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【レポート】地方と都市との新しい関係へ

「あなたのアイディアで宮崎の魅力を伝えていこう ―東京と地方を編むアイディアソン」レポート

"新しい"地方創生って何なのさ

地方創生の新型交付金は、予想を下回ることになりましたが、だからといって地方創生という課題の重要度が減ったわけではありません。むしろ増す一方だといってもいいでしょう。そして、先日は昨年の補正予算から300億円が先進的取り組みを行う自治体が交付されることになりましたが、そもそも「新しい」「先進的」取り組みとはいったい何でしょうか。そこに頭を悩ませている自治体も多いのでは。

その解のひとつかもしれないのが、先日3×3Laboで開催された特別イベント「あなたのアイディアで宮崎の魅力を伝えていこう ―東京と地方を編むアイディアソン」でした。あのフランス語めいた移住促進CM「ンダモシタン小林」で有名になった九州・西諸県(にしもろかた)地区の小林市をテーマに、3×3Laboに集まるビジネスパーソンらとともに、小林市を盛り上げるためのアイデアソンが開催されました。東京と小林市、おなじく西諸県地区のえびの市も結ぶ三次元中継も交え、ITも活用した新たな地方創生の可能性を探りました。

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小林市長、語る

小林市長、語る

講演する肥後市長

冒頭は、小林市の肥後市長からのプレゼンテーション。行政トップがこうしたイベントに出てくるのは大変珍しいように思います。それだけ小林市全体が盛り上がっており、行政の対応もきわめて柔軟になっているということでしょう。首長が出てくるとそれだけ場も引き締まり、盛り上がりも増します。おかげで一本筋の通ったアイデアソンになったと言えるのではないでしょうか。

小林市・肥後市長肥後市長からは、小林市が豊かな山野と水資源に恵まれていること、5回日本一に輝いた星の町であること、滋味にあふれた果実やチョウザメ、宮崎牛などの農畜産物、水産物が収穫できることなどが語られました。CMを見ていた人にはピンと来るところの多いプレゼンです。火山地帯にあることから温泉も多いこと、ICTの活用や、パラレルキャリアの受け入れをするなど、外部からの移住・定住の環境整備も充実しているそうです。その中で市がもっとも誇るのが「人」。「町を歩けば必ず挨拶を交わす。官民一体となった自治運営を実践しており、人々はみな優しく穏やかでおおらか。始めて訪れる人でも笑顔で迎えてくれる」と肥後市長。

移住促進の取り組みのひとつに、小林市、えびの市、高原町の西諸県の三自治体で設立した「北きりしま田舎物語協議会」があります。農家民泊を推進するもので、農業体験を通して交流人口を増やし、移住・定住へとつなぎたいという考えで、今年は1361人の受け入れをしており(予約含む)、来年には2500人を超える見込みだそうです。関西からの修学旅行生の受け入れが多く、「最初は"農家に泊まるなんて"とイヤ~な顔をしていた子たちが、最後はお別れで泣いてしまうくらい深い付き合いをしている」とそうです。

そして、小林市もまた「"消滅可能性都市"のひとつ」。「有効求人倍倍率は高いが、特に医療・福祉で人材が不足している。地方創生で謳う"まちづくり"として、中心市街地の活性化とともに農村の活性化にも取り組んでいるが、いまの課題は"都会とどう結びつくか"ということ。このアイデアソンもその一環。田舎と都会がどうつながり、交流人口を増やし、移住・定住の促進を図れるのか。今日はみなさんのアイデアをたくさん頂いて帰りたい」と会場に呼びかけて締めくくりました。

地方のコアコンピタンスと情報発信

続いてのプレゼンテーションは、NTTデータの吉田淳一氏。吉田氏は、日本各地の自治体へのシステム提供というNTTデータの本業を続けるうちに、いつしか地方創生の立役者の一人になった人物で、今回のアイデアソンも氏の仕掛け。プレゼンでは本業としての「コミュニケーション」を軸にした地方創生の可能性と考え方のフレームワークを提示しました。

NTTデータ・吉田氏まず、観光が「その地でしか見ることのできない光、お宝、魅力を見に行くもの」であると定義し、西諸の魅力、コアコンピタンスを「人」であると定義。「今、中国から"爆買い"の観光客が押し寄せているが、それは日本を巨大なショッピングモールに見立てているにに過ぎない。そうではなく、人と人が接する観光のありよう、それを"にしもろ流"の観光として提示できないか」と提案。

そして、観光の四象限として「魅せる=情報発信」「ウェブコミュニケーション=相互会話と認識」「体験と感動」「伝える(継承)=体験の口コミ」を挙げ、特に近年は情報発信、口コミが大きな役割を果たしていると指摘。その一例として北海道の旅情報が台湾のテレビで放映されたことで、観光客が10万人から100万人に増加した例などを提示。「通信の速度が大きく改善されたことで、距離と時間を感じさせない情報発信が可能になった」とし、今後の情報発信は、「情報をパケットで送るのではなく、"気持ち"をパケットにして送るものになるだろう」と指摘します。そんな"気持ち""想い"を伝えるコミュニケーションの例として、ブラジルの英会話学校が行っている「Speaking Exchange」があります。英語を学びたいブラジルの若者が、モニターを通してアメリカの施設で暮らす老人たちと英語で会話するというもの。最初は教科書通りの会話が淡々と進むが、いつしか若者たちは日々の暮らしや悩みのことを、老人たちは過去の思い出について語り出すのです。ネットを介して想いと想いが交錯する世界がそこにはあります。
「西諸ではスマートタウン化をめざし、全戸でWi-Fiを導入し、町中でITインフラを整備しつつある。その環境の中で新しい地方創生の形を生み出すことはできないだろうか」と吉田氏は参加者に提案しています。

3次元中継で地方と地方と都市をつなぐ

三次元中継に見入る参加者

ITの進化は加速しており、ITリテラシーの高くない人々でも、容易にネットでコミュニケーションを図れる時代になってきました。その証左のひとつとして、会場では、小林市、えびの市をつなぐ3次元中継をウェブで行いました。

小林市からは、中学生が登場し、合鴨農法で使われた鴨をさばき、鍋にして食べるさまをレポート。進行の関係で、鴨をさばくその瞬間を見ることはできませんでしたが、吉田氏、肥後市長らが中学生と対話、おいしそうな鴨鍋を見た会場の参加者たちからは「おいしそう」という声が上がりました。

えびの市では、村岡市長がカメラの前に立ち、肥後市長と対話。小林市の様子も眺めながら、西諸の発展のために今後も手を取り合って取り組んでいくことを誓い合っていました。

本気の地方創生アイデアソン

整理された小林市の魅力、課題を見ながらテーマを選ぶ

後半のワークショップでは、丸の内プラチナ大学でも教鞭を執る岩井秀樹氏(キュムラス・インスティテュート代表取締役、一般社団法人こはく代表理事)がファシリテーションを行いました。

キュムラス・インスティテュート、岩井秀樹氏まず、市長、吉田氏のプレゼンを聞いて、各人が小林市の課題と魅力を列挙。その後、張り出された課題を精査して、各テーブルで扱う課題をひとつに絞り込むという作業。「課題はキーワードだけにしておかずに、ひとつの短い文章にまとめること」と岩井氏。文章化することで"誰に/何に対するどんな課題なのか"が明確になります。「その後のアイデア出しでも、具体的なイメージがしやすくなる」のです。

テーブルの数は14。各グループには『西諸弁ポスター』が1枚ずつ配布されており、それがグループ名にもなります。課題の発表では、「観光のターゲティングができていない」「移住対象者の絞り込みができていない」「定住後の生活がイメージできていない」「イメージは先行しているが、現実的な差別化ができていない」など厳しい指摘が挙げられました。

こうして挙げられた課題の解決方法を考えるのがアイデアソンの本番。岩井氏は、課題解決のスキームとして、「手段1」=小林市の魅力と、「手段2」=吉田氏が挙げた観光の4象限を挙げ、「課題×手段1×手段2と掛け合わせて考えてほしい」と呼びかけます。これは思考のフレームワークで、3×3Laboに集う面々なら、そんな枠組みがなくても考えられるのでは?と岩井氏に尋ねると、「小林市の魅力という"今あるもの"を起点にしなければ、継続的でリアルな取り組みは生まれない」。まちおこしでよくある、華やかだが地に足のつかない取り組みでは、一時的な打ち上げ花火で終わってしまうのです。みなが知る地元の魅力からスタートすること。それが継続的な地方創生の鍵のひとつなのです。

新しい地方と都市の関係へ

料理の説明をする中村氏

この後、アイデア出しとブラッシュアップに各テーブルで取り組みました。出されたアイデアを張り出し、肥後市長に確認してもらいました。肥後市長は「たくさんのアイデアを出してもらって非常にありがたい。これまでもいろいろやってきたが、まだまだ小林市としてのストーリーに欠けていたようだ。今後は、いただいたアイデアをどう具現化するかを課題に取り組みを広げていきたい」と参加者に謝意を述べ、アイデアソンは終了となりました。

その後、小林市の地場の食材を使った食べ物、九州では欠かせない芋焼酎による懇親会も行われました。料理のプロデュースは、「大丸有つながる食プロジェクト」プロデューサー、東京農大客員教授、6次産業化プランナーの中村正明氏。「里芋の味噌和え」「和風ミートボール」「地鶏のハーブソルトソテー」など、素材の味を生かした料理を提供し、会場を盛り上げました。

今後は、主催のNTTデータと3×3Laboサイドでも、アイデアを具現化するハッカソンやサービスプロトタイプにつなげるプロジェクトを展開していきたい考え。これまでは地方-都市の対立構造の中で語られてきた地方創生と都市の関係であったものの、ここからは新しい都市と地方の関係が立ち上がってきそうです。大丸有では、つながる食プロジェクトに見られるように、地方と都市の新しい関係を長く模索してきていますが、ここに来て、また新たな局面を迎えることになりそうです。TIP*Sでも中央の企業が集まり、全国の中小企業を支援する取り組みを行っていますが、大丸有から、都市-地方創生の新機軸が生まれることになったら、と考えると楽しみです。


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地方と都市との新しい関係を築く

「地方創生」をテーマに各地域の現状や課題について理解を深め、自治体や中小企業、NPOなど、地域に関わるさまざまな方達と都心の企業やビジネスパーソンが連携し、課題解決に向けた方策について探っていきます。

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