イベント地域プロジェクト・レポート

宮崎巡礼――地方創生の活力の源泉を見出した旅(1)

2018年10月10日(水)~12日(金)宮崎視察旅行

旅程3日目、ワン・ステップにて、新井氏

8,11,17

三菱地所、エコッツェリア協会は、2017年に宮崎県と連携協定を結び、地域活性化、企業の成長促進、人材育成といった分野で、さまざまな形で協業を行っています。そのひとつが、エコッツェリア協会・3×3Lab Futureからの視察です。これからの社会を作るキーパーソンを伴って宮崎県を訪れ、元気な企業を視察、未来を一緒に考えていく土壌を作ります。

今年で2回目になるこの視察旅行、今年は新井和宏氏と巡る旅となりました。先導役はエコッツェリア協会プロデューサーの田口真司氏。鎌倉投信でこれからの金融の未来図を描いて見せた新井氏は、この秋、再び独立し、新会社eumo(ユーモ)で「お金」の新しい未来像を描こうとしています。日本中の「いい会社」を見てきた新井氏にとって地方は重要な視座のひとつです。これから始めようとする新事業に、宮崎県からどんな可能性を見出すことができるでしょうか。

今回は3日間の旅程のうち、1日目には新井氏の講演会を実施。2日、3日目に集中的に企業の視察を行いました。その模様を、1日ずつ3回に分けてレポートします。

2日目3日目

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神話発祥の地へ

神話発祥の地へ

元宮があるビロウ樹の密林の中。和服姿が、禰宜の津曲氏

<1日目>
青島神社→宮崎市内で講演→懇親会

一行は宮崎空港で合流し、県職員の皆さんの案内でまずは日向海岸へ向かいます。そして、かつては新婚旅行のメッカとして知られ、現在でも「宮崎恋旅」の聖地のひとつとなっている青島神社を訪問しました。

宮崎県は神話のふるさととして知られています。至るところに神社、そして神話にちなむ場所があり、それは神話の延長線上に生きているようなものかもしれません。青島神社もそのようなスポットであり、境内は今も霊地として守られています。

案内してくれたのは禰宜の津曲兼孝氏。神社を取り巻くように自生するビロウ樹の森は、参道を除けば禁足地となっており、手付かずのまま、自然の姿が残っています。ビロウ樹は、長いものでは樹齢350年、その数5000本。島全体が「青島亜熱帯性植物群落」として国の天然記念物に指定されています。ここで津曲氏からさまざまなお話を伺いましたが、新井氏が感じ入っていたのが、ビロウ樹の森成立の謎を解くために、神職のみなさんが三代に渡って実験をしていたというエピソード。

「自然に漂着してきた説と、古代に自生していたものが遺存したという説があります。どちらが正しいのかは分かりません。しかし、海水に浸かった種が発芽するのかという疑問があったので、宮司が三代に渡って実験したんです。2カ月海水に漬けて、その後土に上げて発芽するのかどうか。これがちゃんと発芽したんですよ」(津曲氏)

青島の周囲は、独特の地形に取り囲まれている。いわゆる「鬼の洗濯板」。これも「青島の隆起海床と奇形波蝕痕」として国の天然記念物に指定されている。

新井氏は、そんな神職にある人達の「科学的態度」にひどく感心。
「神職というと、あたかも科学とは逆のように思われがちだけど、実はそんなことないんですね。科学的な思考で、実際に実験して確かめるという姿勢は素晴らしいと思いました」

ビロウ樹の森の中心は、古代の祭祀場だったのではないか、島の海抜は6メートルしかなく2メートルも掘れば水が出てしまうこと、17世紀の最大規模の日向灘地震「外所地震(とんところじしん)」では、5メートルの津波に島が襲われたこと、などなど他にもさまざまなエピソードをお聞きして、青島神社を後にしました。

未来のお金と経済のあり方を問う――新井氏講演

続いて、会場を移して新井氏の講演会が行われました。これは、宮崎県と県内の経済団体、金融機関が共同して開催している人材育成プログラム「ひなたMBA」の特別講演として実施されたもので、この日は県内の金融関係者、経営者らおよそ80名が集まりました。冒頭の挨拶に立った宮崎県総合政策部長の日隈俊郎氏は、ひなたMBAが人口問題を入り口に宮崎県の活性化を目指すものであることを示し、「今日の講演では金融を中心に有意義な話を聞けると思う。それをそれぞれの会社、職場に持ち帰り、それぞれの立場で活用してほしい」と呼びかけます。

田口氏からは、宮崎県と三菱地所、エコッツェリア協会が連携協定を結んだことを契機に、定期的な交流が持たれていることを紹介するとともに、エコッツェリア協会が目指しているのが新しい持続可能な社会や経済のあり方であり、新しい時代に見合った21世紀型のビジネスモデルを構築することが目的であると話しています。
「自然資本から収奪するだけのこれまでの資本主義、ビジネスのやり方では、この先社会が立ち行かなくなるでしょう。自然資本、社会資本、経済資本を還流させなければなりません。その持続可能な資本主義を作るためには、これまでの一社だけで取り組む方法では限界があります。構想段階から大勢のステークホルダーが関わるフローでなければなりません」

エコッツェリア協会はそのためのプラットフォームであり、3×3Lab Futureはその場です。宮崎県との協定もまた、そのプラットフォームでの活動のひとつであることを語り、講演のバトンを新井氏に渡します。

新井氏の講演は、鎌倉投信設立の経緯と理由、また、新会社eumoへ掛ける思いを通して、現代社会の問題の本質と、今後に進むべき道筋の示唆を与えるものになりました。

▼価値が揺らぐ時代

鎌倉投信の立ち上げから、新会社設立の背景として新井氏は、現代が「お金の価値が変わろうとしている時代」であると述べています。シャドーバンクによって投資が肥大化することで「お金は増えたが、同時にそれは価値が希薄化していることでもある」と指摘。新井氏は住友信託からバークレイズ・グローバル・インベスターズ(現ブラックロック)を渡り歩き、投資の最前線に立ってきたことで、それを実感として感じています。

「だから、新しい金融機関の役割を考え直さなければならなかったし、今は新しい社会のための『お金』を再定義しなければならないときに来ているのではないでしょうか」

貨幣価値の変化に伴い、今、社会では経済的利益ではなく社会に貢献しようとする仕事を求めるベンチャー、人々が増えています。一方で金融機関はそこに対応しきれず、「金融の排除」が起きています。鎌倉投信が果たそうとした役割のひとつがそこにあります。

ここで重要なのがお金を巡る価値観です。「人が生きるのは幸せのためであって、お金を稼ぐためではなかったはず」と新井氏。 「しかし、人は分かりやすいほうに流れる傾向にあります。お金という、客観的で比較可能、伝わりやすく分かりやすい指標を幸せの代わりにするようになってしまったんです」

実は会社も同じ誤謬に陥ってしまっていると新井氏。会社という組織が仕事をするのは、自社利益の最大化のためではなく、「何か」のためであったはず。 「『いい会社』として有名な伊那食品の塚越社長は、利益のことをウンチだと言っています。従業員、取引先、地域社会、環境等いろいろな人が関わった後で出てくるのが利益であって、残り滓、ウンチみたいなもの。会社はウンチのために経営していませんよね」

その「何か」とは「企業理念」です。

「日本にはもともと『三方良し』の哲学があり、企業のほとんどが企業理念を持っているはず。だから皆さんは誇りを持って経営していけばいいんです」

と新井氏は言います。

▼社会の問題を「自分ごと」に

しかし、旧態依然の日本型経営ではダメだとも指摘。「経営のスパイラルアップをしていく必要がある」と話します。そのポイントのひとつが「ファンを獲得する」こと。実は人間は本質的に合理性や効率性を嫌う傾向にあると新井氏。
「『合理的な趣味』『効率的な趣味』ってちょっとイヤじゃないですか。家だって狭い家が一番効率的。ですが、人は広い家に住みたいし、合理的じゃない面白い趣味をやりたいもの」

つまり、今後はそういうところにアプローチする経営が必要になるということ。また、そこでは「共感と感動」も重要です。また、もうひとつのポイントになるのが「社会の問題を自分ごと化すること」です。

「伊那の『菓匠Shimizu』というケーキ屋さんは、隣町で子が親を刺したという殺傷事件が起きたときに、『あの事件が起きたのはうちの責任だ』『あの家庭の食卓にうちのケーキが乗っていればあの事件は起こらなかった』と話して、子どもの夢をケーキに描いて無償で渡すことを毎年行うようになりました。全然合理的じゃないですよね、でもこれを始めたことで、わざわざ伊那までケーキを買いに来るお客さんが増えたそうです」

新井氏は、経営の向こうには必ず地域があり社会があると言います。そして、そこにつながっているかどうかが、これからの企業に必要なことだとも。

「いい会社に共通しているのは、自社事業を拡大解釈しているところなんです。社会の問題を自分ごと化し、自分たちの仕事だと定義する。例えば伊那食品は、地域の危ない交差点に信号を設置して市に寄付しました。浜松市の都田建設は、地域の無人駅にカフェを開設し、駅前に古びたスーパーとJAビルしかない街のガイドブックを発行しています。地域のための会社だから、それが本業だ、都田建設の蓬台社長はそう言っています」

▼見えない価値が見えるように

こうした状況を受けて、今政府でも取り組んでいるのが社会価値の「可視化」です。社会貢献などソーシャルな活動を評価する、客観的な指標、枠組みが今までありませんでした。ESG投資やSDGsは本格化し、この流れは「止まらない」と新井氏。しかし、その評価が難しいという問題がありました。そこで、会計専門家の間では社会的活動を評価する「第三の財務諸表」の検討を始めています。また、センシングやビッグデータ解析などIT関連の技術が、定量的かつ客観的に社会的活動を評価することを可能にしようともしています。

そして、新井氏が「大きな動き」と評価するのが2016年12月に休眠預金を社会的活動に使えるようにした法案が成立したこと。 「ここで初めて、公的に社会的活動を客観的に評価する必要が出てきたことになります。評価を可視化するために投資が進み、今後10年以内に社会的活動の数値化が実現すると思います」

▼「めんどくさいお金」を創る

eumoのロゴ

そして最後に、新会社eumoが目指す世界を描きます。鎌倉投信が新しい金融機関の姿を示し、金融のあるべき枠組みを変えたのだとしたら、eumoが目指すのは「お金」それ自体の価値を変えていくことです。

「我々は『めんどくさいお金』を創ろうと思っています。こうやって宮崎県に来なければ使えないお金。皆さんのような素敵な方に会わなければ使えないお金。そしてまた、『ありがとう』という感謝の気持ちをお金にすることも考えています。つまり、都会と地方をつないで、人と人がつながって、豊かになっていく構図をお金を通して作りたいと考えています」

そのために、eumoでは投資事業のほか、教育事業やプラットフォーム事業も手がけていく予定です。

「持続可能な資本主義社会、そしてまた、共感資本主義の実現を目指します。社会を変えるなんておこがましい。ここにいる皆さんが動かなければ社会は変わりません。逆にいえば、皆さんが『こっちだ』と思って動けば社会は変わります。今私は50歳。これまでの30年の金融マンとしての人生に感謝を込めて、あと10年で、新しい金融、新しいお金の枠組みを作りたいと考えています」

そう話し、会場の皆さんの共感、そして第一歩を踏み出すことを呼びかけて講演を終えました。

講演の後は会場を変えて懇親会も持たれました。宮崎県産の産物をふんだんに使った料理が出され、お酒も世界に名高い「宮崎ひでじビール」を始め、県内のものが供されています。ひでじビール社長の永野時彦氏が乾杯の音頭を取り、新井氏の言う「共感」の原理と「バランスを取ること」というメッセージに「いたく共感した」と述べ、「宮崎県の企業も、儲かることよりも、宮崎県、地域が潤うこと、元気になることを目指してがんばっていきたい」と意気込みを語りました。

(「2日目」に続く)

懇親会にて。左から新井氏、ひでじビール社長の永野氏、田口氏


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