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【レポート】ヨソモノの活動、リアルに

丸の内プラチナ大学 ヨソモノ街おこしコース DAY5(9月13日開催)

9月13日、丸の内プラチナ大学ヨソモノコースのDAY5が開催されました。このコースでは、離島、高原リゾート、都市近郊の3つの具体的な素材を提示し、その課題をリアルに受講生たちと考えます。各回とも1回目は現地の行政、ヨソ者プレイヤーからのインプットを行い、2回目で、それをもとにビジネスプラン、アイデアを発表するという2回構成。

この日は高原リゾートモデルの岩手県八幡平市の2回目として、受講生たちが発案したビジネスプランの中から、優秀なものを選出し発表、そのプレゼンテーションも行っています。市職員の前で発表したことで、アイデアはより現実味を帯びはじめ、"ヨソモノ"である受講生たちにとっても、地方(創生)に関わることがリアルになってきたように見えました。

前半は改めてヨソモノの活動の可能性を考えるインプットトーク、結果発表前には、アウトプットの練習として各テーブルでショートピッチのワークも行っています。講師に三菱総研松田智生氏、行政からは前回も登壇した関貴之氏、ヨソモノとして、岩手県の産業創造アドバイザーの大滝克美氏、八幡平市でビジネスを起こしている株式会社クリアフィックスの瀧澤寛之氏が登壇しました。

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八幡平市プレ視察ツアー

八幡平市プレ視察ツアー

安比のブナの二次林。画像は安比高原オフィシャルブログより ※写真はイメージです。

開始に先立って、8月27、28日に実施された、希望者による八幡平市のプレ視察ツアーについてのレポートがありました。まずは八幡平市の関氏から2日に渡るツアーの概要の説明。それによると参加者は5名で、1日目はサラダファーム、ジオファーム、商店街を回った後に別荘地やリゾート地などを視察。2日目は安比を中心に観光地や自然環境資源などを見て回ったとのこと。2日目はブナの二次林や伝統工芸の老舗の見学、「マニア向けローカル線の旅」なども実施されたそうで、関氏曰く「私がゴリ押しした」ツアーでしたが、「普通に旅行したのでは見られない場所」を多く視察することができたようです。

実際に参加した受講生も「市の人と行ったから見られた場所ばかり」で、大いに参考になったと語ります。特に空いたペンションや別荘などは「よだれが出そう」なくらいで、現在は「青森や盛岡の人が購入しているそうだが首都圏も十分マーケットになりうる」と期待を見せていました。また、ブナの二次林や渓流のせせらぎにも深く感動したとのことで「自然環境、食の素晴らしさは、ロングステイに向けた良い資源になる」とし、「首都圏からどうやって人を集めるか、若年層のビジネスチャンスをどう広げるかを考察したい」と語りました。

生活の新しい枠組み

続いて登場したのは、オークフィールドにも深く関わっている瀧澤氏。実は、前回のオークフィールド八幡平・山下氏のプレゼンテーションで触れられていたワークシェアリングシステム「time to work」の開発事業者でもあります。岩手県民ですが、遠野出身で「広い意味でヨソモノ」。4年前から関わり始め、ウェブやロゴ、パンフレットの制作などを手掛けている中で、time to workはじめさまざまな活動を広げるようになったそうです。

もともと、「ICTの標準化」(この場合、ユーザー側の標準化を指す)、「バーニングマン」(アメリカで開催される社会実験的なイベント)が掲げる非貨幣経済、少子高齢化などのテーマに関心があり、NPOの立ち上げや関連事業を展開、ワークシェアリングの構想も持っていましたが、「CCRCを知って、ぴたりとパズルがハマった」と感じ、time to workを開発。

株式会社クリアフィックス 瀧澤氏time to workは、参加者が自分にできることを人にしてあげるという互助のシステムです。その本質は「時間を通貨にする全員に平等な経済」であるということ。「時間通貨市場」「非営利」「積極的参加」「最大限の努力」「誠実であること」という5カ条の理念によって支えられます。

そして単に時間通貨、平等経済というだけではなく、波及的に「さまざまな効果が期待できる」と瀧澤氏。それは「自分ができることを再発見する」、つまり「発見し、誰かのために行動することで自己承認欲求を満たす」ということ。そのほかにも「日常行動が活発化し、健康寿命が延伸する」「貨幣経済に頼らない、豊かな生活の実現」などの副次的な効果が見込まれています。また、ワークシェアリングには「依頼する」というプロセスが発生することで「相手に対してフラットな関係になり、コミュニティ内で良い人間関係を作ることができる」といった効果もあるとか。そのため「CCRCだけではなく、町内会、学生団体などでも応用が可能では」と期待もチラリ。

プレゼンに続く松田氏とのやりとりでは、ビジネス的にはユーザー課金ではなく、施設の運営者、団体の主宰者を対象に、健康寿命の延伸やコミュニティ活性化などの副次効果を訴求ポイントにしていきたい考えなども語られました。

ヨソモノの心得とは

続いて登壇した大滝氏は、さすが「10年に渡って岩手県でアドバイスしてきた」だけあって、ヨソモノとして活動するための難しさ、面白さなど、その機微を平易に語ってくれました。

岩手県 産業創造アドバイザー 大滝氏まず、「ヨソモノにはいい意味、悪い意味、両方あることを踏まえて」と会場に投げかけ。そして、「20年暮らしている人でも"旅の人"と呼んでヨソモノとして扱う、そんな土地もある」とし、「ヨソモノをいかにして健全にもっていくか、がポイントになるだろう」と語ります。

そして、宿題になっていたビジネスプランを見た上で、「心得というか、仕事の観点から指摘したい」と、どう考えるべきか、どうふるまうべきかという考えを示しました。 エッセンスを紹介すると、
・ビジネスプランやアイデアは一言で言えなければ伝わらない。そして何故やるのか、誰が喜ぶのか。収支、ビジネス的な成功以上にそこが大事になる。
・プロジェクトを動かすときの相手が重要。地元の人間関係を把握したうえで組む相手を探すこと。地元の対立関係を知らないで動くと後を引くことになる。
・自分自身のキャラクターをしっかり持つこと(分かりやすい性格を見せる)。
・その土地、人に惚れていること。地方に入ると間違いなく「めげる」「心が折れる」。そのときに熱量を保てるように。
・飛び込むこと、諦めないこと。諦めないためにもコンセプトが大事。儲かる、儲からないを超えた、ミッション、使命を大事に。
・信頼を得ること。人物的に信頼されなければ物事は何も進まない。

地方にちょっとでも関わったことのある人なら、「あー」と思うのではないでしょうか。「なるほど、そうだ」と思わせる、鋭い指摘です。また、松田氏とのやりとりで出た「地元側は疎外していないけど、自分のほうで飛び込めてなくてうまく入れないこともある」という指摘も興味深いものがあります。東京モンと地方の人とでは、温度感も違うし話す言葉の文法も違います。そういうことも踏まえて、「飛び込む」ことの大切さを大滝氏は詳らかに語ってくれたように思います。

インプットをアウトプットに変える

さて、こうしたインプットを踏まえて、この後は各テーブルでアウトプットの練習として、それぞれが考えてきたアイデアを、テーブルで発表するショートピッチを行いました。1人3分程度の短い時間。「3分という短い時間で話すことで、内容の精度が上がる」と松田氏は言います。先程の大滝氏の指摘にもありましたが、地方創生のアイデアは、まずもって「分かりやすいこと」(わかりやすさがあること)が大事です。そんなことも、アウトプットしながら感じ取れたのではないでしょうか。

このワークはワールドカフェ方式で行われ、各人とも2回ずつ人前で話す時間を持ちました。2回目は2分30秒と短縮されましたが、慣れたためか、問題なく発表できていたようでした。

優秀ビジネスプラン発表

そしていよいよ最後に優れたアイデア、プランの発表です。
このビジネスプランは前回の八幡平の講義の後に宿題として出されていたもので、「What」=何をするか、「Why」=なぜするのか、「Who」=自分は何をするのか、「How」=どのように実現するか、「Why・What」=競合と比べた強み、思い入れという5項目でビジネスプランの原案を構成するもの。テーブルでショートピッチされたのもこの宿題です。

宿題の提出を受けて、関氏はじめ八幡平市のメンバーが選考に選考を重ねて優秀プランベスト5を選出しました。

関氏は「副市長も交えて入念に選考したが、正直どれもすばらしく、差がつかなかった。今回選んだのは5つだが、いずれも素晴らしく、ぜひ個別にいろいろ相談したい」と選考の難しさを話しています。この日、1名が欠席だったため、発表されたのは以下の4つのプランです。
・「オタクで移住プロジェクト」
・「結果にコミットする『八幡平ダイエット道場』」
・「大更地区ハブタウンプロジェクト」
・「サテライトオフィス・ヴィレッジ」(最優秀賞)

オタク移住プロジェクトは、独身者や子どものいないし夫婦の増加から高齢者の孤立、孤独死が増加する可能性を受け、新しいコミュニティを八幡平で構成しようとする試み。ダイエット道場は、八幡平への来市を促すキラーコンテンツを作り、そこをきっかけにリピーター獲得、移住定住の促進へつなげたい考え。ハブタウンプロジェクトは、当地の地理的状況を踏まえ、大更地区をハブ化することで、二地域居住を促進するというもの。また、最後の最優秀賞プランはクリエイティブ企業のサテライトオフィスを誘致し、インキュベーション機能を実装しようとする大胆な発想。「(丸の内プラチナ大学の)小宮山学長が仰ったように我々は時間や距離から自由にならなければならない。雪に閉ざされるまちで世界標準ができないわけがない」というプレゼンテーションもお見事。胸に小さな情熱の炎をポッとともしてくれる、熱いトークでした。

最初の一歩が大事

終わりに、松田氏から、12月に八幡平市へ受講生が出向き、市長にアイデアや企画をプレゼンする計画があることが明かされました。会場からにわかに湧き上がる苦笑と同じくらいの大きさの期待の歓声。

今回発表されたアイデアについて、関氏は「われわれが気付けないこと、または、気付いてはいても向き合ってこなかった問題」に鋭く切り込んでおり、「どれもすばらしく今市内で動いている若年層の活動とミックスさせてみたい」と期待を語りました。 瀧澤氏からは「テレワークなどはとても可能性がある。行政の税制優遇措置などの動きがあると現実味が増すのでは」と高評価を与えつつも、「どれも八幡平でなければ、という理由がはっきりしていないという感触もある。若い人と~、首都圏から~というのはどこでもやろうとしているし、やってもいること。八幡平でなければならないアイデアを掘り下げてほしい」と厳しい意見も。

大滝氏は「自分もヨソモノのつもりだったが、長く関わってることでヨソモノ視点を失っているところもあった。フレッシュな視点が良かった」と評価。そして「自分のプロジェクトの実現に向けた最初の一歩を織り込むこと」とアドバイス。「壮大なプランは多いが、最初からお金を出したり協力してくれたりする人はいない。どうやって小さな成功を作り、仲間や協力者を増やしていくか。その考えもプランの中に入れていくと実現度が増すだろう」。

松田氏は、このコースが始まるときに掲げたモチベーション維持の3本柱「成長実感」「フィードバック」「深い話し合い」、そして実現に向けて「ビジョン」「プロセス」「プロジェクト」がいかに大事であるかをもう一度受講生たちに示し、「ぜひ新しい夢に向けて一歩を踏み出してほしい」と締めくくりました。

どうするどうなる八幡平

終了後は恒例の懇親会が行われ、山葡萄のワインや日本酒、地元の老舗「ふうせつ花」のざる豆腐などが振る舞われました。

終了後、アイデアが出たことの成果をどう巻き取るのかという取材に答えて、八幡平市の関氏は短期的な成果を求めるものではないと釘を刺しつつ、「まずはこのように新しいカタチの交流とつながりを持てたことが一番の成果」と話しています。マスコミの人間はとかく「具体的な成果」「数値目標」という分かりやすい何かを求めがちですが(記事にするために)、丸の内プラチナ大学は"そういうもの"ではないのです。「こちらから東京に出向いて交流するということ自体、今までにない取り組み。ビジネスパーソンとの交流が、この先どのような成果につながっていくのか、長く広い視点で考えたい」。最初から目的や着地点を決めてしまっていたら、こんなにも面白い人達(受講生たち)の集まりの動きを束縛してしまうことにもなりかねないということでしょう。

また、一方で地方行政内部の課題にも切り込む可能性があるようです。市長プレゼンには「できたら職員や、可能なら市民のみなさんにも出席してもらえる形にしたい」と関氏。今回の取り組みについて「幸い上司の理解は得られている」が、マスコミ同様分かりやすい成果や結果を求めがちになる行政。まずは"そういうもの"ではないことを広く知ってもらうこと、行政の姿勢も変化することが求められているのかもしれません。

今後、八幡平市を舞台にした動きはどのようになるのでしょうか。最優秀賞に選出された受講生の言葉が示唆に富んでいます。「地方創生、地域活性と言ったって、地元で真剣に向き合って、考えている人が一番強い。僕らなんかよりも例えば関さんが一番分かっているし、力になっていることは言うまでもない。僕らができることは、そのほんのお手伝いにすぎないんじゃないか」。

地方創生といえばとかく「俺がなんとかしてやる」的なものが多いですが、そうじゃない。地元の人とがんばる、そのお手伝いをする。その視点が出発点にならなければ、上滑りするだけになってしまいます。ヨソモノとして関わることがリアルになるほど、そうした地方創生の実情が分かるのでしょう。今後の八幡平でのアクションには、だからこそ期待できると言って良いのではないでしょうか。


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