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【地球大学アドバンス速報】第34回「気候変動時代の防災都市デザインを考える」(小池俊雄氏)

第34回地球大学アドバンス

第34回地球大学は、9月13日(月)に開催されました。今回のテーマは、「防災都市」。治水研究の第一人者・小池俊雄氏(東京大学大学院 工学系研究科 社会基盤学専攻 河川/流域環境研究室 教授)をゲストにお迎えしました。

今夏も、ゲリラ豪雨が各地で頻発しました。肌感覚としては、ここ数年、ゲリラ豪雨の発生頻度は高まっているように感じます。実際の観測データはどうなっているのでしょうか?
例えば、株式会社ウェザーニューズが発表した今夏のゲリラ豪雨発生予測(新しいウィンドウが開きます)では、昨年の3割増のゲリラ豪雨が発生すると見られていました(観測結果は未公表)。小池氏も、「過去の観測データと比較すると、近年は豪雨の発生頻度が明らかに増えている」という見解です。

また、今年は世界各地で異常気象が発生しました。ロシアの猛暑とシベリアの山火事、パキスタンの大洪水。小池氏は「この二つの異常気象はつながっている」といいます。

ロシアの異常気象の原因は上空の高気圧。高気圧は隣に必ず低気圧を伴う。ロシアの隣・中央アジアに発生した低気圧が、周辺の気流を呼びこんで、インダス川上流のチベット山地に雨を降らせ、パキスタンに洪水をもたらした

パキスタンはインダス川流域に広がる国、インダス文明が栄えた国です。ここでの洪水からは、自然災害と都市設計のあり方についての示唆を得ることもできます。
「インダス文明の時代から続く都市は水害を免れ、近年開発された都市は、見るも無残なまでに水没した」(小池氏)というのです。
古代、大河と文明とは切っても切り離せない関係にありました。大河の氾濫が肥沃な土をもたらし、その上に文明が栄えたと言っても過言ではありません。つまり、水害と豊穣は表裏一体の関係でした。
とはいえ、水害のたびに都市が壊滅していたのでは繁栄など望むべくもありません。繁栄を享受でき、なおかつ大河の氾濫に耐えうる都市の存在が、文明の発展へとつながりました。周囲より高い土地に都市を作る。その、当たり前とも言える古代人の知恵が、現代の大水害からも身を守ったのです。

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翻って、ここ東京の水害耐性はどうでしょうか?

「東京の前身の"江戸"とは、"大河の河口"を意味していた」(竹村氏)といわれていたように、江戸湾(東京湾)には荒川水系、利根川水系の両大河が流れ込んでいました。河口は水運に恵まれ、大河がもたらす肥沃な土は、百万都市江戸を支える台所になりました。ちなみに利根川は、徳川幕府の手によって、60年もの歳月をかけて、銚子に流れこむ現在の流路へと付け替えられました(利根川東遷)。

一方で、水の得やすいところは水が氾濫しやすいところでもあります。事実、東京湾に流れ込む荒川水系の河口域は、江戸時代以降、幾度か大きな水害に襲われてきた記録が残っています。 江戸時代以降、水害が多発する地域では、土を盛りその上に蔵(水塚:みづか)を立て、生活物資の貯蔵や、いざというときの生活スペースを確保する対策をしていました。また、各戸で舟を備えるなど、昔の人々は、水害を受け入れるまちづくり、家づくりをしていたのです。それが、現代において忘れられかけています。

また、かつては都市近郊にも田畑が多く存在し、降雨時の一時的な貯水池としての役割を果たしました。もちろん、道も舗装はされておらず、地表に降った雨が効率的に地中に吸収され、洪水の発生リスクを抑えていました。

昨今では、都市近郊の田畑はその多くが姿を消しました。小池氏によれば、「かつては東京近郊の6割が田畑で1割が宅地だったのが、今では完全に逆転している」とのことです。加えて、道という道はほとんどが舗装されています。地表に落ちた雨は、田畑で蓄えられることも、地中に吸収されることもなく、一目散に河川へと向かうようになっています。そこに、このゲリラ豪雨の頻発です。
「これまでの治水制度では防ぎきれない洪水が発生するリスクは、間違いなく高まってきている」(小池氏)
つまり、現代の東京は、水害に極めて脆い都市構造になっていると言えます。

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小池氏は、こんなシミュレーション結果を示しました。

荒川流域で大雨が降り、都心部の荒川右岸で堤防が決壊した場合、地下鉄出入口から地下鉄構内に水が入り込み、12時間で地下鉄全域に水が押し寄せる

7つの路線、5つの駅を域内に有し、発達した地下鉄ネットワークを持つ大丸有地区は、地上の水害リスクのみならず、遠隔地の水害リスクをも抱え込んでいることになります。

こうした状況を踏まえ、竹村氏、小池氏は、「水害に耐えうるべく、東京の再設計が必要だ」と口を揃えます。
各戸の屋上に雨水の受け皿となる貯水タンクを設置し、河川の水量の急激な増加を緩和する。 道路の舗装を透水性の高いものに置き換えていく。
小池氏によれば、「関東ローム層は保水性が高く、うまく地中に浸透させれば治水効果は高い」ということです。

まずはこのような比較的手近なところから着手する。そしてゆくゆくは、都市インフラのハードそのものを抜本的に変える。そういう「SHIFT」への動きが、いままさに求められているのではないでしょうか。

次回
第35回地球大学アドバンス〔TOKYO SHIFT シリーズ 第7回〕TOKYOから提案する新たな「地球食」のデザイン
日時:2010年10月18日 (月) 18:30~20:30

ゲスト: 三國清三氏(「オテル・ドゥ・ミクニ」オーナーシェフ/「立ち上がる農山漁村」有識者会議メンバー)
小松俊昭氏(金沢工業大学 産学連携室 コーディネーター 家守公室 代表)
企画・司会:竹村真一氏(Earth Literacy Program代表/エコッツェリアプロデューサー)
詳細はこちらから

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