シリーズコラム

【コラム】プラチナの国・ジパングとして再び輝く日本へ

インタビュー:松田智生さん(三菱総研 プラチナ社会研究センター 主席研究員)

少子高齢化による人口減少社会への突入を迎え、課題先進国となった日本。しかし、この難しい局面をチャンスととらえ、一歩を踏み出すことで課題解決をはかり、課題解決先進国・日本の実現へのチャレンジが行われている。人を動かし、新産業を創り出すことで持続可能な社会システムを確立しようという、三菱総研の松田氏に「プラチナ社会研究会」の内容と次のアクションを起こすために必要なヒントなどをうかがった。

グリーン社会とシルバー社会を超越する
課題解決社会「プラチナ社会」

-松田さんが提唱されている「プラチナ社会構想」とはどういうものでしょうか?

プラチナ社会研究会のサイトいま日本は課題の先進国です。その課題は高齢化や雇用不足、環境などで、かつて先進国であった日本が、いまや課題の先進国になっている。それらを世界に先駆けて解決して「課題解決先進国」になろうというものです。環境だとグリーン社会、高齢化ではシルバー社会とよく言われますが、これらを超越した目指すべき課題解決型の社会がプラチナ社会。なぜプラチナかというと、シルバーには「シルバーシート」のように何か弱者のイメージがつきまといますが、「プラチナ」はさびない、輝きを失わない、上質であるということですね。

-プラチナ社会研究会はどういう経緯でできたのでしょうか?

プラチナ社会研究会は、三菱総研の新規事業として2010年にたった2人で始めたプロジェクトです。始めるときは、「出口は何だ」とか「もし10社しか集まらなかったらどうするんだ」など、社内からさんざん叩かれましたね。当時40代前半でしたが、みんなが希望を持てる政策提言をしたいという想いで、「『いくら儲けるか』ではなくて、『何をやるのか』が本来のシンクタンクでしょう」と腹をくくったわけです。5年後10年後の未来像を描きましょうと。
研究会では「新産業は人が輝く暮らしから」というメッセージを掲げています。これまでは繊維産業、自動車産業などのように産業が主語でした。つまり供給者目線だったわけですが、ここでは生活者が主語で、新しい産業で生活者が生き生きすることを目的としている点が、これまでの産業論とは違います。
また、プラチナ社会というのは高齢者のためだけの社会ではない。多世代のための成熟した社会です。多世代視点なんですね。高齢者の幸福が若い世代の犠牲の上で成り立っている『「高齢者」会』はおかしい。高齢者の雇用が若年層の雇用を奪ってはならないのであって、雇用の配分でなく、創出が大事です。プラチナ社会でアクティブシニアの産業が生まれたら、そこで若年層の雇用が生まれるし、人脈が豊富な高齢者が若手ベンチャーを支援する、子育て世代を助けるという考え方です。「シニアは社会のコストでなく担い手」ということですね。
いまプラチナ社会研究会は、まちづくり、セカンドキャリア、女性のライフスタイルなど約10の分科会があり、企業だけで187、産官学すべて合わせれば約380の会員が集まってさまざまなワークショップを行っています。

課題解決を妨げているのは、
現代日本の職場が冒されている症候群

-研究会の立ち上げ時には叩かれたということですが、現実社会では、課題解決を阻むさまざまな壁が立ちはだかっていますね

仕事で企業や、官庁、地方自治体、大学などさまざまなセクターと接すると、もちろんそれぞれ課題を抱えているわけですけれども、ダメな職場には共通する症状があることがわかります。
ひとつは、「否定語批評家症候群」というものです。制約条件の中でしかものを考えてこなかった、リスクヘッジと改善だけでやってきた人に多いように感じます。会議などで人の意見や提案に対して、否定や批判ばかりする、しかもロジカルに。そういう社内批評家はえてして理論派だと言われることが多いのですが、そういうところはダメな職場です。よく「○○はいかがなものか」という発言を耳にします。これを英語で意訳すれば「I have no idea」ということですよ。
そして、否定語批評家は知識層や役員層に多いということが問題なんです。彼らは弁が立ちますが新しいことは何も生み出さない、会議も何も決まらない、それなのに出世していく。そういうのを見て、また周りの誰かが「否定語批評家症候群」に陥ってしまう。
2つめは「一歩踏み出せない症候群」です。これは周囲のしがらみを気にして動けないという症状です。こうしたほうがいい、こうあるべきだとはわかっていても、そうすると隣の部署と摩擦を起こすとか、前任者の顔をつぶしてしまうとか、そういうことを考えてしまい実行に移せない人ですね。
3つめは「居酒屋弁士症候群」です。酒の席では雄弁なのに職場に戻ると、とたんに無口になってしまう人。よく神田や新橋、八重洲界隈に出没していますよね。でも、私は居酒屋弁士が悪いとは言わない。お酒の席では良いアイデアもたくさん出ます。良いことも言っているんだから、それを職場でやりましょうよと。実は日本のサラリーマンは飲み会に費やしている時間は非常に多いんですよ。1回3時間、月3回としても、年間100時間近くは飲んでいることになります。100時間が愚痴と自慢話と噂話で終わる職場と、愚痴はほどほどにして前向きな議論を心掛ける職場では、100時間の価値が全く違うし、1年後のその職場の力の差も歴然としてきます。ですから、居酒屋で愚痴は30分ルールが良いと思います。
4つめは「やったもん負け症候群」です。普通は「やったもん勝ち」ですね。開拓者が先行利益を得るというのが「やったもん勝ち」ですが、そうはならずに少しでも失敗すると徹底的に叩かれる。それで、みんな怖がってしまう。日本の組織、とくに大きくて安定したエスタブリッシュな企業ほど、前例主義がはびこっていて、新しいことにチャレンジすることに勇気がいる。組織全体がこの病を罹っているかもしれません。
それから、「インプット大好き症候群」というのもありますね。学んでインプットするのは好きだけれども、行動のアウトプットが伴わない。発言は新刊本や社外セミナーの受け売りだけとか。ドラッカーを読んでも自分の職場目線に置き換えないと職場は変わらないですよ。みなさんの中にも、ご自身の職場でこのような症状に思い当たる方が少なくないでしょう。社会全体が成長を続けていた時代なら、それでも良かったのでしょうが、いまはそういうわけにはいかない。そうやって思考停止や不作為を決め込んでいると、課題はいっこうに解決されないばかりか、どんどん状況は悪化していってしまいます。

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処方箋は[対案ルール]と[異質な人材との真剣勝負]

処方箋は[対案・代案ルール]と[異質な人材との真剣勝負]

2013年プラチナ社会研究会総会

-それらの現実の壁を突破していくためには、どのような考え方、行動が必要でしょうか?

いくつかありますが、「否定語批評家症候群」から抜け出すためには、[対案・代案ルール]を導入してみる。考えは人それぞれですから、否定や批判はあって当然ですし、健全な議論のためにはあってしかるべきものですが、批評家的態度に終始していては目新しいものを生み出すことは難しいですね。そこで、否定、批判は結構だけれども、必ず対案・代案を出してください、というルールを設ける。そうするだけで、会議は劇的に変わっていきますよ。
対案を出すには、元となる提案を慎重に検討したうえで、それよりも優れていると思われるものを考え出さなければならないですね。そして、対案が示されることよって、各案のメリット・デメリットなどを比較・検討したりして、より活発な意見が交わされるでしょうし、議論をとおして目的などへの理解が深まることも期待できます。もちろん、必要な修正が行われるなど、提案がより良いものになっていきます。
それから、あえて異なるバックグランドを持つような異質な人材と交わり、真剣勝負を行ってみるというのも有効です。同じ社内の中、決まった序列の中で、社内でしか通用しない社内方言とでもいうような言葉で、あらかじめ落としどころありき、のような議論をいくら重ねたところで、イノベーションなんて起きないですよね。織田信長が楽市楽座で市場解放をして城下町を活性化したことを今、職場を超えて社会全体で行うのです。
本当に新しい価値を生み出したいと思うのなら、そういう肩書きや職位が幅を効かすところでない、フリーな場所をつくる、あるいはそういう場所に出かけていって真剣勝負を挑んでいくことが重要ではないでしょうか。エコッツェリア協会やプラチナ社会研究会はそうした「イノベーションの楽市楽座」なんだと思います。そこに行けば新しい情報や価値に触れることができる。活動に参加すれば、きっと何か新しいものを生み出すことができるだろうと思います。

わずか1%の人が動けば社会は変わる

-「楽市楽座」は"楽しい"場所ではなく、規制のないフリーな競争社会という側面もありますよね?

プラチナ社会研究会から生まれた活動のひとつ、中部大学シニアと学生の交流会の様子予定調和的ないまの社会の有り様を変えていくためには、同じ価値観の者同士よりも、異質な他者との接点と真剣な、かかわりが必要だと考えているんです。
新しい社会を創り出すいわゆるイノベーターは、全体のわずか1%ですよ。彼らの動きを見て、フォロワーと呼ばれる多くの人がついていく。いまでは誰もが手放せなくなっているスマホやFacebookなどのSNSにしても、初めて使った1%の人がいて彼らの周りで盛り上がり、やがて全体に広がっていったわけでしょう。
ですから、まずは1%のイノベーター、変革者が行動に移す、ひと肌脱ぐような仕掛けづくりが重要だと思います。エコッツェリア協会でも、企業・団体がフラットに交流できるオープンなプラットフォームやセミナーなどを通じて未来像を描こうとする取り組みを行っていらっしゃいますが、私たちもプラチナ社会研究会の分科会や視察、個別プロジェクトを通じて、1%の変革者が動いていくのを実感しています。
プラチナ社会構想から広がる多方面での事業が、単なる一過性のプロジェクトとして、「今年度いくら稼いだか」といった小さな話に終わらせたくありません。かつて黄金の国・ジパングとして世界が憧れた日本が、プラチナの国・ジパングとして注目され、世界中の人びとが次々と日本に課題解決のモデルを求め視察にくるような、夢のあるプロジェクトを目指しています。エコッツェリア協会をはじめ、できるだけ多くの方々と一緒に育てていければと思っています。

松田 智生(まつだ・ともお)
株式会社三菱総合研究所 プラチナ社会研究センター 主席研究員

専門は超高齢社会における地域活性化。アクティブシニアのライフスタイル。2010年、三菱総合研究所の新たな政策提言プロジェクト「プラチナ社会研究会」を創設。著書に「シニアが輝く日本の未来」、「3万人調査で読み解く。日本の生活者市場」(共著)。内閣府高齢社会フォーラム企画委員、
総務省地域資源・事業化アドバイザー、国際ホテル・レストランショー企画委員。高知県・移住促進協議会委員。石川県・ニッチトップ企業評価委員。

プラチナ社会研究会

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