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【レポート】フードロス問題の解決の一歩とは

「530(ゴミゼロ)の日にフードロスを考える」2017年5月30日(火)開催

5月30日は「ゴミゼロ」の日。これにちなんでゴミについて考えるイベントが、エコッツェリア協会と、神戸大学内NPO「ごみじゃぱん」との共催で開催されました。昨年に続く2度目の開催で、今年のテーマは「フードロス」。大丸有のオフィスワーカーが、学生たちとともに、「体験」と「ワークショップ」を通じて、体感的にフードロスについて考えます。

インプットトークは、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの松岡夏子氏と学生たち。学生からは、宮崎県の食材をテーマに、生産と流通の現場から見えてくるフードロスについてレポート。そしてゲストとして塚田農場などで知られるエー・ピーカンパニーから、流通本部の佐々木一信氏が登壇し、同社の「生販直結」のビジネスモデルが行うゴミの発生抑制の取り組みなどについてお話しくださいました。

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なぜフードロスなのか

なぜフードロスなのか

後半のワークショップ班、料理班の作業の様子。手前でワークショップをやっている後ろのキッチンでは料理。まさに知のワンダーランド

今回は、インプットトークの後にワークショップ班と、料理班に分かれて作業する仕立てになっています。ワークショップ班は、フードロスについてテーブルごとに意見を出し合い、理解を深め、解決策を探っていきます。一方の料理班は、さらにマーマレード班ときんぴら班に分かれ、どちらも、普段捨ててしまいがちな野菜・果物の「皮」を使って、フードロスの発生抑制を実地で体験し学ぼうというもの。

今回このようにミックス方式での開催になったことについて、「フードロスの問題は、実はとても分かりづらい。体感することで理解を深めることができるのではないかと思った」と話すのは、イベント全体のディレクションを担当するごみじゃぱんのメンバーで、神戸大学3回生の中西瞭太さんと中川勝博さん。今回のイベントのためにさまざまに調査したが「調べれば調べるほど、つまるところ"よく分からない"ということが分かってくる」と中西さん。フードロスは、単純に見えて実は奥が深い問題。だからこそ「頭と体で体験することでフードロスをしっかり捉えられるようにしたかった」と話しています。

実は、ごみじゃぱん自体は容器包装ゴミの発生抑制を中心に取り組んでいるため、フードロスの問題については「まったくの暗中模索」と話すのは今年度の幹事を務める尾形優斗さん(3回生)。「今までの蓄積がない分野なので手探りで進めている」そう。にも関わらずフードロスにアプローチしたのは「容器包装ゴミの問題が、家庭のゴミに行き着き、家庭ゴミの問題はフードロスと切り離せないから」なのです。省エネの問題が、産業界から、今まさに"家庭"へと移りつつあることとイメージがかぶります。

なぜフードロスなのか。NPO代表理事も務める神戸大学大学院経済学研究科の石川雅紀教授によると「近年クローズアップされることが多くなってきたから」というのが理由のひとつです。ごみじゃぱんの活動の中心は容器包装ゴミですが、石川教授自身にとって、フードロスは常に関わり続けている問題であり、「最近フードロスで講演や論文の依頼を受けることが非常に多くなってきた」そうなのです。今年のゴミゼロの日のイベント開催に向けて、3×3Lab Futureにキッチンがあり、牛肉や柑橘類の生産で有名な宮崎県との提携も結ばれたことを受け、「フードロスをテーマにすれば、インパクトのあるイベントになるのではないか、と思った」と石川教授。
かたやワークショップ、かたや料理。思考と体験と好奇心が入り交じる、知のワンダーランドが現出します。

フードロスは食糧支援の倍に相当

最初のインプットトークの松岡氏は、その後の議論のベースとなるよう、フードロスの問題の、全体的なアウトラインを語りました。

それによると、まず日本のフードロスは年間でおよそ60万トン。これは世界の食糧支援の、およそ2倍の量に相当します。世界各国で問題化しており、イギリスやフランスでは具体的な数値目標を立てて削減に取り組んでいます。分野別で見ると、フードロス全体のおよそ40%が生産流通から、60%が消費段階で発生しています。「途上国では特に流通体制の不備から生産流通段階で発生する比率が高い。消費段階でフードロスが出るのは先進国に特有の傾向」と松岡氏。

さらに、家庭から出るフードロスを細かく見ていくと、「手付かず」「食べ残し」「過剰除去」の3つに分類できます。「手付かず」は、購入はしたもののそのまま放置して結局捨ててしまうケース。「食べ残し」は単身者に多く見られ、高齢の単身者ほど食べ残し量が増える傾向。これは「買ったけど(作ったけど)食べられない、かつての習慣で作りすぎてしまった、ということでは」と分析しています。「過剰除去」は「難しい問題」と松岡氏。家庭からの食品ゴミには「調理くず」がありますが、「調理くずと過剰除去の境界線は曖昧で、何をロスと定義するかは人によって考え方が違う」。例えば大根の皮をそのまま食べたり、むいてきんぴらにして使ったりする人もいれば、そのまま捨ててしまう人もいます。「可食部の考え方は、人、地域、文化によって異なるので注意が必要」だと松岡氏は話しています。

また、平成28年度に神戸市で実施した調査の結果なども踏まえ、まとめとしてフードロスは絶対的な定義がなく、文化文脈によって異なること、人や文化に依存するために難しい側面があることを指摘。また、一方で「家電を廃棄するのとは違い、自分の工夫できる部分が大きい」ことも特徴であり、そこに解決のヒントがあるとも語りました。

生産流通におけるフードロス、容器包装ゴミ

左から吉清さん、村上さん、山岡さん

学生からのプレゼンテーションには、3回生の村上晴絵さん、山岡寛紀さん、吉清史記さんの3人が登壇。まず村上さんからごみじゃぱんの活動概要の説明の後、宮崎県の牛肉流通段階のフードロス(食品ゴミ)を調べる「牛肉班」のレポートを山岡さんが、日向夏など温州みかん以外の柑橘類である「雑柑」を調べた「雑柑班」のレポートを吉清さんが行いました。

牛肉班の山岡さんは、牛肉の生産流通過程で発生する食品ゴミと包装容器ゴミについてレポート。それによると、牛1頭700kgのうち、32%に相当する252kgが精肉として食品利用される一方、骨や血液、脂肪、革などの利用も進んでおり、55%が副産物として利用され、ゴミとして廃棄されるのはわずか11%程度なのだとか。また、流通時に発生する容器包装ゴミも、ミートラッパー(枝肉を包むガーゼ状の包装資材)やダンボールが僅かに使われるのみで、1頭当たり2、3kg程度。
「食肉産業は、ゴミや無駄が少ない、理想的な産業であることが分かった」と山岡さん。生産者や流通関係者へのヒアリングを行った際には「誰もが"生命をいただく"という高い意識を持って、無駄をなくす配慮をしていた」と話しています。

雑柑班の吉清さんからも同様に生産流通段階における食品ゴミ、容器包装ゴミについて。今回は「パターンが多すぎ把握仕切れない」市場外取引を除き、市場取引に絞って検証し、生産者→市場→卸売業者→売買関係者・仲卸業者・大口需要者→買出人(小売業者)→消費者の各段階におけるゴミ発生の可能性と原因等について調べました。

まず生産者の段階では「規格外・虫食い」等の廃棄が発生。しかしこれについては「フードロスと定義できるか微妙」と吉清さん。その後、市場から卸売業者の段階では「収納期限」によるロス発生、買出人のレベルでは「販売期限」によるロスが発生する可能性があることを指摘。農水省の統計では、事業系の食品廃棄物のうち、339万トンが可食部と考えられており、家庭ゴミでは282万トンの可食部廃棄が行われているとされています。しかし、ヒアリング調査では、スーパーなど小売店では「さまざまなリユースやリサイクル方法を取り入れて、地道にフードロス削減の取り組み」をしていることも明らかになり、「半分を占める家庭からのフードロス」が課題になるのではないかとも話しています。

また、フードロス発生抑制の取り組みとして、神戸大学の学生団体「ぶさべじ」を紹介。代表を務める久保陽香さんが登壇し、農家と学生の関係性を高めることで消費者意識を高め、フードロス削減に取り組んでいる活動について報告しました。
「便利だから、安いからではなく、農家の方が作ったものを感謝して、責任を持って食べることが、ゆくゆくはフードロス抑制につながるのではないかと考えている」(久保さん)
そのため、カフェで農家から直接仕入れた野菜の販売やごはん会などを開催。農家とつながるシェアハウスの運営も行うなど「おいしい体験を通じて」意識を変えていく活動に取り組んでいます。

コ・クリエーションがフードロス発生抑制の鍵

最後のインプットトークは「塚田農場」「四十八漁場」などで知られるエー・ピーカンパニーの佐々木一信氏がゲストとして登壇。佐々木氏は流通本部で日頃バイヤーとして活動されており、その実務の現場から、フードロスの発生抑制にどのような取り組みをしているかを語りました。

同社の特徴は、塚田農場が宮崎県で自社生産した地鶏をお店で調理して販売しているような「生販直結」のビジネスモデル。これを氏は「インテグレーション型」と呼んでいます。地鶏を孵化させて育て、成長したら加工して(捌いて)飲食店で使用する。そのため「欲しい部位を欲しいだけ購入する他の飲食店とは違い、育てた生命をおいしく食べてもらう、使い果たす責任がある」と佐々木氏。 そのために、生産された地鶏は「生産者とも相談してすべてをおいしく食べる工夫をしている」一方、どうしても食べられない部分は資源として利用します。大腸・小腸など食べられない内臓類や血液は「チキンミール」として畜産試料(ペットフードなど)へ、羽は「フェザーミール」として肥料に使用。鶏糞はバイオマス燃料として利用します。こうした取り組みは、最初からできたわけではなく、「地元の企業のみなさんに相談することで初めてできるようになったこと」と佐々木氏は話しています。

もうひとつの事例は「異業種間連携」。えのき生産者と地鶏生産者の連携です。 えのきは収穫後に菌床が産業廃棄物として廃棄されていました。「えのきの世界では、なかなか活かしきれないもの」(佐々木氏)でしたが、地鶏生産の現場に持っていくと土壌改良材として利用が可能に。「大腸菌が減り、温度も上がっていい環境を整えることができる」と佐々木氏。

「やはり考えるのは、ゴミをなくすのに単一企業では難しいし限度があるということ。地域の方々、企業と連携することで解決することが多い。違った分野の人から見ると、一方からはゴミに見えるものでも宝に見えることがある」(佐々木氏)

そして今日の来場者が業種問わず、さまざまな分野から集まっていることを指し、「お持ちの知識や経験、ノウハウを持ちよることでゴミの問題解決に活かせるのでは」と、コ・クリエーションへの一歩を呼びかけました。

また、最後に生産物を利用する新しい視点の導入についてのアドバイス。同社では、一般的には「規格外」とされる、緑と赤が混じったピーマンのほうが味が良いことから「虹色ピーマン」として塚田農場で商品化。また、えのきの根元部分(石付きより上、軸の下部)が、帆立の貝柱のような食感と独特の美味しさがあることを活かして「えのきのステーキ」として利用していることなどを紹介。佐々木氏は、「ゴミのように思われるものでも、見る人によって、消費者の意識によって変わる」とし、フードロスについての考え方を示しました。

フードロスはこれからの課題

その後、料理班、ワークショップ班へ分かれてそれぞれの活動へ。
ワークショップ班は、「自分にとってのフードロスとは何か」を話し合い、フードロスの輪郭を浮き彫りにした後、「そこから生じる問題は何か」、そして「解決するにはどうしたら良いか」を話し合うという構成。4~5人の3グループで話し合い、最後にシェアしています。主に見られたのは「賞味期限」「消費期限」や「規格」をどのように考えるべきなのかという意見、「消費者の啓蒙・教育」の重要性、現在の経済・流通システムへの疑問などでした。

料理班では、日向夏と甘夏の皮を使ったマーマレード班と、ナスの皮を使うきんぴら班の2班に分かれて調理。皮をむいたナスはサラダに使われており、普通なら捨ててしまう皮ですが、唐辛子、虹色ピーマンと一緒に炒めてナンプラーで味付けするエスニック風味のきんぴらに。マーマレードは、ミキサーで細かくした皮に砂糖を加えて電子レンジで調理するという簡単レシピ。普通のマーマレードに比べて時間も手間もかからず、味の調整もしやすいのが特徴です。
また、調子づいた調理班の面々は、ナスのヘタや里芋の皮なども「揚げれば食べられるのでは?」と、余った時間を使って素揚げにするトライアルもしていました。これら料理は懇親会に供され、きんぴら、マーマレードはもちろんのこと、ナスのヘタや里芋の皮もおいしくいただくことができました。

今回のイベントで初めて本格的にフードロスに取り組んだごみじゃぱん。今年は「三木かんきょうフェスティバル」(6月25日開催)にフードロスをテーマに参加することが決まっているほかは、まだまだこれからという状態。NPO代表理事の石川教授は「学生たちがやりたいかどうかが第一ではあるが、容器包装ゴミとパラレルで取り組んでいきたい」と話しています。
エコッツェリア協会でも、3×3Lab Futureでイベントや懇親会がある際には、常にフードロスがないよう、積極的な飲食を呼びかけるなどしていますが、今後さらにフードロス発生抑制に取り組んでいきたい考えです。


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