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【レポート】徳之島でヨソモノが活躍するには?

丸の内プラチナ大学 ヨソモノ街おこしコース DAY2

各コース開講

先日DAY1が行われた丸の内プラチナ大学。7月13日には、その皮切りとして、ヨソモノ街おこしコースの第1回講義が行われました。ヨソモノ街おこしコースは、都市-地方連携やオープンイノベーションの可能性、CCRCの導入などさまざまな要素を持ち、幅の広さがあるのが特徴。また、より具体的な課題に取り組むために、各地の自治体と協力して講義を展開するなど、活動に意欲的な受講生にとって魅力的なカリキュラムです。

第1回目講義の今回は、南西諸島の徳之島・伊仙町の大久保明町長、同町で町おこしに取り組む"ヨソモノ"である松岡由紀氏が来場し、現地の様子を語りました。自治体のリアルな現状を聞くことで、その後に行われたワークショップにも大いに熱が入ります。授業の後には徳之島産の黒糖焼酎や食材による懇親会も行われ、交流を深めたのでした。

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ヨソモノの心構えとは

ヨソモノの心構えとは

松田氏冒頭、講師の松田智生氏から本コースの進め方、概要についてのレクチャーがありました。先のガイダンスでも触れられていたことですが、本コースでは「WillとCan」(やりたいこととできること)、「助走期間」「人生二期作・二毛作」「志ある仲間づくり」などがキーワードになることを改めて解説。また、"ヨソモノ"として地方で活躍するために「こんなヨソモノになっちゃダメ」という例の紹介もありました。そしてまた、本コースでは「ビジョン、プロセス、プロジェクト」が重要で「どれひとつ欠けても成立しない」と、ヨソモノとして活躍するための指針も提示されました。

今回のコースでは、具合的な取り組み先として、「離島」「高原リゾート」「近郊」のモデルを設定し、それぞれ徳之島(鹿児島)、八幡平市(岩手県)、三浦市(神奈川県)を取り上げます。そして、「地方の課題は雇用の問題に尽きる。雇用を生み出すアイデアと動く人材が求められている」と参加者への期待を語りました。

日本らしい共助文化が根付く島

大久保町長

続いて登壇した大久保町長。冒頭で「きゅーがめーら!」と徳之島の言葉で挨拶し、「徳之島には平安時代からの言葉が残っている」と紹介。そして、徳之島、伊仙町の特徴、現状と、これから町が目指すビジョンなどを語りました。

徳之島の自然環境は「黒潮文化の源流」「世界自然遺産の候補地に登録された豊かな自然」という特徴があります。「世界の同緯度地域はほとんどが砂漠かサバンナ。世界でもここにしかない自然環境、生物多様性がある」と大久保町長は胸を張ります。

そんな環境の中で、生まれた一番の特徴が「長寿」と「特殊出生率」です。「長寿でギネスに載った日本人3人のうち2人が徳之島出身」で、百寿率が極めて高い。「常に20人以上の百寿者がおり、平均余寿命は80歳以上」と大久保町長。同時に特殊出生率は2.81と全国平均のおよそ倍あるという土地柄。これを町長は「地域の力が残っており、地域で子どもを育てることができるから」と、徳之島の名物・闘牛を挙げて「年に3回の大会で横綱を勝ち取ることは町長以上のステイタス。島を出た若者も一日も早く島に戻って家庭を持ち、牛を育てることが夢になっている。老若男女が没頭するそのエネルギーが長寿と出生率の要因なのでは」と語ります。

また、「地域で子育て」するように、「冠婚葬祭も町を挙げて全員でやる」と、日本特有の共同体文化が色濃く残っていることを紹介。こうした島の特徴を指して、「今日本が取り組んでいる地方創生の課題解決のヒントが、島の文化、暮らしにあるのではないか。島は日本全体を盛り上げる責任があるのではないか」と、島がこれから果たすべき役割への意気込みを語りました。

具体的な取り組みとして、地方特有の文化の継承や、小学校区を統合しないことで共同体の力を持続させる、地域包括ケアシステムの構築などの施策とともに、将来的には徳洲会と組んだメディカル・ツーリズムなどにも取り組んでいくそうです。

そして最後に、参加者に向けて「生きがいを見つけて」と呼びかけます。「今、島にはさまざま技術者が不足している。二地域居住でいったりきたりしていると、東京での仕事もうまくいくようになったという話も聞いた。島の状況を見ながら、みなさんの技術、経験を島で活かしてほしい」。

ヨソモノが徳之島にたどり着くまで

松岡氏

もうひとりのゲストスピーカーの松岡氏は、東京生まれながら島に住み着いて地方活性化の活動に一役買っているまさにヨソモノ。本コースでは、すでに活動している「ヨソモノ」プレイヤーを招きトークしてもらいますが、それは地方創生におけるヨソモノの役割を明確にあぶり出すため。この日松岡氏も、島へ移住した経緯を語るとともに、ヨソモノとして活動するポイントや、ヨソモノから見た島の課題などを語りました。

氏は「子どものころから昆虫好き」で、自然への愛が昂じて北海道大学の農学部へ進学した後、アメリカへ留学、その後イギリスで地方再生の業務についたという経験の持ち主。日本に帰国して就いた地方再生組織の業務で徳之島に出会ったのが13年前のことだったそう。

そのファーストインパクトについて、氏は「私も異文化の中で滞在することに慣れているつもりでいたが、結構なカルチャーショックだった」と振り返ります。「やっぱりすごいのは自然」。南西諸島で徳之島だけが有する地質学的多様性(「人間のエネルギッシュさの、理由のひとつでは?」と松岡氏)、代表的固有種であるアマミノクロウサギを擁する豊かな自然、「知る人ぞ知る」鍾乳洞。そして古くから残る人間の生活と暮らしの痕跡もまた魅力のひとつ。縄文時代の墳墓、1000年前の陶器産出の跡「カムィヤキ古窯群」、古くから海岸に残る塩田などなど。「山を登ると、1万年前の痕跡から、太平洋戦争の70年前の防空壕の跡まで出てくる、そんな地域」。

東京でコンサルの仕事をしていましたが、地方への移住を考えるようになったとき、宮城、愛媛からのオファーもあったそうですが、「条件が一番良くなかった(笑)徳之島に決めた」のは「何か胸がざわざわして、徳之島を選ばなければ後悔するなと思った」からだったそう。そして移住したのが11年前のこと。

伊仙町に移住したものの「最初は収入のアテはまったくなかった」。しかし近隣の人から「マンゴーやるならハウス貸すよ!」と気軽に言われ、「学んできた熱帯農業を自分の手の届く範囲で」マンゴー、らっかせい、タンカン(オレンジに似た柑橘類)、ジャガイモなどを栽培しながら暮らすようになる。「こんな生活もいいかな」そんな思いでいたところに、町から来たのが「直売所の立ち上げをやってほしい」という依頼だったそうです。

直売所立ち上げで見えた島の課題

百菜のサイトより

最初は断っていた松岡氏でしたが、町職員に何度も足を運んで頼まれ「請われるうちが花」と覚悟を決めて取り組んだのが現在の「んと元気な直売所 百菜」の立ち上げと運営でした。「直売所の立ち上げなんて未経験。ゼロからひとつひとつ積み上げていった」そうで、その苦労は一方ならぬものがあり、2009年、オープン後には続く激務のために倒れ「南の島にまで行って何やってるの、と昔の仲間から言われた」そう。

当初は貸しスペースにして賃料収入を得ようと考えていたそうですが、アドバイザーに招いた"奇跡の農業テーマパーク"と呼ばれる三重県モクモクファームの木村修社長と吉田修専務から「肚決めて自分たちで運営しなければ成功しない」と指摘され、手作りパン、オリジナルジェラート、惣菜の工房を作り、自分たちの手で運営するようになったそうです。

町での仕事をするようになって見えてきたことは、島特有の生活文化が相互に支え合う地域社会を構成していること。

例えば島の人たちは「よく喋る」。「ずーっと喋って」いるせいか、ストレスフリーの生活になるそう。また、地域みんなで子育てをする生き方もそうです。「大事な子には他人の飯を食わせろということわざがあるくらい、気軽にみんなが子どもの世話をする」。そうした助け合い文化の息づく生活スタイルは冠婚葬祭にも現れます。「出産や結婚のお祝いやお葬式を全員でやるから、いつも袱紗と祝儀袋ときれいなお札が車のダッシュボードに入っている」というくらいで、知り合いの親族程度の冠婚葬祭でも出かけていきます。だから「生まれることと、死ぬことが、すごく身近になった。死生観が変わった」と松岡氏。

もうひとつ大切なことが「仕事をしていても、必ずきちんと休む」ということ。「時期になればみなそれぞれの畑仕事で集中的に働かなければならない。地域の子供たちのスポーツ指導に忙しいこともある。だからみんな必要なときには仕事を休む。でもそれは"お互いさま"で、みなで融通しあう。ライフワークバランスという言葉があるが、それがごく自然に成立している」のが島の暮らしなのです。

そして、島の仕事で見えてきた課題として、以下の4点を挙げています。
1)マネジメントできる人材の欠如
2)人材教育・育成の欠如
3)おおらかなおもてなし精神と"儲け主義"のバランス
4)熱しやすく冷めやすい島民精神
地方創生、地域活性化につきまとう問題とともに、徳之島特有の問題も見えます。ヨソモノとして活動する人は、こうした課題に正面から取り組むことになるのでしょう。

これは自分たちの物語

この後、簡単なパネルディスカッションを挟んで、各テーブルでワークショップを行いました。これは、インプットだけで終わると実践につながりにくいことに配慮したもので、「今日の気付きを語り合う」というショートセッション。アウトプットを伴うこのワークで、参加者同士の交流とともに、徳之島に対する理解を深めることができたようでした。

その後場面を変えての懇親会が催され、町長、松岡氏ほか、来場していた伊仙町職員と参加者たちとが熱心に意見交換する姿が見られました。誰もが島での活動に向けて可能性を感じ、今すぐにでもアクションを起こしたいという熱気を発しているかのようです。

そのモチベーションになっているものは何でしょうか。ある参加者に聞くと、生家と現在居住する関東近郊のあるエリアの「寂れっぷりをなんとかしたい」という思いからだそう。「現在の職で空き家問題に絡んでいることもあり、地方課題には興味があったが、同時に自分自身の課題としてこの授業の経験を持ち帰りたい」。またある女性の参加者も、地方課題解決に関係した仕事に取り組んでいるが、「仕事でできることとできないことがある。そしてまた自分自身にもできることとできないことがある。その間を埋めて、新しいことができるのでは、という思いで」このコースを受講しているそうです。

松田氏が指摘するように、地方に必要なのは「雇用」であり「新しいビジネス創発」です。しかし、松田氏が手掛ける丸の内プラチナ大学が他の地方創生カリキュラムと違うのは、常にそれが参加者たちの「自分自身の問題」にもなっていることです。松田氏はかつてインタビューに答えて「プラチナ社会とは、私達自身の物語」と語ったことがあります。そんな精神が、参加者にも浸透しているかのようです。だからこそ、ここから発せられるアイデアやアクションは、一時のブームや一過性の流行で終わるものではない、地に足についたものになるはずです。

会の締めに大久保町長が「今日は人生最良の日のひとつだった」と語っています。町長が参加者たちに抱く期待は、それほどまでに大きいのです。今後コースが進む中で、ぜひとも参加者のみなさんたちが、小さくとも大きな一歩を踏み出すことに期待したいと思います。


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