イベント地域プロジェクト・レポート

【レポート】求められる"橋渡し"の力

丸の内de地方創生を考える -地域と都市のブリッジ役を担うとは- 1月8日開催

現場発、個人へ

これからの時代の新しい地方-都市関係とはどのような形なのでしょうか。従来の"地方から収奪する都会"ではなく、東京と地方を対等な地位で結びつけるにはどうしたら良いのでしょうか。これは3×3Labo、エコッツェリア協会が近年重点的に取り組んできた課題です。そしてまた、これはサステイナブルな都市に求められる機能でもあります。

1月8日に開催された特別イベント「丸の内de地方創生を考える――地域と都市のブリッジ役を担うとは――」は、その課題を「人」にフィーチャリングして開催されたイベントです。企業やNPOなどの団体を通してではなく、「わたし」が地方と都市の橋渡し役=ブリッジになるにはどうしたらよいのか。これは素朴ですが深いテーマで、そしてきわめて時宜にかなったテーマのように思われます。それは、参加者は150名の満員御礼、そのうえ半数以上がTIP*S/3×3Laboが初めてで、「地元や地方のために何かしたい」というモチベーションの高い人々であったことからもうかがえるのではないでしょうか。

講演ゲストはいずれも東京を拠点に地方へと積極的に関わっている現場のプレーヤー。ANA総合研究所の池野香織氏、一般社団法人コミュニティキッチンの岩渕美華氏、中小企業基盤整備機構の岡田恵実氏の三氏が登壇。また、地方課題で著名なNTTデータの吉田淳一氏が総括的なプレゼンテーションを行いました。

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ANA総合研究所の展開力

ANA総合研究所の展開力

地域とのかかわり(ANA総合研究所HPより)

ANA総合研究所の池野氏は、2014年7月から毎月1週間を宮崎県小林市で出張として過ごし、同市のシティセールス活動を支援しています。航空会社であるANAは、「地方の衰退によって人の都市圏と地域間の流動が停滞すると、ANAのビジネスにも限界が来る。地域が活性化しその魅力が高まれば、人やモノの交流が生まれ、国内の都市圏や海外と各地域との流動も増やすことができる!」と考え、「"地域への交流・居住人口を増やしたい"という点において、地方課題とANAの課題が一致」したため、自治体からの要請を受けて、地方創生にコミットするようになったそう。これまでに全国の42の自治体と協働した実績があり、現在も14自治体に研究員を派遣し活動を継続しています。池野氏は、小林市で取り組むシティセールスの事例と、ブリッジ役として必要な資質について解説しました。

ANA総研・池野氏池野氏の小林市での主な業務は「地域資源の活用」。始めた当初、「地域資源はいっぱいある」が、「未整理でアウトプットがない」のが課題でした。そこで、地元店舗を巻き込んだPR事業「スイーツ&フルーツめぐり」、新しい特産であるチョウザメを対象にしたモニタリングツアーなどを仕掛けました。これらは整理された形で各ターゲットに情報発信、誘客することで一定の成果が上げられたと解説。また、18歳以上を対象にした「小林ファンサポーターズクラブ」を設立しています。これは同市のファンクラブで、定期的に市民・出身者・つながりのできた人への地域の情報を発信し市へ愛着を持ってもらうツールとして機能します。関係人口、交流人口を増やす地道ですが確実な作業を通じて、小林市のプレゼンスが向上している実感も得られているようでした。

こうした活動を通して、ブリッジ役として「これまでの日常の業務で学んだことが活かせる」と実感したと話しています。池野氏はセールスマーケティングの出身で、顧客と向かい合うのが主な業務でした。現在取り組んでいる"シティセールス"も、地元民、観光客を「顧客」とするセールスプロモーションに他なりません。 その上で、ブリッジ役としての注意点として「お客様視点を忘れない」「素直な質問をぶつけてみる」「都度『なぜやるのか』に立ち返る」「とにかく話を聞いてみる」という4点を挙げました。特に「話を聞く」という点については、「目指していることは同じでも、やり方が違うことは多い。話をよく聞くことで、共通の認識につなげることが大切」と語りました。

また、もう1点のポイントとして「PDCAサイクル(plan-do-check-actサイクル)を」。「企業では当たり前にやることかもしれないが、自治体では"やりっぱなし"になることが多い。次のアクションを起こすためにもとても大切」と訴えました。

「食」が取り持つ新しい関係性

横浜BUKATSUDOでの活動の様子(コミュニティキッチンのFBより)

続いて登場したコミュニティキッチンの岩渕氏は、これまでも当サイトで取り上げてきたように、丸の内朝大学の東北復興・農業トレーニングセンタープロジェクトからスピンアウトしてきたプロジェクトで、今回のトークでは、コミュニティキッチンの活動概要とともに、岩渕氏の個人的なモチベーションの変遷なども語られました。

コミュニティキッチン・岩渕氏コミュニティキッチンとは、「みんなで作って、みんなで食べる」形のコミュニティ体験で、料理を「作る」と「食べる」体験を通し、参加者同士や産地との交流を生み出すもの。生産者と消費者をつなぐコミュニティ、あるいはママ友、オフィスワーカー、シニアコミュニティなど既存のコミュニティとリンクすることでコミュニティを強化・活性化させる機能を持ちます。これまでに企業やメディアと連携した活動も行っています。

地方との連携では、長野県の体験シェアスペース「銀座NAGANO」での朝活「しあわせ信州朝クラス」なども行われていますが、もっとも深くコミットしているのが「遠野パドロンプロジェクト」です。東北支援の一環で岩手県遠野市で『遠野パドロン』を栽培・販売している「遠野アサヒ農園」を知り、そのプロモート活動メンバーとして参画。パドロンはスペインのパドロン地方で作られるトウガラシの一種。現地では素揚げしたものに塩を振って酒の肴に食べるのが一般的で、キリンシティなどの飲食店のほか、岩手県内のイオン、都内のトーヨーカードーなどの小売店など販路を次々と開拓、現在は増産に向けた新規就農者誘致などにも取り組むほどにまでなりました。また、遠野が長年ホップの産地であることから、遠野を"ビールの里"として定着すべく、昨年より進行中のまちづくり事業「Tono Beer Experience」も紹介され、その一環として東京からのツアー客が地元の人と地元の食材を使って調理を楽しむコミュニティキッチンの事例も紹介しました。

こうした活動を通し、岩渕氏は地方での活動ポイントを5項目、「明確化すべき」ポイントを3項目挙げました。
活動ポイントは
・東京、地域の魅力を客観的に分析する
・自分の強みを知る
・志が同じ仲間を探す
・まず動いてみる、そして続ける
・ビジネス化を目指す
・飲ミュニケーション
いずれも重要なポイントであることは言うまでもありませんが、3点目が参加者には刺さった様子。「地盤のない地方に行って、いきなり活動するのはとても難しい。だから、東京で同じ考えを持った仲間を集めることで、活動の基盤にすることができる」という岩渕氏の言葉が、これから地方に関係した活動をしたい人にとって、強力なアドバイスになると言えるのではないでしょうか。

また、明確化すべき3点として、
・ビジョン、自分が得たいもの
・活動範囲(予算を含む)
・関与ボリューム
を指摘。関与ボリュームについては「チーム内で、ボランティアで活動する人はボリュームが小さくなる。そこのバランスとチーム感を取る柔軟さが必要」と話しています。

コミュニティキッチンは、復興トレセンをベースにするとはいえ、縁故のない遠野や長野と連携するという難しい取り組みを成功させてきた珍しい事例と言えるでしょう。それだけに参加者たちも非常に熱心に聞き入っていた様子でした。

"思う"ことと"行動"すること

Hi-cube関連で岡田氏が参画した花の舞酒造の微発泡酒「ちょびっと乾杯」のファンサイト

中小機構の岡田氏は、TIP*Sの創設メンバーのひとりでもあり、地方と都市とのリレーションについては一方ならぬ思い入れがあるようです。「東京と地方の対等な関係」は岡田氏が常に念頭に置いているキーワードであり、地方創生には欠かせない視点だと言えるでしょう。岡田氏は、2006年にオープンした浜松市のインキュベーションセンター「浜松イノベーションキューブ(HI-Cube)」に1人で派遣され、「47室をすべて一人で埋める」をミッションに取り組んだ活動の様子を紹介しました。

中小機構・岡田氏結果として、29社で47室すべて埋まりましたが、そのプロセスのポイントは「まず仲間を作ること」と、「面と点を押さえること」であったと岡田氏は振り返ります。「仲間」とは「フットワークの軽い地元金融機関の職員」「地元出身の大企業OB」といった、「個人」を集め、企業入居促進のチームを編成するということ。そして「面と点を押さえる」とは、面=地元金融機関や、税理士・診断士・弁護士といった士業の団体、商工会議所、大学研究機関といった団体組織、点=企業内個人、ベンチャーなど個人で活動している人々という、多彩な陣容を揃え、つなぎ合わせていくということ。「私自身はエンジニアではないので技術的な支援はまったくできない。だから、自分自身がハブとなって、ネットワークを作ることを心掛けた」と岡田氏。

「つなぐだけではつまらない」と、具体的な製品開発、マーケティングの手伝いをしたエピソードも語られましたが、それも含め、「専門家でない私が、地域のために働くうえで学んだこと」として、岡田氏は5項目を挙げています。
・まずは地域にどっぷりつかること
・応援したい人が、応援してほしいと思っているとは限らない。距離感を図ることが重要
・応援する人は自分だけではない。つながりと連携を大事にし、その中で自分の役割、できることを探す
・「支援」ではなく一緒に成長する「仲間」だと思うこと。当事者でなければ完全に同じ視線に立つことはできない。それを理解したうえで、ぎりぎりのところでバランスを取ること
・インキュベートされるのは「自分」だと理解すること

また、プライベートでは、福島県浪江町の「なみえ焼きそば」の活動支援に携わったことを話し、そこから学んだこととして、さらに6つのポイントを提示しました。
・自ら行動すれば何かが動く
・人が集まるからこそできることがある
・当事者にしか分からないことがある
・べき論を振りかざすべきではないときがある
・相手の気持ちに寄り添い、理解しようとすること
・「ふるさと」「まち」「ちいき」の重みがあるということ

そして最後に「思いと行動があれば、地方-東京という対比概念ではない関係値が作れるのではないかと思う」と希望を語り締めくくりました。

"コト・コミュニケーション"

当日のプレゼン資料より

NTTデータの吉田氏は、その筋で「吉田劇場」と呼ばれるドラマチックなプレゼンテーションでよく知られています。この日のプレゼンでも、映像を駆使し、地方の持つ課題と、その解決策として「コト・コミュニケーション」が重要ではないかと、地方創生における技術活用の方法を示唆しました。

NTTデータ・吉田氏NTTデータは、情報インフラのユーティリティ企業として各地の自治体と深い関係があります。経産省、観光庁のプロジェクトに吉田氏が参画しているのもそうした背景が。「今は主にインバウンド関連で日本各地で年間70回以上プレゼンを行っている」と吉田氏。そうした経験から見えてきたのが、「地方は東京(都市)と結びつきを強めようとしている」という強い傾向です。昨年3×3Laboで開催された宮崎ハッカソンで、小林市の肥後市長が語ったように、「都会とどう結びつくかが地方創生のもっとも大きな柱になる」そうです。

その「結びつく」形として、ICTが果たす役割は大きいと考えられています。

吉田氏は、さまざまな企業や団体が取り組んでいる「結びつき」のための技術や事例などの数々を紹介。オンラインで北海道の市場とつないで販売する吉祥寺の魚屋さん、小林市の農家民泊など、その例は枚挙の暇がないほど。吉田氏が強く訴えるのは「従来のICTはパケットを送るだけだった。しかし、これからは、"気持ち"をパケットにして送るということではないだろうか」ということ。キーワードは「空間を共有する」。それは「体験の共有」ということでもあるのかもしれません。そうした新しいICTのカタチを、吉田氏は「コト・コミュニケーション」と呼ぶのです。

そして最後に、「そうしたライブなコミュニケーションを通した地方創生への取り組みを、今後新しくできる3×3Lab Future(大手町タワー・JXビル)で協業していきたい」と今後の展望を語り、来場者へも参加を呼び掛けました。

「個の力」をすくい上げるために

4名のトークのあと、合間合間に行われた各テーブルでのワークで出された印象に残った点、質問したい点を掲出し、ピックアップして回答するというセッションも行われました。話題はやはり、どうやって地元に入っていくのかというアプローチ方法、予算的な問題に集中しました。アプローチに関しては、登壇者が口を揃えて指摘したのがいわゆる「飲ミニュケーション」。特に岡田氏は、ある企業の社長とは、3回目の飲みの場で初めて口をきいてもらえたことなどを話し、懐に入っていくことの難しさと大切さを話しました。

今回参加した人の多くは、冒頭でも挙げたようにTIP*S/3×3Laboが初めて。終了後に聞いてみると、「個人的に地方課題に興味があって貢献する方法を模索していた」「実家は農業をしており、何か東京から手助けする方法を探したかった」という、"個人"が圧倒的に多いようでした。震災時にボランティアに参加する個人が大勢現れたように、地方創生も企業や団体ではなく、このような"個人"が直截的にアプローチする時代になってきたのかもしれません。今後はこのような個人を、しっかりと地方へのアクセスへと導く方法などが問われるようになるのでしょう。

吉田氏は、こうしたモチベーションの高い個人が多く現れてきたことについて「企業や団体を通して地方創生に参加する人とは入口が違い、ヒューマンな気持ちで地方創生に臨んでいるのだと思う。今後の地方創生では、そのような高いモチベーションを持った人々の活躍が期待される」と指摘しています。

ANA総合研究所、NTTデータ、コミュニティキッチン、中小機構という今回の登壇者たちの組織は、すでにさまざまな地方にコミットしており、さらなる都市とのリレーションを期待しています。今後、TIP*S/3×3Laboで、そんな思いをすくい上げていくイベントをぜひ開催してほしいと思います。


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