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【レポート】地方は日本を立て直す鍵になる

BFL地方創生セッション vol.10「金融機関が仕掛ける地方創生」2018年6月25日(月)開催

8,10,11

BeSTA FinTech Labと3×3Lab Futureが共同開催するBFL地方創生セッションのVolume10が、6月25日に開催されました。毎回「金融」「地方創生」を軸にしたセッション、講演を行う本イベント、今回のテーマは「金融機関が仕掛ける地方創生」とそのものずばりに切り込んでいます。講師は『里山資本主義』『デフレの正体』で知られる藻谷浩介氏(日本総研主席研究員)。自らの足で地方を隈なく歩き、その問題と可能性を詳らかにしてきた氏が、現代日本の「病理」と地方創生に必要な「本質」を語ります。

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「金融機関が仕掛ける地方創生」――藻谷浩介氏講演

「金融機関が仕掛ける地方創生」――藻谷浩介氏講演

藻谷氏は、広角的な視点から日本全体の問題を俯瞰的に捉えたうえで、国際社会と日本、そして地方創生の問題へとクローズアップしていきます。その最初の切り口は「クラウド」です。

▼私たちはクラウドに支配されている質問を投げかけ、会場に答えさせるのが藻谷氏の講演のやり方

冒頭で氏が指摘したのは、「私たちの意識は『クラウド』に支配され、独立した判断基準で動いていない」という点です。ここで言うクラウドとは、世間一般に流布する紋切り型の言説や無根拠なイメージ、風潮、空気、といったものを指しています。その一例として藻谷氏は会場で、日本の国際競争力を会場に問いかけてみせました。中国(含む香港)の国際収支が黒字か赤字か、トントンかを挙手で問うたところ、答えはバラバラ。答えは「大幅な日本の黒字」ですが、ポイントは「バラバラであった」こと。
「大手町のインテリジェンスがあり、知的好奇心の高い人達が集まっていても、こんなにバラバラ。つまりみんな知らずに騒いでいるってこと」

対米貿易収支も大幅な黒字、日本が赤字となっているのは産油国と、ワイン、ファッションなどがあるフランス、イタリアくらいなもの。
「史上最高の黒字を出しているのに、日本の国際競争力は落ちたと思っている。それはクラウドがそう言っているからで、みんなこの客観的な数字をまったく見ずに議論している。つまりそれだけアバウトで個別具体例を理解していない」

他にも殺人認知件数の推移、原発停止後の、化石燃料の輸入量変化などの数値を示しながら、いかに我々がアバウトな印象で議論しているか、つまりクラウドに支配されているかを明らかにしていきます。

地方創生に関しては、県ごとの海外観光客数の推移を示して、「地方はダメ」という言説に嘘があることを指摘。
「佐賀なんて3万人から38万人に増えている。そこには投資も起きている。つまり、日本でも動くときには動く人もいる。動くときにはガンスカ動く。問題は、日本人の判断が遅いことじゃない。判断の基準がないから一歩も前に進まないことだ」

▼地方を巡る真実生活保護率の数値を解説する藻谷氏

地方を巡る言説にはさらに多くのクラウド支配があるそうです。例えば「地方には仕事がない」という主張。これは失業率を見れば実体のない言説であることが分かります。東京の完全失業率は3.6%。実はこれを上回る県は青森、宮城、大阪、兵庫、福岡、沖縄の6県だけ。また、もうひとつ「地方の嘘を暴く」と藻谷氏が言う数字が生活保護率です。全国平均1.7%のところ、トップクラスで高いのがなんと東京。23区内に限って言えば2.4%と群を抜いて高い。
「地方のほうが食べられず受給している人が多いと思われているが逆なんです。東京は高齢化率も高いうえに、自給と物々交換、恩送りの体制がないために、すごく生きるのが難しくなっている。言っちゃ悪いが、日本の財政不安は、東京を切り離すだけで大幅に改善されることは間違いない。老後が不安、日本の高齢化社会がヤバイと言っている人は、実は東京と地方を一緒くたにしている」

地方に仕事がない、暮らすのが大変。これは50年前に日本中から東京に若者をかき集めたときのイメージ、言説がそのまま生き残っているに過ぎない。また、「地銀がダメだ、地方がダメだ」という言説も、同根のものだと藻谷氏はいう。
「地銀がダメになったら都銀も日銀もダメですよ。地方が金食い虫だ、潰れるっていうのはもう30、40年も前の話。もういい加減、地方はダメだっていうクラウドの命令聞くのは止めましょうよ」

地方はダメじゃない。むしろ地方こそ、これからの日本を考えるベースになりうる。クラウド支配を脱し、その視点を持つことこそが、これからの議論の出発点になるのです。

▼地方を巡る真実

そして、再び日本全体の経済の動向を概観します。それは、現代日本に何が起きているか、を明らかにしようとするもの。まず、「ワケのわからない対前年度比じゃなく絶対値で見ることが重要」と、マネタリーベース、株価の推移を示しました。

それによると、バブル末期の1989年、マネタリーベースは36億円。それ以降、繰り返す金融緩和で微増はしていますが、大幅に増加するのは日銀総裁が黒田氏に変わってアベノミクスが始まった2013年以降。指数関数的に増加し、2017年には458兆円に達しています。そこでは「お金がお金を生む」状況が生まれ、株価総額も600兆円を超えました。

「つまり現金と株価、ダブルでお金がむちゃくちゃ余っている状況。にも関わらず経済が活性化しているかというと決してそうとは言い切れない状況」

それは個人消費額、所得額の推移から読み解くことができます。GDPは操作されているために得体の知れない数値になっており参考にならないと藻谷氏。株価やマネタリーベースの増加にも関わらず、個人消費額、所得は「鉄板の横ばい」。1997年ころから現在に至るまで変化がありません。消費が進まなければ、BtoCに関わる企業・産業への投資も生まれない。BtoC関連への投資がなければBtoBへの投資も増えない。つまり経済全体が活性化することがないのです。

「払っている給料が増えないから消費が増えない。こういう状況に対して、株価が上がったり、お金が死ぬほどあってもまったく影響しないことは明白なのに、いまだに株価が上がれば経済は良くなると信じている人たちが後を絶たない」

藻谷氏は、この停滞状況の原因は人口減少にあるとしています。労働力人口はバブル期以降、6000万人のままほぼ横ばいで、なおかつ所得も増えていません。これでは消費が拡大するはずもありません。
「日本の経済学者は人口の影響を考えずに経済理論を考えているから、本当のところが分からない。今の日本に欠けているのは人間の数。経営資源とは『ヒト・モノ・カネ・情報』だと言うが、今の日本にあるのはカネだけだ」

▼現代日本の「病理」

ちなみにドルベースで見ると、日本経済は拡大傾向となっています。しかし、外から見て経済が順調でも、内需は拡大せず、投資先もない。つまりお金の行き場ばない。行き詰まった状況が続いています。

これを、多くの評論家は「国際競争力の低下」「生産性欠如による経済成長率の低下」「デフレ」と読み解いていますが、これもまたクラウドのイメージに過ぎないと指摘。

「経済競争に任せれば最適の結果になるという人もいる。しかしこれはお金を神格化した、市場経済原理という宗教みたいなもの。市場で生き残ったものが素晴らしい、正しいという、得体の知れない通念がはびこっている」

そして、このようなクラウドのイメージは「エセ科学由来の強迫性妄想」だと厳しく指摘します。 「なぜこういうことを信じるのか。それは、この世はお金と資源の奪い合い、勝たなければ食い物にされると信じ込んでいるから。そういう人は先に食い物にされる人がいると、同情するどころか安心する。そしてさらなる不安からお金と不動産を貯め込むようになる」
「地方はダメだ」「地方は潰れる」という意見も同じ論調から生まれているものです。 「地方が潰れる話が大好きな人は、一刻も早く地方を潰して、都会にいる自分は生き残りたいと考えている人。だから奪う側の都会に集まり、田舎を潰せと大合唱している」

これは「現代日本の社会病理だ」と藻谷氏。今、日本に限らず世界全体で見ても、収奪されて死に絶えることはないとしています。「地球全員が食べていくだけのエネルギー量はある」。奪い合いで勝たなければならないという考えは100年前、50年前のクラウドのイメージに縛られていることにほかなりません。

▼循環・再生の失敗講演中、度々台に上がって熱心に図示する藻谷氏

ここで藻谷氏は、改めて今の日本で起きている事象を「出生が減って社会全体が縮小している」「空き家などの遊休不動産、放置農林地が増加」「化石燃料の使い捨ての限界」の3点に整理。また、株やお金を貯めていることで、消費に回らず循環していないことも指摘します。「なぜ奴らは使わないか?ではない、これは逆で、使うつもりのない人が貯め込んでいる」と藻谷氏。

こうした状況を総括して、藻谷氏は現代日本の本質的な問題とは、「ヒト、モノ、カネ、情報の循環と再生に失敗していること」だとまとめました。
「特に富裕層の貯金が内臓脂肪化し、結局火葬されるときの燃料にしかならない状況。その結果、ますます経済が回らなくなり、ますます保持したお金を貯めたくなって、ますまず循環再生が進まなくなる。すると若者の所得は減り、消費も減り、経済も横ばいとなるという、悪循環に陥っていく」

ではこんな状況で金融機関、地銀に何ができるのでしょうか。投資しようにも投資先がない、無理やり資金需要を作ろうと四苦八苦しているのが現在の状況です。

「だけど結局、基本的に足りないのは人間。人を増やすところに、お金を使うことができなければ、この状況は変わらないし経済も回らないんじゃないか。どんなことができるのか、考えればやれることはたくさんあるはずだ」

▼子供はコストではない

それを考えるために挙げたのが「次世代再生力」の数値です。これは25~39才の子育て適齢期の人口と0~4才児の人口の比で、100対100なら同数が保たれるというもの。後ろの数字(子供側の数字)が次世代再生力の数値となり、90が出生率約2に匹敵します。合計特殊出生率よりも精度が高く、「構造がよい分かる数字」と藻谷氏。それによると、東京では55、すなわち大人の半分しか子供がおらず、高齢者ばかりが増えている実態が明らかにされました。

「若者が都市部に流入してるなんて言うが、若者自体が減ってるんだから数値としては微々たるもの。東京が流入超過だなんて言ってるのも高齢者が増えているだけ。本当は沖縄や九州のように、次世代再生力が80を超えるようにしなくてはいけない」

つまり、出生率、次世代再生力が上がる方向に、お金を使うことを考えてはどうかという提案です。「金融機関は少子化対策機関じゃないからできることは限られている」とはしつつも「ヒト・モノ・カネ・情報のうち日本が唯一あるのはお金だけなんだから、それでなんとかするしかない」とも指摘します。例えば子育てする家庭にインセンティブを与える等、ちょっと考えるだけでもアイデアはいろいろ出てくるでしょう。

「子供はコストだと考える人がいる。子供食堂に寄付することに、弱者を甘やかしちゃいけないと考える人がいる。しかし、それはエジキになる弱者がいなければ経済が回らないという考えで、そういう人が増えると、資源を食べるだけの赤ちゃんはコストでしかなく、真っ先に減ることになる。それが少子化の本質なんだ。それを緩和する仕組みを作るところにお金を使うべきなんじゃないか」

そして最後に、「大幅な軌道修正を」と呼び掛けて締めくくっています。

「今、子供よりも自分の貯金を死ぬまで最大化することを人生の目標にしている人が大量発生し、手段でしかなかったお金が人生の目標、指標になってしまっている。これは結構根の深い問題で、お金を集め、再配分することを至上命題にしすぎた江戸幕府=東京の経済界の行き過ぎによるものでもある。今、坂本龍馬的に、大きく軌道修正すべき時期に来ているんじゃないか」

質疑応答

講演の後の質疑応答も非常に内容の濃い、充実したものになりました。質問者の視点も鋭く、議論がさらに広がっていきます。

ある質問者からは、クラウドのあり方について、「種々あるというが、日本独自のものなのか、世界にもあるのか」という質問がありました。これに対し藻谷氏は「人間共通の能力で、世界中どこにでもあるものだ」と回答。
「それぞれの地域にそれぞれの形で存在する、人間の基本的な性能と言える。社会の根底にあり、すごく粘性が高い。大切なのは、そのクラウドとの接続を切る、弱める訓練をしておくことだ。大企業にいる人ほどクラウドの能力が高い傾向にある。東京にいる人は特に注意したほうがいいだろう」

また、地方を巡る真実について、「シャッター街についてのクラウドとは何だろうか」という問いがありました。これは地方創生に関わっている人からの質問と思われます。これについて藻谷氏は、見ている視野が狭くなっていることに注意するよう呼びかけました。
「東京の人は地方の中心市街地がダメになっていると思っている。でも、郊外のホームセンターとかショッピングモールはすごく元気で、元気な高齢者がDIYをやるためにいっぱい買い物したりしているところがある。つまり駅前だけで見ていると薄くなっているかもしれないが、その地方全体を俯瞰すると、経済は拡大していると見ることもできる。東京だって、通勤ラッシュは、数年前には乗車率300%だったのに、今は150%くらいになっている。そういう薄い集積が起きていることを見なければならない」

この他にも、「クラウドを作るのは誰なのか」「クラウドから切り離して考える習慣を付けるために知るべき話者は誰か」となかなかスリリングな話題もあり、質問者の興味が尽きることがありません。最後には、藻谷氏は翌日に行う予定のロシアでの講演資料などを引き合いに出しながら、「自分で考え、整理するために、ありとあらゆることで客観的な数字を作るようにしよう」と熱心に語って締めくくりました。

地方創生と地方の金融機関の問題とは、金融だけの問題ではないことは誰もが承知していることではあったでしょうが、ここまで舌鋒鋭く、詳細な数値を交えて語られたことは、今後のBFLのあり方を考えるうえでも非常に示唆的であったに違いありません。また新たな知見、切り口を得たBFLの今後に期待したいと思います。


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