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【コラム】業務地区の災害への備えとして必要なこと

インタビュー:加藤孝明さん(東京大学生産技術研究所 准教授)

東日本大震災から3年。震災を景気に、日本中で防災への意識が高まったかに見えるが、いまだ十分とは言いがたい。首都直下型地震が何時きてもおかしくない状況下で、私たちは普段からどのような備えをし、どのようなことに心がければいいのだろうか。都市の防災の専門家である東京大学生産技術研究所の加藤孝明さんに、話を聞いた。

帰宅困難者問題は、そもそも問題ではなく現象

-東日本大震災から3年が経ち、当初に比べると、防災意識が風化してきてように感じます。どうすれば、風化を防ぐことができるのでしょうか。今回は、業務地区に絞って、お話を聞かせてください。

おっしゃる通り、防災意識というのはそもそも風化してしまうものなんです。なぜ風化するのかと言うと、本質的に誰もが、「防災なんてやりたくない」と思っているからです。そう言ってしまうと身も蓋もありませんが、基本的に人間というのは来るか来ないかわからないことに備えるのは苦手です。とくに都会に住む人はその傾向が強い。自然の中にいると、自然との共生や安全性についての意識が芽生えるものですが、都会にいるとそのことがすっぽりと抜け落ちてしまう。都市は人間がつくったものなので、安全であることが前提となっているからなのでしょう。だからこそ、「防災意識は必ず風化してしまうものである」、という前提で対策を立てることが重要なのです。

一方で、自助が成り立つ大企業が集積している中心業務地区というのは、全体から見ればむしろ安全な地域です。その上で、総合的な視点に立って防災について考える必要があるでしょう。

-3.11の際、中心業務地区では多くの帰宅困難者が発生し、大きな社会問題となりました。

そこが疑問なんです。そもそも、帰宅困難者現象というのは、問題だったのでしょうか? 多少、寒かったり、不安だったり、という思いはされたかもしれませんが、実際には、「家族の愛情を確認できた、とても素晴らしい出来事だった」と言ったほうがふさわしいのではないですか? もちろん、今後、首都直下型地震が起これば今回のようにはいかないとは思いますが、それでも、業務地区に関して言えば、家族が住む住宅密集地域よりもはるかに安全ですから、そこにとどまっていても何ら問題はありません。

また、防災対策として、帰宅困難者の一時退避のための屋内施設が必要である、といった議論が出ることがありますが、それも本当に必要でしょうか。一方で、より危険な地域に住む家族は家を失った人で溢れかえる避難所に入ることすら許されないかもしれません。通常、避難所に入れるのは、住宅を失った人だけですからね。そういう意味では、同じ都市の防災といっても、地域によって対策や目標とするレベルにばらつきがあることが、わかると思います。

つまり、業務地区の防災を、帰宅困難者対策という問題に矮小化してはダメだ、ということなんです。帰宅困難者については、マスコミの報道も偏る部分がありました。災害時にJR東日本が駅構内から人を閉め出したことが批判を浴びましたが、開放していれば、多くの人が線路に降りて家路に向かったかもしれません。そうなると、復旧どころではなくなります。一方で、建物を開放したり、食べ物をふるまったりしたことが美談として取り上げられた。そのこと自体はとてもいいことだとは思いますが、今後は美談で済まされるかどうか。Twitterなどで拡散したとたん、大勢の人が詰めかけ、安全だったはずの場所が危険に晒される可能性だってあるかもしれません。

そうしたことを踏まえて、業務地区の防災というのは、従来とはまったく違う発想とロジックで組み立てていくことが重要だと思うのです。

災害時は海外への情報発信が必須である

-まったく違ったロジックとは、具体的にはどのようなものでしょうか?

kato1.jpgたとえば、業務地区では海外への情報発信を意識すべきだと思います。3.11の際、東京では大きな混乱が起こらなかったように、災害時でも冷静に行動できるというのは、日本の非常によいところです。今後、首都直下型地震に見舞われたとしても、東京が社会的機能を継続しつつ、海外へ情報発信をしていくことができれば、国際社会から大きな信頼を得られる。そういう観点から防災を考えていく、というのも一つの考えでしょう。

ただし、情報の出し方には、慎重を期する必要があります。実は私は、3.11の直後に東京が安全であることを伝えるため、英文で、「今後、30年以内に首都直下型地震が70%の確率で起こるとされているが、それに対して東京は万全の備えを行っている」と海外メディアに伝えました。ところが、これが意外にもネット上での炎上を招いてしまった。多くの人が反応したのは、「30年で70%」という数字です。この統計的な数字は日本人なら誰でも知っていますが、ほとんど地震が起こらないような地域に住む海外の人々にとっては、驚愕すべき恐ろしい数字であり、こんな情報を出せば対外的な取引に影響する、というのです。国外向けに情報を出していく際には、どのような情報をどのタイミングで出すのか、事前に検討しておく必要性があることを痛感しました。

-リスクが高い場所だからこそ備えを万全にしていると伝えたのに、「リスクが高い」ということに注目が集まってしまったわけですね。

ええ。しかし実際には、ハザードが大きくて十分な備えをしている地域と、ハザートは小さいがまったく対策をしていない地域では、どちらが安全かといえば、むしろ前者だと思います。だから、ハザードを理解した上で、それ以上の備えをしているとメッセージを出して行くことは重要なことだろうと思うのです。

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安全への備えが付加価値になる

安全への備えが付加価値になる

もう一つ、業務地区に求められるのは、万全な対策をして安全性を高め、それを付加価値に変えていくという発想です。

たとえば90年代後半、中国の天津市では新しい都市をつくる際、ITを活用した防災管理システムの開発を進め、災害リスクや災害対策の事前評価をして、防災システムとセットで新しい都市開発を行おうとしていました。実は天津は上海や南の広州などに比べると地震が多い地域なんです。天津に隣接する唐山市付近を震源とする1976年の唐山地震では、死者が25万人(非公式には60万人とも言われる)を数え、20世紀最大の被害を出したことで知られています。そうした不利な条件を、防災管理システムの導入により、万全の備えをアピールすることによって、安全・安心という付加価値に変えている。実際に天津は今、中国の経済特区の中でもっとも注目される都市の一つとして成長を続けています。

日本でも同様の取り組みがあります。2009年に東京・浅草で「YOKOSO! ASAKUSA 外国人観光客安心向上プロジェクト」が発足し、外国人観光客に対して、災害時にも安心のおもてなしができるよう、対策を検討してきました。これにより、他の地域との差別化を図り、外国人観光客の誘致につなげようという試みです。まさに、安全性を高めることを地域の付加価値とした好例と言えるでしょう。

災害を「楽しむ」という発想の転換

-防災対策を継続していくための、コツのようなものはあるのでしょうか?

kato2.jpg義務にしない、ということですね。義務になったとたん、人間は最低限のことしかしなくなる。建築基準法などもそうですが、義務化されると、法を守ってさえいればいい、といってそれ以上のことをしなくなるのです。規則や法で縛っているようでは、未来はありません。先述のように、付加価値を高めるといった、内発的で自律発展的なしくみを埋込んでいくことが大切でしょう。

そうした取り組みの一つとして、大丸有地区で、「防災拠点機能ビル」の整備が始まっています。審査会によって、ハード・ソフト両面から高い防災機能を備えたビルを判定するというもので、いわばお墨付きを与えようというもの。実はその審査会の委員長を私が務めているですが、こうした評価のしくみも、防災を取り組む上での一つのモチベーションになると思います。実際に、評価を得られたビルはテナントがつきやすいといった効果が出始めています。

-自発的に取り組む姿勢が重要ということですね。

そう、極端に言えば、これから必要なのは、「災害を楽しむ」姿勢だと思うのです。そう言うと不謹慎だと思う方もいるかもしれませんが、あたかも災害を祭りを楽しむような心持ちで捉えることができれば、防災意識というのは風化しない。逆に言えば、「楽しい」「嬉しい」という気持がなければ、ネガティブなテーマである防災に継続的に取り組むことは難しい、ということなんです。

地域の防災について学ぶ際にも、日常の中で自然に楽しみながらでなければ続かないでしょう。つまり、防災に特化したまちづくりではうまくいかない、ということ。とはいえ、業務地域の中でそうしたソフトを開発していくのはなかなか難しい。前例がないですからね。企業の防災担当者同士が連携するようなしくみをつくると同時に、イベントなど楽しみに結びつけていくような仕掛けが必要でしょう。たとえば災害時に、帰宅困難者の中からボランティアを募り、お祭りを仕掛けるとか。健康で怪我をしていない人であれば、役割を与えられることで気持の持ちようも大きく変わってくるはずです。各業務地区で、そうした新しいしくみの創造自体に楽しみを見出しながら取り組んでいけば、防災への意識も大きく変わってくるのではないでしょうか。

-目から鱗というか、これまでの防災への視点を大きく変えるようなヒントをいただきました。本日は、ありがとうございました。

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加藤孝明(かとう・たかあき)
東京大学生産技術研究所 准教授

1992年、東京大学大学院工学系研究科修了。博士(工学)。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻助手、助教を経て、2010年4月より現職。災害シミュレーション技術をはじめとする防災性評価技術、それを社会に結びつける「まちづくり支援技術」の開発を行う一方で、市民協働の防災まちづくりに実践的に取り組む。また、地震防災を基本としつつ、2004年から気候変動をにらんだ水害リスクを軽減する都市のあり方、まちのあり方についても研究を進めている。2007年からは「復興準備」研究にも取り組む。業務地区での「新しい」防災について創造的な研究を志向する。

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