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【スペシャルレポート】工場の祭典 見学ツアー&ワークショップ

10月6日(木)~9日(日)燕三条・工場の祭典

今年も行ってまいりました、燕三条「工場の祭典」。今回は、事前のプレイベントを受けて参加希望者が各自で工場の祭典を視察。その後、10月7日夜に集合し、ワークショップを行うという二段構成です。一般からはTIP*Sの参加者、3×3Lab Futureの個人会員を中心に10数名が参加、事務局からは、中小機構・TIP*Sの岡田氏、越智氏、エコッツェリア協会からは事務局長の稲富氏、田口氏ら7名が参加しました。事務局メンバーが7日午後から行った工場の祭典の視察の様子、夜のワークショップの様子をレポートします。

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水性塗料で勝負する稀有な板金塗装――ヤマダ・ガレージ

水性塗料で勝負する稀有な板金塗装――ヤマダ・ガレージ

ヤマダガレージで、スタンドックス(ドイツのメーカー)のミキシングマシンを前に説明する山田社長

事務局メンバーの集合は10月7日のお昼。昼食後から事前にセレクトしておいた工場を巡ります。事前打ち合わせに参加したTIP*Sの越智氏によると、工場の選定には「ものすごく時間がかかった」そう。みんなが納得するように行きたい工場を選ぶことはもとより、工場でのイベントの時間帯もうまく選んで効率よく回れることも考えなくてはなりません。もちろん立地も重要な条件。そんな議論の末に選ばれたのは、ヤマダガレージ(燕)、吉金刃物製作所(以下三条)、近藤製作所、田中衡機工業所の4つです。

昼食もそこそこに、ジャンボタクシーをチャーターした一行は一路ヤマダガレージへ。ヤマダガレージは、自動車修理・板金塗装の町工場。社長の山田友樹氏は、8年の修業の後、2009年に独立、「最初は小屋のような小さな場所で」ほそぼそと経営していましたが、少しずつ設備を拡張、2015年から現在の形での経営に。「工場を大きくしたことで、認知が広がってディーラー以外の一般のお客様からも受注するようになった」そうです。

順調に事業を拡大しているヤマダガレージの特徴は、なんといっても水性塗料へのこだわりです。車体はシンナーなどの溶剤を使う塗料が一般的で、環境負荷が低い水性塗料は特にヨーロッパの高級車メーカーが積極的に使っている他は、日本ではなかなか普及していないのが現状です。「日本でも、ここまで水性にこだわっている板金塗装屋は数軒しかないのでは」と山田氏。ヤマダガレージでは、およそ100色の水性塗料を装着し撹拌できる外国製のミキシングマシンも導入しているというから驚きです。

なぜそこまで水性塗料にこだわるのでしょうか。その理由は、「環境配慮が求められる時代に売りになると思ったから」ということもありますが、なんといっても第一に「発色がいい」こと。高級メーカーが水性塗料を採用しているのは環境負荷が低いばかりではないのです。そしてもうひとつの理由が、「作業者の健康に良いこと」です。「溶剤系に比べれば、水性塗料は匂いも残らず体への負担が少ない。せっかく働いてもらうならできるだけ健康なほうがいいじゃないですか」と山田氏は言います。

もちろん水性塗料のほうがコスト高にはなります。修理の板金塗装の多くは保険で費用が決まっているため、水性塗料にこだわる分は自社でかぶるところもあるのだとか。それでもこだわり続けることで、徐々に評判が上がっているそうです。

ちなみに今回工場の祭典に出展したのは「こんな会社があるよ、と地元の人に知ってもらいたい、そして、働きたいと思ってくれる人を増やしたいから」とのこと。こんなに従業員思いな会社ですから、入社希望者はきっと増えるに違いありません。事務局メンバーは、ミキシングマシンが音もなく塗料を撹拌する様や、気圧を掛けた塗装室での作業の様子を食い入るように見つめ、「塗り3年、配合10年」と呼ばれる塗装の世界の奥深さを垣間見たようでした。

伝統を受け継ぐ和包丁専門鍛冶――吉金刃物製作所

続いて訪問したのは吉金刃物製作所です。そう、こちらは「吉兼」の銘で知られる和包丁専門の打刃物屋なのです。吉兼といえば料理にちょっとこだわる人なら誰もが聞いたことのある憧れのブランドのひとつ。「三条でも出刃を叩けるのはもう3軒しかない」と社長の山本和臣氏が言うように、打刃物できちんと和包丁を作ることができる工場は三条市でも残りわずか。その伝統と炉の火を絶やすことなく受け継ぎ、次世代にバトンを渡そうとしています。現場で説明してくれた市川祐介さんは、工場の祭典で吉金刃物製作所のものづくりに感動し、打刃物の修業をするために昨年から三条市に来てしまったのだとか。

工場の祭典向けイベントとして、鋼と鉄を合わせて包丁を作る最初の工程を見せてくれました。鉄の上に接着用のホウ砂と鉄粉、その上に鋼を載せて炉の中で熱し、ハンマー、スプリングハンマーを巧みに使い分け叩き出します。鉄と鋼を合わせることで、鋼の鋭く硬い切れ味とともに、鉄の粘り強さが活かされ、「欠けが小さく、長切れする包丁になる」のだそう。撮影するカメラマンに向かい、「そこ火花飛ぶよ!」と笑顔で呼びかけながら、またたくまに同じ形の包丁の原型をいくつも作り上げていくさまはさすがのひとこと。コンスタントに同じ形をブレなく作れるようになるには20年はかかるのだと言います。この後、包丁は研ぎ、焼入れを経て柄を付けて製品となるのです。

こちらでは、工場の祭典に出展することで、「商談の幅が広がった」とも話しています。問屋が小売店の経営者を連れてきて、その場で小売店に扱いを決めさせるのだとか。小売店側も、目の前で打ち出す様を見ることで、品質に納得もするし、「売り場で品質を話せるようになる」のだそう。やはり売り場で包丁の良さを語れることが、売上にもつながるのでしょう。

この他、ここでは今年から始まった「購場の祭典」として山谷産業さんが参加されており、特注で製造しているペグ(テントやタープを張る際に使用する杭)の硬度を体感するコーナーや、打ち出したナタの切れ味を実際に試すコーナーなどもあり、充実の見学体制でした。

農業文化を支える、伝統的で革新的な農鍛冶――近藤製作所

さてお次にお邪魔したのは、農具!の専門「近藤製作所」です。

農具、すなわちクワ(鍬)や鎌などのことですが、同じクワと言ってもその形状や角度、柄のつき方などが、地方によって細かく異なっていることはご存知でしょうか。地方地方の土壌の性質、作物に合わせて、日本各地で独自のクワが発達したことはあまり知られていないかもしれません。かつては村に一軒鍛冶屋があって、その土地に合ったクワを作っていましたが、現在では限られた産地でのみ製造されるだけ。一時は兵庫の三木打刃物、福井の越前鍛冶、新潟の三条が農具の三大産地と呼ばれましたが、今なお全国の多種多様な農具に対応し、注文に答えているのは三条ばかり。その代表選手が近藤製作所なのです。

工場の祭典が始まって以来、「名物社長」として名高い近藤一歳氏は、事務局メンバーが訪れるとさっそく所狭しと並ぶさまざまなクワを前に熱弁を振るいます。「昔はよその農具屋を負かすつもりでがんがん作っていたけど、気づいたら農具を作る鍛冶がいなくなっちゃったね。新しいものも作ってるけど、いまだにその土地でしか使ってないような独特のクワの修理も持ち込まれる。ものすごく多いね、農家の人は手に馴染んだものを好むからね、愛着があって手放したがらないんだよ。市販のものだとちょっと違うと思うんじゃないかな......」。

TPPを例に挙げるまでもなく、今日本の農業は産業として成立するために大型化・効率化が叫ばれており、それを否定するものではありませんが各地で、多様で豊かな農具文化や農業文化が失われていくような物寂しさを感じさせる話です。

工場の祭典に合わせ中川政七商店のコンサルを受けて開発した移植ゴテと耕てんフォークしかし、これは農鍛冶(野鍛冶)が失われるということではありません。次世代を担うご子息・近藤孝彦氏は農具としての分を守りつつも、その矩をこえて新しい挑戦に取り組み始めています。それは「園芸」です。「クワの鍛冶屋は絶対になくならないと言われるけど、外に目を向けてみると農業全体が減っているわけで、やはり危機感はある。そこで目を付けたのが園芸で、通年で職業を問わず需要があるんじゃないか」。その取り組みの一部として、工場の祭典に合わせ、今年「購場の祭典」として参加した中川政七商店のコンサルティングを受け、移植ゴテと耕耘フォークを開発したそう。

そんな園芸用品や可変角度が広いクワなど、実に意欲的な製品の開発に工場一体、家族一体となって取り組んでいる近藤製作所。事務局のあるメンバーが「素敵なファミリー!」とエールを送ったように、密接な関係から生み出される紐帯が三条市の間違いのないものづくりを支えているのかもしれません。

象でも測れるはかりを作る――田中衡機工業所

最後に訪問した田中衡機工業所は「はかり」を作る企業です。「象も測れる」が売り文句で、大きいものでは大型トラックの計測器(トラックスケール)から始まり、牛や豚用の計量器、産業用の特殊なもの、卓上で使える上皿さおはかりなど、多種多様なはかりを一手に引き受けて製造しています。中でも、今では一般の人が目にすることがすっかりなくなった「規格台秤(きかくだいひょう)」のメーカーとしては日本トップクラスと言われています。

ちょうどこの日最後の見学タイムに滑り込み、工場見学ツアースタート。最初に見学したのはトラックスケールです。これは地面に埋めて使用するタイプのもので、「納品する場所に合わせて調整を変えている」という説明がありました。「"重さ"は重力と遠心力で決まるものなので、北海道と沖縄では同じものでも重さが変わる。その違いをしっかりと調整しなければ使い物にならない」のだそう。ちなみに見学で載せて見せてくれたのは1トンのおもり4個。計4トンを計測できる計測器ってどれだけ!と事務局メンバーも驚きを隠せません。

その後中型の埋め込みタイプのはかりやおもり、はかりの肝となる「歯」「歯受け」の製造の様子も見学させてもらいました。歯や歯受けとは、台秤の「支点」に当たる部分で、ここの精度がそのままはかりの精度となります。それを、人力で鍛造し、人の経験と勘で削り精製するというのです。この他、はかりで使うほとんどのパーツを内部で製造しているそう。ものづくりの街、三条の奥深さを思い知らされました。

発見と確認のワークショップ

中小機構・小渕理事駆け足とはいえ、中身の詰まった充実の見学となりました。これを受けて、夕方から中小機構が運営する「中小企業大学校三条校」に場所をお借りしてワークショップを開催しました。参加者は16名。それぞれ日中、あるいは前日から工場の祭典を見学しており、疑問や意見、議論したいネタをたくさん持ち寄っています。

ワークショップに先立って、ちょうど工場の祭典に合わせて来市していた中小機構・理事の小渕良男氏がお越し下さり、「三条市は中小企業の社長が多い地域。中小機構としても手厚く応援しているので、(工場の祭典で)感じたこと、言いたいことを、忌憚なく地元にフィードバックしてほしい」と参加者に呼びかけました。

今回ワークショップに参集したのは、中小機構(TIP*S)、エコッツェリア協会ぞれぞれからの呼びかけで参加したメンバー。参加した理由、背景もさまざまで「海外へ輸出する製品、ネタを探しにきた」というビジネスベースのモチベーションもあれば「ソーシャルデザインをやっているので、その参考に」というソーシャルセクターからのエントリー、そしてもっとシンプルに「職人に興味があったから」というものまでさまざまでした。

その後、実際に見学した工場を挙げて、どの点に注目したのか、その理由は何か、といったことについて意見を交換しあいました。その内容のすべてをここに記すことはしませんが、さすがというべきか、いずれも職人の技量や製品の質だけでなく、燕三条ならではのユニークな働き方、ものづくりの中小企業での経営の考え方、次世代の産業基盤としての「技術」といった、非常に幅が広く、日本の未来全体に関わる議論が交わされたのが印象的でした。工場の祭典が、産業観光イベントでありながらも、背景に日本の産業構造の課題、地方創生に関わる問題などを持っているからこそ、見る人を刺激し、触発してくれるのに違いありません。

「地方」に関わるということ

メンバーは翌日、再び三々五々、工場の祭典に出かけ、思い思いに見学を重ねた様子。それぞれの活動に、きっと良い成果を残してくれるでしょう。

今回の見学ツアー、ワークショップを終えて、中小機構・TIP*Sの岡田恵実氏は、「やって終わりということではなく、これからも継続的に接点を持ち続けたい」と話しています。今回のツアーの「振り返りのための場」はもちろんですが、「東京」と「地方」の関係を乗り越える、または距離を縮める、新しい関係を長い時間をかけてでも作り上げることが本当にやりたいこと。「消費者と生産者、東京と地方の関係は、まだまだお互いに遠いのが現状。お互いにフラットに付き合える、柔らかい関係を作りたい」。

TIP*Sがやろうとしていることは、わかりやすく端的に言えば「中小企業の関係人口を増やすこと」。そこで生まれるのは目的的にビジネスの話をするのではない、フラットな関係性であり、それが熟成すればそこから「何か」が生まれるはず。燕三条・工場の祭典との関わりも、そういうものなのでしょう。

エコッツェリア協会・田口真司氏も同様に「年内には振り返りイベントを開催したい」と話しています。ワークショップでの議論で、東京からの視点が「"~すべき"」と話し合う一元的な価値観の押し付けになるのではなく、まず知ること、学ぶことから始まるような関係も大切なのだと改めて認識しました。来年以降に向けて様々な関係作りを模索したい」と、継続的に関係していきたい旨を語りました。

継続的な関係を目指して

難しいことは言わずただ見て感じて体験するだけでも楽しい工場の祭典。ものづくりの現場がこんなにも面白いとは!と感じさせてくれるユニークなイベントであることを改めて教えてくれました。そしてまた同時に現在の日本の産業構造がもたらす課題や、まちづくりのありかたや、地域と都市の関係など、やるべきシゴト・取り組むべきことを浮き彫りにしもしてくれたように思います。


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