シリーズコラム

【コラム】そこにある価値への気づきと感動をデザインで引き出す

インタビュー:佐藤 卓(株式会社佐藤卓デザイン事務所代表)

課題先進国と言われる日本。その解決には企業・行政・NPOなどのセクターの枠組みを越えて、あらゆるステークホルダーが行動していくことが求められている。これまで21_21の「water展」や「コメ展」など、社会の課題にデザインをもって取り組んできた、グラフィックデザイナーの佐藤卓さんに、デザインはどのような力を持つのか、社会課題の解決にデザインはどのような役割を果たしていけるのかについて話を聞いた。

社会の問題に関心をもってもらうために
デザインができることがある

-社会の問題については以前から関心をお持ちだったのでしょうか?

デザイナーとしてパッケージのデザインなど、ずいぶん若いときからやっているわけですが、パッケージはゴミになる部分ですね。これだけ環境問題に関心が高まってくると、たとえば、素材をどれだけ使わないですませるか、あるいは捨てられたときに資源になるのか、燃やされるのかといった「来し方、行く末」を考える、そういう意識が強くなってきたというのはありますね。

-商品によっては年間数十億個もつくられ消費されるというものもありますから、影響は大きいですね

ええ。いまでも覚えているのは、チューインガムのデザインをしたときのことです。自分がデザインに関わったガムが道端で踏まれて地面に貼り付いていた。そのグシャグシャになっているガムを見て、これも一つのデザインであると。デザインはこことつながっていると考えさせられました。それがきっかけで、社会を先に進めるだけでなく、現状の問題点に気づく、そしてその解決に関わっていくことがデザイナーの重要な役割だと考えるようになったわけです。

-デザインには社会を変える力があるということでしょうか?

まず、問題の解決を考える前に、どこに問題があるのかに気づかなければなりませんね。いまの世の中がどうなっているのかを、私たちは知っているようで実はほとんど知らない。モノや情報が溢れているけれども、多くのことがブラックボックス化されていて、わからない状態におかれています。いま食べているものがどこで収穫されたかさえわからないで日々を送っている。まずは、いまの社会がどうなっているかに気づいてもらうために、デザインの力をもっと活かしていくということです。

コメ展ポスター(佐藤卓デザイン事務所のサイトより)-エコッツェリア協会でもお馴染みの竹村先生とともに展示会ディレクターを務められた企画展「コメ展」も、米の来し方、行く末を見つめ直すきっかけになるものでした

竹村真一さんとは10年ほど前からのお付き合いで、いろいろと話しをしているうちに、何か社会と人との接点をデザインはつくることができるのではないかと模索し始めたわけですが、「コメ展」はその延長線上のもの。エコッツェリアでの小さな展示から始まって、「water展」、「コメ展」とつながってきたものです。おかげさまで、多くの人に興味を持ってもらえて、やはりデザインはそういうことの役に立てるんだと実感しています。

接点をつくる、間でつなぐことがデザイン

-コミュニケーションの一つの手段としてデザインをどう捉えていますか? デザインには見えていなかった部分を可視化するような機能がありますよね

言葉は相手の認識力によって限定されてしまう部分があり、目に見えないものをイメージさせるのが難しいところがあります。見えないものを見えるようにするとは、接点をつくるということだと考えています。ですから、「人とどういう接点をつくるかがデザインである」と言ってもいいのではないでしょうか。
興味を持ってもらえるような接点、インターフェイスをどうつくっていくのか。人がある対象に興味を持つということはどういうことか。一つは、何かわからない魅力があるものに対して興味を持つというのがあるだろうと。「え? 何だ、これは!」というね。わからないけれども、魅力的なものに人は興味を持つと思うんです。ですから、そういう状態をどのようにつくるかを考えています。人はどういうものに興味を持つんだろうと考えることは、人の本質的な部分に入っていかなければならないですから簡単ではないですけれども。

「明治おいしい牛乳」のパッケージ(佐藤卓デザイン事務所のサイトより)

-デザインの仕事で、クライアントとそういう本質的な議論をするのですか?

クライアントが「できるだけわかりやすく」とか、「目立たせたい」と言うとき、私は「目立つとはどういうことでしょう?」「人がモノに興味を持つとはどういう状態だと思いますか?」というようなやり取りをさせていただきます。するとやるべきことがだんだんはっきりしてくるんです。目立つというのは、「大きくする」「派手な色をつける」「ほかにないことをやる」というようなことだけではありません。周りがいろいろやっているのなら、何もしないほうが目立つこともある。目立つというのは相対的なことです。そういう対話の中から、それを商品に置き変えてみたらという発想から生まれたデザインの一つが『明治おいしい牛乳』です。 先ほども話したとおり、デザインというのは「間でつなぐこと」だと思うんですね。牛乳と人をつなぐときに名前をどうすればいいか、パッケージをどうすればいいか考えるわけですが、「間でつなぐ」ためには双方のことをできるだけ理解しなければなりません。無理やり接着剤でくっつけてもすぐにとれてしまう。対象のことがわからなければ、どういう接着剤を使えばいいのかもわかりません。ですから、まずモノであればいったいどういうものなのかを理解しなければいけないし、つなぐ人の価値観やさまざまな物理的な条件も理解しなければならない。でも、理解していくと、自然にそのつなぎ方が見えてくるんです。

-デザインというのは新しい価値を生み出す、あるいは付加価値をつけることという考えが一般的にあると思いますが

私は「付加価値撲滅運動」というのを一人でやっていまして(笑)。価値は付加するものではなく、既にあるものです。それを見出すことがデザイナーの仕事であって、外からくっつけるものではない。付加価値という言葉が日本のモノづくりをかなり駄目にしているのではないかと思っています。自分が何かをくっつけようとするのではなく、既にあるという姿勢でよく見ていくと、あるんですよ。ところが、それが見つかる前に、何かアイデアみたいなものを考えてはめ込む、無理やりつないでしまうと、あまり長続きしないことが多い気がします。ですから、価値を見出して、つないでいくことがデザイナーのするべきことだと考えているわけです。

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"デザイン"の幅は広い

すべての物事にはデザインが関わっている

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-教育分野にも関心をお持ちのようですが、そのきっかけと、どのようなことを考えていらっしゃるのかについてお話ください

教育に対して関心が高まってきたのは、デザインというものが大きく誤解をされているという思いからです。デザインに関わりのない物事は何一つないということを、早く気づいたほうがいいということで、NHK Eテレ『デザインあ』を立ち上げたりしているわけです。政治、医療、福祉、科学、芸術と何でも絶対にデザインが必要なんですよ。文字一つとってもデザインですから。音だってそうですし、企業の組織も、衆議院・参議院というような仕組みもデザインです。

-そうですね。社会システム自体がデザインですね

そうなんです。企業や組織のデザイン次第で働く人の動きや考えも変わってきますよね。ですから、すべての人にデザインマインドが必要なんですよ。そうであるならば、子どものときから「デザインって大切なんだ」とわかってもらったほうがいいということで、教育なわけです。
「デザインとは、かっこよくする、モダンにする、洗練させる、それからモノを売るために必要なもの」と誤解されています。それも確かにデザインですが、それはごく一部分です。身の回りのものには多くの人の工夫や知恵が活かされているということに対して、私たちは一度気づく必要があるのではないか。気づけば、それに対してありがたいと思う気持ちが生まれてくると思います。いま、そういう気持ちが足りない。道路を例にとってみても、きれいにし続けるって大変なことですよ。アスファルトのメンテナンスや清掃が必要で、作業する人たちがいてこそですし、そこには税金が使われている。でもそれに対してありがたいと思っている人はほとんどいないのではないでしょうか。
ありとあらゆるところに実はデザインが関わっていて、デザインマインドが必要ない人は誰一人いないと気づいてもらうために、デザイナーとしてできる範囲で、一つひとつ実践しているということですね。

デザインをとおして物事の本質を考える

-これまでの学校教育では答えは一つ、あるいは解き方は一つというような方向に重点が置かれていたように感じますが、これからの教育にはデザインのそういう視点は大切ですね

そうですね。日常にある当たり前の物事をよく見ていけば、そこにいろんな工夫が見えてくる。デザインというのは先々のことを考えること、それは実は気を配るということでもあるわけです。ですから、デザインで道徳心のようなものも養えるんですよ。その上、デザインには「これを覚えなければいけない」ということは何一つありません。デザインマインドというのはデザインの視点を持つことなんです。デザインの視点で世の中を見てみると、さまざまな問題点や直さなければならないことが見えてくる。あるいは、普段気がつかないところに感動できたり、ありがたいと思う気持ちが生まれたりすることがあるような気がしています。
NHK Eテレ『デザインあ』は2011年からのスタートですが、視聴率が4%を超えることもあります。テレビの前に2人くらいいれば、だいたい1,000万人になるわけです。もしも、このようなデザインの科目が小学校にできて、子どもたちがその授業が楽しくてしょうがないとなれば、それはすごいことですし、そんな国って素敵だと思いませんか?

-ええ。何かを見つける、表現することの楽しさを感じた子どもたちが大人になれば、社会全体が変わっていきそうですね

数式や記号はデザインそのもの。国語にもデザインマインドが必要です。ですから、ある意味でデザインという授業は、すべてのハブになる交差点のようなもの。そしてすごく楽しい授業。デザインを入り口に物理に興味を持つ子が出てくるかもしれません。歴史や政治に興味を持つ子も出てくるでしょう。いくらでも入り口をつくることができるんですよ、デザインは。

-デザインの視点を持つ、デザインマインドを育むにはどうすればいいのでしょうか?

いや、それはみんなにあるんです。持っていない人なんていない。ドアノブを見たときに、どうやって使うかを考えなくても、回したり押したり引いたりと、パっと見ただけで反応していますよね。それはまさにデザインマインドがある証拠です。デザインマインドがなければ生活できません。社会との接点が成り立たなくなってしまいますから。問題なのは、それが育まれていないことなんです。デザインは特別なものでないということに気づけば、もう少し社会や生活が豊かになるのではないかと思います。

-いま、成熟と言われる社会になったおかげで、少し立ち止まって物事を見返し、さらには本質の部分に気づくことができる時代になってきたように感じます

そう、やっと本質的なことが語り合える時代になったと思います。豊かさとは何かということを考える時代になった。『モノやお金≠幸せ』ということがもうわかってしまったわけですから。デザインに限らず、すべての物事に対して本質を問える時代になった。そういった世の中で、本来、社会が持っている潜在能力が引き出されるようなところに関わっていければなと思います。もしかするとデザインの役割というのは、そういうところにあるのかもしれないですね。自分が何かをする、価値を与えるのではなくて、既に社会にあるけれども隠れて見えない価値を引き出すようなことが、みんなと一緒にできればと思います。

佐藤 卓(さとう・たく)

1979年東京藝術大学美術学部デザイン科卒業、1981年同大学院形成デザイン科を修了。株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所を設立。「ニッカ・ピュアモルト」の商品開発から価格、ネーミング、パッケージデザインなどすべての行程に携わる。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」等の商品デザインのほか、NHK Eテレ「にほんごであそぼ」の企画・アートディレクション、同「デザインあ」総合指導、21_21 DESIGN SIGHTディレクターを務める。著書に『デザインの解剖』シリーズ(美術出版社)、『クジラは潮を吹いていた。』(DNPアートコミュニケーションズ)等。

佐藤卓デザイン事務所

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