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【丸善松丸本舗BookNavi】9月号「夏休みの宿題・オトナ編」

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松岡正剛氏が大胆にプロデュースし、書店のあり方の可能性を広げたとして、各種メディアから注目を集める丸善本店 松丸本舗と、サステナビリティを考えるまちメディア丸の内地球環境新聞がコラボレーション。その季節にピッタリの本をナビします。

8月号のテーマは「夏休みの宿題・オトナ編」。
「あの頃こんな本を知っていれば、もっといい感想文が書けたのに・・・」
「オトナになった今ならこんな自由研究をやってみたい!」
「この知識があれば、宿題に困った我が子の尊敬のまなざし独り占め!」

・・・・・・など、子どもたちの夏休みが終わりホッと終了間際の気持ちを思い出しながら、オトナに向けた夏休みの宿題のためのオススメ本をご紹介いただきました。

今回お話を伺ったのは、この方々。
・松丸本舗ブックショップ・エディター小川玲子さん(以下 小川)
・松丸本舗マーチャンダイザー栢下雅澄さん(以下 栢下)

このシリーズは、丸の内地球環境新聞デスクの「アクビ」こと永野(以下 アクビ)がお届けします!

○ 8月のオススメ本

  • 『アラマタ大事典』(荒俣 宏 著・監修)
  • 『鳥の物語』(中勘助著/岩波文庫)
  • 『ロウソクの科学』(マイケル・ファラデー 著/角川文庫)
  • 『恋人選びの心―性淘汰と人間性の進化 (2)』(ジェフリー・F.ミラー 著、長谷川 真理子 翻訳)
  • 『切っても切ってもプラナリア』(阿形 清和 著、土橋 とし子 イラスト)
  • 『部分と全体―私の生涯の偉大な出会いと対話』(W.K. ハイゼンベルク 著)、山崎 和夫 翻訳)
  • 『美術の解剖学講義』(森村 泰昌 著/ちくま学芸文庫)

自由研究のネタがスグ見つかる、オトナの百科事典

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アクビ: 8月といえば夏休み。夏休みといえば宿題。みなさんは、夏休みの宿題は早めに済ませるタイプでしたか?8月の終わりに慌ててやるタイプでしたか?わたしは、9月に入ってからやるタイプでした(笑)

小川: 私は、先にやってしまうタイプでしたね

栢下: 私は、夏休みが終わるギリギリにやっていました(笑)。特に自由研究などは、毎回「何やったらいいんだろう・・・」と悩みましたね。なかなかテーマが定められなくて後に残しまう。そこで、まず「この知識があれば、宿題に困った我が子の尊敬のまなざし独り占め!」な本、荒俣宏さんが監修の『アラマタ大事典』を紹介したいと思います。児童書コーナーでよく売れている本です。

アクビ: これは・・・!この本さえあれば、すぐに宿題が終わりますね!!わかりやすく親しみやすい百貨辞典、という感じでしょうか

栢下: 1ページにひとつのキーワードがまとめてあって、キーワードは科学からスポーツ、雑学的な話まで多岐にわたっています。ちょっと開いてみただけでも「千利休」「サンタクロース」「シルクロード」・・・あいうえお順にさまざまなジャンルの言葉が入り交ざって並んでいます。読みやすい文体もいいですね

小川: 偶然開いたページを自由研究のテーマにする、って決めちゃえばいいんです。全ての漢字にルビがふってあるので、子どもに知識を自慢しようとしても、この本を基にしているって、すぐバレちゃうかもしれませんが(笑)

読書感想文や自由研究は、テーマに対しての著者の視線を観察して内容を深める

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栢下: 次は、「あの頃こんな本を知っていれば、もっといい感想文が書けたのに・・・」ということで、前回このBook Naviに登場されていたブックショップ・エディター森山智子さんもオススメの童話を持ってきました。 この『鳥の物語』は、その名の通り色々な鳥が語る物語です。作者の中勘助さんの『銀の匙』は、松岡正剛さんの千夜千冊でも「キーブック」になっていますね。

千夜千冊 『銀の匙』

小川: 鳥たちが王の御前で物語を語りだすんです。鳥が語る「千夜一夜」という感じでしょうか(笑)
中勘助さんはとても綺麗な文章を書く方ですが、その方が「鳥が語る」という設定の中でどのような表現を用いるのかという点に着目してみるのも興味深いですね。

栢下: 例えば、この本の書き出しは「その次は彼の番だった」。その前から続いているかのような、印象的な文章です

アクビ: 読書感想文って、何を書けばいいのかわからなくてとっても苦手だったんです。物語の筋に関する感想以外にも、そういった表現の仕方を分析するという方法もあるんですね

栢下: 次に、「オトナになった今ならこんな自由研究をやってみたい!」という本として紹介するのは、マイケル・ファラデー著の『ロウソクの科学』です

小川: ファラデー先生のロウソクに関する講義をまとめた本で、ロウソクのことしか書かれていません(笑) でも、その方法や切り口が多彩で「研究って、こんなふうに進めるんだな、こんなふうに解釈するんだな」と、研究の現場の様子が伺えて面白いんです。口語体で書かれているので、科学書というより読み物的ですが、きちんと科学のポイントも押さえてあるので科学的な知識を目的として読む方にも不足はないはずです。

news100906_1.jpgアクビ: ロウソクというピンポイントなテーマが面白いですね。先ほどの読書感想文のときにも思ったのですが、本に書かれていることをそのまま受け止めるだけでなく、テーマに対しての著者の視線を観察するような読み方も面白いなぁと思いました。物語でも科学の本でも

小川: これは、私が後ほど紹介しようとしている本の内容とも少し重なるのですが、観測者・見る人は、どこに視点を置くかで見えるもの全てが変わるし逆転もしていくと思うんです。・・・・・・と、今はこのあたりで(笑)

アクビ: はい。後ほどお聞きします(笑)

栢下: 次の本は、「オトナの自由研究」の「オトナ」の部分に焦点を絞ってみました。『恋人選びの心―性淘汰と人間性の進化 (2)』です。

アクビ: これは、「どうやったら恋人ができるか」という話なんですか?まさにオトナな研究ができそうですね(笑)

栢下: いえいえ、必ずしもそういうわけではありません。原題は"The Mating Mind - How Sexual Choice Shaped the Evolution of Human Nature."生物学的な話なんです。よく「こうすればモテる!」などという実用的な本があるじゃないですか。そういう本を買いたくない人は、この本で「研究」ですね(笑)好きな子ができたときに、知識をひけらかせます(笑)。「絵画や音楽、スポーツは全て恋人選びのツールとして進化した」という論を展開させています

アクビ: 文化は全て求愛のために発達してきたと!(笑)最近、婚活も流行っていますし、オトナの研究課題としては申し分ないですね

栢下: 恋人選びを根源から学んでみるといいかもしれませんね

「全体」と「部分」~テーマを定めて生物から哲学、美術まで~

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小川: では、次は私から。プラナリアって、知ってます?

アクビ: 生物の教科書なんかに載ってた、アレですか?

小川: そうそう。どこで切っても断片それぞれがひとつの個体になって再生する生物なんです。『切っても切ってもプラナリア』というこの本は、プラナリアの研究方法が楽しくわかりやすく書かれているものです。研究のために用意するもの、プラナリアの探し方、切り方、観測のパターン、記録の仕方などが丁寧に説明されています。イラストが多く、漢字にルビもふってあるので、夏休みの宿題として、子どももオトナも親子一緒にでも楽しめるような本ですね

アクビ: プラナリアって、そんなに身近に生息しているんですか!?

小川: 水がチョロチョロと流れている浅い川や、農薬を使っていない田んぼなど、綺麗な水のある場所であれば、意外と身近なところでも見つけられるようですよ。プラナリア探しをしながら、プラナリアの住める自然環境について親子で考えてみるのもいいかもしれません

その上ね、例えばイモリって腕や尻尾などの末端が切断されても切断された部分を再生することができるわけですけど、プラナリアは切断した部分それぞれに頭や尾ができて一個体になるわけですよ。つまり、この切断された断片は、元は「全体」に属していたが、全体から切り離されたことで「部分」になった。けれども、その「部分」がそれぞれ再生してまた「全体」になっていく。そんなところが私はとても面白いと思うんです。

プラナリアからしてみれば、その個体は「部分」なのかもしれないし「全体」なのかもしれないし、そんなことどうでもいいのかもしれませんが(笑)、観測者の判断によってそれが「部分」なのか「全体」なのかが入れ替わるんですね。じゃあ、その「部分」と「全体」の境界はどこにあるんだろう?なんて。

アクビ: 面白い!

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小川: そこから、もう一冊のハイゼンベルクの『部分と全体―私の生涯の偉大な出会いと対話』に繋がっていくと、ちょっとオトナな研究に...

アクビ: そう繋がるとは!非常にオトナです!

小川: 物理学者ハイゼンベルクの他の学者との対話を、自伝的にまとめた本です。序文は湯川秀樹さんです。おふたりともノーベル物理学賞をとられた方ですね。

なぜこの本が『部分と全体』というタイトルなのかという説明は、あとがきで端的に書かれているのですが、まずはそこを読まずに、自分で「なぜ」を考えながら読んでみるとその人なりの「部分と全体」が見つかるような気がします。

アクビ: タイトルは以前から知っていて興味があった本なのですが、小難しい印象と厚みから「そのうち読む(結局読まない)」本になっていました。プラナリアのような入口があると、手に取りやすいですね!

小川: そうですね。たまに物理学の専門用語も出てきますが、口語体で書かれているので、意外と読みやすいですよ。ハイゼンベルクは、科学の世界が古典物理学から量子物理学に移り変わっていった1900年後に活躍した学者なので、科学が好きな方にも哲学として興味を持たれる方にも、オススメです

そして、さらにここから繋げるのであれば・・・・・・

アクビ: さらに繋がるんですか!?(笑)

小川: ベラスケスの絵ってご覧になったことあります?世界三大名画のひとつ『ラス・メニーナス』という絵を描かれたスペインの画家です。この『ラス・メニーナス』は、とても謎が多い絵なんです。

スペインのフェリペ4世の一家を描いた絵で、真ん中にいるのが皇女マルガリータ、その横にいるのがベラスケス本人で絵の向こう側を向いたキャンパスに向かっています。鏡に映っているのが国王夫妻、ということは国王夫妻は私たちの視点の側にいる。つまり、この絵はベラスケスが国王夫妻を描いているところに皇女マルガリータが女官たちをつれてやってきたところである・・・、なんて色々な解釈がされているんです

この『美術の解剖学講義』という本は現代アートの森村泰昌さんの著書で、『ラス・メニーナス』の配置の解説や図解を始めとして、古今東西の名作に関する意外な事実や21世紀の美術のゆくえなどが解説されています

『ラス・メニーナス』を美術館などで観たとき、私たちはこの絵を「全体」として捉えるわけです。けれどベラスケスや皇女マルガリータの視線というのは私たち観察者側に向けられているんですね。ということは、もしかしたらベラスケスはこの絵を観ている私たちも含めてひとつの作品としたのかもしれない。だとすると、私たちが「全体」だと思って観ていた絵は「部分」だったのかもしれない・・・・・・。そういった点が面白いと思いますね。

この考え方を、社会につなげてみれば、自分は会社の一部かもしれないけれど、自分の中にこそその会社を表す全体があるのかもしれない、なんて考え方も。美術から哲学へと広がります。ハイデッガーの「世界内存在」ですとか。

会社員も主婦も学生も、自分が大きな「全体」の中の「部分」でしかないと決め付けるのではなく、常に近寄っては引いてを繰り返してみることで、物事の見え方や方法が変わってくるかもしれない。それって生命があるからこそのダイナミズムであるというところから、またプラナリアに戻っていく、と。

アクビ: とても面白いですね。まさにオトナの自由研究です。

栢下: 『美術の解剖学講義』からそれ以外の名画について興味をもつのもいいですし、ここに描かれている王の歴史に興味をもつのもアリですよね。

アクビ: 「美術」というカテゴリは「全体」ではなく「部分」で、もっと引いた視点で捉えると一枚の絵が「歴史」や「科学」でもある、と。栢下さんの4冊も、『アラマタ大事典』から選んだ恋に関するテーマに沿って、『ロウソクの科学』で得た分析の視点で『恋人選びの心―性淘汰と人間性の進化 (2)』を読み、そこで学んだことを『鳥の物語』で習得した美しい表現でアピールする、なんてつながりを持たせると面白いかもしれません

恋の季節の夏は終わりですが、読書をするようにじっくりと落ち着いた恋や愛のかたちが見つかりそう。でも、そのかたちは「全体」に見えて実は「部分」で・・・・・・。う~~ん、オトナの夏休みの宿題はテーマが深いですね!

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