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【コラム】「起業を体験する」新しいアプローチで日本を変えるチーム・ゼロイチ

Clipニホンバシ、チーム・ゼロイチ CEO 赤木優理氏

オープンな「場」を作り、コミュニティを醸成して企業や団体の壁を越えたイノベーションを生み出そうとする試みは昨今枚挙に暇がない。大手企業が参入している例も増えているが(というよりも硬直化が進む大企業なればこそ新規ビジネス立ち上げが必要だからなのかもしれないが)、大手企業が運営し、大手企業からの参加者が増えているのが最近の特徴だと言えるかもしれない。

そんな中、イノベーション、起業を「体験」するという独自のアプローチを取っているのが三井不動産の「Clipニホンバシ」で行われている「チーム・ゼロイチ」だ。"起業家体験"とは何か。どんなプログラムを行っているのか。仕掛け人の赤木優理氏に、日本における起業の現状や、チーム・ゼロイチのポテンシャルをお聞きした。

起業に必要な能力を定量的に評価する?

チーム・ゼロイチのクラスの様子

-チーム・ゼロイチとは「起業家体験」をするプログラムだそうですが、どのようなものなのでしょうか。

いろいろな切り口がありますが、まずは会社員のみなさんをターゲットに、起業家体験を通して、ゼロから事業を起こせる会社員――われわれは「ゼロイチ会社員」と呼びますが――になってもらうための「場」です。チーム・ゼロイチでは、そのためのプログラム、仲間といったものを提供しています。

「起業家体験プログラム」は、私が渋谷で運営している起業家特化型のコワーキングスペース「StartUp44田(よしだ)寮」で行ってきた起業家研究に基づくものです。2011年から44田寮では"優秀な起業家"と"将来の起業家を志ざす会社員"に特化した研究を行って来ました。行動観察(エスノグラフィー)という手法で、彼ら自身も言語化できていない領域を、それぞれの思考プロセスの差や直面するトラブルなどを観察&事例収集することで分析してきましたが、驚くほど、起業家のナレッジ(知識)が体系化されていないし現場に落ちていない。会社を辞めて起業する人のほとんどが失敗するのも当たり前です。そもそも会社員と起業家とはまったく別モノなんですよ。優秀な起業家は、会社員の持つ常識からはかけ離れている思考プロセスやナレッジを有していることが多いんです。

チーム・ゼロイチのサイトより例えば「新規事業のネタを探せ」と言われると、会社員はウェブや雑誌新聞で探すでしょう。しかし、すでにメディアで言語化されているということは、その領域でのプレーヤーは世界にごまんとおり、新規事業として取り組むにはすでに周回遅れになってしまっているわけで、勝ち目なんて到底あるわけがない。起業家はそんな発想はしない。まず、自分のやりたいことから始める。言語化された外部情報からネタを探すのではなく、まだ自分の中でも言語化できていない内発的情報からビジネスシーズを探すのです。そんな初歩的なことさえ、会社員の人は分かっていない。なぜなら社内では毎日稟議システムと向き合っているので、明確なエビデンスがない領域からネタを探すことに慣れていないからです。そんなナレッジを体験として伝えることはできないか、そう考えるようになって、起業家体験をやってみようと思うようになりました。

また、並行して数多くの大手企業の新規事業コンサルにも携わってきましたが、その中で社内だけで新規事業やイノベーションを起こすプロセスには限界があり、起業家ナレッジが必要とされるシーンが多いことも分かってきました。しかし難しい点は、起業家のナレッジには体系的に理解するだけでは身につかない(何回も実践することでしか使いこなせない)ナレッジが沢山あるということでした。もちろん社内では実践する機会すらないため、社外で武者修行をする必要がある。週末起業や起業塾といった実践的なカリキュラムをやってみることがとても重要なのです。ですが、日本では殆どの大手企業で副業禁止規定があります。したがって社外で武者修行するにも会社に黙ってやることが多くなってしまうのですが、それでは社内の人はもちろんのこと、SNSなどで沢山の人を巻き込むことが難しい。多くの人を巻き込めないとビッグビジネスが生み出しにくく、ただのお小遣い稼ぎで終わってしまうため、社会的にも認められにくい。

ゼロから事業を生み出せる会社員(ゼロイチ会社員)が増え、大手企業からも沢山の新規事業が生まれてくるために本質的に解決すべきことは、"勤務先も応援し社会的にも認められる、社外で起業家体験から実践的に学べる環境を早急に整備すること"で、それは副業禁止規定を解決しない週末起業や独立を前提とする起業塾では解決できない! ということでした。

-勤務先企業が社員の起業家体験を応援するという文脈づくりが難しそうに感じますが......?

"起業家のように会社の外で事業を育てます"ではただの副業で勤務先も納得しませんが、"事業を育てる...経験から学ぶ"と言うと社員研修の文脈になります。どの企業もイノベーション人材はほしいところですから、人材育成名目で勤務先がお金を払い、社員を社外の研修コミュニティに派遣するという形をとるのです。そうすると、大手を振って社外での起業家体験に挑戦できますよね。その代わり、企業としてはその効果、成果を見る必要が出てくるようになります。そこで、私たちはゼロから事業を創造する力を「ゼロイチ力」(東京大学と共同開発しプロセス毎に30のスキルを定義)と呼び、定量的に評価、データ化し報告するようにしています。つまり、私たちが提供している起業家体験とは、分かりやすい実践型カリキュラムと、スキル・能力の定量的な分析から成り立っています。チーム・ゼロイチの強みは、今まで評価しにくかった「ゼロイチ力」を定量的に評価できるシステムにあります。リアルな起業家体験から抽出したデータを独自アルゴリズムで計算しスキル測定につなげる部分が我々のコアバリューです。チーム・ゼロイチは人材育成の研修会社だと思われることが多いのですが、実は超テクノロジー企業なんです。

チーム・ゼロイチのクラスの様子

-具体的にはどのようなことをやるのでしょうか。実際に起業するわけではありませんよね。

新しい事業創造を行う力を身に付けることが目的ですから、会社員が本当に起業家になったり、起業のすべてを知る必要はないと考えています。例えば資金調達や会社設立などは、新規事業やイノベーションを起こすうえでは本質的な問題ではありません。本質的なナレッジとは、例えば事業を立ち上げる際にビジョンを共有できる仲間を集める、お金を掛けずにリサーチし、形にするといったスキルです。そうしたナレッジをプロセスごとのクラスで学んでいきます。例えば、最初のクラスは「ミッションラボ」といい、やりたいこと、内発的なビジネスシーズを探すということをやったりします。会社員は上から言われたことをやるのは得意ですが、やりたいことが出てこない。それを思い出させるための効果的なクラスです。また、「スカウト交流会」というプロセスもあります。これはやりたいことがふわっとある人たちが集まり、やりたいことに向けてお互いをスカウトしあうというもの。実はこれも会社員に足りなくて、起業家には非常に必要なスキルです。新事業創造の仲間をいかに気持ちよく巻き込むかという力ですね。

-それはトーク力のようなものでしょうか?

トーク力も必要ですが、どちらかと言うとヒアリング力とアジャスト力が重要です。起業家に必要なのは、ビジョンを伝える能力だけではなく、相手に合わせて抽象度を上げ下げする能力です。よくある失敗が、自分のやりたいことを具体的に説明しすぎてしまうということ。例えば先ほどの「ゼロイチ力の定量的評価が重要だ」といっても、分かってくれる人はほとんどいませんよね。しかし「大企業にもイノベーション力が必要だよね」といえば分かりやすくなる。そうやってスカウトで仲間を本当に集めて、3~5名のチームになって次のクラスへと進んでもらいます。

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「新規事業創造」を理解する

「新規事業創造」を理解する

-日本の企業、会社員は、0から1を作ることはできても「1から10にするのが下手だ」という話をよく聞きます。

分かります。この場合、「0」は「情報はあるが有機的につながっていない」状態で、「1」はコンセプトがつながってビジネスのコンセプトが出来上がった状態と定義できると思います。「10」はビジネス化し黒字化している状態でしょう。現在は、イノベーションには「持続的イノベーション」と「非連続イノベーション」という二種類があると考えられています。持続的イノベーションとは、大企業が7、8あたりから参入してギューンと100あたりにまで大きくするようなタイプ。例えばカメラメーカーがデジカメにネット機能を搭載するようなもので、長年のユーザーデータとエビデンスがあるからこそ成功するもの。この7、8あたりからマーケットインさせてPRをガンガン行い、100まで一気に大きくするのは日本企業がもっとも得意とするところです。

一方、今求められているのは0→1→10を生み出す非連続イノベーションです。それは例えばカメラメーカーが化粧品を作るようなもので、連続性のないところで新規ビジネスを作るということ。実は、日本人は頭が良いので、新アイディア構築の0→1のところは比較的できる。グロービスや事業構想大学院大学などの研修サービスで鍛えることもできます。しかし、新規事業の実体は、この後の1→10のところで大半が死ぬのです。それはなぜなのか。

まず、1を立ち上げたら、そこから先はユーザーにアジャストしなければなりません。プロセスとしては1人の顧客を見つけ、お金を払ってもらい、それを再現できるようにしていくのです。しかし、ここに日本マーケットの問題があります。その説明のために、顧客の三階層の話をしなければなりません。

インタビュー中の作図をもとに制作

顧客には「不安」「問題」「課題」という3つの階層があります。「不安」とは、悩みがあるかどうかも把握していない状態。しかし何か物足りない。だから例えばスマホのゲームなどにハマって小さな成功体験を得ようとしている。しかし、何をやっても解決しない。そんな層です。「問題」の階層は、悩みの原因は分かった、しかしその原因が抽象的すぎて、具体的解決方法が分からないという状態。スマホのゲームをやっているだけではむなしいことには気づき、仕事で成果を上げないとダメだと分かったがどうやって解決していいか分からない人です。その次のレイヤーが「課題」です。原因も分かって、なおかつ解決策も見えた。しかし、解決策を、自分のリソースだけでは手に入れられないというという人。実はここまで来ないと顧客はお金を払わないんです。仕事で成果を出すには、クライアントへの営業力が重要なのか、社内政治力が必要なのかが分かっているから最適なビジネス書を探して購入するといったケースです。

実はものを売るために企業がやることとは、「あなたの不安と問題はこれですよ、その解決にはこれを買いましょう」という顧客教育なんですね。顧客教育が十分ならば、ユーザーは自分に必要なサービスが分かっているので購入しやすく、マーケットも成熟する。しかし今、新規事業というのは、顧客教育が未発達でほとんどのユーザーが未だに不安や問題の領域にいるため、市場が成熟していないわけです。つまり、新規事業創造では、ユーザーの不安はコレで、こういう原因があり、こういう解決法がありますよ、といういまだに顧客自身も言語化できていない領域を探り、言語化していくことが重要なのですが、日本の場合ここが難しい。

シリコンバレーなどの海外マーケットよりも圧倒的に日本マーケットでの1→10が難しい理由の1つは、マーケティング調査としてユーザーの声を聞こうとすると、日本人は大抵の場合、相手が喜ぶことを応えてしまう傾向にあるので、本当にユーザーが求めている情報を探しにくい。例えば、起業家が自社サービスのユーザーヒアリングを行う時に、まだ不安階層にいる友人に「この商品はここが凄いんだけど買わない?」っていきなり聞いてしまう。起業家は自分の作った商品を知って欲しくて商品説明を熱弁している。友人はぶっちゃけ自分の何を解決してくれるのか分からないけど、仲の良い起業家が頑張って説明しているので「いいね」って応えてしまう。起業家はそれを聞いて、ニーズがあると勘違いして商品をリリースするんだけど、蓋を開くと誰も買わない......的な話がよくあります。

既存事業のように課題階層にいるユーザーにヒアリングするのと、新規事業のように未だに不安・問題階層にいるユーザーにヒアリングするのとではヒアリングの方法が違う、それを把握していないから、新規事業領域ではユーザーが本当に求めている商品開発が上手くいかない。1から10にすることができないのです。こういったユーザーヒアリングの仕方などは聞いただけでは出来ないスキルの1つです。リアルな起業家体験の中で実践的に学ぶことでしか身につかないのです。

「物事の始まり」を作る

-赤木さんが今のような取り組みをするようになったきっかけを教えてください。

もともとは父の影響です。父も私も変わり者が多いと評判の京都大学の建築学部の出身で(笑)、私が小学校に上がる前から「アーキテクトになれ」と言われ続けて育ちました。アーキテクトとは古代ギリシアに語源があり、"物事の始まりを作る人間"を指します。家の設計をやるのではなく、世の中にないものを構築する人間になれ、それがアーキテクトだという教えだったと思います。

それで最初は事業をゼロから構築することに興味がわいたのですが、学生当時は情報が整備されておらず、やることと言えば先輩起業家の武勇伝を聞くくらいのものでした。しかし、それはその人だからうまく行ったのであって、同じようやってうまくいくかどうかは分からなかったんです。そんなことをやっているうちに、次第に新しい事業を構築すること自体よりも、ナレッジの構造的整理や制御に興味が移っていきました。リアルな新規事業創造プロセスの解明ですね。まだ誰もやっていない領域でした。そこでリアルな起業家の日々を観察し、ナレッジを貯めていくことを始めた、それが44田寮です。しかし、本当に日本を変えるためには、起業家だけではなく、労働者の80%を超える会社員が起業家ナレッジを使いこなし大手企業からイノベーションが起こる環境を整備しなければならないと考えるようになり、チーム・ゼロイチを構想するようになったんです。

Clipニホンバシのサイトよりそんなときにお話をいただいたのがClipニホンバシでした。会社員を対象に、三井不動産が実験的な場所を作る、と。今は大手企業も非連続イノベーションを求めている。ディベロッパーもハードだけでなく、クライアントに非連続イノベーション実現のためのソフトコンテンツを提供しなければならない、その実証実験を行うと聞いて、非常に面白いと思いました。私たちはここを「社外のイノベーションラボ&ショールーム」と呼んでいます。

-2014年4月にグランドオープンし、1年経ちましたが、成果はいかがでしょうか。

本当に新規事業を創造するには、もう少し時間がかかると思います。起業家がフルコミットしても新規事業創造に2年はかかる。会社員の方が本業をやりながら、となるとさらに時間がかかるでしょうね。ただ、求められているものを提供できている、はまっているという感覚はあります。また、私たちがやっていることをもっと知ってもらうために、無料の「出張ゼロイチセミナー」も始め、好評をいただいています。参加している会社員の方々も、仕事でヘロヘロになった後に来てらっしゃるのに楽しそうに取り組んでいます。
また、ここでの定量評価は、一人で30項目すべてで満点を取るものではなく、むしろ自分に何が欠けているのかを知り、持っている人と組むことが大切なんです。また、ここで学んだプロセスを会社に持ち帰って使っていただくことも大切だと考えています。

-3×3Laboもまたオープンイノベーションや起業家たちのコミュニティスペースになっています。こちらとの違いや協業できることがありましたら。

まだ3×3Laboにお邪魔したことがないのですが、大変面白い場所だとお聞きしています。おそらく違う点は、非連続イノベーション(0→1→10)を起こす機能をどうやって企業に実装させるか、ということをテーマにしたショールームである点。もうひとつは、生み出される新規事業が "クレイジーか否か?"という視点を重視しているかという点だと思います。私たちはチーム・ゼロイチを「社外のcrazy! factory」と呼んでいますが、常に普通じゃない成長を目指していて、「それは世界を変えるのか!?」ということを重要視しているんです。

ぜひこれから協業していきたいと思うのは、まだまだ小さいイノベーションマーケットを共に大きくしていくということ。起業家、新規事業創造の市場をもっと成長させて、日本を大きく変えていくことができれば素晴らしいですね。

赤木優理(あかぎ・ゆうり)
チーム・ゼロイチ CEO、株式会社レスもあ代表取締役

京都大学工学部建築学科卒業。2010年れすモアを設立、起業家たちの"梁山泊"として「44田寮(よしだりょう)」の運営を開始。起業家を公私にわたりサポートしながら起業家特有の思考プロセスや新ビジネス創造手法を研究、並行して数々の大手企業の新規ビジネスを「新ビジネスを構築する StartUp Architect」としてサポート。起業家と大手企業の両軸にわたり、現場にもとづいた新ビジネス創造ナレッジを集積し独自ナレッジとして体系化している。
2014年から、独自ナレッジをプログラム化した会社員特化型のサービス「チーム・ゼロイチ」を設立。
現在、チーム・ゼロイチの活動に興味のある人のために、10名以上を対象に出張セミナーを行っている。赤木氏は起業を科学的に分析、理解しているが、アカデミックではあっても実用性に乏しい起業家研究とは異なり、極めて実際的な知識と経験を持って語る。「ナレッジのコンテンツに価値はない、体験こそが重要」としているが、確かに赤木氏のトークを直接聞くのは非常に貴重で楽しい体験であると言える。


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