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【コラム】社会的課題をビジネスで解決するためのイノベーション・ハブとは

インタビュー: 日本政策投資銀行・企業金融第1部 担当部長/技術事業化支援センター長 島 裕さん、経営企画部担当部長 友定聖二さん

近年、市場のグローバル化や成熟化などの変化に伴い、企業が競争力を維持し、生き残っていくためにはイノベーションが欠かせないものとなっている。一方で、CSVの推進を掲げる企業が増えるなど、社会価値と市場価値が近づきつつある中で、新しい価値を生み出すビジネススキームとして、オープン・イノベーションの必要性が指摘されている。 あらゆるものが相互依存的につながるハイパーコネクテッドな世界を見据えて、2013年4月1日に「大手町イノベーション・ハブ(iHub)」を開設するなど、日本各地でイノベーションの共創に取り組む日本政策投資銀行(DBJ)の企業金融第1部担当部長・技術事業化支援センター長の島裕さん、経営企画部担当部長の友定聖二さんに、オープン・イノベーションに対する取り組みなどについてうかがった。

「i Hub a dream」大手町から未来をはじめる

-大手町イノベーション・ハブは、「金融力で未来をデザインする」というDBJの企業理念を具体的に形にしたように感じるのですが、開設の経緯からお聞かせください

島:そもそもの問題意識は産業競争力をどうすれば強化できるかということでした。日本は高度な技術は持っているのに、革新的な成長モデルが見られないのはなぜか、ということから、2012年11月に産官学の有識者やクリエイターの皆さんからなる『競争力強化に関する研究会』を設置して検討を重ねてきていたわけですが、その中で「競争力強化にはイノベーションが欠かせないけれども、このイノベーションを阻む要因って何だろう?」ということがテーマになりました。議論するうちに、イノベーションにつながる新しいことへの挑戦を阻む原因は、何らかの規制が邪魔している訳ではなく、マインドセットにあるのではないかという結論を得たわけです。これは個人の心持ちもありますし、組織の建て付けも含みます。
それから、方法論という観点からは、既存の枠にとらわれずに考えていくこと。そのためには、「将来こうなりたい」「こうなればみんな喜ぶよね」という、将来の構想力が大事だろうとの結論を得ました。
そこで、マインドセットと構想力をどのように刺激するか、方法論として建て付けていけばいいのかという問いから生まれてきたのがiHubというわけです。

-iHubは、「オープン・イノベーションにより、新たな「可能性」を創り出す」と謳っていますね

島:「大手町から未来を始める」としているのですが、ステークホルダーとともに、社会的課題をビジネスで解決するビジネスコンセプトをデサインする「場」、プラットフォームを設けようというのがコンセプトです。具体的には、企業が持っているアイデアをプロジェクトとして実現していく。同時に、イノベーティブな思考方法を体験していただく、いわば「イノベーションの運動化」を全国で展開していく--の2つの柱で活動を行っています。
iHubでは、オープンなプロセスとクローズドなプロセスを行ったり来たりしながら、ビジネスコンセプトを創っていきます。オープンなプロセスというのは、3×3 Laboでも実施されている、デザイン思考などの柔らかく考えて、思考を発散させていく部分です。金融機関は論理的に詰めていくことが、習い性になっているのですが、あえて思考を広げ、そして課題をリフレームしていくことが重要と考えています。多様性のあるオープンな集合知を創り出していくプロセスですね。

一方、ビジネスでの解決を目指すわけですから、ビジネスとしてマネタイズができるようなストーリーをつくっていくプロセスが必要です。ここはクローズないしはセミクローズになりますが、ここで新しい価値提供をデザインしていきます。 iHubに来れば自由に議論でき、ある種の方法論を共有しながら皆さんでコンセプトをまとめていく。DBJはファイナンスを含めて、そのコンセプトを事業化して世に出していく。このようなことをiHubでやっていこうというわけです。

-具体的な活動についてお聞かせください

島:一つは、イノベーション・デザイン・プログラムがあります。これは、デザイン思考などイノベーションに関連する最新の理論や方法論の学びの場です。デザイン思考で、世界をリードされている方に来ていただいて、未来志向の「こんな世界ができたらいいね」ということを体験できるようなプログラムを開催しています。 このイノベーション・デザイン・プログラムは、いわばエントリーなのですが、この次のステップとしてiHubの主題である「社会的な課題をビジネスで解決する」の各論として、「超高齢社会における近距離モビリティ」「日常の健康な暮らしとコミュニティの役割」「300m✕300mの生活空間」「ライフスタイルとしての食」「学びの喜びをビジネスで広げる」の5つをテーマとして掲げて議論を行っています。

-iHubの取り組みは、広島や大阪にも広がっているのですね

島:DBJでは、地域においても将来をみんなで考え、一緒に地域を良くしていこうという、オープン・イノベーションの行動を働きかけています。
広島iHubは、広島県庁と共催で2014年6月から10月にかけて4回のセッションを開きました。地元の有力企業から小さい会社まで、さまざまな業種から集まっていただきました。イノベーティブなビジネスのアイデアを考える思考方法の修得と、企業内アントレプレナーの育成を目指すプログラムで、単に論理的に積み上げるだけでなく、少し先を考えたり、あるいは思考の外に出てみたりという体験をしていただきました。
広島の良さをリフレームしようというグループがたくさん出てきたのは興味深かったですね。たとえば『冥土の土産』というアイデア。世界中から高齢の観光客に来てもらいたいというのを、少しひねったものです。「人生最後に1度は広島に行っておかないと」と思わせるようなコンテンツは何だろうと議論していました。ビジネスというより、地域の課題について視点を変えて発想してみると、どんな絵が描けるんだろうというプラクティスが目立っていました。

関西iHubでは、14年9月18日に、大阪のグランフロントで「高度健康社会に向けた共創によるイノベーション創出」シンポジウムを開催し、産学官金約300人にお集まりいただきました。基調講演は竹中平蔵・慶應義塾大学教授にお願いしました。パネルディスカッションでは、多摩大学大学院の紺野登教授のもと、関西に本社を置く6社----大阪ガス・サントリー・塩野義・ダイキン・日東電工・阪急阪神HDで、それぞれオープン・イノベーション活動を実践されている方々をパネラーとして招き、関西発のオープン・イノベーションの可能性などについて活発な議論が交わされました。 参加者の6〜7割の方が、オープン・イノベーションを進めることができると感じていただいたようですが、ここは単なるアイデアを出そうというワークショップではなくヘルスケアビジネスの先にある、企業共同でつくるプラットフォームを一緒に考えようという取り組みをしています。

-関西経済は地盤沈下が言われて久しいですから、オープン・イノベーションへの取り組みも積極的なのではないですか?

友定:そうですね。以前は大阪に本社を置いていた大企業も、東京に本社機能を移してしまった企業も少なくありません。ですから関西の企業の方たちは、関西経済の地盤沈下を一番実感しています。関西iHubは、実はDBJが仕掛けたというよりは、「関西を何とかしよう!」という先方の思いの中から生まれたものです。ですから、これだけ色の違う企業の皆さんが集まったわけですね。発展的に進められているのは、皆さんが強い危機意識を持っているということの表れでしょう。
広島では、オープン・イノベーションに対する取り組みへの知事のご理解が深いことから、県の事務方と一緒になって取り組んでいます。これは2015年も実施します。広島県庁の皆さんはデザイン思考について勉強をされていて、イノベーションについて積極的に取り組んでいらっしゃいます。
島:広島については、知事が積極的で県の政策としてイノベーションというのを一丁目一番地で捉えるというのが大きいですが、それ以外にも財務局や経産局などから支援をいただいています。国としても関心を持っているというメッセージを出すことによる効果がありますし、それから地元を代表する企業が集まって、「最終的にはこうしたいね」と声を上げていただきましたので、行政と一緒になってイノベーションに取り組んでいくという形になったわけです。

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-オープン・イノベーション、あるいはイノベーション創出におけるDBJの役割とはどういうものとお考えですか?

友定:一般的に金融機関というのは、プロジェクトの最後の段階で、投資や融資など資金面で支援を行うという形でしたが、DBJは政府が株式の100%を有していて、一般の金融機関より中長期的な視点で資金を提供していくミッションがありますから、初期段階から一緒につくり込んでいこうという姿勢でプロジェクトに関わっています。これは、おそらく短期的に投資を回収するという姿勢では難しいのではないでしょうか。 オープン・イノベーションは「やりましょう」「場はここです」「お金はあります」と言ってできるものではありませんね。そこは中長期にわたって企業や人びとの悩みを聞きながら解決を図るというDBJのDNAが活かせるところですし、それが発展的にイノベーションにつながっていく一つのきっかけになるのではないかと思います。

島:iHubの試みは、たとえば次のような展開になっていくんだろうと思います。イノベーションセンター同士をつなぐ、さらに先ほどのiHubで検討している5つのテーマについて少し触れましたが、これはフューチャーセンターの活動ですね。フューチャーセンターでセッションを重ねて、このあたりが価値になるんじゃないかと仮設を立てる。そのビジネスモデルの妥当性をユーザーも参加するリビング・ラボで実証していく。それがうまくいけば、ビジネスモデルを拡張していく、というプロセスです。友定が申したとおり、金融の立ち位置は、最後の事業計画の是非を判断するということでしたが、今回はリビング・ラボでビジネスモデルのプロトタイプ、試用の段階から資金面でサポートしていくことを考えています。DBJではこれを「β版投資」と仮称していまして、従来のエクイティファイナンスよりさらに前の段階で、そもそもこのビジネスモデルが成立するか試すところに踏み込もうと考えています。 そういう点で、これまでの金融の立ち位置をかなりシフトさせて、アイデアをつくるところからビジネスモデルとして形にしていく段階、それを試す段階にもチャレンジしようというのがiHubという取り組みなんです。

-先ほど、大阪や広島で地元を良くするためのiHubというお話がありましたが、地域の活性化にもオープン・イノベーションは役立ちそうですね

友定:そのとおりです。地域の活性化については、DBJの第3次中期経営計画でも、成長への貢献、インフラ・エネルギー、セーフティネットの強化と並び、行動計画の4本柱の中に盛り込まれています。同計画では「地域の元気が、日本の元気」と謳っていますので、オープン・イノベーションを地域に広めていこうということです。 そこで、DBJは14年9月1日に『地域みらいづくり本部』を設置して、地域活性化への取り組みの強化を図ることにしました。私もその一員です。これまでは北海道から鹿児島まで10の支店と営業本部を含めて、個別にそれぞれの案件に対応してきたわけですけれども、専門的な部分はワンストップで吸い上げて、それを本店の関係部署に投げて解決していこうということです。それと、DBJの持つ投融資、コンサルティング、アドバイザリー機能を活用していくべきだろうと。そのために、『地域みらいづくりラボ』を設立しました。そこで地域を担う人材に対するDBJのノウハウ、ネットワークを提供していこうと構想しています。

地域活性化に関する取り組みの強化について

-地域みらいづくりラボについて、もう少しご説明ください

友定:DBJのノウハウやネットワークを、地域を担う人びとに提供していく部分では、PPP/PFI大学校の開校、MOT研修(価値づくり技術経営研究会)の開催、地域イノベーション・ハブの全国展開を実施していきます。
今まで大阪や広島などでプロジェクトが行われるたびに、東京からスタッフが出かけていっていたわけですが、テレビ会議システムを活用して、たとえばPFI大学であれば東京にいる講師が各支店に集まっていただいた自治体や地銀の人たちに講義をしていきます。
また、東京で開催している地域イノベーション・ハブのワークショップをテレビ会議でつなぐ、自治体iHubを12月11日に開催しました。自治体の東京事務所の皆さんを中心に東京で行ったワークショップを、DBJの支店に集まっていただいた地元の自治体、地銀、企業の方にも体験していただきました。
たとえば、自治体の施策づくりで資金が足りない場合でも、さまざまな立場の人がアイデアを出すことによって、財政制約が解消できる政策立案ができるかもしれません。企業は東京とつながることができますし、地元同士でも知らない人たちが集まれば、そこからイノベーションの芽が出てくるかもしれないですよね。
東京から地域にスタッフが行くというのでは点での展開になってしまいますね。これを何とか面での展開にしていきたいということで、試行錯誤しているところです。

コトづくりのオープン・イノベーションを起こしていく

-オープン・イノベーションはどんどん広まっていくのでしょうか? いまどのような状況にあるのでしょう?

島:いま企業が描こうとしているビジネスモデルそのものが大きく変化しています。全体としてオープン化、ないしはオープンな場でビジネスモデルを描いてくというふうにパラダイムが変わってきています。過去の成功体験をもとにしたステージゲートが生きてこないというのは、企業全体で問題意識が共有されつつあると思います。
世界でも、いろんな知恵を集めて新しいアイデアを生み出していくというトレンドが明確になっている。ハッカソン、アイデアソンなどの価値共創の取り組みが広まり、世界の知恵をつないで、価値を生み出す仕組みをつくった者がビジネスの勝者になるという流れがある程度はっきりしてきたと思います。
その潮目の変化の中で、地域では地元を良くしたいという思いから、イノベーション難民が立ち上がってきた。プロボノと呼ばれる人たちも地域に行くし、就職先としてNPOを選ぶような若手も増えてきている、これは世界的なトレンドです。イノベーション難民が活躍するフィールドがある程度、整いつつあるというのが現状だと思います。

-オープン・イノベーションには、NIH症候群というようなことが障害としてあげられていますが、課題は何だとお考えですか?

島:エスタブリッシュな企業などでは、やはりまだまだ既存のステージゲートが生きていることです。まったく前例がない、あるいはお客さんがどこにいるかわからない、こういうビジネスを社内で説明して、通していくのは容易ではありません。
DBJをはじめ金融機関は、そういった案件を評価するのが非常に苦手なんですが、たとえばリビング・ラボのようなフィールドを一緒に体験してみると、売上高までは積算できませんが、これは価値になるかならないのか、あるいはどうすれば価値になるのかという目は養うことができます。iHubを通して、そういうプロセスを共有することで、外部の客観的な目で、「ビジネスモデルとして可能性がある」とか、「こういうリスクがある」といった評価を、企業にフィードバックをすることができると考えています。
それから、リビング・ラボで実際に試してみることで、お客さんの生の声を集められますね。少数でも「いいね」と言ってくれるユーザーがいれば、それがとっかかりになると思います。
このように、社内のプロセスに乗せられない、あるいは不確実性を説明できない領域を一緒に体験をして、いわゆるセカンドオピニオンを提供することで、この課題を乗り越えていければと思っています。

もう一つの課題は、社会と一緒に価値を創るといっても、実際には利害調整が難しいですよね。家庭人、生活人として「そんなのは企業が頑張ればいいじゃないか」と言ってしまった瞬間にコ・クリエイションが成り立たなくなる。どのようにして生活者とサプライサイドの共有目的をつくっていくのが、これがこれからの課題だと思います。
モノづくりのオープン・イノベーションはいろいろありますけれども、コトづくりのオープン・イノベーションをサプライサイド、地域をあげて起こしていかなければ、本当に世界に通用する、キラッと光るビジネスモデルは生み出せないのではないかと感じていまして、ここはやりながら証明をしていくしかないかと思っています。
そのために、企業サイドのイノベーションと地域で運動を起こし全国へ広めていく、この両方が必要だと思います。ポテンシャルとしては、日本の企業には優れた技術も人材もあるわけですから、その良さを再編集する。点と点を結びつけて新しいバリューチェーンを描いていくような活動を続けていくことで、世界に打ち出せるビジネスモデルを創るお役に立ちたいと思っています。

島 裕(しま・ひろし)
企業金融第1部 技術事業化支援センター長

1987年に日本開発銀行(現(株)日本政策投資銀行)入行。関西支店、地方開発部、都市開発部、新産業創造部、東海支店などを通じ地域振興、技術経営のサポートに携わる。現在、技術事業化支援センター長として、企業のオープン・イノベーションを後押しするため金融機関発のフューチャーセンター(大手町イノベーション・ハブ)の推進を担当。

友定聖二(ともさだ・せいじ)
経営企画部担当部長/地域企画部担当部長

1990年に北海道東北開発公庫(現(株)日本政策投資銀行)入行。東北支店、経産省出向、北海道支店、新産業創造部、経営企画部などを通じ地域振興、霞ヶ関とのリレーション形成に携わる。現在、経営企画部と地域企画部を兼務し、地方創生の推進サポート、同行島技術事業化支援センター長の実施する大手町イノベーション・ハブの地方展開を担当。

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