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【コラム】サステナブルな社会はレジリエントな社会

インタビュー:小野眞司氏(大成建設株式会社 ライフサイクルケア推進部 耐震推進室 営業部長)

東日本大震災以降、より強く、よりしなやかな社会のあり方が問われている。政府の国土強靭化計画の中では「強靭化(レジリエンス)」という表記で示されハードウェア中心の考えが見え隠れする。そうした状況の中でスーパーゼネコンの耐震化を推進するセクションに身を置きつつ、建築やまちづくりでのレジリエンスにとどまらず、レジリエンスな社会のあり方を模索し、フューチャーセッション「レジリエンスの未来」(主催:大成建設株式会社)を開催し、問いかけ人となった、大成建設株式会社の小野眞司さんに話をうかがった。

セッションを通じて、ハードウェアだけでない、
これからの地震対策のあり方を見出す

-はじめに、フューチャーセッション「レジリエンスの未来」開催の経緯からお話しください

私は、大成建設では 耐震改修を中心として建築物の耐震をどうしていくかなどの情報をお客様に提供したりする、いわゆるマーケティングや営業支援に携わっています。阪神大震災直後にスタートした部門で、もう20年近くになります。

私たちはこれまでに数度大きな震災を経験していますが、地震対策というのは大きな地震発生から2年くらい経つと下火になってしまうという傾向があるようです。

東日本大震災からも3年半以上が経過し、2013年11月25日に改正耐震改修促進法が施行されて、大規模な建築物については耐震診断を実施することが義務づけられ、耐震性が十分でなければ補強しなさいと定められましたが、耐震改修部分についてはなかなか進んでいません。
それの理由の一つに、建物の耐震改修は投資回収の説明が難しいというのがあると思います。耐震補強には坪単価で約20〜25万円程度の費用がかかりますが、それを築30年以上経過した建物にかけるには、オーナーとしてはそうとう大きな決断が必要になります。

それから、もう一つ耐震改修が進まない理由としては、いつどの程度の強さで来るかわからない地震に対してのリスクの評価ができないこと、改修によってどこまでのリスクが担保できるのかわからないからです。

-そうですね。「ここまでやれば絶対に安全」とは言えないですからね

建築物の耐震性は瞬間の話なんですよ。地震が起きたときにどのような被害が生じて生命が脅かされるのかという部分。しかし、そこは地震対策の出発点でもあります。

一方で、発災した後のことについては、きちんとコミットメントできていませんでした。 地震の被害は瞬間に生じるものですが、「震災」はその後も長期的に発生していくもので、そもそも、地震の後のことを考えなければハードウェアのスペックは決められないはずです。しかし、そのスペックについてもブラックボックスになっているうえ、そのリスクを誰が負担するのかも曖昧です。
しかし、東日本大震災であれだけの被害があった中で、リスクをどこかの誰かに任せたきりでいいのか疑問を感じてしまいます。

私たちゼネコンの使命は、建物や街に関わる皆さんが安全に、安心して事業が営める、暮らしていける建物や街を作っていくことですから、ハードウェアだけをコミットメントして十分とは言えません。

それで、ハードウェアだけでない、これからの地震対策のあり方を、できるだけ多くのみなさんとの対話を重ねて見出していきたいと考えたわけで、これが「レジリエンスの未来」のスタートとなりました。

-それが、フューチャーセッション「レジリエンスの未来」開催の動機なわけですね

そうですね。
「レジリエンス」についてはさまざまな解釈がありますが、「創造的に回復し適応していく能力」という言葉が一番しっくりと来ている感じがします。 これは、私たちがビジネスで取り組んでいるBCM(事業継続管理)の概念と共通する部分も多く、BCMにも「重大な危機の発生を前提に、重要な事業を継続していけるよう業務の改善や経営そのものを変革していくマネジメントシステム」という概念があります。つまり、災害などのリスクを日常の業務や経営のチェック機構として働かせ、どのようなリスクに対しても柔軟に対応して復活していける形態にしていくということなのだと思います。

災害やリスクへの対応は、とかく防御に重きを置きがちになりますが、それが行き過ぎると「想定外」を生んでしまう結果にもなりますし、防御というのは対象が特定されてしまいます。

それを避けるために、BCMでは「結果事象」という概念で捉えることが重要だと言われています。つまり、生存を脅かすような重大な危機が起きてしまったというところから出発するという考え方です。
そこから、どう立ち上がっていくのか考えながら、バックキャスティングして、そうなるためには何が必要なのかを考え、変革していくということで、これは「レジリエンス」の考え方に繋がっていくと思います。行き過ぎた防御は内側に脆弱性を生むと言われています。そうするとさらに悲惨な出来事が100年、200年後に起こってしまいます。

そうしたことは、私たちはもう既に経験したわけですので、もっと大きな、長期の視点で都市や街、社会のあり方を考えていかなければならないのですが、それはゼネコン1社だけでできることではない。地震について日本は世界の特異点と言われるほどのリスクを抱えているわけですから、そのことを考えて行動していくことは、次の世代に対する責任だと思います。

第4回「レジリエンス:Cafe」(12/5開催)の様子

-一般的にはハードウェアのスペックに注目してしまいがちです

ある程度のスペックを考えるのは重要ですが、ハードの隙間をソフトで埋めるのではなく、両方が渾然一体となった変化が必要なのでしょうし、その大前提として、今あるリスクを意識して、自覚していくことが大切なのだと思います。

ハードウェアがどこまでのリスクに対応できるのか、リスクの前兆をどう捉えるのか、リスクを回避することができるのか。回避したあとは、どのように回復していくのか。といったことです。
たとえば、逃げる手段を確保したうえで、そこに住み、住居が流されても数カ月後にはもとよりも豊かな暮らしに戻れるにはどうすればいいのか。といったことです。そうなると経済や金融まで考えていかなければならないでしょう。

-江戸時代の漁村はそうだったんでしょうね

そう。海辺には流木などでいつ流されてもいいような小屋しか建てていなくてね。それが壊れたり流されたりしても、とにかく生き延びて、また村人総出でつくり直す。多くの災害に見舞われた時代の社会というのは、レジリエンスの高い社会であったんだと思います。

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「想定外」にならないためには「想定しない」

想定外の事態を避けるには想定しないこと

-レジリエンスは「強靭化」と訳されることが多いですが、そもそもレジリエンスとはどういうことを言うのでしょう?

最初にお話したように、レジリエンスは「創造的な回復能力」という捉え方がしっくり来ます。強固なハードウェアで可能な限り防御することでなく、被害を受けたとしても柔軟にそれを受け止め、よりよい方向にしなやかに立ち上がっていける能力というのがレジリエンスの本質だと思います。これは、実は事業継続の考えと同じなんですね。一番重要な事業がシャットアウトしても大丈夫なように考えていくのが事業継続の本質なんですが、それを社会に転用すればレジリエンスになるという話です。

ハードウェアで防御をしていくというのも重要ですが、それによってリスクが隠れてしまってはいけません。ハードウェアの防御というのは物理的な計算になりますから、なにか要因になる事象とその規模を想定して、それには耐えるように設計するわけです。安全率というのものありますが、要因が違うものだったり事象のレベルが上回り、それが破られた後のことを考えていなければ、「想定外」で対応できないという事態に陥ってしまいます。
この想定外という状況をつくらないためには起きうる要因やそのレベルを想定するのではなく、もっともあってはいけないことは起きることを前提としたところからスタートする必要があります。
そこからどう創造的に立ち上がっていくのかというのがレジリエンスの力になりますが、その前に回復することができるのか、回復が非常に困難になるようなことは採用しないほうがいいのではないかということを事前に仕分けしておく「リスクマネジメント」も必要なんです。
実際にはリスクをゼロにすることはできませんから、残されたリスクをどこまで飲み込んで暮らしていけるのかも問われていくでしょう。地震大国・日本なわけですから、事態に備えつつ、変な言い方になりますが、何らかの覚悟をもって暮らしていく必要もあるのではないでしょうか。

-私たちに必要な覚悟ですか

たとえばイタリアも地震が多くて、厳しい耐震基準が定められていますけれども、耐震化が進んでいるわけではありません。中世から続いた美しい街並みが耐震補強でいびつになるくらいなら一緒に被害をうけることも運命だと思っているという話を聞いたことがあります。その代わり、被害を受けたあと生き残っている人たちが共同で村を再建していけるコミュニティができている。

過去に受けた被害はゼロではないわけですから、それを教訓にするのは防御面だけでなく、どういう営みをしていけばいいのかを考えていく必要があるでしょう。リスクをブラックボックスに入れて「防御しているから大丈夫」と思考停止していては、他のリスクによっても大きなダメージを受けてしまう、それが東日本大震災の最大の教訓の一つだと思います。

地震の多い国は日本ばかりではない。※写真はイメージです(photo by onur yolalmis "1999 Turkey Earthquake"[flickr]

-都市と地方ではレジリエンスに違いはあるのでしょうか?

どちらがレジリエントであるかは一概には言えませんが、東京では関東大震災以降90年間大きな被害が出るような強い地震は発生していません。途中戦災はありましたが、東京はそういう時期にこれだけのメガシティになり、その間に膨大な投資がなされてきました。内部構造も複雑な相互関係を作っていますし、そのほとんどが一般的にはブラックボックスになっていて、依存性も高い社会構造になっていると思います。ここに大きなリスクが発生して、壊滅的なダメージを受けた時、どうやって復興していくのか......。
ハード的には強固なのかもしれませんが、だからといってレジリエントであるのかは、なかなか言えないと思います。

一旦巨大化した都市が300年、500年となったときにどういうことが起きるのかを考えて、物語っていかなければわからないんですね。誰もそれを物語っていなくて、確率の話が入ってきたりする。みんな最悪のことを考えたくない。「明日、発生する確率は何%ですか?」となって、そこで止まってしまいますね。もう一つは甚大な被害の話は、私たちの想像を超えてしまっているため、思考停止に陥ってしまう。人間はどうしても安全バイアスがかかってしまうので、自分はそうはならないと考えてしまうんです。

逆に現状で多くの課題を抱えている地方の街では、それが人と人との繋がりを生み始めています。何かあっても助け合って立ち上がりやすい街は、そういうコミュニティを作っているからなのかもしれません。それに、人のつながりというは人の心を強くすることがあると思います。
もしかすると、大きなリスクのために、その場所が全くダメになってしまっても、そうしたつながりを広げていくことで、新たな場所でも幸福な生活を始めることができる。本当のレジリエンスとはそうしたものなのかもしれませんね。

リスクをチェック機構として、社会システムを見直していく

-これまでのフューチャーセッションで得た成果や、見えてきたレジリエンスの未来とはどのようなものでしょうか?

レジリエンスのセッションを重ねていくと、新しい働き方や教育など、さまざまなテーマが出てきます。防災やリスクの話から入っていっても、それ以外のテーマを議論していっても、アウトプットは大きく同じベクトルを持っている様に思えます。これは、やはり近代システムを変えていかなければならないことの左証なのではないでしょうか。3回のセッションでつくづくそう感じます。

特に環境に関する話はレジリエンスと同じレイヤーにあるように思います。サステナブルな社会の中に自然災害を織り込んでいくと、そういうときにもサステナブルにやっていくには、レジリエンシーの高い社会を実現していくということにつながります。自然と共存というのはリスクとも共存するということですし、それを受けより良い、それまでとは違う方向にシフトしていくそこを考えていくのかがレジリエンスの未来を考えていくことではないかと思います。先ほど、覚悟についてお話ししましたが、その覚悟を担保するのは何なのか、それはどうも「繋がり」なんだろうなということが、フューチャーセッションの中で見えてきました。

-将来、立ち現われてくるレジリエントな社会とはどのようなものだとお考えですか?

それは今の時点で言うことは難しいですね。永遠に考え続けていくものではないでしょうか。いま私たちは災害を中心に考えていいますけれども、エボラ出血熱などの疫病も、テロや戦争も考えていく必要があります。企業がBCPを立てるときには、それらは対象となっていますね。事業継続を考えていくときには、リスクの要因は特定しません。事業を脅かすもの、自社の命取りになるような事象は何かを検討することではなく、何かが起きて事業が停止したとしても速やかに復旧する計画を立てるのが事業継続計画ですから。

でも、日本の社会や企業は効率性をあまりにも重視してきたきらいがあり、リスクを前提とした経営が軽視されてきた感があります。このため、衝撃を緩和するバッファをもっていないところが多いし、経済や社会システムもそうなっています。 電気やガス、金融ネットワークなど、私たちは止めてはいけないものをたくさん作りすぎているようにも思えます。それを止まらないようにするという方向ではなく、影響を一部にとどまるようにしたり、止まっても大丈夫な社会にシフトしていくようなことも、ひとつの未来だと思います。

レジリエンスの未来で考えていきたいのは、地震対策をどうすればいいのかという話だけでなく、それを起点として、どんなことが起きたとしてもみんなが幸せを感じて生きていける社会に向かっていくために必要なことは何なんだろうかという問いかけです。

いま、さまざまなところで、これまでの社会を問い直すような取り組みが始まってきているように思います。私たちは東日本大震災をきっかけにして、災害を一つのチェック機構として社会全体のシステムを見つめ直し始めた段階なのではないでしょうか。 100年経っても、1,000年経っても、こういうチェック機構を働かせながらより良い方向への問いかけを続けていけることのできる事こそが、レジリエントな社会ではないのかなと思います。

小野眞司(おの・まさし)
大成建設株式会社 ライフサイクルケア推進部 耐震推進室 営業部長

1985年東京理科大学 理工学部建築学科卒。同年大成建設入社、5年間の現場管理業務の後、1991年より半官半民の政策系シンクタンクである総合研究開発機構(通称:NIRA)に出向。「女性の社会参加と課題」「モノ作り技術の伝承に関する課題」等の政策研究を担当。
1993年の復職後、商品企画室で技術プロモーションやマーケティング戦略を担当。
1995年の阪神・淡路大震災を機に設立された耐震推進部の設立メンバーの一人として耐震関連のプロモーション企画及びプレゼンテーション全般を担当。現在も耐震市場におけるマーケティング戦略全般を担当しており、企業向けの地震対策公開セミナーなども開催。耐震ネットは中核的な役割を担っている。
2014年より「レジリエンスの未来」の企画をスタート。フューチャーセッションをはじめ、さまざまな取り組みが広がりつつある。
プライベートでは、社内メンバーを中心とした有志による未来志向での対話グループ「&Future」を呼びかける一方、全くの有志メンバーによる「これからの教育フューチャーセンター」に参画。また、出身地である広島県福山市で「フューチャーセンターFUKUYAMA」を主宰し、街づくりのフューチャーセッションを開催するなど、対話によるさまざまな未来創造の活動に携わっている。

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