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【コラム】リーダーに不可欠な熱く、強い「想い」を育てる

インタビュー:小沼大地さん(NPO法人 クロスフィールズ 代表理事)

新興国での社会課題の解決に取り組む現地NPOに企業人を送り込み、日本では体験できないような困難に挑む機会を提供することで、「想い」を持った、未来を切り拓くリーダーを創ろうとする、人材教育プログラム"留職"。企業のみならず、あらゆる組織で求められている、既存の枠組みを突破する力を持った人材は、留職によって育っていくのか――留職プログラムを展開する、NPO法人クロスフィールズの小沼代表理事に聞いた。

リアルで本気、その迫力が人を伸ばす

-企業での人材教育はOJT、OFF-JTなど、さまざまなものがありますが、それらと"留職"とはどう違うのですか?

OJT 、OFF-JT や研修プログラムなど、これまでの企業での人材育成との一番の違いは、留職の研修プログラムは「リアル」であるということです。もちろん、従来の研修プログラムでもリアルな経験を積むものがありますが、その度合いが異なります。受入れ側では、その人の働きで自分たちの活動が加速することを期待している。仮想でもケーススタディでもなく、リアルな状況の中で成果を出さなければならないわけです。受入れ側の迫力が違う。そういう、本気の度合やリアルさが、OFF-JTなどの研修プログラムと異なる点です。

-OJTはリアルですが、その迫力が全然違う?

そうですね。OJTはリアルですが、それとの違いは、まったく異なる価値観の中に入り込んでいくことです。たとえば、海外トレーニー制度とよく比較されますが、これは実際に駐在事務所の現地法人に行って、グローバルなリーダーシップを育てようというものですね。しかし、それは会社の看板を背負ったままで、価値観を共有する組織の中でのことです。留職はそれらが通用しない、言い訳できない状況の中に入っていく。OJTではどうしても、どこか甘えがあったり、大事に扱われがちですが、留職プログラムの場合は会社の名前が逆にプレッシャーにもなるわけです。日本を代表するグローバルな企業の人だったら、「○○社のエンジニアとして、どう思うんだ?」と聞かれたりする。そのようなアウェイの状況の中に身を置いて、何かやるということが、OJTとの大きな違いです。

-ボランティアとは、会社を背負わないところが違うのでしょうか?

留職プログラムはボランティアに一番近いと思います。しかしボランティアからイメージされる、アマチュアリズムとか、良いことをして感謝されるというものでなく、しっかりとした成果を求められるところが違います。アサインメントが渡されるので、それが達成できるのか、できないのかで評価されます。その人の本業のスキルを活かして成果を出さなければならないわけですね。

青臭い想いを抱えた、尖った人材が生きる組織、社会に変えていく

学校を運営するNGOの活動を視察する小沼さん(インド・ジャイプール 2012年11月)[写真提供:クロスフィールズ]

-留職を始めようと思われたきっかけを教えてください

私は大学を卒業して2年、青年海外協力隊として活動をしていました。日本に戻ってきたとき、大学時代の同期は社会人3年目になっていて、商社や金融機関に就職した友人たちと会って話をしてみてびっくりしました。学生時代には熱く、尖っていた彼らが、私から見れば変わり果てていて、「お前はまだそんなことを言っているのか」「早く大人になったほうがいいぞ」と何を話しても反応が鈍かったわけです。どうして会社に入って2年や3年で、ある種のカッコつきの大人になってしまうのかと。それを何とかしたいと思ったのが留職を始めたきっかけのひとつです。

これからの時代は、イノベーターや尖った人材、出る杭が大事になる。青臭い想いが、日本企業が生き残っていくための一番の源泉になっていくと考えているのですが、それが組織の中ですごい勢いで潰されている。ですから、そんな淀んだ空気の中から飛び出して、信じられないようなチャレンジをしているリーダーのもとで、もう一度新鮮な空気を吸ってきて、それを会社の中に注入する――留職がそんなプログラムになればいいと思います。

-導入実績には大手企業の名が並んでいます。受け入れてもらうのは大変ではありませんでしたか?

良しにつけ悪しきにつけ日本の企業・社会では、ブランド志向が強く、「この会社がやっているのなら、当社もやろう」という面があると考え、はじめから日本を代表する会社にアプローチしていきました。私たちは一人の方を留職させるだけでなく、人の働き方、あり方を変えていきたいという想いで活動しています。社会が変わることを目指すと、日本人の志向性からすれば、有名な影響力のある企業で成果を出せば、そこに追随する会社も出てきて波及効果も大きくなるはずだと考えて、各業界を代表するような企業とお付き合いするという意識を持っています。

-エスタブリッシュな大企業は官僚的なところもありますが、どのような戦略でアプローチしていったのでしょう?

クロスフィールズのサイト留職は、ある意味では官僚的な組織にこそ求められるプログラムですからニーズは高いんです。元気な組織では、留職プログラムを導入しても成果が少ない。それに対して、比較論としては大企業のほうがくすぶっている人が多くて、本来的には入りやすいと思っています。
とはいえ、現状維持バイアスが強いわけですから、それをどう突破するかというと、その組織の中に必ず応援してくれる人がいるので、彼らと一緒になってやる。私たちはそういう人を「チャンピオン」と呼んでいるんです。この言葉には、「優勝者」という意味の他にもある主義や主張を応援する人という意味もあるらしいんです。

数千人、数万人の組織には、「自分はくすぶっているんだ」という人がいます。当社の取り組みを導入したいと言ってくれる人が、若手だけでなく、部長などの管理職や役員クラスにもいます。そのチャンピオンをどうやって増やしていくかを営業戦略として一番大事に考えています。その人たちと一緒に導入を目指していくということは、当社の営業が日本全国にいるようなものですね。

ある大手の総合電機メーカーの場合、私の講演を聴いて「これは面白い。一緒にやろう」と言ってくれた部長さんと、私と同年代の人事の方と一緒になって壁を突破していきました。共感してくれる若手と部長・役員クラスとで、挟み撃ちにして社内世論を裏返していくというやり方です。正面突破では難しい。オセロでいえば、角の位置にいる人を見つけていくということですね。

-角を見つけるのは簡単ではないと思います。

真ん中に白いけど黒になりそうな、がたがたがたと揺れている人がいる。その人に話を聞くと、どこに角の人がいるのか教えてくれるんです。まだ裏返っていないのは、どこか期待して、何かを応援したいと考えているということ。その人に角の人を紹介してもらい、そこから役員までたどり着ければ、やれるかもしれない。

組織の中には、そういう人が必ずいるんですよね。たとえば、エコッツェリアの「3*3ラボ」に来ている人は、何か問題意識を持っていて、黒に裏返ってそこで動かない人とは違う人だと思います。そういうふうに、会社の中の意識を変革していくゲームと捉えて戦っている感じでしょうか。

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研修後の活躍の場を、送り出す会社と一緒に考える

研修後の活躍の場を、送り出す会社と一緒に考える

-現状維持バイアスを突破できる人材を育成していくには、どうすればいいのでしょうか?

MBA修得などの研修プログラムがうまく機能しないのは、外に飛び出して視野を広げ、素晴らしいリーダーシップを獲得して戻ってきても、その人たちを使いこなせないから。それで、その人たちは辞めていってしまう。そういう構図が見受けられますが、私には人を育てるのを放棄しているようにも思えます。会社とMBAで修得する内容にミスマッチがある。留職プログラムでも「帰ってきたら辞めてしまうのではないか」とよく言われます。ですがそれは絶対に起こさないように考えています。会社のビジョンをプログラム設計にとり込むなど、「どういうふうに人をつくっていきたいか」を送り出す会社と一緒になって考えていく。プロジェクト中は、プロジェクト・マネージャがずっと伴走していて、「この経験は、いま会社に戻ったらどう活きますか」「○○さんは、こう思うかもしれませんね」などと、常に思い出させるようにしています。

留職している人には、日本の本社からサポートする仕組みにしていますので、自分の力で達成できたのではなく、会社にいるからできるんだ、と随所で感じてもらう。それで、プログラムを終えて戻ると会社のことがすごく好きになっているわけです。「こんな経験や活躍ができたのは、この会社で育ったから、会社がサポートしてくれたから。だから会社でこの経験を活かして、会社をこうしていきたい」と。そのための摺合せをしっかりと行うことですね。それを怠ってしまうと、いくら優れた研修機関だとしても、人材育成のやり方としては歩留りが低く、イノベーターがどんどん外部にとられてしまいます。

もう一つは、いまの人材育成がスキル型になっていることに原因があるのではないでしょうか。ロジカル・シンキング、コミュニケーション・スキル、TOEICなど、何もかもスキルで人を育てようとしている。それより、少し青臭いかもしれませんが、想い、アスピレーション(熱意、熱望)を育てることに労力を使うべきです。それがあれば、スキルは後からついてくる。私たちも経営スキルはほぼゼロからのスタートでしたが、これをやりたいというアスピレーションがあったので、それを達成するのに必要なスキルは自分で獲得してきました。企業の人材育成も同じで、こういう事業をやるという夢があれば、たとえば財務知識が足りないなら勉強しようとなるはずです。先にスキルを積み上げていっても遠回りになりますので、それよりは「何をやりたいか」を考える機会、きっかけを与えることが大事です。

-オープンな組織で知恵を集める仕組みは、社名にも表れていますね

クロスフィールズのロゴ私たちの付加価値は、"つなぐ"ことにあると考えています。自分たちの中に答えがあるのではなく、共働するプレイヤーの皆さんが答えを持っているはずなんです。私たちはそれをうまくつないでいきたい。お気づきかもしれませんが、社名にはそういう想いが込められています。さまざまなフィールドをクロスさせていくということです。ロゴは3つの帆が立っていますが、それは企業と行政、NPOという3つのセクターがこれからの荒波の中を、何とかして帆をはって少しでも良いな方向を指し示していきたいというビジョンを表したものです。これからも、留職プログラムを通じて、社会課題の解決と人の成長、企業の組織風土の活性化に貢献していければ嬉しいですね。

小沼 大地(こぬま・だいち)
NPO法人 クロスフィールズ 共同創業者、代表理事

一橋大学社会学部・同大学院社会学研究科修了。青年海外協力隊(中東シリア・環境教育)に参加後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。同社では人材育成領域を専門とし、国内外の小売・製薬業界を中心とした全社改革プロジェクトなどに携わる。2011年3月、NPO法人クロスフィールズ設立のため独立。世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shapers Community(GSC)に2011年より選出。

NPO法人クロスフィールズ

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