シリーズコラム

【さんさん対談】"仕掛けていく"ということの中身

株式会社umari代表 古田秘馬氏 × エコッツェリア協会 田口真司氏

3×3Lab Future仕掛け人・田口真司が聞く対談シリーズ。今回ゲストにお招きしたのは、エコッツェリアで「MarunouchiTRAVEL LAB」や「丸の内朝大学」のプロデュースを手がけるプロジェクトデザイナーの古田秘馬氏。山梨県八ヶ岳山麓「日本一の朝プロジェクト」、東京六本木の農業実験レストラン「六本木農園」(2015年8月閉店)など、数多くの地域プロデュースや企業ブランディングを手がけている。内閣府の「クールジャパン拠点連携実証プロジェクト」に採択され、今年1月にスタートした「インバウンド地域ナビゲータースクール」では、今までに培った経験と知見をベースに講師を務め、地域創生のキーパーソンともいえる存在だ。

ミュージシャン、イタリアへのサッカー留学、NYでのコンサルティング会社経営の経験もある氏。独特の発想と行動力、人をつなぐ力に対して、「彼にしかないバランスのよさが魅力」という田口氏。古田氏のプロデュース力の源泉がどこにあるのか、お話しいただいた。

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表面的でなく「体質改善」からプロジェクトに着手

表面的でなく「体質改善」からプロジェクトに着手

田口 多様なプロジェクトに関わっていらっしゃると思いますが、現在、手がけているプロジェクトと、それぞれが目指しているのはどういうものか教えてください。

古田 立ち上げからプロデュースしている「丸の内朝大学」で目指したのは、一人ひとりが自分の時間の使い方を考え直すきっかけを作ること。ウィラ―コーポレーションと取り組んだ「レストランバス」は、食をテーマに、地域を楽しむ提案です。「地域の素材のなかで、地域で楽しむために必要なものを追求し、地域ごとのプロデューサーをつなぐ」という地域と人の連携から生まれました。この視点は、先日スタートしたばかりの「MarunouchiTRAVEL LAB」にも通じます。"旅"というキーワードに何を掛け合わせたら面白くなるか。食や旅というキーワードに対して、何を掛け合わせたら魅力的になるのかを考える中で出てきたアイデアです。

田口 "地域"と"食"という視点は、僕のやっている部分とも重なるところですが、それにしても小さなものまで入れたら、かなりの数になりますよね。

古田 最初から、"食"や"旅"のソリューションを考えたわけではなかったんです。むしろ、社会が抱えている課題を因数分解する中で、解決できるファクターとして見えてきたものが、今やっているものでした。これは、東洋医学に通じる考え方で、痛みのある場所だけを治すのではなく、その原因の根底にあるものを考えるということ。足裏や自律神経といった体全体に関わる場所を治すことで、必然的に多くの症状を解決することにつながるということですね。

田口 古田さんはとてもバランスがいいですね。ひとつのプロジェクトを進める時、表に出てこない部分で、何が、どれくらい動いているかによって、結果が変わります。人によっては、表面的に結果だけを見る人もいますし、皆での対話を尊重しすぎて、なかなかゴール出来ない人もいます。でも、古田さんは、水面下でのつながりを上手に生かして、ちゃんとゴールを目指していける。表面的に見ると、何をしているのか、わかりづらいけれど、水面下の根っこにある関係性を大切にしながら、推進力もある。なかなか、いないタイプだと思います。

古田 ありがとうございます。医療に例えれば、東洋医学でも西洋医学でも、その手法にとらわれずに、傷口をふさぐことが最優先だという考えです。その場合、僕自身がソリューションを持っていなくてもいいんです。何の症状なのか。それに合う最適なものを見極める眼を持っていれば、治すことが出来ますから。

田口 それは、地方創生プロジェクトでも使う手法ですか?

古田 今、自治体で多いパターンが、用意された処方箋=ソリューションは、1個か、2個しかない。でも、期限までに時間がないから、症状にぴったり合うものではないけれど、この処方箋でいい、これを飲むことにしよう、となってしまいがちです。それでは、本質的な解決にならないし、本当に良いものは生まれない。もっと自由に、治療方法を考えていいんじゃないか、と言っています。

「観光地」ではなく「関係値」を作る

田口 古田さんのルーツはどこにあるんでしょうか。今のような考え方を持つようになったきっかけは何だったのか。ぜひ、伺いたいです。

古田 僕の両親は海外生活が長かったせいか、子どもに対しても、甘やかすことなく、理路整然としていました。我が家には、一般的なお小遣い制度がなかったんです。あれは、日本の諸悪の根源じゃないかと思うんですよ(笑)。お小遣いをあげる側にとって"いい子"であれば、もらえる仕組み。さらに、学年が上がるだけで、金額もアップするということは、努力して結果を得ることよりも、目の前の人からの評価が大事になってしまいます。

田口 それは、社会の仕組みに通じる部分ですね。サラリーマンが業績や公的な意義よりも、直接的な上司からの評価を気にするのと同じですね。

古田 来客時にピアノを弾いて喜ばせるというように、正当な価値を提供してお金をもらうというのが、我が家のルールでした。つまり、誰を喜ばせれば、収入があがるのかを見極めるようになったんです。

田口 喜ばせたい相手の対象が広がることが、仕事につながったんでしょうか。

古田 最初から順風満帆だったわけではありません。「喜ばせたい」というスピリットはあるけれど、それをかなえるツールを持っていない時期がありました。気持ちは大事ですが、方法がなければ、形にすることは出来ませんから。

田口;「丸の内朝大学」も多様な取り組みを行ってきたことで評価されていますが、仕込んだことが必ずしも、評価とは一致しないというジレンマもありますよね。

古田 かなりのケースで、一致しませんね(笑)。社会的評価とお金を支払ってもらえるかも別もの。すごく良いことをやって、社会的に評価されるけれど、今は支払ってもらえないということがよくあります。新しい仕組みが5年後に当たり前になって、エンドユーザーまで届いた時に初めて、仕事として認めてもらえたこともあります。それでも、アイデアを出し続けることが社会を変えることにつながると信じて、前へ進み続けるだけですが......。

田口 そもそも、「丸の内朝大学」を作ることになった経緯は何だったのでしょうか。

古田 ミュージシャンをしていた頃、日本各地でコンサートをする中で、山梨県の八ヶ岳にも行きました。すごくいいところなんですが、ペンションブームが去って街全体がさびれかけていました。そこで、コンサートだけじゃなく、食も一緒に展開するといいのでは、というアイデアを出した。八ヶ岳の朝を楽しむライフスタイルを全国へ発信することで、地域ブランドを向上させるプロジェクトを始めたんです。僕自身が早起きだということもありますが、朝の時間を活かせると、いろんなことが始められることを実感しました。丸の内では、最初は「朝Expo in Marunouti」の名称で短期間、単発の形で試験的にスタートして、手応えを確認しながら拡大していきました。少しずつ授業を増やしたり、参加者が楽しめる仕組みを付け加えたりなど、工夫を重ね現在のような姿になってきています。

現在の丸の内朝大学のサイト

田口 自分たちの街であっても、良さに気付かずにいる人は少なくありません。でも、それを誰かが来て、プロジェクトのかたちを作っていくだけでは意味がない。一緒に作り上げていく意識を持つことが重要ですね。

古田 僕は、関係作りが好きなんです。観光地づくりではなく、関係値づくりと言っていますが、人と人の関係のとらえ方で状態は変わりますから。インバウンドの文脈でよく使われる言葉に、"外国人との交流"というものがありますが、交流って何だろう? その行為自体ではなく、行為をどのようにとらえるのかで、言葉の持つ意味は変わります。丸の内へ行くという行為は同じでも、通勤で行くのと、朝の時間を割いて学びに行くのでは、価値が変わります。いろんなことを考える中で、言葉の再定義はすごく大事にしていますね。これはどういうことなのか、違う言葉でいえば何だろうか、と。

田口 平たく言えば、子どもの発想ですよね。子どもの心のままで、わかったつもりにならず、丁寧に考えることで見えてくるものがありますか。

古田 自治体のキャッチコピーが、まさにそれです。どこも似たような言葉ばかり......。その理由は、コピーライターにお金を払って、きれいに作ってもらおうとするから。でも本当は、その街で暮らす人が考えた言葉にこそ、価値がある。秋田市のシェアビレッジでは、「年貢を納めて村民になろう」というキャッチコピーを掲げています。年会費を年貢と言い替えるユーモアとオリジナリティがいいですよね。

田口 自分達で絞り出したものならでは、ですね。

前に出る人を演出することに喜びを感じる

田口 これまでの古田さんのキャリアの中で、特に大きな影響を及ぼしたと思われるものは何でしょうか。

古田 ピアニストだったことが大きいと思いますね。オーケストラの曲を作ったり、バンドを組んでお客さんの前で演奏したりしたこともあります。ピアノとそれ以外の楽器のプレーヤーの違いはご存知ですか? 一番の違いは、「どこを向くか」という点です。他のプレーヤーは皆、お客さんの方を向きますが、ピアニストだけは他のプレーヤーの方を向いて、お客さんに対しては半ば、背を向けた状態になります。さらに、ピアニストは曲の最初から最後まで弾くことが多く、バンド全体を率いる役割も担います。指揮者にプレーヤーという、独特のポジションです。今の僕のありようは、ピアニストのポジションなんです。

田口 全体を統括する立場というと、指揮者をイメージしがちです。古田さんは、指揮者になりたいとは思わないんですか。

古田 指揮者というよりも、演奏だけでなく、裏方まで含めた全体を統括するプレーイングマネージャーの役割を昨年までやっていました。曲を作り、バンドを組んで演奏する。会場をおさえて、チケットを売り、当日はもぎりをやり、会場演出まで、何役も兼ねていました。でも、さすがに体力的にも限界なので、曲作りと裏方に絞ることにしたんです。自分のバンドを有名にするより、自分の書いた曲を有名なバンドに歌ってもらえば、より多くの人に届けることができますから。

田口 自分のなかで、「もっと表に出たい」という自我はありませんか。

古田 自我はすごくあります。でも、その心地よさのポイントが「自分が前に出ること」ではなく、「前に出る人を演出すること」にある。目立ちたければ、ピアノではなく、ボーカルを目指したと思います。でも、僕の自我はピアニストとしての自我です。全体のバランスをみながら、みんなで進んでいけることが心地よいんですね。

今の時代が必要とする思想を作りたい

先日のナビゲータースクールでは講師を務めた

田口 いろんな役割を経験してきた古田さんが、一番やりたいことは何ですか。

古田 僕がやりたいのはルール作り。皆で楽しく、長続きするためのルールを作りたいんです。子どもの頃、初対面のアメリカやカナダの子どもと一緒に留守番をすることが、よくありました。今ならゲームになるんでしょうが、僕が子どもの頃はそうもいかない。誰かが勝ちすぎることなく、そこにいる全員が楽しむためのルールを決めることが、とてもクリエイティブで、楽しいことでした。

田口 なるほど。考え方のベースは、子どもの頃から変わりませんね。それをベースに、年齢と経験で積み上げてきたということ。人に振り回されず、自分にとって大切なものを守る。言葉へのこだわり、探究心といったものは、多くの人にとっても参考になるところです。

古田 自分の心にとってベースになる部分は、美意識を大切に鍛え続けなくてはいけないと思っています。体幹を鍛えるのに似ていますが、心幹(しんかん)を鍛えることで、フェアであることが出来るし、揺らぎそうな時にもバランスを保つことが出来ます。僕は失敗もたくさんしていますが、基礎トレーニングを積んでいるので、急な変化が来ても怖くない。今やっていることがすべてなくなったとしても、また明日から、新しいポジションを作れるとわかっています。それがわかっているから、守りに入らないと言えるんです。

田口 サラリーマンにとっては、理想形かもしれません。でも実は、サラリーマンだからこそ、出来ることも多いんですよね。個人で出来ることは限られているけれど、会社というフィールドを使えば、やりたいことが広がります。マインドをしっかり持っていれば、むしろサラリーマンの方がやりたいことが出来ると思います。

古田 絶対にそうだと思います。変革の時代は、テロリストだけでは成り立ちません。明治維新が成功したのは、江戸幕府に勝海舟がいたからだし、明治の元勲たちはみな、薩長という組織にいた人。龍馬のように裏で活躍した人もいたけれど、むしろ少数派。松平春嶽のように理解してくれる人もいて、時代は変わったんです。僕がプロデューサーとして特技にしているのは、企業を巻き込んで進められる点。しかも、決まった業務を下請けするのではなく、新しいことを一緒に考えるパートナーとして組ませていただく。お互いにプライドを持って、理解し合いながら進めるからこそ、新しいものが生み出せるんです。

田口 常に、新しいものを創りだす立場として、次に目指すものはどこですか。

古田 僕たちのような作り手は、その時代ごとに必要な思想を作らないといけないと思っています。思想がないままに、仕組みから入るとうまくいかない。仕組みを覚えたおかげで、あの思想が使えるということもあります。コンセプトとアイデアの両方が必要です。コンセプトだけでは広がらないし、アイデアだけでは深まらない。目標を定めるのではなく、どんな状況になっても、何がやって来ても対応できるようにしておく。それが、僕の目指す姿です。

編集協力 小川真理子(クロロス)

古田秘馬(ふるた・ひま)
プロジェクトデザイナー/株式会社umari代表

プロジェクトデザイナー。東京・丸の内「丸の内朝大学」などの数多くの地域プ ロデュース・企業ブランディングなどを手がける。農業実験レストラン「六本木農園」や和食を世界に繋げる「Peace Kitchenプロジェクト」など都市と地域、日本と海外を繋ぐ仕組みづくりを行う。現在は地域や社会的変革の起業に投資をしたり、農業経営者の育成プロジェクトなど地域の経営強化に携わる。

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