過去のアーカイブ過去のニュース

【地球大学アドバンス速報】第30回「TOKYOの生物多様性」~陸からの視点、海からの視点(西海功氏、清野聡子氏)

去る5月24日 (月)に第30回の地球大学アドバンスが開催されました。テーマを「TOKYOの生物多様性」~陸からの視点、海からの視点とし、ゲストに西海功氏 (国立科学博物館動物研究部・研究主幹[鳥類])と、清野聡子氏(九州大学大学院工学研究院環境都市部門 准教授 )を迎えました。

「メガシティ東京は、実は生態系の宝庫でした」

nishiumi.JPG
西海功氏

アスファルトとコンクリートに覆われた東京都心は、とかく無機的な装いで、生命活動からは縁遠い印象を与えます。人間様もそれを知ってか知らずか、880万人が暮らす東京23区にあって、東京のど真ん中の千代田区の人口は4万6,000人あまりでしかありません *1。昼間になると、85万人を超える人が千代田区を訪れるというのにです *2。

ですが、少し目を転じれば、メガシティ東京にも豊かな生態系が広がっていることに気付きます。その代表が、千代田区の面積の多くを占める皇居(旧江戸城)です。
皇居前広場に皇居東御苑、北の丸広場。一般市民でも入れる区域にも多くの緑がありますが、何と言っても豊かな生態系を誇るのは、普段は一般人が入れない、皇居の中にある吹上御苑です。

吹上御苑は、江戸城内の一角にあって、江戸時代の早い時期に庭園として整備され、明治時代を経て昭和初期まで、その役割を果たしてきました。転機になったのが、生物学者でもあった昭和天皇のご意向です。人の手で管理する庭園から、人の手を入れない自然な状態への転換が図られ、以来60有余年、今では原生林さながらの森林を形成しています。そして、1996(平成8)年、天皇陛下のご要望で、皇居の生態系調査が実施される運びとなり、国立科学博物館・研究主幹の西海功氏がその調査に携わりました。

2001(平成13)年には、第1期の調査結果として『皇居・吹上御苑の生き物』(著・国立科学博物館皇居生物調査部グループ)が出版されました。 西海氏の説明によれば、吹上御苑内には3,000種の昆虫と600種の昆虫以外の動物が確認されています。氏の専門の鳥類では、80種程度が確認され、うち25種が吹上御苑を恒常的な住まいとしています。残りは渡り鳥で、北方で繁殖し冬に南下する冬鳥と、南方で繁殖し夏に北上する夏鳥が、御苑内の植生を豊かにしています。

近年になって、かつて東京からいなくなった渡り鳥の姿を御苑内で目にするようになりました。それは、ここ15年でカラスの数が半減してきていることと大いに関係があるようです。とはいえ、繁殖力の強いカラスの数が減っただけでは、いなくなった鳥たちは吹上御苑に戻ってくることはできません。渡り鳥が羽を休める木々、自然が都内に増えつつあることも御苑に鳥が戻ってきた大きな理由です。カラスが減ったのは、東京都の取り組みの成果が大きく貢献しているとのこと。銀座でゴミを夜に回収するようにしたこと、カラスの地道な駆除活動が、個体数の減少につながりました。

帰ってくる「江戸前」の生き物

kiyono.JPG
清野聡子氏

もう一つ、豊かな生態系を誇る場所があります。「江戸前のすし」で名を馳せる東京湾です。江戸風の調理法をもって、「江戸前」を広く捉える解釈もありますが、「江戸の前」の海でとれた魚介というのがその本来の字義に則ります。江戸の前で新鮮な魚介がとれたからこそ、「江戸前のすし」が生まれました。
海の視点から東京の生態系について解説してくださったのは、九州大学准教授の清野聡子氏です。

埋め立てが進んだ今日では想像もできませんが、東京湾の海岸線は、一面が干潟で、そこかしこでアサリやハマグリをとることができたということです。こうした海産資源は内需を補ってあまりあるほど豊かで、明治時代終盤には、外貨獲得のための輸出産業と目されていました。
ところが、社会の工業化が進むにつれて、干潟の平らな土地は工業用地へと姿を変えていきました。羽田のアサリ漁場が羽田空港になったのはその一例です。そして、工業化の圧力は干潟を飲み込むだけでは飽き足らず、現在のように埋め立て地が湾にせり出す海岸線ができあがりました。

干潟を失い、東京湾の近海漁業は壊滅的なダメージを受けたということですが、今でも、少し沖合に出れば豊かな漁場が広がっています。また、お台場海浜公園に作られた人工の砂浜には、カニやヤドカリ、エビといった海洋生物が暮らし、水鳥が浜辺に集うようになっています。東京都港湾局や港区が、環境教育やレクリエーションの一環として、浜辺での海苔作りにも取り組んでいます *3。海の自然を取り戻すことは、陸以上に難しいとされていますが、人工海浜でこれだけの生命活動が確認されたということは、東京湾の未来にとって大きな希望です。

univ30_kaijo.JPG

こうして見ると、メガシティ東京は、実は生き物にとって暮らしやすい要素を備えた場所なのかもしれません。そういえば、丸の内のお隣の銀座では、ビルの屋上でミツバチが暮らしています *4。銀座のミツバチは、銀座の街路樹のみならず、皇居の森から蜜を頂戴しているということです。皇居の森と銀座、さらには東京湾を緑で結べば、陸と海がつながって、さらに豊かな生態系が東京の真ん中に広がることでしょう。
そうすれば、東京は人間にとっても住みよいまちになるはずです。余談ながら、皇居の森は、夏の暑い盛り、周辺より2~3℃も低いことが確認されています *5。都心を豊かな自然で満たすことは、ヒートアイランドに苦しむ人間にとっても、大きな便益をもたらすに違いありません。

*1 23区の人口、千代田区の人口ともに、「東京都の人口(推計)」(東京都総務局 平成22年5月1日現在)
*2 「東京都の昼間人口 平成17年」(東京都総務局)
*3 東京都港湾局, 東京都港区
*4 銀座ミツバチプロジェクト
*5 「皇居・皇居外苑のクールアイランド効果の観測結果について」(環境省 平成20年6月13日)

次回
第31回地球大学アドバンス〔TOKYO SHIFT シリーズ 第3回〕
TOKYOが牽引する日本のエネルギー構造改革

  • テーマ:TOKYOが牽引する日本のエネルギー構造改革
  • 日時:2010年6月28日 (月) 18:30~21:00
  • ゲスト:山家 公雄 氏
    (エネルギー戦略研究所株式会社 取締役 研究所長)
    福泉 靖史 氏
    (三菱重工業株式会社 エネルギー・環境事業統括戦略室 次長)
    井上 成
    (三菱地所・都市計画事業室副室長/エコッツェリア協会事務局長)
  • 企画・司会:竹村真一氏(Earth Literacy Program代表/エコッツェリアプロデューサー)
  • 詳細:第31回地球大学アドバンス TOKYOが牽引する日本のエネルギー構造改革

地球大学