だから汚染マップがある。アウトプットの段階で検査するなんて不可能ですから。生産段階で限りなく0でやっているというほうが早い」

―汚染マップをつくる動きを妨げている課題は?
「復興庁はやりたいとは言ってはいるが動きはない。はっきりさせると住めない、ここでは農業できないなど確定し、損害賠償が発生するのがネックになっているのではないか。ベラルーシ、ウクライナには当時、社会主義で私有財産がなかったので、損害賠償額は0です」

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など次々と質問が出るなか時間いっぱいとなり、この日は終了。

講義やフィールドワークを経て、"よそ者"であるこの場から、どんなアイデアが出てくるのか。
丸の内地球環境新聞では、今後もプロジェクトの動向に注目していきます!

福島大学復興学×丸の内朝大学
連携ソーシャルプロジェクト 第1弾

  • 講師:丹波史紀、竹井智宏、木戸寛孝、本田勝之助、関昌邦、深田智之、古田秘馬
  • 実施:株式会社umari
  • 日程:全5回(60分) 7月2日(月)-8(日) 7:15-8:15 ※7月6日(金)を除く
  • URL:http://asadaigaku.jp/fukko.html

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