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【レポート】社会と組織を幸せにする"関係"とは

さんさんビジネスクリエイト:テーマ「幸せと成功の源泉“ソーシャルキャピタル”を学ぶ」12月14日(水)開催

「ソーシャルキャピタル」という言葉をご存知でしょうか? 直訳すると「社会関係資本」という意味で、人と人とのつながりから生まれる価値のことを言います。近年、個人の幸せのためにも企業の繁栄のためにも、このソーシャルキャピタルが非常に重要な役割を持つと考えられており、これからメガトレンドになることが予想されています。

12月14日、3×3Lab Future個人会員向けに開催されている企画「さんさんビジネスクリエイト」でソーシャルキャピタルについて学ぶイベントが開かれました。登壇者は株式会社ループス・コミュニケーションズ代表、学習院大学経済学部特別客員教授、一般社団法人ソーシャルシフト・ラボ代表理事などを務める斉藤徹氏。斉藤氏は「人を幸せにする起業」「世界をより優しいところにするためのイノベーション」について実践的な学びの場を開いています。その斉藤氏の講演とワークショップを交え、参加者は「幸せと成功の源泉」といわれるソーシャルキャピタルについての理解を深めていきました。

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ソーシャルキャピタルとは何か

ソーシャルキャピタルとは何か

斉藤徹氏斉藤氏は「ソーシャルキャピタルとは何か」というところから講演をスタートしました。ソーシャルキャピタルはアメリカの政治学者ロバート・パットナムによって広く認知されるようになった言葉で、パットナムは「人々の協調行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることのできる<信頼><規範><ネットワーク>といった社会組織の特徴」と定義づけました。つまり「人と人との協調行動が人そのものの能力と同じように"商売の元手"になるという考え方」(斉藤氏)のこと。さらに斉藤氏は、次のようなたとえ話を用いて、よりわかりやすく説明をしました。

「私は『踊る大捜査線』というドラマが大好きです。このドラマの重要人物である織田裕二さん演じる青島巡査部長と柳葉敏郎さん演じる室井管理官は、初めの頃は薄いつながりしかありませんでした。でも青島巡査部長と室井管理官は徐々に相互理解を深め、協調して行動していくようになりました。すると湾岸署という組織もとても強力なチームになっていきましたよね。このように人と人のつながりが強まり、それによって組織が強くなっていく関係性こそがソーシャルキャピタルなんです」

ソーシャルキャピタルの「光と陰」

ソーシャルキャピタルは「幸せと成功の源泉」とも言われますが、すべてのソーシャルキャピタルがいいものであるとは限りません。日本語の「つながり」と「しがらみ」という言葉のニュアンスがあらわすように、ソーシャルキャピタルにも光と陰があるのです。たとえば「ソーシャルキャピタルの陰」には、次のような負の特徴があります。

(1)同調圧力の増大(少数意見者に対する同意への暗黙の圧力)
(2)機会損失の増大(特定組織との関係性が強まるが故に他パートナーとの取引機会が減少)
(3)不正行為の増大(閉鎖性による集団思考で不正行為が横行)
(4)精神的な抑圧(自由への制約や不寛容さによって精神的に疲弊する)

「人間関係が大切だということはよく言われますが、時間がたつと「つながり」が「しがらみ」に変化していきがちです。大切なのは"いい人間関係を創出する"ことなのです」と斉藤氏。

では、いい人間関係によって作られる「光のソーシャルキャピタル」にはどのようなメリットがあるのでしょうか。それは主に次の4つです。

(1)協働効果の向上(相互協力や知識共有、仲間意識によってモチベーションが高まる)
(2)取引コストの低下(お互いを信頼することで契約手続き・相互監視などが不要となる)
(3)社会的葛藤の解消(相互で信頼・監視することで社会的ジレンマを解消できる)
(4)健康や寿命の向上(相互互助や治安向上によって健康や長寿に貢献する)

こうしたメリットがあるからこそ、今、ソーシャルキャピタルに対する注目度が高まっています。これらは、地域社会はもちろんのこと、ビジネスにおいても有効なものですが、しかし、これまでソーシャルキャピタルは経営資本としては認知されてきませんでした。経営者は、個人が持つヒューマンキャピタル(=人的資本)は重視していたものの、メンバー間のつながりを強めることは軽視し、そのため、個人成果主義や相対評価、合理化の推進・徹底をしてきました。その結果、人と人との信頼の絆は分断され、ソーシャルキャピタルは崩壊。企業の利益を低下させる事態を招くことになったのです。

いかに「心理的安全性」を高められるか

良いソーシャルキャピタルは良いチームワークを生み出すことを意味します。では、良いチームワークを形成するには何が必要になるのか。斉藤氏は、次の3つがキーになると説明しました。

(1)Energy(コミュニケーションへの熱意)
...メンバー同士の交流の回数と性質。対面の会話>電話・テレビ会議>メールの順に価値が高く、その回数が多いほど、チームの生産性は高まる。
(2)Engagement(チーム全体への関与)
...特定のメンバーだけでなく、チーム内の全員が均等にコミュニケーションに関与する方が高い成果を生み出す。
(3)Exploration(外界へと向かう探索)
...外部の他チームとの交流に熱心なチームほど、生産性は高まる。

この3つの中で特に重要度が高く、かつ実現が難しいのは「Engagement(チーム全体への関与)」です。これを実現させるためには、ルールなどの外発的要因ではなく、自然発生的にコミュニケーションできる雰囲気を醸成すること、そのために「心理的安全性」を高めることが必要となります。

「心理的安全性が高いチームの場合、リスクを取る行動を取ってもとがめられず、どんなアイディアを出しても恥ずかしい思いはしません。さらに、理解できないことがあればすぐに質問もできますし、自分らしく振舞い、自信を持ってチームにいることができます。このような安心感があれば、メンバーは自由に発想を広げることができ、結果的にチームの成果は高まるのです」(斉藤氏)

斉藤氏の話を受け、最後に参加者全員で「心理的安全性を高めるためにはどうすればいいか」ということを考えるワークを行い、この日のイベントは終了しました。

この日紹介されたように、ソーシャルキャピタルは個人と組織を幸せにしうるものであり、これから先、さらに注目度が高まっていくことが予想されています。ただし、単に人間関係を強めれば良いわけではなく、より良い人間関係を作り、心理的安全性の高いコミュニティでないと「良いソーシャルキャピタル」は形成されません。このイベントに参加した人々が、これからどのようなソーシャルキャピタルを育て、新しい何かを生み出す一助にしていくのか。注目です。


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