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【レポート】地方に必要なのは「ハレの日」

「丸の内de地方創生を考える」vol.2 函館“ハレの日”ツーリズム 6月9日開催

2016年度の予算問題が片付き、何かと話題になった地方創生も一段落しましたが、今なお地方創生、地方活性化に関与する企業、団体、人は多く、こうして地方創生問題に"留まる"人は「本物」と言って良いように感じられます。もちろん、丸の内もそのひとつと言って良いでしょう。6月9日に3×3Lab Futureで開催された「丸の内de地方創生を考える」の第2回目は、函館がテーマ。函館は、全国的に見ても"衰退"の著しい都市であり、その分、その流れに抗う動きも早くから始まり、意欲的な取り組みが続いている"本物"のエリアでもあります。

この日のインプットトークを行った橋口奈央氏は、教育事業に携わる傍ら、「函館ブライダル・ロケーションフォト協議会」の世話人(副会長・事務局運営)を務め、函館の活性化に尽力しているプレイヤーの一人。この日のイベントは、ブライダルを軸にした函館の活性化のため、丸の内のビジネスマンから、広く知見を集めるのが狙いで、インプットトークの後は、ワークショップで函館活性化のアイデアが多数創発され、次のアクションに向けたきっかけが得られたようでした。ワークの後は、函館の産物を使った料理による懇親会も行われました。

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函館を通して地方創生の課題を浮き彫りに

函館を通して地方創生の課題を浮き彫りに

橋口氏は、函館市職員からITコンサルタントに転身、東京で活躍した後、2011年から函館に戻り、教育コンサルティングの株式会社Flair Consulting(フレアコンサルティング)を設立、教育事業とともに地域課題解決、地方創生のプロジェクトに従事しています。

橋口氏冒頭、氏は北海道、函館の現状のポイントを整理しました。それによると「北海道は広い!ということをまず知ってほしい」。北海道は非常に広く人口密度も極めて低いのが特徴です。「距離の問題もあって北海道内での地域間連携は容易ではない。函館からみると青森のほうがはるかに"近く"連携が取りやすい現実がある」と橋口氏は指摘します。函館-札幌間はJRで4時間、車では4時間10分、函館-小樽間は同5時間、4時間。対して函館-東京間はJRでは5時間、飛行機なら1時間25分。青森間はJRで2時間、車とフェリーなら4時間30分という距離です。市場開拓や連携を求めるなら、パイの大きさや潜在的可能性も鑑みるに、本州という選択肢は決しておかしな話ではないわけです。

また、北海道内の都市では、函館は特に人口減少率が高く、生活保護受給者数も多いなど、経済的な衰退が顕著であることを指摘。そんな中、函館ブライダル・ロケーションフォト協議会の函館活性化は「"新しい地域資源を作り出す"のではなく、地域資源の見直しから始まった」と話します。函館といえば五稜郭や「100万ドルの夜景」などが知られ、横浜、長崎とならぶ明治の開港都市としての歴史もあります。そんな資源を再発掘したのが最初の取り組み。そんな中、橋口氏らは函館の地域資源の他地域との差別化ポイントを、「コンパクト」「多様」「歴史」「山海の幸」「四季」と整理。「五島軒などの歴史ある建築物が、実は"ロリータ"に合うのではないか」など、さまざまな角度から「魅力」を検討したそうです。

そして、「今日一番言いたいのは、地方に『ハレの日』を、ということ」と橋口氏。「衰退していく一方で、楽しいことが少なくなっていくのが地方の現状。そんな中で結婚式のようなハレの日があることが、大事なことではないか」とし、そこから、函館ブライダル・ロケーションフォト協議会が設立された経緯を紹介しました。 函館ブライダル・ロケーションフォト協会では、函館の資源を活用したブライダルセレモニー、写真撮影ほかさまざまなパッケージを提供しています。国内だけでなく、増加するアジア圏からの観光客も視野に入れています。

ブライダル・ロケーションフォト協会のサイト

こうしたターゲット層に対して、協議会では①「"ハレの日"ツーリズム戦略」、②「オリジナル化戦略」の2つの戦略を立てています。
②は、函館でしかできないユニークなアイデアをプラスしていく手法です。オリジナルの婚姻届、受理証明書を発行し、市長、副市長のような立場のある人が手渡しする「交付セレモニー」などを行うというもの。「新しい婚姻届を作るなど、予算がかかるものは、行政が動きにくいので、私達で作って使ってもらうようにした」そうで、行政頼みではない、民間の自主的な活動が地域振興を支えていることを紹介しました。

橋口氏は、「若者にいきなり移住、定住してもらうのはやはり難しい。まずハレの日で来てもらうだけで、地域の人が元気になると思う。そこから始めたい」と締めくくりました。

「地方」が戦う「相手」は誰なのか

インプットトークの後は、各テーブルでの感想シェアを行い、エコッツェリア協会の田口真司氏のファシリテーションでパネルディスカッションへ移りました。

三戸教授パネルディスカッションには、長崎県立大学経営学部長の三戸浩教授が登場しました。三戸教授はエコッツェリア協会、3×3Lab Futureの活動に理解を示し、積極的に参画してくれている学識経験者の一人。

パネルディスカッションの冒頭で感想を求められると、「アベノミクスの3本目の矢は、人がいなければ生まれない。そしてそれは地方から始まるべきもの。しかし、地方は既得権益で変わろうとしない人が多い。そんな中で、橋口さんのような若い女性が世話人をやっていることに、時代の変化を感じ、関心を持った」とひとこと。また、地方創生のムーブメントが、「自分たちだけが生き残ろうとし、他の地域をライバル視するのは違うのではないか」と疑問を呈し、「"地方"と"地域"は違う。これからは地域という生活圏に根ざした新しい発想が求められるのではないか」と提案しました。

これを受けてファシリテーターの田口氏から「なぜ世話人を引き受けたのか」と問われると、橋口氏は、「地域企業が集まって自分たちでやろう」と始まった取り組みであったことを紹介。そして自分自身が参画したのは、「私自身チャレンジが好きで、無理だ、誰にもできないと言われるとやりたくなるということもあった」そうです。

地域間のライバル意識について問われると、「敵視するのではなく、お互いを高め合うライバルは必要」としつつも、北海道内では、近隣の都市とは成立過程の違いから住民意識に大きな違いがあり、地方創生のやり方にも相違があり、解決すべき課題のひとつになっていることを明かしました。

このコメントを受けて三戸教授は、自身が経営学部 学部長を務めている長崎県立大学近くにある、波佐見焼の産地の主要プレイヤーたちが、月1回の朝食会を持つことで、意思の疎通を図り、地域としてのブランド化と生産力強化につながった例を「非公式組織が公式組織を作り、動かした格好の例」と紹介。そのようなチームに大学も参画し、地域のプレイヤー・行政とともに三者で新たな視点を切り拓く活動を広げたいと希望を語りました。

ユニークなウェディングは函館で!

パネルディスカッションの後、各テーブルで「3泊4日のウェディング、どんなプランだったら函館を訪れるか?」をテーマにワークショップに取り組みました。熱気のある議論が各テーブルで交わされ、全体シェアでは多くのユニークなアイデアが発表されています。

その一部を紹介すると「海上ウェディング」「新郎新婦の両親にも"結婚式"をやってもらい6人で函館を歩くツアー」「奉行所ウェディング」などなど。函館の山海の幸をうまく使いながら、キラーコンテンツとしての"やせるウェディング"のアイデアなども出されました。

発表を聞きながら熱心にメモを取っていた橋口氏は「地域資源を考えなおすところから始めたが、そこをさらに深める良いアイデアをたくさんもらえた。ひとつひとつ、3年くらいかけてすべて実現したい」と今後の活動に大いにヒントを得ることができたようでした。また、「場所にこだわりすぎることなく、いろいろな資源を組み合わせて使うことも考えることもでき、良い勉強になった」と今回のイベントの成果に満足した様子でした。

地方創生は、一時のブームではなく、腰を据えた長い取り組みでなければなりません。「丸の内de地方創生を考える」は、そんな腰の座った取り組みとして展開していくことになりそうです。今後どんな地域が登場し、どんなテーマを投げかけてくれるのか。今後の活動に期待しましょう。

懇親会では、函館の産物を使った料理や、ハレの日にちなんだ"おこわ"などが供された


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